王子のきつね on Line

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「東海道四谷怪談」の概要(後半)

2005年01月23日 17時28分29秒 | 心霊
●三幕目(初日三幕目および後日の狂言始めでもある)
(八)十万坪隠亡堀の場
 深川の奥、塵芥を集めて埋め立てた小名木川沿いの俗称十万坪という砂村新田の一隅に、隠亡掘という不気味な淵があった。その土堤に今はに落ちぶれた伊藤後家・お弓と、乳母のお槙が、殺された喜兵衛と娘お梅のことを嘆き、伊右衛門への怨みを報いたいと話し合っている。そこへ仏孫兵衛が通りかかり、戸板に打ちつけた男女の死骸が流れてこなかったかと訊く。女二人は、見てないと答え、わけを聞く。孫兵衛は息子・小平のことを話す。
 その時、お弓が持っていたお梅の形見であるお守り袋を、どこからか出現した鼠がくわえて引きずる。お槙はあわてて取り押えるが、鼠はそのまま川へ飛びこみ、お槙も引きずられ、川に落ちる。お弓はあわてて、お槙の帯を捉え引き上げようとする。孫兵衛も手伝うが、お槙の帯は切れて、彼女は水中深く没し、お弓、孫兵衛は、こけてしまう。お弓は、事の始末にウンと気絶してしまい、孫兵衛は気の毒がりつつ、去る。
 直助が鰻掻きの姿で、桶、さくを持って登場。「今年は不漁だ」と、ぐちを言いながら川へ入り、鰻の代りに鼈甲(べっこう)の櫛に女の頭髪がついた物を拾う。「こいつは鼈甲だ」と、毛を捨てて磨いている(これはお岩の髪梳きの櫛である)。
 一方、花道からお熊(伊右衛門実母)が老女のなりで、卒塔婆と包みを持ち、釣竿を持った伊右衛門とともに登場、伊右衛門の殺人の噂を聞いて、「伊右衛門はもはや亡き者」との世評を作るために卒塔婆を作ったと、これを示す。また、包みを見せて、先の夫の進藤源四郎が塩冶の浪人であり、今の亭主の仏孫兵衛が塩冶の又者(武士に仕える小者)であるため、渡しにくかったが、先に高野師直公に仕えた時に頂戴した、いざという時に役に立つ、師直の御判の付いた御墨付き同然の書類、これをそなたに、と渡す。
 伊右衛門はこれを有難く受けとり、「喜兵衛・お梅殺しは、拙者が朋輩、秋山・関口らになすりつけておいたが、まあ卒塔婆はこの辺りに立てられよ」と言う。お熊は「そうしよう」と、卒塔婆を立て、去る。
 直助は煙草をのみながらこの話を、ずっと聞いている。
 釣りを始める伊右衛門が直助とは知らずに、
「火を借りましょう」
「お付けなされませ」
 そして、「もし伊右衛門様、お久しう」と悪人二人の出会いである。
「わたし直助も今は権兵衛、伊右衛門様、いわばお前は、わしにとっては姉の敵だ」
 そいつは何故だと訊く伊右衛門に、「わしが女房は(お岩の)妹のお袖。お前とは敵同士」と言いながらも、しかし、「いざお前の出世の暁には、わしも相応の身分にしてもらう。知らねえ顔はなしだぜ」と、ふてぶてしい。伊右衛門もそこは承知、そして釣糸を引くはずみに、先ほどの卒塔婆がこけて、気づいたお弓がこれを見て、
「ヤヤ、父と娘を殺した伊右衛門は、さては死んだか」と驚く。そして「もし、お訊きしますが」
 と直助に、伊右衛門の生死を訊く。
 直助は、うっかり本当を言おうとして、伊右衛門に突っつかれ、「いや死んだ、死んだとも、今日は四十九日だ」、さらに突っつかれて、「死んだにしても、喜兵衛らを殺したのは、伊右衛門じゃない。秋山、関口らだ」と言う。
 驚くお弓を、後から伊右衛門が蹴って、川に突き落す。深みにはまってお弓は死ぬ。
 これを見て、直助「なるほどお前は(強悪だねえ)」と言うと、伊右衛門は、笑って、「お主が仕草を(真似たまでよ)」と答える。
 突然、秋山長兵衛が駈けてきて、
「世間じゃ喜兵衛・お梅殺しは、俺がしたと言っている。たまったものじゃねえから、これから本当の犯人はお前だと訴人するから悪く思うな」と言う。
「まあ待て。人の噂も七十五日、これを貸すから、遠国へでも行け」と、伊右衛門は、いま手に入れた高野師直の書状を渡す。秋山は去る。
 伊右衛門が、まずい奴と会ってしまった、「ひとまず帰るか」と、釣竿をあげようとした時、戸板が流れつく。死骸らしきものがある。伊右衛門が、思わず引き寄せて、菰(こも)をめくると…。お岩の死骸であった。しかも死骸は両眼をあけて、口には鼠が取ったお梅の守袋をくわえて、伊右衛門をじっと見る。伊右衛門も震えあがって、「お岩、お岩、許してくれる、あやまった」と言うが、お岩は、「民谷の血筋、伊藤喜兵衛の血筋ともきっと根だやしに」と、呪うがごとき声音。
 思わず、伊右衛門が、「なむあみだぶつ、まだ浮かまぬのか」と言いつつ、戸板を引っくりかえすと、裏には藻をかぶった別の死骸がある。
「ヤ」と見ると、藻が落ちて、今度は小平の腐りかけた死骸(お岩役者の二役早替り)、これも両眼を開いて、伊右衛門を見上げ、「お主の難病、薬を下され」と、手をのばす。
 伊右衛門、「またも死霊の(仕わざか)」と、死骸を斬りつけると、死骸は骨となってばらばらと水中に落ちる。
 伊右衛門がホッとすると、正面の地蔵のかげから直助が出てくる。一方、下の樋の口から、佐藤与茂七(お岩役者の三役、早替り)がしのび出る。暗中につき、三人ともまわりが見えぬなかで、お互いを探りあうしぐさ(いわゆる「だんまり」)、きまった所で、幕。


