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映画、扉をたたく人

 東京、恵比寿のガーデンシネマで「扉をたたく人」を見てきた。原題はThe Visitor。どちらも良くできた題名で、この映画の根本に流れるものを表している。

打楽器ジャンベ


 妻を亡くした孤独な経済学教授ウォルターが久しぶりにニューヨークの別宅に行ってみると、若いカップルが住んでいる。不動産屋にだまされたらしい。警察沙汰をとても恐れている二人はすぐに出て行こうとするのだが、行く当ての無い二人に教授は一晩だけの宿を提供する。こうして3人の共同生活が始まるのだがと言う話。

 冒頭、レポートの提出が遅れた学生に対し厳然と受け取りを拒否するウォルター。そしてピアノレッスンを受けるものの音楽の才能は無いと無情にも宣告されるウォルター。関連の無いようなこの二つのエピソードだが、彼のピアノに対する思い入れの理由がはっきりしたとき、大学教授の心の中にある正反対の気持ちを表していたのだと気づく。

 シリア出身で打楽器ジャンベ奏者のタレクと、セネガル出身で手作りのアクセサリーを売って生計を立てるゼイナブとの生活を通じてウォルターが少しずつ変わっていく。他人に受け入れられる必要などまったく無いと考えていたウォルターが、人前でのパーフォーマンスを楽しいと感じ、収容所の係官の前で感情を爆発させる。

 移民の国、自由の女神が象徴する誰にでも機会を与える国だったはずのアメリカ。今、米国は扉を閉ざし、訪問者を冷たく追い返している。その上アフリカ系やイスラム系の人間に対しあからさまな差別が行われているのだ。この映画ではゼイナブがアフリカ系、タレクがイスラムを象徴している。

 最近のハリウッド映画はイスラムを敵役にするものが多い。しかし、この映画はイスラム側からそれは違うのではないかと問いかけているといえる。声高に主張しないし、実際に行われているだろう差別の現実を誇張することなく、逆に現実の恥部を半分も描いていないような映画だが、キリスト教を信じる白人に見て考えて理解してもらいたいからの手法だろう。

 こんな風に書いていくと面倒な映画と思われるかもしれないが、表面上は楽しい、気持ちの良い映画だ。弱い立場にいる人ほどやさしいというのは世界共通なのだろう。お勧めの映画だ。

 こんな上質な映画の紹介を駄洒落でしめるのはどうかと思うが、最後のパラグラフしか読まないという読者が少なくとも一人いるので、芸風は曲げられない。

 この映画を見て一番感じたのはこうである。ニューヨークのハドソン湾に立ち移民をやさしく迎え入れた「自由の女神」だが、今や扉をしっかりと閉じた米国を守る「銃の女神」に見えてしょうがないのだが、、、、



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