Light Forest

読書日記

絵はがきにされた少年

2006-07-26 | アフリカ
藤原章生『絵はがきにされた少年』集英社、2005年。

久しぶりにこの手の本を読んだ。ジャーナリストが書く本。
いろいろ考えさせられて面白い。こういった本を読むと、海外の特派員記者とか憧れるな~と思うけど、この筆者は記者という仕事や自分自身をありのままに率直に書いているように思う。
そこに気取りは見えない。

 例えば、南アの鉱山で働く労働者をインタビューに行くけど、インタビューする前から、「外資系の大企業に搾取され、悪条件の労働環境で奴隷のように働く現地労働者」といったような思い込み(偏見)でストーリーをしたてていて、そういった話を聞きにいく、とか。でも、いざインタビューしてみると、「奴隷なんて、とんでもない」とか、鉱山で働くことに労働者として人生の大きな誇りを感じているとか、こっちの思っていた話とは全く違った話が出てくる。

 この本にはこういった展開が多い。筆者(ひいていえば、現地を知らない私たち)が思っているアフリカのイメージで記事を書こうと、インタビューにいって詳しく話を聞いてみると、違った事実の一面が出てくる。それは必ずしも私たちが持っていたイメージとは一致しない。良い意味でアフリカの人たちに裏切られるのだ。それは、読んでいてとても新鮮だった。自分たちがいかに、偏見をもってアフリカを見ているか、物事を決め付けているかに気づかされる。


STEPHEN HAWKING A Life in Science

2006-07-22 | Weblog
M・ホワイト、J・グリビン(林一、鈴木圭子 訳)『スティーヴン・ホーキング』早川書房、1992年。

ホーキングといえば『ホーキング、宇宙を語る』で有名な科学者。アインシュタインの再来とも言われる現代の天才です。
といっても、この本は読んだこともなく、ほとんど彼の名前くらいしか知らなかった私。
なんとなく気が向いて手にとってみました。宇宙論とかよくわからないけど、ビッグバンとか、ブラックホールとかなんか知ってみたいような気がして。
といっても、物理学、量子力学??なんてなってくると、何を言ってるのかさっぱりわからない。宇宙の始まりとか、銀河系とかを知るって、とってもロマンのあることのようだけど、と~っても数理的、論理的なことだけはわかりました。さらっとは読めません。
でも最近、『ホーキング、宇宙を語る』の第二版のようなもの、が書店に並んでいたのを見たからそれを読んでみるのもいいかもな。

そんな、専門的なことも書かれてあるこの本だけど、ホーキングの人となりが書かれてあるのもこの本。それはとても興味深く読めました。なかなかユーモアのある人のようです。体の不自由をものともせず、研究に没頭してます。ん~見習いたい。

沈黙博物館

2006-07-10 | 日本人作家
小川洋子『沈黙博物館』筑摩書房、2000年。

なんとなく、題名に引かれて手にとってみた本。
彼女の作品を読むのはこれが初めて。

博物館技師という、これまた私のほとんど知ることのなかった職種が描かれていたのも面白かった。
小さな村を舞台に、その村で亡くなった人の形見を「収集」したものを博物館にするというちょっとミステリアスなお話。異彩な個性を放つ登場人物たちも魅力的。博物館をつくるという話自体が私にとって新鮮な発見がたくさんあった。全てのものは放っておくと風化してしまいなくなってしまう。収集して保存する。それが博物館の基本的な仕事なんだとあらためて思う。物が溢れかえっている世の中で、じゃあ何を保存するか。この本では、その人が確かに生きた、という証として、その人の「生」を最も体現しているものを形見として残す、という面白い発想がある。
さぁ、私が生きた証として何が形見として適当だろうか。
・・・、まだ何もないような。


L' Africain

2006-07-10 | アフリカ
ル・クレジオ(菅野昭正 訳)『アフリカのひと』綜合社、2006年。

イギリスの植民地支配の中で、カメルーン、ナイジェリアに唯一人の医師として従事した作者の父。イギリスで生まれた父が、「アフリカのひと」となる。何が父親を変えたのか?作者にとって、馴染めない部分を持つ父親を理解しようと、作者のアフリカで過ごした幼少時代の頃の回想とともに、植民地主義の最終的段階、第二次大戦、植民地の解放と独立といった歴史が大きく動いた時代が描かれる。その、大きな歴史の中に、植民地行政の医師といった一人の父親の人生が位置づけられる。そしてその一種特殊な職業的経歴が一人の人生に与えた影響を考えさせられる。これは、作者が父親の肖像を描いた個人的な回想録であるとともに、それを越えて、時代の中で翻弄された一人の人生が浮き彫りにされる。

植民地主義というと、大国の権力争奪戦とか、何か大きな国家の力ばかりがイメージしてしまうが、実際に現地に赴いた植民地行政官や作者の父親のように医師として関わった一人、一人がどのようにそこで現地の人々と接したか、どのように植民地主義を考えていたかを知ることは興味深い。
この本は、そんな視点も提供してくれる。