その日 夜9時半ごろケータイが鳴った。
ちょうどテレビを見ながら うとうとしていた頃だった。
…なんだ、ばあば か。
眠いので 思いっきりだるそうな声で「なあ~に?」と電話を取ると
「あ、モト子ちゃん?モト代さん 具合が悪くなっちゃって これから救急車で運んでもらおうと思うんだけど」
近くに住んでいる親戚のおばさんだった。
慌てて座りなおしてしまった。
「ど、どうしたんですかっ?」
「めまいがひどくてね、起き上がれなくなっちゃったんだって。今、お母さんに代わるね」
「あ、、、モト子~? あのね、、、7時頃スーパーに買い物に行ったんだけどね 急にふらふらしちゃってね、、、」
とりあえず隣町の市民病院に搬送ということで すぐ向かった。
「気をつけてね」夫もめずらしく心配そうに声をかけてくれた。
夜10時半、初めての場所なので余計にドキドキしました。
救急の待合室は、こんな遅い時間でもけっこう人がいて
診察待ちなのか、私のように搬送された家族が待機しているのか
看護師さんも忙しそうだった。
付き添ってくれた親戚のおじさん夫婦に心から感謝。
「みんなそういう年齢になってしまったからね、お互い様だよ」
優しい言葉に涙が出そうになった。
12時半すぎて ようやく中に呼ばれた。
検査が終わって 戻って来たようだった。
救急外来の処置室のベッドで寝かされ、点滴をしてもらっていたが
顔が真っ白だった。
唇は紫。
顔全体がむくんでいて
正直、このまま死んでしまうのかと思うくらいだった。
隣の処置室では 「お母さん?お母さん!お母さーん!!!」
必死に呼びかけ泣き叫ぶ 娘さんと息子さんと思われる声が響き渡る。
私も いつこのような状況になるやもしれません。
覚悟させられた夜でした。
真夜中の病院は それでもまだ忙しいようで
こちらの処置室の奥では
「先生はまだか!こんなに痛がっているのに!」
と、若い男性看護師をつかまえて 家族とみられる男性が怒っている。
「すみません、順番に看ていますので…」
「一体どれだけ待たせるんだっ!」
「申し訳ありません」
とりあえず息をして 静かに眠っている母は まだありがたいと思うしかない。
やっと先生が来てくれた。
「おかげんいかがですか?」
穏やかそうな若い先生が丁寧に説明してくれた。
検査をしたけど 今回は大きな異常は見つからなかったと。
もし歩けるようでしたら帰って大丈夫。
また具合が悪くなったらいつでも来てくださいと
優しく言って下さいました。
ゆっくり起き上がって天井がまわっていないか確かめると
来た時よりもいくらか良くなったという。
そおっとトイレに行ってみたら なんとか歩けたので
父も待っているので帰ることにしました。
深夜2時半、車椅子を借りて 私の車まで母をはこんだ。
いつも車椅子は父の乗りものだったのに
「まさか自分が乗ることになるとはねぇ…」と
本人もがっかりでしたが
私も ダブル車椅子 になるのかと思うと
これから先、どうなっていくのか
漆黒の夜空を見上げて
不安いっぱいの初夏の夜でした。