神奈川絵美の「えみごのみ」

狐ファイナル その2 (九月文楽第二部 「玉藻前あさひの袂」)

(前回の続き)


九月文楽は、大盛況。

主役はもちろん、日本を魔界にともくろむ妖狐、桐竹勘十郎さんなのですが
「若手(の技芸員さん)が、がんばっていたわよ」と
先に観ていた着物友が言っていた通り、そこここで彼らの成長ぶりに感心する
場面がありました。

(以下、あら筋にはほとんど触れられませんので
知りたい方はネットで調べてみてくださいね)


まずは冒頭、清水寺の段
豊竹咲寿太夫さんがぐんとお上手になっていてびっくり。
姫の役によく合っていましたし、地の語りも抑揚あり表現豊かに。

後の神泉苑の段では、豊澤龍爾改め鶴澤友之助さんとの床が
相変わらず麗しく、まるで爽やかな秋風がそよぐよう。
5年前から見守っていた者としては、この段の口で
勘十郎さんの狐との共演、じーんとしてしまいました。
ですが、太鼓が入ると声が聴きとりにくくなるので
今後は声量に期待ですね。

人形遣いでは、吉田幸助さんがずっと見やすくなっていました。
お顔立ちがはっきりしていらして、以前はちょっと表情の変化が
出やすいかなという印象でしたが、
今回は人形に集中できました


最初の見せ場、単独でかかることもあるという道春館の段では

鶴澤貫太郎さんの三味線を、私は久しぶりに
聴けて嬉しかったです。
一聴しただけで彼とわかる、腹の据わった音。
テヌートというのか、一音が他の人より長いような気がします(もちろん良い意味で)。
話の展開としては、実の父がワケあって、
素性を明かさないまま、生き別れた娘の首を落としてしまう、という
哀しい結末で、
竹本千歳太夫さんの高笑い→泣きが混じる、の微妙な声の変化は見事でした。
だいたい、文楽で一見悪役が高笑いをすると
実はその人は善人である、というのはお約束のようなもので、
私などは高笑いの時点で、涙ぐんでしまいます。
今回は太棹が豊澤富助さんでしたから、なおさら情が移ります。
この父親役が吉田玉男さんで、どうしても熊谷陣屋がデジャブしてきて
困りましたが…。


そして妖しい狐の登場。

神泉苑の段では、豊竹咲甫太夫さんの義太夫が
光りました。
最後の勘十郎さんオンステージでも、太夫さんがずらっと並ぶ中で
咲甫さんの出番が突出して多く、
呂勢さんとともに、今後ますます楽しみです。
以前にも書きましたが、陽性で華やか、
ぽーんぽーんと天井をわたるような、よく響く美声。
現代的で若い世代に受けそうな節回しが私はとても好きです。
お声の良い太夫さんは他にもいらっしゃいますが、
咲甫さんは語り分けもお上手。


さてこの演目、筋がだいぶ端折られます。
一転、こちらはちょっとしたチャリ場。

傾城亀菊に入れあげた当主の皇子、
政務を怠り、なんと訴訟の裁きまで彼女に任せてしまいます。
「貸した金が返ってくると思う方が間違い」など
遊女ならでは?の価値観で、ある意味爽快な裁き。

その後、陰陽師の安倍泰成の訴えで
姫に化けていた狐の正体が暴かれることに…!という展開。



姫に化けている狐。
面(顔)が一瞬で、怖い狐に変化します。


これが狐…ですが、写真が不鮮明でしたね。

コチラです。


…意外と、カワイイ…



陰陽師に暴かれ、日本を魔界にする夢が断たれた狐は
故郷の那須野が原に戻り、呪いの殺生岩と化します。
確かこのあたりで勘十郎さんのプチ宙乗りが見られます。
文楽での宙乗り、私はたぶん初めて観ました。

余談ですが、那須野が原は下野の国、今の栃木県です。
私にとっては高校時代を過ごした第二の故郷なので、
(当時、相当な辺境とみなされていたであろうことに)
ちょっと複雑な気持ちです(笑)。

最後の化粧殺生岩の段で、
ずらりと太夫さん、太棹さんが並び、
鶴澤藤蔵さんが今回もロックな音で際立っていました)
桐竹勘十郎さんのオンステージ。
舞台が明るいまま、次々と七役、早変わりします。
歌舞伎役者とはまた違って、足遣い、左手遣いの黒子さんも
いますから、チームワークが一段と求められます。
舞台中央の岩陰に消えた直後、
舞台袖から別の役で出てくる、など、スピーディ&スマート。
個人的には「いなせな男」の、足を上げながら振り返る踊りがお気に入りです(笑)。

近づく人や動物を、たちまち死に追いやる殺生石ですが、
「いなせな男」とか夫婦漫才みたいな人たちが出てくると、
あまり殺される気がしない…

…のはともかく、勘十郎さんの踊りにはいうまでもなくキレがあり、
七役の個性もなめらかに演じ分け、踊り分けしていて
当代随一だなあ、と……。
勘十郎さんがおつとめになるのはこれが最後、とご自身でおっしゃっていますが
もったいないなあと思いつつも、
これだけの体力を使うのなら、仕方ないのかなあ、とも。
素人考えですが、この段だけ単独で、というのも難しいのかしら。
次に育ってくる人形遣いさんに期待ですね。

コメント一覧

神奈川絵美
香子さんへ
ふふ、私もそんなによく覚えてはいないのですが、
まあ、筋はあってないようなものですよね
>勘十郎さんのFB
おお、チェックしてみますね、ありがとうございます。
勘十郎さん、もう本当にこの演目
お勤めにならないのかしら…。
でもきっと、ほかにもいろいろ、演りたい役が
あるのでしょうね。
香子
勘十郎さんしか見てなかったので
詳しいご説明ありがとうございます。
そうでした、そんな場面も有りました…なんて(笑)
あの双面の早変わりなど勘十郎さんのFBで見られますよん。
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

※ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「着物deオフタイム」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事