Light Forest

読書日記

長距離走者の孤独

2009-10-25 | 外国人作家
アラン・シリトー『長距離走者の孤独』新潮文庫

表題のほか、7編の短編が収録されている。

短編は、はじまりの文章と最後の一文が重要だと思っている。
特に最後の終わり方が、余韻を残す文章だといつまでも、その一文を
眺めていたくなるものだ。

このシリトーの短編もそんな名文が散りばめられていた。

しかし、どれもこれも孤独というか、寂しい話が多かった。

別れた女房がある日突然やってきて、雑多な話をしてはいつもお金を
借りてゆく。思い出があると家からもらっていた『漁船の絵』は、
質屋で売られている。そんな行為にも何も言わず、またその絵を買い戻す
主人公…。

『フランキー・ブラーの没落』も心に残る。
昔一緒に遊んだ知能が遅れた少年。
大人になって主人公が再会したときの場面が切ない。

心の奥に響く短編集だ。

大地 (二)

2009-10-10 | 中国
パール・バック(小野寺健 訳)『大地』(二)岩波文庫

第二巻は、王龍(ワンルン)の3人息子たちの物語だ。

王龍の死後、3人の息子たちで遺産を分配し、それぞれの生き方が如実に
描かれる。
それはとても、現実的でいかにも納得させられる人間のありさまだ。
王龍はただの百姓から大地主にまで成り上がったドラマチックな人生を
送ったが、地主になっても貧乏や農民の生き方が残っていた。
だけど、お金持ちになってから生まれた息子たちは親とは全く違った
考えを持って育つものだな、と改めて感じる。

長男は、放蕩な生活を送り、贅沢な衣類や食事の限りを尽くし、地主の仕事も
ろくにやらない生活。
二男は、青年時代に商人の家に奉仕し、才気ある商人へとなるが、いつも利益
のことばかりを考えているほかに味気のない生活。
三男は実家を飛び出し、地方の軍閥の一将軍のもとで軍人として出世し、その後
自分が国を治める野心を抱いて反乱をおこし、一地方を支配する将軍にまで
成り上がっている。

どの息子たちを見ても、決して幸せとはいえないような生活だ。
だけど、人間が持つ欲望を、やや極端ではあるが、体現したような
三者の生き方は、反面教師とも見えてくる。
 
長男の王一が老年となったころ、自分の長男がいかにも金持ちの息子らしく
流行のデザインの絹の服を着、身だしなみばかりに気を使い、これといった
仕事や打ち込むこともなく漫然として過ごしている様子を見て、ふと「正気」
に返る場面が印象的だ。
昔の自分を見ているようだったのだろう。そして、今自分はなんの生き甲斐もなく
ただ、ぶくぶくと肥って、女遊びをするか、美味しいものを食べる位しか能がない。
これで今自分は本当に幸せなのだろうか?と初めて自問する。
親の遺産だけで贅沢な暮しを送り、自分では何の苦労も仕事もしない。
ただ浪費するだけの生活だ。
長男には何かさせなければならない、甘やかしているだけでは駄目だ。
とやっと気づいて長男に自分の思いを話してみるものの、
時すでに遅し。
放蕩生活に慣れきった長男は、今更苦労して何かを成し遂げようという気力を
失ってしまっていたのだ。
父親の王一は一瞬、息子の将来を真剣に考える、という初めて父親らしい態度
をとるのだが、その情熱も、また、息子のやる気のなさと、自分の怠慢で
すぐに流れ去ってしまうのだ。

惜しい!と痛感した。
人生、ふと何かに気づく時、変わるチャンスが訪れる時があると思う。
その一瞬の心を自分でちゃんと捉えることが大切だと再認識させられた。