花冠ブログ句会

主宰・選者/高橋正子 世話人/藤田洋子

●入賞発表/8月16日(日)~8月31日(月)

2009-08-30 13:35:46 | 入賞発表
■8月16日(日)~8月31日(月)
□高橋正子選

【最優秀/2句】
★大花野視界三百六十度/宮本和美
三百六十度という、全方向が見渡せる花野は「大花野」。花野のすばらしさ、雄大な自然に、気持ちが大きく広がる。率直な句。(高橋正子)

★賑わいの漁港の上の鰯雲/佃 康水
出船、入船、魚の水揚げなどで、賑わう漁港。その上の空高くに広がる鰯雲。生き生きとした漁港の美しい景色。(高橋正子)

【特選/7句】
★水平線の蒼き一筋盆の海/桑本栄太郎(正子添削)
盆の海を眺めている。盆の海がひろびろと広がって、遠く水平線が実にきれいな蒼の一筋としてある。作者の思いが一句に籠められ、季節が的確に捉えられた。(高橋正子)

★秋茄子の不ぞろいなるも強靭に/多田有花
真夏の暑さが去り、朝夕が涼しくなってくると、茄子が生き生きとして美味しい実をつけるが、皮が傷んだようなのも、曲ったのも様々。「不ぞろいなるも強靭」なのである。(高橋正子)

★湖と空澄んで近江は米どころ/黒谷光子
琵琶湖の水も、その上の空も、今は秋。水が澄み、空が澄み、さんさんと降り注ぐ陽に、近江平野は稲が熟れ始めて、米どころを実感する。(高橋正子)

★夏星の光を仰ぎ子の帰郷/成川寿美代
帰郷を待ちわびる家族のもとに、子は子のペースの旅だったのだろう、子は夏星を仰ぎ見ながら、元気に帰って来た。夏星の光に抒情があって、あたたかい。(高橋正子)

★箱の荷の泥付き芋は地方紙に/祝恵子
届いた箱の荷を開けると、地方紙にくるまれた畑から掘り起こしたばかりの泥つきの芋が入っている。地方の便りも、合わせて届き、懐かしい思いだ。(高橋正子)

★一片の雲を真白に処暑の朝/藤田洋子
処暑の朝を迎え、まっ白い雲の美しさにうれしさが湧く。暑さも一息つき、朝夕の涼しさが期待できる。処暑というのは、そういう日なのだ。季語を生かした写生だが、詩情のある句。(高橋正子)

★快晴の陽の透き通る赤とんぼ/甲斐ひさこ
高々と晴れ渡る秋空の中を、赤とんぼが眩しく過ぎてゆきます。ちょうど一昨日、私も同じ光景に心引かれました。きらきら光る羽を陽が透き通って、まるで影ができないんじゃないかしら、と思うほど。美しいひとこまを、そのまま句に描いて下さって、ありがとうございます。(川名ますみ)

【入選Ⅰ/12句】
★秋蛍草の匂いの放棄田/白川友行
残る蛍はなかなか哀れ深いものがありますね。残暑の厳しい折の草の臭いと放棄田の取り合わせが尚更哀れを誘います。良い句だと思います。 (前川音次)

★畝毎のみどりに差あり貝割菜/桑本栄太郎
畝毎のみどりはいかにも涼しげです。その色をよく見れば、畝毎にみどに差があるという。そのわずかな変化も畑ごとの季節の遅速を感じさせ、こまやかな風情を伝えてくれます。 (小西 宏)

★朝顔や洗い立ての格子戸に/古田敬二
「洗い立ての」とあるから充分に手を入れて洗った格子戸にいくつかの朝顔が咲いている景でしょう。何処か町家の並んでいる様子が浮かびます。真っ白な虫籠窓まで見えてきそうです。「洗い立ての格子戸に」がよく調子を整えていて、好きな句。(前川音次)

★鍬取りの音の弾んで処署の朝/國武光雄
処暑の朝とはいえ、鍬の音がさくさくと弾んで流動感溢れる、爽やかな句になって居ると存じます。(宮本和美)

★夕月や子供半纏干してあり/前川音次
秋祭りの夜でしょう、月の明るさのなかに小さな半纏が干してある可愛らしさ。(小西 宏)

★星月夜波間に光る島ありて/迫田 和代
波間に光る…フレーズが好きです。平家物語を、連想いたします。幻想的ですね。 (成川寿美代)

★航跡の弧の大きくて夏の果/篠木 睦 
スケールの大きな句とお見受け致しました。映画の一コマを見ている気分似させて呉れ、大いに共感を覚えました。(宮本和美)

