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びいどろの火 奥山景布子

2012-02-28 22:44:02 | ★あ行の作家
びいどろの火
奥山景布子
文藝春秋

時代は江戸 舞台は名古屋
佐登は武家の娘とはいえ 先代が奉公人に産ませた子
日蔭者としてひっそりと暮らす佐登だったが 迷い子を助けたことから呉服商の主に見込まれて 若主人の嫁として迎えられる
優しい若主人に愛され 持ち前の才覚で呉服屋の商売を盛り立て 誰の目から見ても幸せで充実した佐登の新しい生活
ところが実は 佐登の心に暗い影を落とす 思いもよらない悩みがあった
誰にも相談することはできない
夫にも問いただすことができず ひとり悩む佐登は ふとしたきっかけで女ったらしの役者に誘われるまま その役者との関係に溺れていく

ひとことで言ってしまえば不倫
でも そこに至る動機は 寂しさだとか生活への不満だとか そんな単純なものではない
佐登は軽はずみに通りすがりの男と深い仲に堕ちるような女ではない
金目当てで口説き落とした大勢の女の中のひとり はじめはそんなふうに佐登を軽んじていた役者でさえも 彼女の生真面目さや一途さに次第に心惹かれていく
いつも優しい笑顔を向けてくれる夫と 激しい情熱をぶつけてくる役者と 二人の間を彷徨う佐登の心は…


男と女というのは どうしてこうも 簡単にはわかりあえないんだろう
お互いを好きで大切に思っているはずなのに どうしてなんだろう
本当はわたしのことをどう思ってるの? ひとことそう問えば こんなことにはならなかったのかもしれない
でもきっと 好きだからこそ怖くて聞けなかったんだろう
親が決めた相手 好きでもなんでもない たいして大事にも思ってない お前だってそうだろう?
もし 当たり前のようにそんなふうに笑いながら言われたら―


人を好きになるというのは その人を信じることなんだと思う

ただ闇雲に信じろと言われても難しいけど
最初は何もわからないその人と向かい合い くりかえし言葉を交わして
何をして何を考え 何を喜び 何を憂うのか 
何を美しいと思い 何を不快に思うのか
そんなことをひとつひとつ見つけながら 少しずつ知っていくこと知ってもらうことが大事で 
そうすることで お互いがわかるようになってはじめて
好きな相手を信じていられるようになるのではないかなと思う

そうやって 時間をかけた繋がりこそ強いのではないかなと思う

【献本】「わたしはわたし!」セルフ・ラブで幸福の扉を開ける15の鍵 溝口あゆか

2011-12-03 22:52:44 | レビュープラス献本
「わたしはわたし!」セルフ・ラブで幸福の扉を開ける15の鍵 (tiara books)
溝口あゆか(著)
ジュリアン(発行)

amazon.co.jpで詳細を見る

レビュープラスさんからの【献本】です
いつもありがとうございます

※レビュープラス・献本に興味のある方
詳細はこちら→レビュープラス


幸せになるためには、なにかを得たり、
なにかに到達しないといけない、
多くの人はそう思っているでしょう。
でも、もし私が、
「あなたはすでに幸せになるために必要なものをすべて持っていますよ」 
と言ったら、あなたは驚くでしょうか?


本の表紙を開くとまず目に飛び込んできた言葉

そりゃ驚きます
すべて持ってるなんてとんでもない 足りないものだらけだもの(苦笑)


人は誰だっていつも幸せでありたいと思っている

なのに現実は イヤなことがあったり 嫌いな人がいたり
他人と比べてしまって なんて私はダメなんだろうと自信をなくしたり
特別な才能なんか何も持ってなくて なんてつまらない平凡な人生なんだろう どうして私ばっかりいいことがないんだろう
もっと美人だったら もっと仕事ができたら…
もっと○○だったら 私だってきっと幸せになれるのに
ついそんな風に感じてしまうものだと思う

でもちょっと待って 
その“幸せ”って一体何なの?