●四幕目(後日序幕)
(九)深川三角屋敷の場
 深川法乗除門前にある直助の貧家。女房・お袖は、洗濯の手間賃や樒(しきみ)の花、線香を売って暮している。古着屋・庄七が、洗いに出した着物がまだ乾かぬかと催促、米屋の長蔵が米代の催促。さらに庄七がすすぎの注文にとり出した衣類は女物(実はお岩の着衣)で、お袖は姉の物に似ていると思いつつ、盥へ。一方、幼い次郎吉が蜆(しじみ)を売りに来るのを、お袖は買いとって放す。法乗除まで来た仏孫兵衛は孫の次郎吉を連れて帰る。
 今日は、お袖の父・左門、それに許婚者・与茂七が同じ場で殺された(とお袖は思っている)その百か日である。
 直助が帰ってくる。得物はないが、拾った例の櫛を見せる。お袖が見ると、それは姉が所持して、いずれは自分に呉れるといった櫛に相違ない。直助が、その櫛を質物に持ち出そうとすると、盥の中の衣類から手が出て、櫛をとる。不思議がる直助。直助はお岩の死を知っているが、お袖は何も知らないのである。結局、鼠が現れて櫛は仏壇に納まり、直助も手を出せない。
 折から通りかかった按摩が宅悦で、呼び入れたところ、世間話として、お岩が夫の伊右衛門に、それはむごく殺され、伊右衛門は他にも何人も人を殺して行方不明になったという噂をする。お袖はびっくり仰天して、いろいろ問いただす。宅悦はお袖とは顔見知りだったが、お岩の妹とは知らなかったのである。動転して悲しむお袖を前に、宅悦はほうほうの態で逃げ帰る。
 直助は、これもお岩や小平の死をはじめから知っていたのだが、いま宅悦の話で、はじめて知ったようなふりをして、「父を殺され、許婚者を殺され、そして姉のお岩を、その夫の伊右衛門に殺され、お前はこれから三人の敵を討たねばならぬ身、かよわい女ひとりで出来るものかねえ」と、意味ありげなことを言う。お袖は直助と、形の上では夫婦のふりをしていても、夫(許婚者)・与茂七の敵を討つまではと、肌身は許していないのである。
 しかし、今となっては姉まで殺され、頼りとする者は、あれほど嫌であった目の前の直助権兵衛、ただひとりである。お袖は、酒をあおり、直助に身を許す決心をする。
 その気持を見とって直助は、「助太刀するが、女房になるか」と言う。「必ず見すてて下さるなえ」とお袖。ついに、直助の思ったとおりに事ははこんだのだった。
 かくしてお袖が直助に肌を許した、その直後、意外にも佐藤与茂七が、この家へ直助を訪ねてくる。先の夜、隠亡堀のだんまりの立ち廻りで、廻文状を失った折、手に入った鰻掻きの棒に「権兵衛」と名が彫っであったのを手がかりに、探しあてて来たのである。
 直助は、戸を開けて与茂七を見て、あっと驚く。与茂七は彼が浅草裏田甫で殺したはずではなかったか。とすれば、幽霊!
「幽霊だ、幽霊だ」
 と直助は、むしょうに騒ぐ。お袖が出てみると、なんと死んだはずの与茂七。
 お袖は、喜ぶ反面、なぜもっと早く逢えなかったか、たった今だが(直助に身を許して)面目ないと動転する。
 直助の方は、あの時殺したのは別人謀殺と知って開き直る。「ヤイヤイ、言い訳する程罪が深いやい。この女はわしに下さい、貰いましたぜ」。与茂七には与茂七の覚悟があって、廻文状が手に入るならばと思うが、直助がそれを簡単に渡すはずがなく、ここに「一人の女房に二人の男」たがいに譲らぬ睨みあいになる。
 何を思ってか、お袖は与茂七、直助に、それぞれ何事かを話しかけて、「行燈を消すのを合図に、な…」と言って、一旦は二人を遠ざける。