★炎天を咲き切る今日の紅芙蓉/平田 弘
割き続ける時間も短いあまり強くない花。それだけに炎天下に咲き続ける紅芙容は印象的である。(古田敬二)

★新涼の水滲ませて墨彩画/柳原美知子
墨彩画を書く墨をとく水にも季節感が感じられました。きっとかかれた絵も初秋の季節感に溢れているのでしょう。(高橋秀之)

★カンナ咲く海の蒼さを見下ろして/下地鉄
カンナと海の蒼さの色彩の対比がとても鮮やかです。カンナをより引き立ててくれる眼前に広がる海が、爽やかな初秋の明るさを感じさせてくれます。(藤田洋子)

★紙ひこうき赤とんぼうも飛んでくる/祝恵子
紙飛行機と赤蜻蛉の取合わせが、ユニークで、季語のよく生きた佳句と存じます。(宮本和美)

★選挙終えゴーヤチャンプル大皿へ/藤田裕子
清き一票を投じ、清々しい気持ちで、家族のために料理の腕をふるい、秋の味覚を食卓に。忙しい中にも、為すべきことをやり遂げた一日の安堵感と充実感が感じられます。(柳原美知子)

【入選Ⅱ/12句】
★青空の青にとけこむ赤とんぼ/渋谷洋介
青空の青と赤んぼの赤の取り合わせも素晴しく、特に中七の「青にとけこむ」の措辞抜群で,詩情溢れる秀句と存じます。(宮本和美)

★朝陽差す生き尽くしたる落蝉に/川名ますみ
一生を生き尽くした蝉の朝陽が暖かく見送っているすがすがしさ好きです。(平田  弘)

★虚空よりとんぼ湧きおる棚田かな/小口泰與
上五の「虚空より」の措辞が抜群で、棚田に秋あかねが湧き出る様に乱舞して居る景色が見えて来ます。素敵な秋の景の句と存じ、共感を覚えます。(宮本和美)

★青芝を啄ばむ処暑の野鳩かな/下地鉄
青芝の庭に米を撒いてやつたのかな、それとも虫でも居るのかな。いずれにしても、季語の「処暑」の使い方に一工夫があり、微笑ましい句となって居ると関心致しました。(宮本和美)

★多摩丘陵とつぷり暮れて夜涼かな/飯島治朗
多摩、武蔵野に、育ちましたので、とっぷりに、共感いたします。丘陵が、シルエットになって、暮れていく景色が、目に浮かびます。(成川寿美代)

★子等帰り遊具しんとす虫の夜/小川和子
昼間の子どもたちの喧騒と打って変わった静かな公園。虫の音がその静けさを際正せて感じさせてくれました。(高橋秀之)

★踊り手の端縫い(はぬい)を照らすあかあかと/丸山美知子
端縫いを付けた手が光りに照らされ楽しく元気に踊っていらっしゃる方の動きが目に浮かんで参ります。(佃 康水)

★睦みあい秋空に舞う蝶は二羽/高橋秀之
秋になってふと見かける孤蝶の姿とは違い、爽やかに澄んだ秋空を喜ぶかのように舞う、二羽の蝶の明るく晴れやかな情景です。(藤田洋子)

★虫すだく畑の中で一休み/井上治代
畑仕事の合間に、ふと一息ついて聞く繁く鳴く虫の音。澄んだ虫の音に心身ともに安らぐひとときが、実感をもって伝わります。(藤田洋子)

★吾亦紅花売り娘のにこやかに/河野啓一
少し寂しげな吾亦紅も混じる秋の花々。それらを売っている娘のにこやかさに、爽やかな明るい秋の日差しがひろがってゆくようです。(柳原美知子)

★鳥威し光りバス道広がりぬ/小西 宏
日に日に稲田が黄熟し、その上に鳥威しがきらきらと光り、その先の田舎道にはのどかなバスが通っている。こんな日本の美しい田園風景がいつまでも続いてほしいですね。(柳原美知子)

★猪垣の囲いの中の芋を掘る/宮本和美
動物の害を防ぐために張り巡らした垣の中に入って芋を掘る。(本当はその目的通りの作業なのですけれど)なんだか主従が逆転したような趣があって滑稽味を覚えます。土臭い秋の風景に包まれ、のんびりとした俳諧味を感じさせてくれます。(小西 宏)


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●入賞発表/8月1日(土)~8月15日(土)

