春夜の街瞰んと玻璃拭く蝶の形に 横山白虹
通常、蝶の形にガラスを拭くかどうかは問わないでおこう。しかし、ただまあるく拭いたとしたら詩情は立ち上ってこない。詩の言葉は事実かどうかではなくポエジーが立ち上ってくるかどうかだ。蝶の形の覗き穴から見たからこそ春宵のけだるい詩情漂う街が見えてくる。蝶の形に、という措辞に尽きる一句。
白虹自身は「アングル」の新鮮さといっているが、やはり言霊のチカラとい . . . 本文を読む
新患のYさん宅へ薬の配達。番地から判断して、歩いても四百メートル。楽勝だ。さてと、おや変わった表札が出ている。「動輪舎」、何だろう。玄関に続く通路にまたまた不思議なもの発見。線路のようだけれど、それにしては軌道が狭すぎる。
工房らしきところから出てきたYさん。僕の気持ちを察して「これかい。あんた見たい? じゃあ、付いておいでよ」と線路の続く奥に入ってゆく。
なんと蒸気機関車があるではないか。 . . . 本文を読む
がうな賣り朝な夕なの立ち眩み 中原道夫
次回の花水木句会の兼題のひとつが「寄居虫」なので探してみた。
おもわず笑った。
立ち上がろうとすればクラクラっと来て右へヨロヨロ。少し歩けばまたクラクラっと来て左にヨロヨロ。足が先に進まない。心身ともに衰弱して、なんとも覚束ない男。「もうオレ、駄目かもね」なんて気弱な目つきで溜息をついては立ち止まる。気の毒なくらいなのだが、なにかその様子が可笑しくてな . . . 本文を読む
○ 4月16日、金、投句締め切り
○ 4月21日、水、選句締め切り
○ 4月22日、木、発表
○ 兼題 「寄居虫」「蜂」「連翹」「しやぼん玉」全7句、自由題なし(出題者はやまもも様)
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春の鳶寄りわかれては高みつつ
言わずとしれた飯田龍太の一句である。
この句、龍太自身が書いていることだが、原句は、
春の鳶寄りてはわかれ高みつつ
であったそうな。この形で、ある雑誌に出句したところ、「加筆」されていて「寄りわかれては」になっていた。「はなはだ面白くない」と感じたがそのままにしたそうだ。それから時間が経って句集を編むことになった。もう一度、読み返してみたところ「なるほど . . . 本文を読む
花水木三月句会の結果です。
軍艦の模型にZ旗黄水仙(百鬼) ◎昭特選
露天湯の客はまばらに熊穴を(昭)
たそがれのひひなの世界さゆらげる(やまもも)
囀りのリズム楽しみペタル踏む(凉) ○
リラといひライラックといふよき花や(サンド) ○
陸沈の錠固さびて蔦若葉(百鬼)
厄年の御神酒は少し流し雛(昭) ○
かたかごや武蔵御岳の山気恋ふ(やまもも)
春愁を躱しさらりと旅に出 . . . 本文を読む
花水木3月句会 選句をお願いいたします。
軍艦の模型にZ旗黄水仙
露天湯の客はまばらに熊穴を
たそがれのひひなの世界さゆらげる
囀りのリズム楽しみペタル踏む
リラといひライラックといふよき花や
陸沈の錠固さびて蔦若葉
厄年の御神酒は少し流し雛
かたかごや武蔵御岳の山気恋ふ
春愁を躱しさらりと旅に出る
公園のすずめいろどき梅真白
薬塵の甘く匂ひて春愁ひ
巡り合ひ普請の庭の黄水 . . . 本文を読む
春愁の鶴しどけなき黒の帯 中 勘助
民話、鶴女房が瞬時に浮かんだ。「夕鶴」を思った方も多かろう。鶴の羽の白に混じる黒を、黒の帯に喩えて艶めく風情を見事に表現している。中勘助は「銀の匙」で有名だが、還暦を迎えた疎開中より句作をはじめたといわれる。この句は村山古郷の「俳句もわが文学・続」から拾った。村山によれば、中の句は大きく、自然の風景、身辺の事象を静かに穏やかに詠んだ平明な句と、非現実的な空 . . . 本文を読む
京うれし春雨傘のさしどころ 岩崎巨陶
NHKの大河ドラマ「竜馬伝」の岩崎弥太郎役の俳優は面白い。脚本は南條範夫の「政商・岩崎弥太郎」を下敷きにしているようだが、実際の弥太郎よりも弥太郎らしい。この巨陶、その弥太郎より数えて四代目の岩崎小弥太である。二冊の句集を持つ。この俳号にはエピソードがある。高浜虚子は「古陶」という名を与えたが、これを嫌い「巨陶」とした。いやしくも日本を代表する企業の総帥 . . . 本文を読む
春の朝うぐひす豆を所望せり 上林 暁
永い病臥のなかで春の散歩もままならない。せめてうぐいす豆のあの薄みどりを目にしたい。食より色を望んだのであろう。所望せり、が切実だ。私小説の雄、いや鬼は句も作っていた。石田波郷の「俳句は私小説なり」の言にならえば当然ではあるが。
うつくしき天の川見ず十三年
虫の声しびんに添ひてひびきけり
という句もある。
【今日の俳句】
卓上の白きに朝の黄水 . . . 本文を読む
今日はまさに春日。町ゆく人の顔も穏やか。店の前に置いた木製のベンチといえば聞こえはいいが、ドイトの特売で買った縁台におばあちゃんが座っている。冷たいウーロン茶を差し上げる。この縁台、なかなか座ってくれる人がいなかった。それで縁台に「ゆっくりと 転ばぬ先の ひと休み」「お茶はでませんがご遠慮なく」と書いたところだ。
「あらまあ、お茶が出てきたわ」
「気が向くと出るんですよ。ハハハッ」
なんて話をし . . . 本文を読む
郎党がこゑ上げてゐるクロツカス 百鬼
春の雪解けゆく軒の微弱音
春泥に帰りそびれし雪をんな
春愁や青き影ひく角砂糖
今日は定休日なので、それを利用して店の映像看板の模様替えのための撮影をやってもらった。テレビ動画のカメラマンなので、動きにいささかうるさいが、何回も駄目だしされて一時間半ほどで完了。ちょっとした役者になった気分。主役はカミさんだが、こちらも自転車に乗って颯爽? と配達 . . . 本文を読む
配達の薬袋濡らす春の雪
今日のような天気の日はお薬の配達が増える。厄介と感じないとは言わないが、患者さんも止むなく配達を頼んでいるのだ。とくに高齢者は。濡れないように懐に抱え込んでゆくが、手渡すときに少し濡れてしまう。深いお辞儀を頂いて次に向かう。途中から春の雪になった。
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夕蛙いもうと兄を門に呼ぶ 安住 敦
敦の句にはこころよい郷愁がつきまとう。この句など谷内六郎の絵のようだ。現代なら妹は兄を携帯電話で呼ぶのだろうか。
遠蛙酒の器に水を呑む 石川桂郎
この句の直前に、桂郎は喀血している。好きなお酒が呑めない。愛用のぐい飲みに注ぐのは水。男のいじらしさを遠蛙のこゑが濡らしている。
【今日の俳句】
ふみ捨てれば流れに消えし夕蛙 百鬼
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