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赤い指 母性愛と刑事との攻防

2007-06-26 19:21:28 | 「ドラマ的書評」

直木賞作家、東野圭吾の最新作(単行本)。1999年12月「小説現代」にて掲載された作品をあらためて書き下ろしたもの(発売は2006.7.25)。嫁と姑の対立、行き過ぎた母性愛、崩壊する家庭……いまにはじまったことではないこれらの問題に正面から切り込み、なおかつサスペンスとしての満足度も見たしてくれる一冊。


一人っ子を甘やかす母親の家庭には、痴呆ぎみの「姑」が同居し、外からみれば一見普通の家族、しかしそのじつは互いの主張を譲らない空中分解寸前の集合体。この家の一人っ子で長男が自宅にて少女を殺戮。その隠蔽をはかろうとする母親が、父親を取り込んで死体を公園に運び、息子には口止め、ゆきずりの犯行に見せかけたが、死体に自宅庭の芝が付着したことから刑事にマークされることになり、苦しんだあげく、両親はそれを「ボケた母親(姑)がやったことにする」という口裏あわせを実行。息子とも綿密な申しあわせを行い、うまくいくかと思われたが……意外な展開に。姑の生態が事件の鍵を握り、ガラスのうえで暮らしていた家族は、深い悲しみのそこへ落ちてゆく。

テーマはずっしりと重いが、会話は現代家族の空気をぴたりと捉え、臨場感ある作品に。ところどころ生活感がにじむ文体は、直木賞連続候補で辛酸をなめた苦労を感じさせるところ。読みやすいということがなによりの名作であるという証拠か。(ドラマの視点)

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ドラマ的書評ポイント(10点×3=30満点)
①書籍満足度 ……10
②エンターティメント性 ……9 
③映像化期待度……9
合計「28」ポイント


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ハリセン刑事 下町的メルヘンおやじ 

2007-06-26 19:19:11 | 「ドラマ的書評」
少年係りの刑事が、柔道五段という強さを隠し
ハリセンを振り回しながら子供たちとの関係を築くという異色の刑事版。

「北十間川警察署少年係 ハリセン刑事」。
発行/パレード。筏井正樹(いかだいまさき)著。単行本。

「ハリセン刑事」著書のページへ

少年事件を扱う小説やドラマはどうしてもなまなましい描写が入り込み、息苦しさをひきずることが多かったように思えますが、こちらの小説は、今の時代が抱える閉塞感や息苦しさを吹き飛ばすような、親しみのあるキャラクターが勢ぞろい。

犯罪そのものよりも、自分らしさを失わず希望をつかもうとする子供たちの記憶や、子供たちの背後で甘い汁を吸おうとする組織と警察との対立が描かれる正統派刑事もの。作者は、テレビ出身ゆえ、読み進めていくと「映像にすれば面白いシーン」が次々と。

まずは主人公、佐々熊が面白い。生活安全課少年係という職務にある彼は、「夏でも厚手の上着。ワイシャツのうえの巻いた腹巻にはハリセンをしのばせる」という警察にはあるまじき格好。そのうえ単独行動が多く、少女といえどもいきなり手錠をかけるなどの奇行も目立ち、まさに問題刑事。しかしながら、困った人を見ればなんとかしたくなるという行動は体育会系でまさに下町気質。警察一家で育った彼は、じつは柔道の達人で過去に試合中での事故を起こし、そのことが「ハリセン刑事」変身へのきっかけとなるというエピソードもうなずけるところ。

また、二話においては「拳銃を弾き飛ばすアクション」、三話においては「同僚刑事を眠りに誘うハリセン」、五話においては「ハリセン幅跳び」など、それぞれの章において「ハリセン」を振り回すパフォーマンスが、センスよく盛り込まれ、これが見事に決まるから、思わず拍手喝采!

脇役もはじけている。通訳の仕事がしたくて警察に入ったものの、たまたま手配犯を逮捕することになり、経験がないにもかかわらず佐々熊とコンビを組む、小野坂理恵(33/警部補)は赤いマニュキアと香水がトレードマーク。署長は、組織捜査を嫌う変わり者。「逆一日署長」などといいかってに署長の制服で民間の仕事場に出向き、そこで防犯の指南をするというパフォーマー。そのほか、風俗捜査のベテラン刑事や、ハリセン和尚など、はじけたキャラクターが並ぶ。

著者は、東京の下町に住むテレビ構成作家、筏井正樹。それほどの知名度はなくはじめての書き下ろし、そのうえノンタイトル(「受賞作品」ではない)にもかかわらず、東京・下町地域の書店では、浅田次郎や東野圭吾作品と堂々肩を並べ、英雄的書物として扱われるという噂も。東京の下町から頭をもちあげたハリセン高気圧は、列島各所へと広がり始める気配か。

昨今、テレビドラマの制作現場には「連載漫画」や「売れ筋」の原作があふれ、テレビマンのオリジナルやプライドが喪失、視聴者との距離がますます離れていくいま、テレビの中で仕事を続ける作家によるこのような「創作提起」は歓迎すべきではなかろうか。(ドラマの視点)
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ドラマ的書評ポイント
「ハリセン刑事」(10点×3=30満点)
(Ⅰ) 書籍満足度 ……9
(Ⅱ) エンターティメント性 ……10 
(Ⅲ) 映像化期待度……10

