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今週の一番『トリコ』~ニトロの“怪獣”としての美しさ

2011年07月03日 | マンガ
【怪獣とは何か?】

【6月第2週:常住戦陣!!ムシブギョー 第22陣 初給料初休日】
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【漫研】
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グルメ地球冒険マンガ『トリコ』(作・島袋光年)で、トリコの行く先々で見かけていた謎の怪生物の呼び名が“ニトロ”と判明しました。「約600年前、美食神アカシアが(この人も、相当謎の人物で別の機会に言及したいですけど)発見し、そう名付けた。分類は不明、生殖器はなく、繁殖方法も不明、個体数は限りなく少ないが寿命は恐ろしく長い。この地球上にいつから生息していたのかも不明だが、ある地質学者によれば数億年前の地層から、こいつに似た化石も発見されている」さらに、クマムシに匹敵する生命力と、言わずもがなの戦闘力を持ち、知能も高くて何度か文明を持っていた節がある……と、強力な設定を詰め込めるだけ詰め込んで、もともと、途方も無い“設定世界”に膨張しつつあるグルメ界を象徴するような生物となっています。

…しかし、『面白い』事にコイツは、元々はGTロボというトリコたちのライバル組織・美食會が開発した遠隔操作型の戦闘ロボットだったはずなんですよね。登場、当初から「ロボっぽくない」という指摘はしていたのですが、それが気がつくと美食會を飛び越して、この世界の謎を体現するようなキャラクターになってしまっているw
ニトロ自身は、その戦闘力の片鱗程度しか見せていない状態だと思いますが、GTロボの方が美食會幹部の操縦を通して猛威をふるっており、そのオリジナルなのだから~!!と自然と畏怖してしまう、なかなか面白い効果が出ている気がします。

島袋先生、最初っからこの設定の腹積もりだったんでしょうかねえ?いや、僕の『トリコ』の連載を追っている感覚としては、最初はやっぱりGTロボはGTロボで、登場時に生物だか何だか解らないモノを出してヒキにしよう…程度の置き方だったんじゃないかと思うんですけどね。どうなんでしょうね?それで言うと、ニトロはガジェットから、ほとんどボスキャラじゃないか?という所まで進化した、なかなか稀有な存在と言えそうですw

しかし、島袋先生がこの生物に、それだけ入れあげるのも何か分かるんですよね。おそらく、即興的にさらっとデザインしたモノだったんでしょうけど、このニトロには生物としての……というか“怪獣”としての美しさが備わっていると思います。「この怪獣は美しいよね…」と言ってどれくらい伝わるんでしょうね?特撮怪獣おたくなら、多分、共有できる感覚だとは思いますが…。
怪獣と言っても恐竜を装飾したモノでもなく、天馬やグリフォンのように既存の生物を合成した存在でもなく「他の何モノでもないオリジナルの美しさ」を感じさせてくれる、そんな怪獣のデザインが、ニトロには宿っていると思うんです。

まあ、すばりとした言い方をすると。ニトロのデザインには初期ウルトラシリーズの怪獣デザインを手がけた成田亨先生のスピリッツを彷彿とさせるものがあるんです。



ウルトラマンのヒーローとして異色な、あまりに異色な他の追随を許さないデザインもさることながら、ゼットンやバルタン星人のインパクト、あるいはエレキングや、レッドキングといったエピソード的にはそれ程でもない(?)怪獣が今も、当時の怪獣ファンの記憶に残るのは、成田先生の一本筋の通った“オリジナリティ”に拠る所が大きいでしょう。
成田先生は後期のウルトラ怪獣のデザインを忌避していたようですが、氏の手がけた怪獣は(若干、手を抜いたかな?と思ってしまうものも無いではないですが)珠玉のものが揃っています。
成田はコスモス(秩序)の象徴としてのウルトラマンに対し、怪獣はカオス(混沌)の象徴という理念でデザインした。あらゆる生物や無生物からヒントを得ながらも意外性を求め、自由な変形や組み合わせにより独創的な形の創造を目指した。演出家や監督は、ウルトラマンに対峙する怪獣は恐ろしい外見をした悪役らしいインパクトのある物にしようと考えていたが、成田は内臓が露出していたり、顔が崩れていたりする嫌悪感を示すような怪獣は子供番組に適さないと考えた。そこでウルトラ怪獣のデザインに当たり、

1.怪獣は妖怪ではない。手足や首が増えたような妖怪的な怪獣は作らない。
2.動物をそのまま大きくしただけの怪獣は作らない。
3.身体が破壊されたような気味の悪い怪獣は作らない。

という三原則を打ち出した。また、侵略宇宙人のデザインについて、「地球人にとっては悪でも、彼の星では勇者であり正義なのだから、『不思議な格好よさ』がなければいけない」とも述べている。

(成田亨 - Wikipediaより)

僕は『怪獣』と海外に在る“MONSTER”は違うという観方を取っている人なんですが、その中でも成田先生の~本来、恐ろしくおどろおどろしていればそれで良いはずだった怪獣デザインの~オリジナリティの追求は、その差別化、線引きに大きな意味を持っていると思っています。
…と。話が逸れましたが(汗)しまぶ~は年齢からして多分、ウルトラ怪獣大好き世代に入っていると思いますが、別に『トリコ』の怪獣デザインが成田亨のフォロワーだとかそういう事を言いたいわけではありません。

ただ、単純な合成生物に留まらずに無二の個体として追求された“怪獣”のデザインには、得も言われぬ生命力が宿る事があるんですよね。成田先生のデザインはその一つの例です。その生命力の美しさを見出し「ニトロ、かわいいよニトロ」…と愛でるのが怪獣ファンの喜びの一つだったりもします。
IGOと美食會の争いなんて生物界の世界の大きさに比べたらちっぽけなもの……と思わせる怪獣王国な世界観含めて『トリコ』にはその怪獣の楽しさが遺憾なく詰め込まれています。いや、この世界では人間もまた一個の“怪獣”という扱いなのでしょうけどねw


トリコ 15 (ジャンプコミックス)
島袋 光年
集英社



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2 コメント

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ニトロいいですよね! (哲学)
2011-07-03 20:15:45
 なんのかんので素晴らしいデザインだと思います。
 言われてみれば確かにウルトラ怪獣に通じるものがあるかも。
 ウルトラ怪獣ってあんなにいるのに不思議と全員の名前と姿を何年経っても覚えてるんですよね。ガンダムにおけるザクやグフの如く、とても魅力のある敵役だと思います。
(ともすれば、ガンダムよりもザクの方が……あるいはウルトラマンよりも怪獣達の方が格好良かったりしますよね)
Re:哲学さん (LD)
2011-07-07 21:33:38
何というか、はじめてその生き物を見た(見たことがなかった昆虫や獣)感動がちゃんとそこにあるのが凄いと思っています。

怪獣というものに日本独特の“生命”を吹き込んだのは成田氏の功績が大きいと思います。
妖怪やキメラのようなカオティックなものではなく(勿論、そういうモチーフの怪獣の時はそのようにしますが)一個の生命として理を持った生き物がそこにいるという存在感がいいんですよね。

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