kamacci映画日記 VB-III

広島の映画館で観た映画ブログです。傾向としてイジワル型。美術展も観ています。

舟を編む

2013年04月20日 | 年間ベスト3
日時:4月16日
映画館:シネツイン本通り
パンフレット:900円と割高なのだが、実際の辞書サイズで、一部に辞書用専門紙を使っているなど凝った凝った作り。言うまでもなく、こういったのは大好き。

私はものを作るのが好きだ。
私は印刷物を作るのが好きだ。
私は手を動かしているのが大好きだ。

原稿を書くのが好きだ。
言葉遊びが好きだ。
パロディが好きだ。
推敲するのが好きだ。

紙が好きだ。
切断するのが好きだ。
切り貼りするのが好きだ。

私はリスト作りが好きだ。
無意味とも思える文字の山を再度整列させるのは、ワクワクする。

私は校正が好きだ。
印刷所へ出張校正するときの緊張感などたまらない。

私は印刷物の納品が好きだ。
納品した途端、誤植が見つかったときなど自己嫌悪の極みだ。

私は印刷物を処分するのが好きだ。
無駄に作成されて廃棄されていく印刷物を見ると哀れで泣きそうになる。

「舟を編む」の静かさとは対極で書き始めたのだが、知人から面白いよと薦められて原作を読んでいた本作。辞書というか印刷物を巡る世界観がたまらなくて、ワタシにしては珍しく早々に劇場に足を運んだ。

辞書作りという世の中の人にはあまりなじみのない世界だが、手順を追って考えれば至極当然の作業を淡々と膨大な時間をかけて行うさまをエンターテイメントとしてしっかりと描き出している。

2時間超えの上映時間が心配だったが、原作のエピソードを過不足なく盛り込んで、全然飽きさせないし、松田龍平はともかく、不安のあった宮崎あおいとオダギリジョーも違和感がない。静かで派手さのない演出が心地よい。

ワタシは小さい頃から物を書いたりレイアウト作業をしたりするのが大好きで、出版社に就職したいと考えていたこともあるが、結局、今の職場で印刷物の製作に文字通り一から十まで携わっているわけだから、ある意味夢がかなったことになる。(もちろん、マカロニ大会も(笑))

実体験として印刷物を作る過程は苦あれば楽あり、楽あれば苦ありなだけにこの映画は全編、涙なしに見ることはできなかった。セリフの1つ1つ、些末なデティールすべてに納得できる。

ワタシは観光地図づくりに携わっているが、たった1枚ものの印刷物でも、ブレない基準をもって作業を進めることは難しい。それだけに明確な1つの方針で10年以上作業を続けることなど、飽きっぽく臨機応変すぎるワタシには不可能だ。そこに静かな執念を感じさせてくれる。(辞書一冊を5校など信じられない作業量!)

辞書専用の紙作りのシーンも発注者のこだわりとメーカー側のプライドが発揮されるいい場面。本物のプロと仕事すると、本当にあんな感じで気持ちいいのだ。

最後の「明日から改訂作業だ。」というセリフが最高なのだが、恒常的な印刷物を作っているとごく当たり前、本当に翌日どころか校了した瞬間から次の改訂作業が始まっている。松本先生も分かっているだが、日々、生きている印刷物を作っている以上、終わりはない。改訂作業は永遠であり、だからこそ悔いは残るしあきらめもしなくてはならない。ワタシとしては最後の出版記念パーティーで終幕で、あとは余談みたいなものだった。

ところで、宮崎あおいの役どころが板前ということもあって、料理と食事のシーンがふんだんに展開される。酒好きの空腹時にはなかなかこたえるよ。






題名:舟を編む
監督:石井裕也
出演:松田龍平、宮崎あおい、オダギリジョー、小林薫、加藤剛

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