「リニア中央新幹線計画」のいま
)リニア計画と反対運動の歩み
東京と名古屋・大阪を最短距離で結ぼうとするリニア中央新幹線計画は、1974年、当時の運輸大臣が国鉄に、甲府市・名古屋市付近で地形・地質調査をするよう指示したところから始まります。その後、オイル・ショックなどの影響を受け中断したものの、1990年には、解体された国鉄の後を受けたJR東海が山梨実験線の建設に着手しました。
山梨県内では、この頃から「リニア反対」の声が上がり、現地見学や集会などが企画されていました。
実験線の走行区間は、1997年に完成し、走行試験が開始されたのです。
リニア計画に反対する動きは、2008年頃から注目されはじめ、翌2009年には、以前から反対の声を上げていたグループが、リニアについて検証し、それを問い直す市民団体「リニア新幹線沿線住民ネットワーク」を発足させ、東京・神奈川・山梨・長野・千葉など、計画沿線の人々と賛同団体が参加するようになりました。現在では、岐阜・愛知の団体も新たに加わり、活動しています。
)リニア走行実験の再開
2013年8月29日、山梨県都留市のJR東海山梨リニア実験線で、約2年ぶりにリニア走行実験が再開されました。
JR東海が1997年から始めた走行実験は、18.4キロメートルの区間で行われましたが、これを42.8キロメートルと、約2.3倍に延伸する工事のため実験走行を中止していました。この延伸工事が終了したため、今回の再開となったものです。
この走行区間延長により、これまでは4両編成で30秒間しか続けられなかった時速500キロ走行が、12両編成で1分半~2分間続けられるようになったわけです。
この日は、華々しい「出発式」があり、JR東海の会長であり、リニア推進の旗ふり役でもある葛西敬之氏、太田国土交通大臣、さらに横内山梨県知事らが出席し、くす玉割も用意されるなど祝賀ムード満点のセレモニーが催されました。
マスコミ各社からの取材記者が100名以上も招かれ、空撮用のヘリコプターも飛んでいました。
)リニア新幹線と報道
同日は、多数の来賓・見学者・取材陣とともに、「リニア新幹線沿線住民ネットワーク」などのリニア計画に反対する市民団体も集まり、リニア実験線を見学できる、山梨県立リニア見学センター付近で、「リニア反対」のアピールを行いました。
この行動を撮影したマスコミも多数ありましたが、結局、報道したのは地元紙の山梨日日新聞とNHKのローカルニュース枠だけでした。多くの取材記者がいながら、マスコミが取り上げたのは、「実験走行の再開」や「華やかな式典」、「試乗させてもらった感想」や「山梨県民の期待感」といったものばかりです。
さらに驚くのは、JR東海の広報発表をもとにしたのか、「地上に出た約7キロの区間では甲府盆地と山々の眺望が楽しめた」とか、リニアの走行姿を見たいという県民の声を反映させた、「少しでも見えるようにした方がいいですね」など、完成後は、地上部分が防音フードで覆われ、景色はもちろん走る姿さえ見えないという、事実を知らないコメントが報道されました。
そして、現時点でのリニア新幹線の懸念される点、トンネルを掘った後の「残土処理問題」や「水涸れ問題」、9兆円ともいわれる「巨額な総工費」などはまったく報道されないのです。
)リニア新幹線計画の課題
リニア新幹線計画は、東京~名古屋間、さらに大阪までをも直線で結ぼうという計画です。
私たちは、このような大規模な建設工事であるなら、そのメリット、デメリットをしっかりと検証してから進めるべきだと考えています。「夢の乗り物」といった期待感だけで歓迎するのではなく、地域の産業や観光などに、本当に役に立つのかを冷静に分析する必要があります。
先に書いた問題点の他にも、東海道新幹線の3倍とも見積もられる消費電力は(JR東海がデータを公表しないので類推するしかありませんが)原発数基分ともいわれます。世界遺産登録を視野に入れる南アルプスに、中央構造線を横断する長大なトンネルを掘るという自然・環境への悪影響も懸念されます。電磁波対策も公表されないため、乗客や周辺住民への健康被害が心配されます。リニアは指令センターから操作される無人運転になるのですが、地震や火災などの事故対策も不安視されています。さらには、今後の人口減少社会のなかでの不採算性なども危ぶまれます。JR東海が赤字経営に陥り倒壊したなら、私たちの税金投入も予測されるのです。このように、問題点を数え上げればキリがないほどです。
JR東海は、これらの課題に答えるデータを公表する義務があるはずです。
山梨県のリニア推進課は、地域に及ぼす影響を公正に分析し、また、JR東海に対しては安全性や環境への影響を判断するデータを求めなければなりません。
それらの調査報告が公開されてはじめて、私たちはリニア中央新幹線計画を受け入れるか否かの判断ができるのですから。
生活クラブ生協(山梨)の月刊『万華鏡』2013年10月号に載せた文章です。