合計「29」ポイント

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劇団ひとり 陰日向に咲く

2007-06-26 19:15:46 | 「ドラマ的書評」
タレントとしても活躍中の「劇団ひとり」の書き下ろし小説。
社会のレールからはずれたところで暮らす人たちの生態や
自分の趣味や生活スタイルにこだわりをもって生きる人たちの
理想郷ともいえる「擬似社会」の縮図と
どこまで幻想でどこまでウソかわからない
ぎりぎりの妄想が優しい筆使いで描かれます。



第一話「道草」は、放浪に憧れる「私」が
ホームレス体験に目覚め、
プチホームレスの上級者になるまでの過程において
自分を捨てることの難しさを訴え、同時に、
路上生活において知り合った「モーゼ」が
公園生活を卒業するまでが描かれ、

第二話「拝啓、僕のアイドル様」は遠くに見えた
アイドルがじつは近くの存在だったという青春グラフティ。
アイドルは無垢な存在であるが、その追っかけもアイドル
以上に純粋で一途であることが描かれ、

第三話「ピンボケな私」は、二十歳、フリーター、あまり美人でなく
積極的でもないという……劇団ひとりがもっとも得意とする「私」が
登場。女性特有の仮面とモラトリアム(本気が見当たらないという)
の人間関係が浮かび、

第四話「Over run(オーバーラン)」と第五話「鳴き砂を歩く犬」は
第一話で登場した「路上生活者」が現れ、
第四話の主人公は、ギャンブルで道を踏みはずした「俺」。
この男が、オレオレサギのごとき手口で老女をそそのかすが、
じつは老女の妄想によって主人公が
生きながらえるという心温まる逆転の結末で、
つづく第五話は、路上生活者の過去と
時間の軸を超えた「未来」との接合が現れ、

ちょっと癒され暖まる「妄想旅行」を楽しんだ読者は、
筆達者な作者の顔写真を眺め、そうかやっぱりこれは
「劇団ひとり」の作品なんだ……と納得する一冊。

映像化の話が意外に難航しているという噂??
たしかにエンターティメントに訴える要素はちょっぴり乏しく、
そのうえ「モーゼが?主役」となれば……
と考えが及んでしまうことも。

映像化は「文芸作品」となるのか、それとも
秋葉原族を巻き込んだエンターティメント作品
となるのか、待ち遠しい限りですが、
どちらにしても、
主役は「劇団ひとり」
演出は「劇団ふたり」
プロデュースは「劇団さんにん」と
異質の、助言と価値観をもらうことで
この作品のイメージがさらにふくらむ
ような気が。(ドラマの視点)
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ドラマ的書評ポイント
「陰日向に咲く」(10点×3=30満点)
①書籍満足度 ……9
②エンターティメント性 ……8 
③映像化期待度……10

合計「27」ポイント


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赤川次郎 三毛猫ホームズの戦争と平和(光文社文庫)

2007-06-26 19:11:04 | 「ドラマ的書評」
警視庁捜査一課の片山刑事とその妹、そして片山家でかっているネコ(その名前が「ホームズ」)が難事件に遭遇し、事件を円満に導くとともに、悲劇の影に浮かぶ社会病理を浮かびあげるという短編推理シリーズ。表題作は「シリーズ第39弾」を数えた出版物というから驚き。

テレビにおいても「土曜ワイド劇場」や「火曜サスペンス劇場」でたびたび放送され、1998年の2月に放送された「三毛猫ホームズの黄昏ホテル」においては、宮沢りえが片山晴美役を熱演。この作品は赤川テレビシリーズの傑作と言われています。

表題作「三毛猫ホームズの戦争と平和」はこんかい文庫に収められた「短編六作品」のうちのひとつ。女子大生が登場したり、パーティ会場や旅先が舞台になったりと、女性の読者をひきつける作者には珍しく、奇想天外ともいえる設定と「戦争と平和」というまるで社会派作家……のようなタイトルがまず目を引きます。

ストーリーもダイナミック。山中で迷う片山兄と片山妹。二人が乗った車が地雷を踏み、車は二つに割れ、片山兄は、その村の東側勢力(大泉家)の庄屋に。一方、妹は西側勢力(沼田家)の地主の座敷牢へ。この村は二つの勢力に分断され、兄と妹、それぞれが人質にとられる格好に。このあたりは、文明から取り残され、思想や行動が江戸時代のお百姓さんのような感じ。携帯電話もつながらず……。にらみ合い、ののしりあう、お隣同士。そして運悪く、一方の若者が転落死するという事件が起きます。やがて全面戦争へと……。しかしそれを察知した片山兄妹やホームズの働きによって事態は意外な終末へ。

三毛猫シリーズでも数すくない「SF的な状況を盛り込んだ作品」だけに、作者の気概が感じられた作品でした。これを映像化するとなれば、それなりの予算が必要でしょうが、「いまの時間の中に過去がある……」というモチーフは哲学的な境地を呼び起こします。赤川氏の問題作。(ドラマの視点)

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ドラマ的書評ポイント(10点×3=30満点)
「三毛猫ホームズの戦争と平和」
①書籍満足度 ……8
②エンターティメント性 ……8 
③映像化期待度……10
合計「26」ポイント


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