2009-08-16 10:15:59 | 入賞発表
■8月1日(土)~8月15日(土)
□高橋正子選

【最優秀/2句】
★川の灯や旅の終わりの鮎雑炊/柳原美知子
旅は、川の灯を見ながら、鮎雑炊で締めくくられた。鮎のいる川の流れる街への旅だったのだろう。しっとりとした抒情が味わい深い。(高橋正子)

★初採りの西瓜に確(しか)と響きあり/國武光雄
自分で育てたものの収穫はことに嬉しいが、西瓜となれば、楽しみもさらだ。中の熟れ具合を、指で弾いたり、手のひらで叩いて音を聞き分けて確かめる。「確かと響きあり」に確信あり。(高橋正子)

【特選/7句】
★石の橋木の橋いくつ花藻浮く/黒谷光子
かすかな音を立て、泡を立て、時には淀みつつ花藻を浮かせながら冷たい(恐らく)水が流れていく、そんな良い景が浮かびます。涼しさをも戴きました。(前川音次)

★新涼のはじめと思う風に会う/古田敬二
庭に出でみると蜻蛉が飛び、空は澄み、そよ風は秋を感じさせてくれる風になっていた驚きを素敵に詠っていると思います。(小口泰與)

★棕櫚の葉に風の軽やか今朝の秋/甲斐ひさこ
棕櫚の葉が風に吹かれて居る景色が見える様です。季語の今朝の秋を採る事に詠者の巧者振りが感じられます。共感大です。 (宮本和美)

★踊るだけ踊って島を離れけり/宮本和美
お里の島でしょうか。踊るだけ踊っては島を愛する気持ちの現われの様に思われ、郷愁を誘う御句と思います。(佃 康水)

★初秋の丘の田道や水の音/桑本栄太郎
暦の上では秋とはいえ、まだ残暑も厳しい今日この頃ですが、丘の上一面の田は青々として、水音もどこか朝晩は秋の気配が感じられるようになって来た。初秋の様子を的確にあらわしているとて思います。(小口泰與)

★空切って雀降りたつ稲の秋/小川和子
日本の昔からの見慣れた風景で、特に珍しいものではないが、「稲雀」は、いつ見ても飽きない。そこには、日本があって、子どもの頃の心に戻る。上五に置いた「空切って」が「稲雀」を的確に捉えた。収穫前の風景で、何か嬉しくなってくる。私の好きな句。(高橋信之)

★瑠璃色の夏の空あり塔の上/多田有花
「塔の上」というのがいい。塔の上に広がる夏空は、珠のような瑠璃色。(高橋正子)

【入選Ⅰ/12句】
★向日葵の火の見櫓の下に列/祝恵子
村の火の見る櫓の下に向日葵が列をなして、咲き誇って居る景を想像致しました。昔懐かしい村の田園に思わず嬉しく思いました。(宮本和美)

★風を得て一枝萩の咲き始む/佃 康水
いつの間にか咲いた一枝の萩、風に揺れる様子をさりげなく詠まれて好きな句です。(丸山美知子)

★とんぼうの急に増えけり今朝の風/小口泰與
とんぼうに会うとすっかり秋を感じさせてくれます。と同時に夏を惜しむ気にもさせ季節の移ろいを実感出来る好きな句です。(佃 康水)

★崖の百合こぼるるほどの白さ以て/川名ますみ
見上げる崖の白百合は少し傾ぎ、零れかかるように真っ白に輝いています。自然の中の白百合の存在がきらりと光ります。「こぼるるほどの白さ」の表現に惹かれました。 (甲斐ひさこ)

★みちのくや風鈴響く駅構内/飯島治朗
上五の「みちのく」がいい。南部鉄風鈴であろうか。旅情のある句。(高橋信之)

★鰍採る古里の河青き山/丸山美知子
秋の季語「鰍(かじか)」は、「川かじか」のことで、「古里」を思い起こす魚だ。愛媛南予地方の肱川流域も、「鰍」、そして「古里の河青き山」があって、そこで私は育った。土佐脱藩の龍馬は、この川を舟で下って瀬戸内海に出た。「鰍採る」漁師の姿を思えば、「古里の河青き山」がありありと眼に浮かぶ。「鰍」は、地方によっては全く違った魚で、「鰍」を語れば、それぞれが「古里」を語ることとなる。(高橋信之)

★潮風に揺れ定まらず月見草/篠木 睦
作者の視線が定まって季節を読み取った。潮風の「月見草」をしかと捉えたのだ。夏の盛りの「月見草」は、秋を予感させてくれる夕暮れの花だ。(高橋信之)