実は 幸せの正体は 状況とか形そのものではなく 
自分自身が幸せだと感じること
自分の中にある“幸せの感覚”をうまく引き出して繋がることなんだそう

そのために大事なのが 『セルフ・ラブ(自己愛)』の感覚
わたしはわたし
自分のことが好き 自分は大丈夫だよ ちゃんとやれているよ
そう受け入れることがまず第一歩
ただし いわゆる「ポジティブ思考」とはちょっと違ってて 
無理にポジティブにならなくてもいい
ネガティブな思いや感情も否定しないで持っていていいし 自分の思いに素直に従ってよくて
今そこに在る自分のままで大丈夫だよということ

それなら楽だけど でもそうしたら今の欠点だらけの自分から進歩しないし
周囲を顧みず好き放題に振る舞うわがままな人間になってしまって
かえって幸せから遠ざかってしまいそう そんな疑問も当然湧いてくるのだけど

ところが 
表面的にでなく 本当に心の深いところで自分のすべてを認めてあげると
ちゃんと いろいろなことがうまくいくようになって 幸せになれるのである
自分の内側から沸いてくる自信があれば うまくいくように感じる 幸せを感じられるようになる
ということだと思う

ただ それにはちょっとしたコツ『幸せの鍵』がある
この本の中で挙げられている鍵の数は全部で15

特に大きな悩みがあるわけではないけど パッとしない日々を送っている 30才独身OLのさやかさん
この架空の人物さやかさんが幸せになるまでの物語を追いながら 15の鍵についてわかりやすく解説してくれている

たとえば

不完全な自分を許してあげる

相手の態度や状況に関係なく、自分でどんな気持でも選択できる能力がある

自分のハートが歌うようなことをする

「~するべき」でなく、「~したい」で考える

正しさよりも幸せを選ぶ


…などなど


なにかひとつの出来事がある
その事実に 何らかの意味を持たせたり 感情を持ったりするのは 私たち自身
どんな意味や感情を選ぶかも私たち自身で好きに選べる
それなら 自分に心地よいものや自分の欲するものを選べばいい
そうすることで 満たされた私たちは 他の人や物に依存しなくても 幸せを感じられるようになる

結局 自分を幸せにできるのは 自分自身だけなんだと思う

幸せになるって ホントはそんなに難しいことじゃない
幸せな人と不幸な人の違いは 幸せを感じるコツを知ってるか知らないかということだけ
たった15個の幸せの鍵 
この本は すでに掌の中にあるその鍵の存在に気がつかせてくれる

きっと私はこれからも 不安になったり辛くなったりするだろう
ないものばかりを数えて自信をなくしてしまったりするだろう

でも 
その度にまた 幸せの鍵の使い方を思い出そう
「わたしはわたしのままで大丈夫だよ」と言ってあげよう

そうして 幸福への扉を開けていこうと思う


◇◇◇

<著者について>

溝口あゆか ヒーリング・カウンセラー
早稲田大学卒業後、ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジにて芸術運営学修士号を取得。 留学で訪れた、スピリチュアルの本場イギリスでヒーリングやセラピー、魂の問題にめざめ、「カレッジ・オブ・サイキック・スタディーズ」「Center for Counseling & Psychotherapy Education(カウンセリング&サイコセラピー教育センター)」などで学び、ヒーリング、カウンセリング、そして様々なセラピーの資格を得る。 現在、数多くのクライアントにカウンセリング、セラピーをした経験から、イギリスと日本で理論やセラピーのテクニックを教えるコースやセミナーなどを展開。 また、「スピリチュアル心理学」を提唱し、スピリチュアルな観点からの人間の心のしくみを教えている。

溝口あゆか公式ブログ Care of the soul

◇◇◇



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ふがいない僕は空を見た 窪 美澄  

2011-10-28 09:37:08 | ★か行の作家
ふがいない僕は空を見た
窪美澄
新潮社

一度でいい
一生に一度でいいから みんな

馬鹿な恋愛ってのを してみるといい

自分のみっともない姿を 見てみるといい
自分の中の真っ黒な感情と 向き合ってみるといい

そしたらきっと 大抵のことは赦せるようになる

そしたらきっと 
人が人を責めたり非難したり 虐めたり陥れたり 蔑んだり羨んだり
人を傷つけて 自分も傷ついて
そんなくだらないことにエネルギーを注がなくなって

ふがいない僕は 空を見上げることくらいしかできないのだけど

それでも 世界は平和になるのではないかと

そんな風に思った



旅涯ての地 坂東眞砂子

2011-10-07 08:09:48 | ★な・は行の作家
旅涯ての地―DOVE UN VIAGGIO TERMINA
坂東眞砂子
角川書店

許せずにいることもある 忘れられずにいることだってたくさんある
見たくなかったものに限って 脳裏に焼きついて離れなかったりするのはホント困りもの
それでも今 笑って生きてられるのは
考えて 探して そのつど自分なりの答えを見つけてきたからだろうと思う