(十)小塩田隠れ家の場
 仏孫兵衛の家である。右手障子の部屋に、病気の小塩田又之丞(義士)が病臥している。孫兵衛女房・お熊が、今日も孫の次郎吉を蜆の売上げが少ないといじめている。孫兵衛はこれをかばっている。お花(小平女房)が帰ってくる。まめまめしく主の又之丞に仕えるお花。孫兵衛は、塩冶の騒動以来の義士たちの話をする。
 奇妙なことに、又之丞の夜着や衣類等が入質したはずなのに、増えている。聞けば小平が次郎吉にこれを渡して持たせたとか。孫兵衛は小平の幽霊の仕わざと見当がつくが、お花はなぜ小平どのは、家には姿を見せられぬのかと不審顔。
 赤垣伝蔵が、大星由良之介以下、塩冶浪人の討入り前の、最後の打合せに訪ねてきた。腰膝の病はどうか。はたして討入りできる身体なのか。又之丞はせい一杯元気に見せかけるのだが、赤垣は、その気力を買って、配分金を渡す。
 ところが、其処へ質屋の庄七、米屋の長蔵が掛けとりにくる。又之丞の夜具等は、質屋から盗まれた(幽霊の小平が盗んだ)ものとわかり、これを取りあげようとする庄七。これを見ていた赤垣、金は払うが、又之丞の討入り参加は、大星は認めないであろうと言いすてて帰る。
 又之丞、自殺を志すが、小平の幽霊これを止める。そして妙薬ソウキセイを渡そうとするが、又之丞は小平のために盗みの汚名を受けたと、斬りつける。斬ったのは卒塔婆であった。そしてお花も、小平の位牌を持って泣きながら、駈けこんでくる。
 いろいろ事情がわかって、又之丞も小平の忠義に感動する。しかし、「いったい誰が小平を殺したのか」。
 その時、子供の次郎吉、走りこんで、霊が憑いて、口ばしる。
「わしを殺したは民谷伊右衛門」
 そんなら敵は民谷伊右衛門かと、又之丞、お花がきっとなるが、小平の声は、「いやいったんは主人だった人。それより薬を」という。又之丞、感謝しつつ薬を呑む。たちまちに回復し、かかってくる庄七を、ポンと斬りすてる。幕。