★花茗荷添えてありけり浦の膳/前川音次
「花茗荷」は、秋の季語「茗荷の花」のことであって、別種の「花みょうが」ではない。一般のみょうがの花は、淡い黄色の花で、食用とされるが、「花みょうが」の花は、白色の花である。「浦の膳」であれば、海あるいは湖の見える宴席であろうか。「浦」の「茗荷の花」に素朴な季節感があって、作者の眼はそこへ向いた。(高橋信之)

★苧殻焚く茜残りし山を背に/藤田洋子
亡き人を迎えるために門火を焚く。「茜残りし山を背に」した風景には、しみじみとした抒情があって、苧殻焚きいて亡き人との語らいがある。(高橋信之)

★雨後の稜線くっきり夕焼ける/井上治代
「雨後」を「あめあと」ではなく、「うご」と読めば、破調だが、その方がよい。いいリズムで一気に読めるので、一句が「くっきり」と、「すっきり」として、「夕焼ける」風景が鮮明だ。(高橋信之)
雨あとの澄んだ空気に稜線の鮮明さ、暑熱の一日を終えて、心洗われるような美しい夕焼けのひとときを感じます。(藤田洋子)

★ミントティー氷に注ぎ大暑かな/笠間淳子
「ミントティー氷に注ぎ」と詠んで、生活の言葉に詩があります。日常に詩があるのは、いい生活ですね。よく冷えていて、「ミントティー」が暑い盛りにさわやかです。(高橋信之)
氷に注ぐミントティー、色彩、香りともあふれる清涼感です。その爽やかな涼味が大暑の暑気をしずめてくれるようです。(藤田洋子)

★雨粒の芭蕉をすべる白さかな/下地鉄
雨粒の「白さ」が印象的だ。芭蕉の青々とした葉の上を「すべる」のがなお印象的だ。(高橋信之)
雨に濡れた芭蕉の広葉がみずみずしく、青々とした葉をすべる雨粒がことのほか際立つ白さです。清々しさのもたらす一抹の涼味を感じます。(藤田洋子)

【入選Ⅱ/12句】
★桃の実の並びて嬉し荷を解き/丸山美知子
中元の季節。荷を解き乍、嬉しいと思わず目を細めて居られる詠者を想像致しました。感動を素直に表現された佳句と存じます。 (宮本和美)

★綾取りの橋架けている夏休み/篠木 睦
夏休みをすごされている、お孫さんたちの遊びの景でしょうか。紐一本で遊べる懐かしい綾取りです。子らに注がれるまなざしが、あたたかく伝わります。 (小川和子)

★薄き殻残して蝉の世に出たる/河野啓一
土中に10年近くもいて、ようやくこの世に姿
を見せた蝉。これから長くて一週間の命だが、木や草には薄い抜け殻がしがみついたまま、風に揺れている。蝉の命の愛おしさが心に沁みます。 (柳原美知子)

★虫の声いつしか風の澄み渡る/藤田裕子
お盆も過ぎいつの間にか、夕方ともなると虫の声が遠く近く聞こえ、風も澄み渡って、夏の疲れを癒してくれるようです。日毎に季節が移り深まってゆきます。 (柳原美知子)

★南港の潮風もまた秋便り/高橋秀之
南港の潮風もまた秋便り/高橋秀之
南港の夏潮の濃い香を運んでいた風が、秋の香の潮風に変わり、いち早く秋の便りを運んできた。南港を朝に夕に見守る作者の新たな季節を迎える喜びが表れているようです。 (柳原美知子)

★水引の花の勢い空に向け/平田 弘
★捕虫網よぎり晴れ日の沢桔梗/小西 宏
★夕凪や海底トンネル開通す/高橋秀之
★山越えの古道に笹と夏薊/甲斐ひさこ
★海霧濃くて山つつまれし麓まで/成川寿美代
★鬼灯を挿せば水見ゆ花器の中/小川和子
★菩提寺の山門覆う百日紅/渋谷洋介

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●入賞発表/7月16日(木)~7月31日(金)

2009-07-30 18:55:00 | 入賞発表
■7月16日(木)~7月31日(金)
□高橋正子選

【最優秀/2句】
★朝採りの茄子軋みあう籠の中/宮本和美
「軋みあう」が的確でよい。「朝採り」「籠」によって涼しさが加わり、もぎ取ったばかりの茄子が生きいきと詠み描かれた。(高橋正子)

★中天にたった一つの星涼し/井上治代
たった一つの輝く星の美しさ。その星の涼しさ。それも中天にあることで広い空が詠まれた。単純化された句のよさがある。(高橋正子)

