「エデンの乳房」 中島みゆき
私たちが寄ってたかって この星のことを
宝島ではないと哄笑(わら)っているのに
私たちが寄ってたかって この星のことを
エデンではないと哄笑っているのに
与えることしか知らない この星は
五十億の餓鬼に乳房を与え
ラストオーダーを切り出しかねている
ここが無限の宝島だったなら
私たちは奪い合う筈(はず)がないのに
ここが馨(かぐわ)しきエデンだったなら
私たちは寂しみ合う筈がないのに
■
やせた星よ
祝福されし児等と
巫女たちの唇は動き続けても
幸福のための【正しい】略奪は続き
幸福の数だけ不幸は対在する
その理由(わけ)を
問おうにも やせた星よ
己れの全てを与えるくせに
ただ一つ
己れを守る者だけを持たない
その生は未だ幼く
その生は永劫ならず
私たちは明日をも知れぬ
■
垂乳根(たらちね)の星よ
火の衣を失い 水の衣を失う日に
五十億の赤児たちは 愛情の糸を織りなし
最後の衣を着せかけうるだろうか
赤児たちは幾たびも幾たびも
悲しみと同じ産声をあげながら
この エデンならぬ星に生まれ
おぼつかない糸を今日も紡ぐ
私たちは幾たびも幾たびも
この エデンならぬ星に生まれ
おぼつかない糸を今日も紡ぐ
1987年1月1日付朝日新聞
『片想い』(新潮文庫、1987年7月25日発行)から
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No.1190(2005/07/26/火)
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