リニア・市民ネット 窪田 誠
)リニア計画と反対運動の歩み
東京と名古屋・大阪を最短距離で結ぼうとするリニア中央新幹線計画は、1974年、当時の運輸大臣が国鉄に、甲府市・名古屋市付近で地形・地質調査をするよう指示したところから始まります。その後、オイル・ショックなどの影響を受け中断したものの、1990年には、解体された国鉄の後を受けたJR東海が山梨実験線の建設に着手しました。
山梨県内では、この頃から「リニア反対」の声が上がり、現地見学や集会などが企画されていました。
実験線の走行区間は、1997年に完成し、走行試験が開始されたのです。
リニア計画に反対する動きは、2008年頃から注目されはじめ、翌2009年には、以前から反対の声を上げていたグループが、リニアについて検証し、それを問い直す市民団体「リニア新幹線沿線住民ネットワーク」を発足させ、東京・神奈川・山梨・長野・千葉など、計画沿線の人々と賛同団体が参加するようになりました。現在では、岐阜・愛知の団体も新たに加わり、活動しています。
)リニア走行実験の再開
2013年8月29日、山梨県都留市のJR東海山梨リニア実験線で、約2年ぶりにリニア走行実験が再開されました。
JR東海が1997年から始めた走行実験は、18.4キロメートルの区間で行われましたが、これを42.8キロメートルと、約2.3倍に延伸する工事のため実験走行を中止していました。この延伸工事が終了したため、今回の再開となったものです。
この走行区間延長により、これまでは4両編成で30秒間しか続けられなかった時速500キロ走行が、12両編成で1分半~2分間続けられるようになったわけです。
この日は、華々しい「出発式」があり、JR東海の会長であり、リニア推進の旗ふり役でもある葛西敬之氏、太田国土交通大臣、さらに横内山梨県知事らが出席し、くす玉割も用意されるなど祝賀ムード満点のセレモニーが催されました。
マスコミ各社からの取材記者が100名以上も招かれ、空撮用のヘリコプターも飛んでいました。
)リニア新幹線と報道
同日は、多数の来賓・見学者・取材陣とともに、「リニア新幹線沿線住民ネットワーク」などのリニア計画に反対する市民団体も集まり、リニア実験線を見学できる、山梨県立リニア見学センター付近で、「リニア反対」のアピールを行いました。
この行動を撮影したマスコミも多数ありましたが、結局、報道したのは地元紙の山梨日日新聞とNHKのローカルニュース枠だけでした。多くの取材記者がいながら、マスコミが取り上げたのは、「実験走行の再開」や「華やかな式典」、「試乗させてもらった感想」や「山梨県民の期待感」といったものばかりです。
さらに驚くのは、JR東海の広報発表をもとにしたのか、「地上に出た約7キロの区間では甲府盆地と山々の眺望が楽しめた」とか、リニアの走行姿を見たいという県民の声を反映させた、「少しでも見えるようにした方がいいですね」など、完成後は、地上部分が防音フードで覆われ、景色はもちろん走る姿さえ見えないという、事実を知らないコメントが報道されました。
そして、現時点でのリニア新幹線の懸念される点、トンネルを掘った後の「残土処理問題」や「水涸れ問題」、9兆円ともいわれる「巨額な総工費」などはまったく報道されないのです。
)リニア新幹線計画の課題
リニア新幹線計画は、東京~名古屋間、さらに大阪までをも直線で結ぼうという計画です。
私たちは、このような大規模な建設工事であるなら、そのメリット、デメリットをしっかりと検証してから進めるべきだと考えています。「夢の乗り物」といった期待感だけで歓迎するのではなく、地域の産業や観光などに、本当に役に立つのかを冷静に分析する必要があります。
先に書いた問題点の他にも、東海道新幹線の3倍とも見積もられる消費電力は(JR東海がデータを公表しないので類推するしかありませんが)原発数基分ともいわれます。世界遺産登録を視野に入れる南アルプスに、中央構造線を横断する長大なトンネルを掘るという自然・環境への悪影響も懸念されます。電磁波対策も公表されないため、乗客や周辺住民への健康被害が心配されます。リニアは指令センターから操作される無人運転になるのですが、地震や火災などの事故対策も不安視されています。さらには、今後の人口減少社会のなかでの不採算性なども危ぶまれます。JR東海が赤字経営に陥り倒壊したなら、私たちの税金投入も予測されるのです。このように、問題点を数え上げればキリがないほどです。
JR東海は、これらの課題に答えるデータを公表する義務があるはずです。
山梨県のリニア推進課は、地域に及ぼす影響を公正に分析し、また、JR東海に対しては安全性や環境への影響を判断するデータを求めなければなりません。
それらの調査報告が公開されてはじめて、私たちはリニア中央新幹線計画を受け入れるか否かの判断ができるのですから。
生活クラブ生協(山梨)の月刊『万華鏡』2013年10月号に載せた文章です。
リニア・市民ネット 窪田 誠