【特選/6句】
★沖走る白きヨットは風のもの/成川寿美代
沖を滑るように走る白いヨットは、「風のもの」。「風のもの」で詩になった。風は読み手と一体となった風。(高橋正子)

★青葡萄白磁の皿の静かさに/河野啓一
静物画のような静謐な雰囲気がある。マスカットのような青い葡萄と白い皿を思う。(高橋正子)

★遠い夜蚊帳の匂いの中に寝た/多田有花
遠い夏の夜のことを思い返すと、蚊帳の匂いの中に寝たこと。蚊帳の匂いが涼しい。「寝た」は、ぶっきらぼうのようだが、句意を明白にしている。(高橋正子)

★初蝉を遠く静かに朝の風/小西 宏
朝の静かな風のなかから聞こえる初蝉の声。さわやかな夏の朝が心静かに詠まれて、読後感のよい句。(高橋正子)

★向日葵の高きは高きで吹かれおり/甲斐ひさこ
向日葵にも高低があって、背の高いものは高いところで吹かれている。一様でない吹かれさまが面白く絵画的である。(高橋正子)

★パリ祭の真夏の月の青さかな/丸山美知子
パリ祭は7月14日で、これは季語となっている。そこに「真夏」を敢えてもってきたが、日本人にとっては、「真夏」だからこそ月の青さが強く印象に残ると判断すべきだろう。「月の青さ」に異国情緒があり、日本人の受け止めるパリ祭である。(高橋正子)

【入選Ⅰ/10句】
★梅雨明けて子ら海原へまっしぐら/國武光雄
梅雨も明け、明るい夏の光の中、海水浴の子どもたちが波に向かって砂浜をかける姿が目に見えるようです。句全体が、明るい夏の景色です。(小西 宏)

★草刈られ四方の畔のさっぱりと/飯島治朗
朝早く草刈の終わった畝は、見た目にも爽やかである。丁度,吾々が散髪をしたようだ。共感の一句です。(宮本和美)

★浜木綿の匂える風と潮騒と/篠木 睦
{匂える風と」と「潮騒と」を畳み揚げることにより、夏七月の海浜の景を上手に引き出して居ると思いました。(宮本和美)

★葉の筋の白き清冽青芒/桑本栄太郎
青芒の裏をよく観察されていると思います。同時に「白き清冽」と見立てられた事に感心致します。あまり類を見ない綺麗な見立てに拍手です。(前川音次)

★夜店には笑顔ばかりの列がある/高橋秀之
夜店で見た風景をそのまま気取らずに読んだところが良い。にぎやかさが伝わってきます。(古田敬二)

★月の色そのまま昼の月見草/黒谷光子
月の色と月見草の見立てが面白い。中七の「そのまま昼の」の措辞がよく効いた素敵な作品と存じます。 (宮本和美)

★山深し谿の青田のきらきらと/川名ますみ
鬱陶しい梅雨も明け、空は青々として、山深き里の田も夏の太陽をいっぱいに受け、稲の成長も良く輝いている。里山の素敵な光景ですね。(小口泰與)

★ハンガリへひまわり畑の地平線/古田敬二
なかなか地平線というものを見ることのできない私たちにとって、旅に見る畑の遠さは感動的です。とりわけ、それが向日葵の色の連なりであれば、その大らかさに圧倒されます。「ハンガリへ」の響きが印象的です。 (小西 宏)

★浜の娘の裸の今をほしいまま/下地鉄
沖縄のビーチでは、カラフルな水着に身を包んだ女性たちが思い思いの夏休みを満喫しているのでしょうね。「ほしいまま」からその奔放な雰囲気が伝わってきます。(多田有花)

★禅僧の緑陰貫ぬき通りすぐ/小川和子
「緑陰貫ぬき」に、この世の暑さを忘れているかのように、涼やかに僧衣を翻して通り過ぎてゆく禅僧の姿が浮ぶ。(高橋正子)

【入選Ⅱ/11句】
★朝市やはじけるような茄子の紺/宮本和美
今、畑から採って来たばっかりの新鮮な茄子が朝市に山と並び、その紺色美しさ、「はじけるような」が素敵な表現ですね。(小口泰與)

★青々と雲なき空よ蝉時雨/小西 宏
雲ひとつない真っ青な空に響く蝉時雨は、夏の朝の光景としてとても一日を元気に過ごさせてくれそうです。(高橋秀之)

★夕涼や厨四角く酢の香り/藤田裕子
暑い日は酢の物が一番ですね。夕餉の一品に加える酢の物に家族を思う優しさを感じます。(甲斐ひさこ)