(十一)元の深川三角屋敷の場
「水の流れと人の身は、移り替ると世の譬(たとえ)、思えば因果なわしが身の上、…」と、真ん中に折屏風を置き、みずからの死を覚悟してのくりごとを述べるお袖。お袖の実父は塩冶藩の元宮三太夫といった。また一人の兄が居るとも聞いている。いま、義理の父、姉(四谷左門、お岩)を非業に死なせて、その敵が討ちたいばかりに、夫(許婚者・与茂七)を裏切って、直助に肌を許した上は、生きてはいられないというのがお袖の気持である。それ故に、与茂七、直助の二人に言いふくめ、二人の手にかかって死ぬ手筈をとりまとめたのであった。
 遺書と臍の緒状を残して、行燈の灯を吹き消すお袖。屏風の蔭にかくれる。
 灯を消したを合図として、与茂七と直助が右と左から、暗中を手さぐりで、忍び忍んで入ってくる。屏風を見つけて、二人はそれぞれ屏風越しに、中の人を刺す。わっという悲鳴に、仕すましたりと、与茂七、直助。
 その時、さしこむ月の光に見ると、刃に貫かれて苦しんでいるのは、お袖ではないか。
「これは」と驚く、与茂七と直助に、お袖はみずからが死なねばならぬ事情を語る。
 与茂七はなぜ自分を死んだと考えたかを聞くと、浅草裏田甫で見た死体の衣類が…との答え、それは同じ義士仲間の奥田庄三郎と交換した衣類であった。つまり、直助が殺したのは与茂七と思いこんで、じつは奥田庄三郎であったのだ。
 それを聞いて、直助は驚き、また愕然となる。与茂七が、それを察して、「さては」とにじり寄るのを、お袖は止め、直助に、この書き置きを、兄なる人にどうぞと言う。それを見ると「元宮三太夫の娘袖」。
「ヤヤヤヤ、すればお袖は元宮の…!」。直助は叫び、与茂七が捨てた刀で、お袖の首をぽんと斬り、自分はどかりと尻もちをついて、呆然となる。
 与茂七は驚き、直助をなじる前に、直助は出刃包丁を腹へ突っ込む。
 腹を切って、血を流しながらの、直助の告白が始まる。
 お袖の実の兄、「元宮三太夫の枠」とは直助であった。直助は知らずに、実の妹とちぎったのである。さらに、直助は奥田将監の家来であり、直助が殺したのは、その将監の嫡男である庄三郎であった。妹とはつゆ知らず、藩に居た時から、お袖をつけまわしていたのが因果のはじまり、
「だまし討ちに殺したは、古主の御子息庄三郎殿と、聞いて知ったはたった今、親姉夫の仇敵、討ってやろうと偽つて、抱き寝をしたは情けない、この直助が血を分けた、妹と知ったはこの書物(かきもの)。槍一筋の親は侍、その子は畜生主殺し、末世に残る直助権兵衛」と、血を吐くような最期の言葉。そして与茂七に、廻文状を返して、死んでゆくのであった。


●五幕目(後日中幕)
(十二)夢の場
(幕の前に、大きな「心」という字が吊されていて、それが上へ吊りあげられて開幕)。
 唐茄子の蔓が這い、夏の花の咲き乱れる美しい田舎の家が舞台。お岩が美しい田舎娘の姿で、糸車にかかっており、そこへ鷹狩りのついでに鷹を探しにきた、羽織、袴、美々しい衣裳の待となった伊右衛門が登場する。秋山長兵衛は中間姿で随行している。これはすべて、伊右衛門の見た夢という仕立てである。
 七夕祭りの日、牡丹燈籠の趣向。
「女中、許しやれ」と、伊右衛門、田舎家を訪ねて、「風雅な住居じゃ、身どもはこの近辺に住む者」と、美女お岩に近づきを求める。中間の長兵衛と元同僚であったのに今は折助とは何だといさかいになる。お岩が割って入り、酒などすすめる。
 伊右衛門、お岩に気のあるそぶり。
「そなたは、この辺りの百姓の娘か」
「アイ、わたしやこの辺りの民家に育ちし、賤(しず)の女子(おなご)でござります」
「アヽ、そなたは民家(みんか)の娘か。民家は民谷(たみや)、わが家名じゃ」
 それから色模様になり、
「岩によう似た賎の女の、振り袖姿は、以前に変らぬ妻のお岩に」
「岩に堰(せ)かるるその岩が、恋人かえ」
「色にするのじゃ、人の見ぬ間に」
「また移り気な」
 これを外から見た長兵衛が、
「アリヤなんだ、人間じゃあるまい」と言う。軒の燈籠に仕掛けで、お岩の顔が現れる。また家に這いまとった南瓜が、一ぺんに残らず人の顔になる。「南無阿弥陀仏、こんな所に居られぬ」と長兵衛逃げる。
 その時、ゴーンと「時の鐘」、不気味な伴奏者とともに民家の簾があがる。
「なんのそなたを嬲ろうぞ。お岩と申した妻もあつたが、いたって悪女。心もかたましければ離別」
「すりや先妻のお岩さん、それほど愛想がつきて、未来永劫見すてる心か、伊右衛門さん」
「そういうそなたの面ざしが、どうやらお岩に」
「恨しいぞエ、伊右衛門殿」
 美しいお岩が飛びのくと、鼠が伊右衛門に飛びかかる。お岩は、一気に幽霊お岩に変貌し、
「さてこそ、お岩が執念の…」
「ともに奈落へ誘引せん、来れや、民谷」
「おろかや、立ちされ」
 伊右衛門はあたりを斬りまわる。お岩はこれを連理引きに苦しめる。糸車に火がついて火の車となり、廻る。この姿のまま、次の舞台に移るが、その前に「心」の文字が幕の前に下りる。