考えなくたって生きてはいけるだろう むしろ考えない方が楽だし 
何も考えずに生きている人だって世の中にはたくさんいる


人は何のために生きているのか

地位や名声やお金を手にして 好きなだけ女を抱いて 
世の男達が欲しがるすべてを手に入れても 心の底に横たわる物足りなさ
神を信じて 赦されることを信じて 
教えや聖杯にしがみついても 救われない心に溜まる虚しさ
それはどうしてなのだろう 

享楽的に生きる人でも
頑なに戒律を守り生きる人でも
どう生きようと 探し求めているものは たぶん同じ
同じものを求め 東の涯てへ西の涯てへと 終わらぬ旅を続けてる

いったい何を求めてるのか

この「旅涯ての地」の物語の主人公達も 何かを探し求め 
生きるとはどういうことなのかを考え続ける
違う道筋をたどりながらも お互いに行き着いた答えは―


言葉を使わなくたって 物を介さなくたって
ただ会って触れるだけで 伝わるもの感じるものってのがある

私は 人との繋がりの中にそういうものを見つけていたいと思うし
私の中にあるそういうものを感じてほしいと思う

私が与えられるのはただそれだけで 
わかる人には宝物でも わからない人にはきっと無用なんだろう
その価値がわからないなら どこかへ行って 自分の欲しいものを探せばいい
繋ぎとめたりはしない


顔や表情 声や言葉 
そんなものは全部 じきに忘れ去られてしまうかもしれない

けれども ほんのひとときの心の安らぎは ずっと記憶の片隅に残り 
くりかえし何度も何度も思い出してもらえるのだろうか
私のことはすぐに忘れても それだけは忘れないでいてほしいなと思う


仏果を得ず 三浦しをん

2011-09-23 10:09:41 | ★ま・や行の作家
仏果を得ず (双葉文庫)
三浦しをん
双葉社

文楽(人形浄瑠璃)を一度観て虜になり その世界に飛び込み 
太夫(文楽で義太夫を語る人)としての修業を積む主人公・健

義太夫に熱い情熱をかける健が 師匠や相方の三味線ひきや友人とのやりとりの中で さらに恋をすることで 人間を描く文楽の真髄をつかみ 人としても太夫としても成長していく青春小説
青春とはいっても主人公の年齢はおそらく30代 それでも青春は青春 歳には関係ない!(笑)


恋は唐突に落ちるもの

相手が芸でも人でも同じ
夢中になるのに 理由なんかない
気がついたら好きになってる
心捉えられた瞬間は覚えてても どうしてなのかは本人にすらわからなかったりするもんだ

さて その恋のお相手の真智さんが あっけらかんとしてて実にいい
文楽に熱中するあまり 「ちっともそばにいてくれへん」と今まで付き合っていた彼女から振られ続けていた健
決死の覚悟で 自分にとっては文楽が一番だから「二番目でもいいか?」と問う健に
あっさりと「ええよ」と答える真智 さらにその後続ける言葉もホント痛快で
真智のおおらかさに心から拍手したくなる
「私と○○とどっちが大事なのよっ!」なんてことは 男の人には言ってはいけないのだろう


それから 印象に残ったのが健の友人の言葉

『恋愛でダメにならない秘訣を知っとるか?相手に何かしたろと思わんことや』
『幸せにしたろとか、助けてあげんととか、そんなんは傲慢や。結局お互いにもたれかかってぐずぐずになるで。地球上に存在してくれとったら御の字、くらいに思うておくことや。』

わかる それはそうだろうと頭では思う
でもちょっと寂しいなとも思うのだ 
せっかく縁あって好きになった相手なら 何か役に立ちたいし関わってほしいとも思うのだけど
そんなのは自分のエゴなのかもしれない 
本当は ただそこに居てくれるだけで充分と そう思わなきゃいけないのかもしれないなぁ



