持続する夢

つれづれにふと気づいたことなど書き留めてみようかと
・観劇生活はえきさいてぃんぐに・日常生活はゆるゆると

近代能楽集/弱法師 2/3

2005-07-18 00:33:03 | 演劇:2005年観劇感想編
7/17のつづき>
舞台は、赤く染め上げられ。美しい夕暮れが表現される。しかし、室内は、暑く不快なのだと説明されている。そこで、藤原竜也氏によって声高に語られる「この世の終わり」。彼の、はだけた肉体から訴え出る絶望には。感情を揺さぶられ続けて、身動きが取れなくなる。彼が身を揉んで訴えるたびに、見たことのない空襲が、見えるような錯覚に陥る。

この間。微動だにせず、傍らに立ち続ける夏木マリ氏は。彼の感情に一切揺らぐことがない。調停員として「複雑な事情なんて、ただのお化けです」と言い切った彼女は。彼ひとりが何を言ったとて、変わることが無い現実の代弁者。彼女は、まるで舞台に穿たれた楔のようで。ぐらぐらと悪酔いしてしまいそうなところに、安定を与えてくれる。劇場全体が、空襲の炎を信じる頃に。「ただの夕映えよ」と断言し。現在に引き戻してくれる。

そして。否定を受けた俊徳は、諦念へと揺らぐ。上半身脱ぎ捨てた服によって、さえぎるものなく感情を発散していたというのに。すでに、裸身は無防備でしかなくなっている。彼は、庇護の手なくしては生きることのかなわない子ども。信じる支(つか)えを失って、放心しても強がる癖は抜けなくて。人払いを要求するけれど。それすら彼女は毅然とはねのける。「あなたと一緒にいるわ」「少しだけあなたを好きになったわ」。そして。「簡単な頼みごとをしてくれれば出て行きましょう」。かすかな色気を含む一連の言葉は、甘く。疲れた意識に滑り込む。

言葉どおり、食事の依頼を引き受けて。ここでおとなしく待つようにと、優しく俊徳を椅子にいざなう。彼は、世話を許すのではなく、彼女だけには望むのだろう。だから、最後の台詞を口にするのだ。
(今更かもだけど、ここから隠します。反転表示で→)だが、舞台の光景はここで一変する。セットの幕が落ち。そこは瞬時に、整然とした虚無の空間に変わり果てる。彼女はそれに微笑を与えて去っていくのだ。たった独りで座る彼を残して。かすかな怒号に耳をすませ。それが三島氏自決前の市ヶ谷自衛隊駐屯地での演説なのだと気付くころに、暗転。

観劇後。5年前の舞台に思いを馳せた。藤原氏の肉体は、華奢な少年であったに違いない。ならば、叫びはもっと幼稚に響いたかもしれない。高橋惠子氏の桜間であれば。母性強く俊徳を包んだかもしれない。舞台に年齢はないというけれど。そうとも言い切れないことも多くある。藤原氏がしっかりとした青年になった分、妖艶な夏木氏が良く合っていた。

さて、明日は。お待ちかね(の人、いてくれるかな)。衝撃の役者、藤原竜也氏について。

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2 コメント

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初めまして (janis1969)
2005-07-18 09:07:04
初めまして。

素晴らしい感想文ですね。

これを読むと近代能楽集を見損なった人が地団駄ふみそうなくらい・・。

次の藤原竜也君への論評も楽しみにしてます。
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Re:初めまして (こやま)
2005-07-18 20:59:50
>janis1969さま



ようこそおこしくださいました。いらしていただけて光栄です!

それも、誉めていただけて、すっごい嬉しいです(←単純)。竜也くん評はどうでしょう(どきどき・・・)



観劇少し前から記事を書き終わるまでは、と。お訪ねするのを中止していましたが、コレで解禁です。またお訪ねさせていただくので、よろしくお願いします。
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