人生ブンダバー

読書と音楽を中心に綴っていきます。
現在は、暇に飽かして、日々更新。

佐藤賢一『王妃の離婚』(集英社文庫)★★★★★

2010-01-13 05:13:36 | 読書
[昨12日(火)、20:00BSフジプライムニュース安倍晋三生出演--とくに日米安
保(日米安保条約)論はなかなかおもしろかった。一方、小沢一郎も記者会見を行
ったが、はたして・・・・・・。]

第121回直木賞受賞作品、佐藤賢一『王妃の離婚』を読んだ。

舞台は15世紀のフランス。多くの人がそうなのかも知れないが、私にはこの世界に
対する予備知識がない。一方、著者は東北大学大学院で西洋史とフランス文学を専
攻。専門知識を存分に生かしている。

物語は典型的な起承転結。「起」にあたる「プロローグ」を読むのには骨が折れる。
音楽に例えれば、出だしからこれはすごいとひきつけられる演奏と、なにげなく始
まり、じわじわと燃え、最後にクライマックスを迎える演奏があるが、本書は明ら
かに後者のタイプだ。アッチェレランドではないが、中盤からやめるにやめられな
くなる。「離婚裁判を戦う」の法廷描写は圧巻である。

カルチェ・ラタンに学び、聖職者とはならなかった主人公の、弁護士フランソワ・
ベトゥーラス。読み進むうちに、私も主人公を通じていろいろなことに想いをはせ
る。男と女[の心理]。公と私(--義憤と私憤といいかえることもできよう。)、
キリスト教と世俗。フランス王と民衆。随所にちりばめられたラテン語が魅力的だ。

「プロローグ」のアベラールとエロイーズの物語(集英社文庫版p.18)は単なる
「前置き」ではない。「第一章フランソワは離婚裁判を傍聴する」における、フラ
ンソワが見たオーエンの夢(p.113)、「第二章フランソワは離婚裁判を戦う」
--カノン法における「結婚の完成」論(p.153)等々すべてが「第三章フランソ
ワは離婚裁判を終わらせる」クライマックス(p.389)の伏線(そうだったの
か!)となっている。

後で調べたら、アベラールとエロイーズの物語(→岩波文庫)、ヴァロア朝第8代
ルイ12世とジャンヌ・ド・フランスの離婚話は史実だった。ジャンヌ・ド・フラン
スは20世紀になってカトリックの聖人に列せられている。

いくたの有力候補の中から選ばれた第121回直木三十五賞、むべなるかなである。
本書に挑戦する人はあえて予備知識を持たないことをおすすめする。


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