読む前は 文楽?じょうるりってどんなの?近松門左衛門?
むずかしそう…と思ったけど そこはさすがしをんさん
人の脆さや情けなさに向けられる温かい目線が感じられる文楽という伝統芸能
文楽作品そのものにも興味が湧いてくるほど わかりやすくその魅力を伝えている 

「油地獄」という演目の解釈をめぐっての太夫達の会話

『恋愛で男が要求される、一番大切なことは?』
『優しさですかね?』
『馬鹿か、きみは。色気だよ。』


ジェノサイド 高野和明

2011-09-22 22:19:24 | ★さ・た行の作家
ジェノサイド
高野和明
角川書店(角川グループパブリッシング)

約30年も前に ひとりの科学者によって書かれた「ハイズマン・レポート」
それは人類滅亡のシナリオ
小惑星の衝突 地磁気の変動 核戦争 新種のウイルス
そして―

米国ホワイトハウス 大統領や補佐官やCIA長官らが集まる閣僚会議で取り上げられたひとつの報告
「人類滅亡の可能性 アフリカに新種の生物出現」

同じ頃 日本で創薬を学ぶ大学院生・研人のもとに 一通の不可解なメールが届く
送り主は急死したはずの父 自分が進めていた研究の後を引き継いでくれという依頼
その研究とは ある新薬を合成すること
父の残したヒントを手がかりに新薬の合成に挑む研人

さらに アフリカ・コンゴでは秘密裏に 冷酷なある作戦が進行していく
その任務を背負わされた傭兵部隊は 内戦の続くコンゴで 想像を絶する悲惨で残酷な光景をまのあたりにする

創薬の研究 DNAの変異 遺伝病の治療 生物の進化論
アメリカの政治と指導者の心理
世界規模で繰り広げられる情報戦や ジャングルでの戦争やジェノサイド(大量殺戮)
さまざまな要素が複雑に絡み合い
日本とコンゴ ふたつの局面から 物語はあるひとつの真実に集束していく


おもしろかった

そして 怖かった

人間ってのは生来 凶暴で残虐な生物のようだ
人類の歴史は戦いの歴史 いつまでも戦争をくりかえす
自分の強さや優性を誇示するために 自分の欲望を満たすために 何でもする生き物
私達現代人が今この地球上で唯一生き残っている人類でありえたのは 知性ではなく残虐性のおかげだという

それでも 救いはある 
読み終わった後には そんな私達人間にも 救いはあると思える

◇◇◇
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人のセックスを笑うな 山崎ナオコーラ

2011-07-21 20:21:30 | ★ま・や行の作家
人のセックスを笑うな (河出文庫)
山崎ナオコーラ
河出書房新社

ずっと前から衝撃的なタイトルが気になりながらも 本屋さんで素通りしてしまっていた本

いざ読んでみたら衝撃的でもなんでもなく そこに流れる空気は むしろ静謐


美術学校に通う19歳の男の子と39歳の平凡な美術講師ユリの恋愛小説

ユリには結婚生活14年の夫がいる

つまりは いわゆる フリンだ

そして歳の差は20

小悪魔な女教師が生徒と火遊び
倦怠期で夫に飽きた女が若い男をたぶらかした
夫に相手にされない中年女が年下男に寂しさ埋めてもらった

傍からはそんな風にしか見えないかもしれないし 
ずるい女で 都合のいい女かもしれない


ユリにとって果たしてこれは本当に恋愛だったのか?

私は そうだと思う

小説はあくまで“オレ”の視点で書かれ ユリの発した言葉はあっても心情はほとんど描かれていない
でも ユリも恋をしてた
“オレ”が感じていたのと同じ切なさや苦しさを感じていただろうし 同じように相手を慈しんでたと思う


お互い 寂しかったわけでも 何かに不満があったわけでもない
相手に幸せにしてもらおうとか 一緒の将来を考えようなんて思っちゃいない
誰かを好きって思って 会いたいって思って 欲しいって思う
それが倫理的に正しいといえない時もあるし 不倫を推奨するわけでもない 
でも ひとってそういう迂闊なとこもあるんだろう


