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世田谷一家4人殺害事件の各種報道記事ファイル

(連載)[安全メルトダウン]第3部・凶悪犯罪の連鎖(1)世田谷一家殺害

2007-01-24 | 世田谷-特集、その他
[2002年8月8日 読売新聞]

見えない動機、冷酷な手口
防犯ビデオ、男浮かぶ 血洗い再び現場へ

 東京・世田谷の都立祖師谷公園。車を運転していた女性は路地から飛び出した男に気付いた。男は路地の方を振り返ると、真っ暗な公園に消えた。2000年12月30日。午後11時35分になっていた。

 翌31日午前10時半、公園を背にした一軒家で、宮沢みきおさん(44)と妻の泰子さん(41)、長女のにいなちゃん(8)、長男の礼君(6)の4人が遺体で発見された。現場には凶器の包丁「関孫六」が残されていた。男が飛び出した路地は、宮沢さん宅へと続いていた。

 「この男が犯人に間違いない。犯行後、いったん外に出て返り血を洗い流し、再び現場に戻っている」。警視庁の捜査幹部はそう言い切る。自宅に血を洗った痕跡がなかったことも、この見方を裏付ける。

 1階のパソコンには31日午前1時過ぎに劇団のホームページ(HP)に、さらに午前10時には別のHPに接続した記録が残っている。隣人が大きな物音を聞いたのは30日午後11時半。犯人はその少し前に侵入し、4人を殺して玄関から飛び出した。そして、31日午前1時までに戻ったというのだ。

 警視庁は当初、こうした行動を全く想定していなかった。侵入場所の見方も二転三転した。

 公園の敷地と2メートルのフェンスで仕切られた、宮沢さん宅の高さ3メートルの壁面に、縦50センチ横40センチの浴室の窓がある。現場検証で、捜査幹部は公園側のツバキの赤い花びらと小枝が散らばっているのを不審に思っていた。地面に靴跡のようなへこみもあった。網戸も、フェンス外側に転がっていた。

 その窓から入るのは不可能とみられていた。だが、身軽な捜査員が侵入を試みた。フェンスに上り、壁の湯沸かし器に左足を置く。窓枠を手で押さえ、右足から体を滑り込ませると、何とか入り込めた。網戸を外すと、同じ場所に落ちた。

 「窓はいつもカギが開いていた。犯人は下見をしている」と捜査幹部は言う。さらに、普段は玄関わきに置いてあるカギが、バスタブから見つかった。

 浴室の窓から侵入した犯人は玄関から逃げ、舞い戻った。そして大みそかの午前10時過ぎ、隣に住む宮沢さんの義母がチャイムを鳴らす。義母はカギが閉まっていたので合カギを取りに帰った。その間に犯人は浴室の窓から飛び降りる。花びらはその衝撃で落ちた。

 なぜ現場に戻ったのか。「死んだかどうか心配になり、現場に戻る殺人犯はいる。遺留品の衣類に血が付いていないから、着替えて戻っている。犯人の家はそう遠くないのかもしれない」と捜査幹部は言う。

 さらに不可解な痕跡が残っていた。部屋にはアイスクリームの空きカップが5つ転がり、底がつぶされていた。素手で絞り出して食べた跡だ。ソファのトレーには、夫婦の運転免許証と携帯電話が並んでいた。2人の顔を確認したようだが、凄惨(せいさん)な現場から動機は見えてこない。

 特捜本部がこれまでひた隠しにしていた1枚の写真がある。12月29日昼、現場から8キロ離れたJR吉祥寺駅前のスーパーで、若い男が「関孫六」を買った。防犯ビデオに映った男は短髪で、まゆが太い。モスグリーンのジャケットにチェックのシャツ。身長も175センチと犯人像に近い。

 「幸せそうな家族を見ると、21世紀が来る前に大分の事件のようにしてしまいたいとも思う」。12月27日、インターネットの掲示板に書き込みがあった。その年8月、大分県で一家6人が少年(15)に襲われ、3人が刺殺された。

 捜査幹部は語る。

 「玄関のカギをかけると宮沢さん宅は密室になる。それを装った世紀末犯罪だったのではないか」



 社会を震撼(しんかん)させる事件が相次いでいる。横浜では祖父母と孫が継父に殺され、千葉県松戸市では女性2人が絞殺されて家に火を放たれた。冷酷な手口。見えない動機。家庭や地域の崩壊がもたらす悲劇もある。「安全メルトダウン」第3部では、「現代」を映し出す凶悪犯罪の深層を探る。

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