(十三)蛇山庵室の場
 貧しい下町の民家風な庵室。庵主浄念が中心になって、近所の者等で、百万通念仏。外は雪景色で、流れ灌頂の具、そろっている。雪降っている中で、進藤源四郎(お熊の前夫、伊右衛門の義父である)、六部として此の庵に到着した状態。
 右手、紙帳の内で病臥していた伊右衛門がやつれた病人の姿で、転がり出て、「おのれ、お岩め、立ち去らぬか」と刀を抜こうとするのを、皆々で止め、「また起りましたか。気を鎮めなされ」と取りすがる。伊右衛門、胸をなでおろし、「アア、夢か。はてさて恐しい。いまだ死なぬ先から、この世からあの火の車へ。南無阿弥陀仏[南無阿弥陀仏]」と、疲れきった様子。
 源四郎が声をかける。辛うじて答える伊右衛門。やがてまた百万通がはじまる。伊右衛門は、
「お頼み申します」と言う。
 お熊が出て、先日渡した高野のお墨付きによって、高野方へ召しかかえられることを言う。小林平内が、その使者で来たが、その証拠のお墨付きを、伊右衛門は(秋山に渡して)いま持っていない。小林は呆れて帰ってしまう。ところが、その秋山が乞食のなりで庵室の門口に寝ている。伊右衛門は外へ出て、流れ灌頂の白布に水をかけて、お岩の成仏を祈る。しかし、伊右衛門のかける氷は、白布にかかる前に火となって燃える。
 その布の上から、お岩の幽霊が赤子を抱いて現れる。腰から下は血、歩くと雪の上に、点々と赤い足跡。
 伊右衛門、恐しくて後ずさりに家の内へ。お岩幽霊ついて来る。紙幅の上にも赤い血の足跡がつく。
 伊右衛門は、「はて執念の深い女め。これよく聞け」と、義士の手引きをするために不義士に見せかけたのだ、と嘘を言う。その上、赤子まで殺したのは、血筋を絶やすとの狙いか、恐しい女めと罵る。
 お岩、抱子を見せ、渡す。鼠が多数出現。伊右衛門が赤子を落とすと、一転石地蔵になる。お岩は見事に消える。
 伊右衛門、秋山を見つけて、お墨付きを返せと言う。秋山、鼠の怪異が続くから返すと言う。しかし、お前のせいで人殺しが続くと話す。
 その間、舞台の上から逆さまのお岩の幽霊が、秋山の首をくびり殺し、しかも秋山を吊し上げて欄間の内へ引きこむ。血汐落ちる。
 伊右衛門、「これもお岩が」と呆れる。
 源四郎が、伊右衛門を「道わきまえぬ、不忠者めが」と責める。「勘当じゃ」。源四郎去る。
 障子があくと、お熊が鼠に責められて、のた打っている。伊右衛門、撞木杖で鼠を追い、皆々に百万遍を乞う。皆々、南無阿弥陀仏と百万通の念仏を唱えるが、その間に、お岩の幽霊があらわれて、お熊をさいなむ。伊右衛門にだけ、それが見える。
「またも死霊じゃ。眼前じゃ。さあ念仏を、念仏を」と伊右衛門。
 お岩、伊右衛門を見つめながら、お熊を喰い殺す。
 百万遍の皆々にも、お熊の喉が喰いやぶられて血だらけになっているのが見えて、「わっ」と数珠を捨てて逃げる。
 伊右衛門、「おのれ死霊め」と斬りまわる。障子が倒れると、進藤源四郎の首くくりの死体がぶら下っている。お岩幽霊は、この時にはっと消える。
 伊右衛門、無念のこなし。
 この時、捕手大勢あらわれ、伊右衛門にかかる。
「死霊のたゝりと人殺し、どうで逃れぬ天の網、しかしいつたん逃れるだけは(逃れてみせよう)と、伊右衛門、捕手たちをさんざんに斬る。そこへ、あらわれたのが佐藤与茂七。
「女房お袖が義理ある姉、お岩が敵のその方をば、この与茂七が助太刀して、討ちとるまでだ」と斬り結ぶ。立ちまわりの内、佐藤与茂七、伊右衛門を斬る。
「これにて成仏得脱の」と与茂七、しかし伊右衛門はなおも、「おのれ与茂七」と立ちかかる。
 心火燃えて、鼠がたかるなかで、幕。

(十四)大切
 『四谷怪談』に「大切」はないが、この後は、雪しきりに降るなかで、『忠臣蔵』十一段目、討入り、大星由良之介ら、高野師直を討ちとる。

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