ふいに 一緒にいて心地よい相手を見つけてしまい かけがえのない時間を過ごした

ただ それだけ

ただふたり一緒に過ごすわずかな時間
長い一生の時間の中で そうやって切り取られた 止った時間や名前のない空間があるのも悪くない


本気だとか遊びだとか 不倫だとか浮気だとか
無理に何かの型にあてはめたり 分類をして名前をつけたりする必要はない


“オレ”がこの先 残った想いを大事に抱えて生きていくのと同じように ユリもきっとこの時間を忘れない


淡々と単純に“好き”って想いだけがそこにあった

それでいいのではないだろうか


『しかし恋してみると、形に好みなどないことがわかる。好きになると、その形に心が食い込む。』

『言葉は何も伝えて来ない。ただ温度だけは伝えられる。』

さよなら渓谷 吉田修一

2011-06-27 22:35:49 | ★ま・や行の作家
さよなら渓谷 (新潮文庫)
吉田修一
新潮社

『私たちは幸せになろうと思って、一緒にいるんじゃない』

十数年前のある事件の加害者と被害者
心に大きな傷を抱え それでも 忘れようと幸せになろうと必死に生きてきた

でも 決して誰も忘れてはくれないし許してはくれない

きっと本当にその傷みや寂しさをわかってくれるのは お互いにその人しかいないことに気がついてて
一緒にいることで心安らぐのに でもそれは本来憎むべき相手で…
揺らぐ気持ちと心の奥の様々な葛藤

理屈の通らないことも うまく割り切れないことも 常識や理性という力で押さえつけられないことも 世の中にはたくさんある
自分の心の流れに抗えないってこともある

きれいなことも濁ったことも 混沌と 全部飲み込んで 人は生きてる

みんなそうやって 生きてる


「読後感最悪だから、気をつけて読んでね♪」と友達が貸してくれた本
確かに。。。
暗さの上に暗さがどんどん畳み掛けられていく感じで 「悪人」よりもさらに読後感はもやもやするし 正直どの登場人物にも共感できない

ただ 主人公の女性の葛藤と最後の決断は わかる気がする

『…私が決めることなのよね』

そう 何かに流されてるわけでも 言われるがままになってるわけでもない
どうするかは 自分で決めていい 
自分が決める それが 閉塞を突き破って前に進む小さな一歩なんだと思う

声の網 星 新一

2011-06-15 22:08:00 | ★な・は行の作家
声の網 (角川文庫)
星 新一
角川書店

今あなたが頭の中で考えていることは 本当にあなた自身が考えたことですか
今あなたが感じているその感情は 本当にあなたの心から湧き出たものですか

この質問に自信をもってイエスと答えられますか?


「声の網」 40年も前の星新一さんの作品

その中で描かれるのは
完璧な商品の説明とセールス お金の支払いや音楽の配信サービスに診療サービス そして秘密の相談まで…
ありとあらゆる高品質のサービスを 電話一本で誰もが受けられる世の中

何かに似てる

似てるというか 電話とネットなど細かいところは違えど 状況は現代社会とほぼ一緒

サービスの利用過程で集められた膨大な量の個人情報 
それを便利に使うこともできれば 秘密裏に引き出し悪用することもできる

人は自分の頭を使うことを放棄し 記憶を情報銀行に預け
考えることを止め 電話から流れる声に従うのみ

一見 あふれる程の情報によって豊かさを享受してるかのように見えるけど
実際は 情報に振り回され 惑わされ 操られている
自ら有益な情報を選んでるように思っているけど そう思わされてるだけで 本当は無意識のうちに選ばされてる

選ばされてる?

何に?

そう 一体何に選ばされているのだろうと不思議に思うことがある


たとえば
近頃 本屋で目に付くのは 「何にでも感謝を」「いつでも笑顔を」といった類の本のタイトルや宣伝文句
そうしていれば必ず誰でも 人気者になれたり幸せになれたりするのだそう

冗談じゃあない

ありがたいなと思ったら感謝するし 楽しいことや嬉しいことがあったら笑う
でも
嫌なことされたら恨んだり妬んだりするし 泣いたり怒ったりもする
それが自然な人間の感情や思考ってもんだ
私の感情や思考は私のもので私が決める
いつ何時も 他の誰かに決められたくも指図されたくもない

それが当たり前だと思っていたけど 世の中の多くの人はそうでもないらしく 
そういった類の本が売れるということは みな従順にいつでも感謝し笑い信じて祈るのだろう

次々流れてくる情報も 経験や知識と照らし合わせて吟味したりもせず 
そこにある胡散臭さや違和感を感じることもなく
ただ与えられたものを良いものと思い 丸のみしてまた次へ流すだけ

