あなたのすきな本は何ですか?

桔梗です
訪問ありがとうございます
いろいろな想いを残してくれたお気に入りを紹介しています

さよなら渓谷 吉田修一

2011-06-27 22:35:49 | ★ま・や行の作家
さよなら渓谷 (新潮文庫)
吉田修一
新潮社

『私たちは幸せになろうと思って、一緒にいるんじゃない』

十数年前のある事件の加害者と被害者
心に大きな傷を抱え それでも 忘れようと幸せになろうと必死に生きてきた

でも 決して誰も忘れてはくれないし許してはくれない

きっと本当にその傷みや寂しさをわかってくれるのは お互いにその人しかいないことに気がついてて
一緒にいることで心安らぐのに でもそれは本来憎むべき相手で…
揺らぐ気持ちと心の奥の様々な葛藤

理屈の通らないことも うまく割り切れないことも 常識や理性という力で押さえつけられないことも 世の中にはたくさんある
自分の心の流れに抗えないってこともある

きれいなことも濁ったことも 混沌と 全部飲み込んで 人は生きてる

みんなそうやって 生きてる


「読後感最悪だから、気をつけて読んでね♪」と友達が貸してくれた本
確かに。。。
暗さの上に暗さがどんどん畳み掛けられていく感じで 「悪人」よりもさらに読後感はもやもやするし 正直どの登場人物にも共感できない

ただ 主人公の女性の葛藤と最後の決断は わかる気がする

『…私が決めることなのよね』

そう 何かに流されてるわけでも 言われるがままになってるわけでもない
どうするかは 自分で決めていい 
自分が決める それが 閉塞を突き破って前に進む小さな一歩なんだと思う

声の網 星 新一

2011-06-15 22:08:00 | ★な・は行の作家
声の網 (角川文庫)
星 新一
角川書店

今あなたが頭の中で考えていることは 本当にあなた自身が考えたことですか
今あなたが感じているその感情は 本当にあなたの心から湧き出たものですか

この質問に自信をもってイエスと答えられますか?


「声の網」 40年も前の星新一さんの作品

その中で描かれるのは
完璧な商品の説明とセールス お金の支払いや音楽の配信サービスに診療サービス そして秘密の相談まで…
ありとあらゆる高品質のサービスを 電話一本で誰もが受けられる世の中

何かに似てる

似てるというか 電話とネットなど細かいところは違えど 状況は現代社会とほぼ一緒

サービスの利用過程で集められた膨大な量の個人情報 
それを便利に使うこともできれば 秘密裏に引き出し悪用することもできる

人は自分の頭を使うことを放棄し 記憶を情報銀行に預け
考えることを止め 電話から流れる声に従うのみ

一見 あふれる程の情報によって豊かさを享受してるかのように見えるけど
実際は 情報に振り回され 惑わされ 操られている
自ら有益な情報を選んでるように思っているけど そう思わされてるだけで 本当は無意識のうちに選ばされてる

選ばされてる?

何に?

そう 一体何に選ばされているのだろうと不思議に思うことがある


たとえば
近頃 本屋で目に付くのは 「何にでも感謝を」「いつでも笑顔を」といった類の本のタイトルや宣伝文句
そうしていれば必ず誰でも 人気者になれたり幸せになれたりするのだそう

冗談じゃあない

ありがたいなと思ったら感謝するし 楽しいことや嬉しいことがあったら笑う
でも
嫌なことされたら恨んだり妬んだりするし 泣いたり怒ったりもする
それが自然な人間の感情や思考ってもんだ
私の感情や思考は私のもので私が決める
いつ何時も 他の誰かに決められたくも指図されたくもない

それが当たり前だと思っていたけど 世の中の多くの人はそうでもないらしく 
そういった類の本が売れるということは みな従順にいつでも感謝し笑い信じて祈るのだろう

次々流れてくる情報も 経験や知識と照らし合わせて吟味したりもせず 
そこにある胡散臭さや違和感を感じることもなく
ただ与えられたものを良いものと思い 丸のみしてまた次へ流すだけ

自分で考え 自分で選び 自分で決めることを放棄して
みなが同じようなことして 同じようなこと考えて 
みな何に従って何に動かされて 一体どこに向かってるんだろう
単純に本の作者や情報の提供者じゃない もうひとつ上に何かもっと大きな流れというか力みたいなものを感じる


たぶん 星さんには それが何か見えてたんじゃないかと思う
そして どこに向かっているのかも

 
私が生きてる今この世の結末も この本のようにならないことを 心から願う