齋藤百鬼の俳句閑日

俳句に遊び遊ばれて

俳諧逸話(五)野々口立圃の狐の句

2007年03月03日 | Weblog
 洛外の某農民が畑につくりし瓜、夜な夜な狐に喰はれて困じ入り、種々と防禦の策を講ずるも止まず。今は手を空しくして食ふがままになし置きぬ。
 当時京都にて俳人の名を博せし雛屋野々口立圃(りっぽ)の之を聞きて、狐は妖魅に属するものなるを力以てこれを防禦せんとする、為し得可からぬは必然なり。夫の眼に見えぬ鬼神をも感動せしむる、我言の葉の道の徳なり、鬼人にあらぬ妖魅の眷属野狐なにほどの事かあらん、速に此害を除き得させんと一句即吟を案じて、さらさらと紙に書し、之を竹に挟みて瓜畑の中央に樹つ可しと命ぜり。
 農民某は直ちに立圃の教への如くせしに、果たして狐は同夜より来らずなれりと思はれて、瓜を盗まるることなくなれり。其不思議さに彼の紙に記せし俳句を読み見れば、

   己が字のつくりを喰ふ狐かな

とありし趣き一奇談なり。「俳諧百哲伝」より

 立圃=丹波保津の人。武士をすて京都に出て雛工となる。幼少から和歌、俳諧に親しむ。画を狩野探幽に学ぶ。嚏草という俳書あり。

2 コメント

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瓜のお話 (草野ゆらぎ)
2007-03-03 18:07:56
これまた楽しいエピソードですね。諧謔を解する俳人と農夫と、そして狐狸と。江戸時代は、やはり文化の爛熟した時代であったようです。
ご紹介、感謝です。
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草野様へ (百鬼)
2007-03-03 20:04:00
これなんかは、言霊信仰の俳句版ですね。言葉に霊力があるなどオカルトみたいですが、密教の真言など、そうでしょう。お産にも俳句は効きそうですよ。
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