★山百合の大きく揺れる高速路/小口泰與(正子添削)
折からの風に山百合の揺れ動く景気が見える様です。「揺れる」に添削した事により、動的な詩情豊かな句となって居ると存じます。言葉使いの大切さを改めて痛感致しました。 (宮本和美)

★樽に立ち青葡萄一房を手に/川名ますみ
樽を踏み台にして、触れてみたい想いが叶いましたね。ぶどう棚から垂れているあの青葡萄の優しい色が美しく見える一景です。 (甲斐ひさこ)

★ノルマンディ向日葵畑の続く路/丸山美知子
ノルマンディの向日葵畑はどんなでしょう。行ったことはなくても、御句から、はるかに広がる明るい向日葵畑が伝わってくるようです。俳句の力ですね。詩心と旅心がわいてくる好きな句です。 (小川和子)

★青田道選びお供え買いに出る/祝恵子
お供物を買うため街に出た。ただそれだけであるが、「青田道選び」に詠者k感情の起伏が見られ,佳き句と思いました。(宮本和美)

★一村のいずこも水音涼しかり/黒谷光子
子どもの頃すごした景を思い出しました。夏は特に小さな川や、せせらぎの音が涼をよびますね。懐かしさを感じる好きな句です。 (小川和子)

★大阪港満ち潮なりし蜻蛉飛ぶ/高橋秀之
海岸にも蜻蛉が居ることを再認識しました。風に乗って軽やかに飛ぶ蜻蛉の姿が目に浮びます。 (河野啓一)

★どの花も雨粒つけて蓮咲けり/祝恵子
雨がちのこの時期に咲く蓮の様子を見事に詠まれています。(多田有花)

★夏霧の晴れゆく土手を一両列車/柳原美知子
刻々と夏霧の晴れてゆく中、土手を行く一両列車が鮮明に見えてきます。夏霧の現象を捉えて、心晴ればれと爽快で明るい情景です。(藤田洋子)

★白きもの白く乾きて夏の空/藤田洋子
夏の洗濯ものといえば、やはり、白がパリッとして、清潔感があってよい。夏空のもとに、白いものが白く乾く気持ちのよさ。(高橋正子)

★丹沢に夏雲かかる手術の日/渋谷洋介
丹沢山地にかかる夏雲の逞しく広やかな風景。その雄々しい遠景に、「手術の日」という特別な日に心励まされ勇気付けられるようです。一日も早いご快癒をお祈りします。(藤田洋子)

★鉾町と離れ住みけり水を打つ/前川音次
今も残る京の町屋の美しい景観の鉾町です。離れ住むものの、京都の炎暑を鎮める打ち水がことさら涼やかに情緒豊かに感じます。(藤田洋子)

★青田いましっかり根を張り早良野に/松尾節子
苗の丈が伸びしっかりと根付き、力強い生長を見せる青田です。見守る苗の生長の嬉しさに、お暮らしの地への思い、「早良野」への愛着を感じます。(藤田洋子)

●入賞発表/7月1日(水)~7月15日(水)

2009-07-13 13:13:53 | 入賞発表
■7月1日(水)~7月15日(水)
□高橋正子選

【最優秀】
★青芒ひかり合いつつ野を充たす/小川和子
野一面の青芒を「ひかり合いつつ」「野を充たす」と、動きをもって、いきいきと詠んだ。積極的な視線がいい。(高橋正子)

★山迫り風鈴列車の大き揺れ/丸山美知子
風鈴が吊るされた風流な列車。山が迫り、急なカーブになっているのか、大きく揺れて風鈴が一斉に鳴る。そのままだが、涼味ある句。(高橋正子)

【特選/7句】
★朝顔の強く巻きつく麻の縄/上島祥子
朝顔の蔓が伸びて張られた麻の縄に巻きつくようになった。麻縄なので蔓も揺ぎ無く、強く巻きついた。朝顔をしっかりと咲かせてくれることであろう。(高橋正子)

★初蝉や生駒の稜線くっきりと/高橋秀之
目に遠く生駒の稜線が涼しげに横たわり、初蝉を聞く。いよいよ本番の夏へ心開かれる。(高橋正子)

★初蝉に空水色の朝が来る/藤田洋子
初蝉の声を聞く。朝の空は水色に広がる。のびやかで、清々しい夏の朝である。(高橋正子)

★きっぱりと青き空あり夏祭/篠木 睦
夏祭の今日は、きっぱりと晴れあがり青空となった。青空のもとに繰り広げられる祭りも威勢が上がる。(高橋正子)