自分で考え 自分で選び 自分で決めることを放棄して
みなが同じようなことして 同じようなこと考えて 
みな何に従って何に動かされて 一体どこに向かってるんだろう
単純に本の作者や情報の提供者じゃない もうひとつ上に何かもっと大きな流れというか力みたいなものを感じる


たぶん 星さんには それが何か見えてたんじゃないかと思う
そして どこに向かっているのかも

 
私が生きてる今この世の結末も この本のようにならないことを 心から願う


【献本】大切なひとのためにできること 清宮礼子

2011-05-28 16:54:31 | レビュープラス献本
大切なひとのためにできること がんと闘った家族の物語
清宮礼子 文芸社
定価1200円 6月1日発売予定

amazon.co.jpで詳細をみる

レビュープラスさんからの【献本】です
いつもありがとうございます

※レビュープラス・献本に興味のある方
詳細はこちら→レビュープラス


「大切な人のためにできること」がんと闘った家族の物語

作者は 映画「おくりびと」の宣伝を担当されていた清宮礼子さんというかた
突然末期がんの宣告をされ がんと闘いながら残された命を大切に生きるお父さんと
温かく支える清宮さん達家族の物語

  人は誰でも いつか、おくりびと、おくられびと― (本書帯より)

この本が届いた次の日に 奇しくも 祖父が亡くなったとの連絡が入り
私もおくりびととして葬儀に向かう電車の中で読むことになった

命あるものはいつかかならずそれが尽きる時がくる

わかっていても別れというのはつらいもの
ましてや 自分自身や子ども達の人生もまだこれからで 愛する家族と過ごす時間を楽しみにしていた矢先 命の期限が短いことを知らされたら
私ならどう受け止めるだろう 私ならどう生きるだろう…
たった百数十ページの本 そこに書ききれない苦しみもたくさんあっただろうと思う
それでも 礼子さん お兄ちゃんやお母さん そしてお父さん
誰もがみんなお互いを思いやって 家族のことをとても大切にしていて
残された時間を少しでも明るく楽しく 穏やかに笑って過ごそうとする姿が心に残る

人が生きるというのは どういうことなんだろうと思う

苦しかったり哀しかったり悔やんだり つらいこともあったはずなのに
それでも最期に 愛する人たちにありがとうと言えて ありがとうと言ってもらえる
みんなの心に「ありがとう」が残り 支えてくれたたくさんの言葉が残る
優しかった笑顔が残り 楽しかった思い出が残る

残るのは 記憶

目に見えるかたちではないけど その記憶が きっと生きた証で 
残された人の身体の中にいつまでも温かく生き続けるものだと思う


一緒に生きてくれてありがとう おつかれさま

読み終えて そう言いながら祖父をおくりました
誰かをおくりだすときも 自分がおくられるときも
悔いなくおくりだせるように いつでも精一杯生きていよう

そう思える本


そして
この本の中には がんと闘う人たちの姿が飾ることなくありのまま描かれてる

つくりごとではない医療の現状

医師さえもが手探り状態の 日進月歩のがん治療の現場で 
患者や家族が なにが最善でなにが間違ってるのかを判断するのは容易ではない
少しでも同じ境遇の人の役に立てばと 清宮さんが懸命に集めた情報は
治療の種類や薬の副作用 在宅医療や緩和ケア そして避けては通れないお金の問題と多岐にわたる
がん関連のホームページのアドレスも数多く掲載されている

ぜひ 今闘病中の方や家族の方も手にとり 参考にしていただけたら
いち医療人として私も 嬉しく思う


◇◇◇
おくりびと [DVD]
出演:本木雅弘
アミューズソフトエンタテインメント

―納棺師─それは、悲しいはずのお別れを、やさしい愛情で満たしてくれるひと。(amazon作品紹介より)

ライフ・イズ・ビューティフル [DVD]
出演:ロベルト・ベニーニ
パイオニアLDC

本書のおまけで清宮さんがおすすめされてる映画
―第2次世界大戦下、明日をも知れない極限状態に置かれながらも、決して人生の価値を見失わず、豊かな空想力を駆使して愛する家族を守り抜いた、勇敢な男の物語。(amazon作品紹介より)

◇◇◇


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