★水替えて金魚のひれの軽ろやかに/宮本和美
金魚に水を替えると、金魚はひれをかろやかに動かして泳ぐ。きれいな水の中にひらひらと泳ぐ金魚が涼しそうだ。(高橋正子)

★大阪は水の都よ橋西日/桑本栄太郎
大阪の八百八橋は言い慣らされて、多く橋がある。実際は200ほどらしい。西日の差す橋を渡りながら川面を眺めると、水の都を実感する。「西日」が効いている。(高橋正子)

★七夕のみどり走れる列車の窓/柳原美知子
列車の小さな旅であろう。車窓につぎつぎ過ぎてゆくみどり。七夕笹のイメージと重なり、あかるい抒情の七夕の句となった。(高橋正子)

【入選Ⅰ/10句】
★粒ごとに日をかえしけり青葡萄/前川音次
一粒一粒日に煌めいている青葡萄から若さをもらう心地がします。「粒ごとに」の表現が素晴らしいと思いました。(河野啓一)

★夏薊咲けば其処だけ雲切れる/川名ますみ
折から梅雨曇が切れ、青空が見えて来たその中に、夏薊の赤紫の花が重なりました。晴れやかな作者の心情が色の対比の中に垣間見え、素敵です。(桑本栄太郎)

★風まかせ雨にまかせて合歓咲きぬ/井上治代
雨風のままに多くの花をつける丈夫な合歓の木。いとおしむような作者の気持が伝わってくるように思います。(河野啓一)

★紙細工吊るし七夕竹飾り/河野啓一
七夕の竹飾りは、賑やかさや楽しさが引き立つためには、こどもたちの願いごとを記した短冊だけでなく、たくさんの紙細工あってこそという様子がうれしく感じます。 (高橋秀之)

★淩霄の朱を奔放に日に捧げ/渋谷洋介
凌閏の咲く景を直裁に表現されて居り、好きな句です。中七の「朱を奔放に」の措辞と下五の「日に捧げ」で、ヒシヤット決まりつて居ると存じます。(宮本和美)

★驟雨さり尾根越す雲の白さかな/成川寿美代
ようやく驟雨が過ぎたあとの際立つ雲の白さです。驟雨とともに遠嶺の風景の清々しさが涼を呼び、いかにも急に降る驟雨の実景です。(藤田洋子)

★夏木立向こうに青き湖穏し/黒谷光子
葉が生い茂ってきた夏木立は、夏の青い湖ですら覆い隠してしまったのでしょう。夏の木々の勢いを感じさせてくれます。(高橋秀之)

★波音の遠くにありて蝉の声/下地鉄
遠くより聞こえる波音の静けさに、海辺に近い蝉声がとても涼やかに、しみじみと心染み入るように感じます。(藤田洋子)

★子の残す笹の飾りの輪と願い/祝恵子
子供たちが作ったとりどりの輪飾りや短冊に書かれた思い思いの願い事を見ながら、笹を飾る楽しいひととき。子供たちを温かく見守る作者の優しい眼差しと笹飾りを作る子供たちの笑顔が眼に浮かぶようです。(柳原美知子)

★短夜の水平線に日が昇る/多田有花
旅先での光景でしょうか。一晩を海の前で過ごし、明易の夜を惜しみながらも「水平線に」昇る太陽から、新たな希望を得る。夏ならではの静かな力を感じます。(川名ますみ)

【入選Ⅱ/10句】
★山よりの恵みの水や時鳥/小口泰與
時鳥の鳴く声に散策の愛足を止め、耳を傾けて居られる景が見える様です。また、恵みの水で口を漱いで居られる詠者の姿を想像致しました。(宮本和美)

★芋の葉の滴ころころ梅雨晴間/國武光雄
早朝、芋の葉に露が光って居る景が見える様です。中七の「滴ころころ」の措辞が素敵て、共感を覚えました。(宮本和美)

★青田風頬にほどよき車椅子/堀佐夜子
しっかり株が大きくなった青田を心地良い風がそよぎ、みどりに染まったその風が頬を撫でていけば、夏の暑い時季の至福の一時です。ハンディとも思える車椅子の高さを、明るく爽やかに詠われていて素敵です。 (桑本栄太郎)

★網戸経て入り来る風と月光と/小川和子
季語の「網戸」に風のみでなく、「月光と」を取り合わすことにより、情景を素敵に表現されて居ると存じます。すきな景の句です。(宮本和美)

★漬けられてゆらゆらラッキョに唐辛子/松尾節子
ラッキョと唐辛子の取り合わせがいいです。ゆらゆらしているラッキョの中に唐辛子が絡んで、なかなか楽しい情景だと感じます。(高橋秀之)

★子らがいて玉蜀黍の花の空/小西 宏
今の季節、畑には玉蜀黍が背も高く、のびのびと育って収穫の時を待っているようです。上五の「子らがいて」により、どこか懐かしさと、伸びゆく子どもたちのすこやかさが伝わり、元気づけられる思いがします。(小川和子)

★さくらんぼ種を飛ばして子らの空/志賀泰次
さくらんぼの小さな種を空へ向けてプッと飛ばしている子供たちの気取らない動きを良く表現されていて楽しい句となりました。(甲斐ひさこ)

★夜市告げ花火一瞬天を突く/藤田裕子
空高く打ち上げられた花火の、一瞬にして夜空に開く鮮明さが音と一緒に伝わります。夜市の始まりとともに、夏の風物詩としての趣きあふれる花火の美しさです。(藤田洋子)

★青田風吹いてきており通学路/甲斐ひさこ
植田の苗が育って、青々とした一面の田に吹き渡る風が清々しいかぎりです。青田風の吹く通学路を行き交う子どもたちの、健やかな成長を見守る眼差しも感じます。(藤田洋子)

★孫たちのピアノの連弾さくらんぼ/飯島治朗
ピアノを仲立ちとしてお孫さんたち二人が並ぶ連弾の姿に、さくらんぼを思い起こされたのでしょうね。一所懸命にピアノを弾く、とてもかわいらしい姿が目に浮かびます。(小西 宏)

●入賞発表/6月16日(火)~6月30日(火)

2009-06-29 08:40:27 | 入賞発表
■6月16日(火)~6月30日(火)
□高橋正子選

【最優秀】
★空梅雨の夕焼け長く空にあり/多田有花
空梅雨のせいで、夕焼けがいつまでも空にあって、透明感のある美しさを見せている。空梅雨にふと淋しさも。「長く」に心情が出ている。(高橋正子)

【特選/7句】
★夏潮の香の濃き港へ船帰る/柳原美知子
夏潮の満ちる港は、帰り来た船に波立って、潮が濃く匂う。夏の港らしい景色に懐かしさも湧く。(高橋正子)

★抜きんでて空わがものに今年竹/黒谷光子
竹の生長は驚くほど。一夜にして空に抜きん出て、若緑の葉を空にそよがす。空をわがもとして。(高橋正子)

★青梅雨や雨音軽く夜に入る/藤田裕子
青梅雨という言葉が美しい。それと微妙にずれた軽い雨音がして夜に入る。心に浸透するような詩情がある。(高橋正子)

★水張って植田に風の立ちやすき/藤田洋子
「水張って」は、植田が水を張られた状態を示す。水が広く張られると、そこから涼しい風がよく吹く。目に映る植田の印象に加え、風の立ちやすい心地よさがよく詠まれている。(高橋正子)

★梅雨寒と言うべきか炉火いれる/志賀泰次
作者の住む北海道に梅雨はないと言われるが、それでも今年は梅雨ような日が続き、炉火を入れる。炉火にぬくもりは勿論、なにか気持ちも癒される。(高橋正子)

★驟雨去りたちまち水の匂い来る/桑本栄太郎
激しく降った雨が逃げ去ると、たちまち、辺りから水の匂いが立ち上る。「水の匂い」が臨場感のある句にした。(高橋正子)

★色も香も空も青くて梅漬ける/佃 康水
梅を漬けるのは、梅雨に入ってからであるが、この日は、よく晴れて空も青く、梅の実も青々と、香りまでも青い。さまざまな青の色の中にいる、すっきりと爽やかな気持ちが迷いなく詠まれた。(高橋正子)

【入選Ⅰ/10句】
★植終えて田隅に戦ぐ残り苗/甲斐ひさこ
やわらかにそよぐ残り苗。田植えを終えての安らぎの風景が感じられます。それは緑の列と風と、心地よい達成感であったことでしょう。(小西 宏)

★短夜や一湾の灯のゆらぎおり/篠木 睦
この時期早朝4時すぎにはにはもう明るくなり始めます。早い夜明けの中に揺れる灯をご覧になっての感慨がわかります。(多田有花)

★昼顔の満つる野の先日本海/川名ますみ
当地でも海岸沿いに昼顔が咲いております。炎天下で咲く可憐な色がかわいいですね。日本海の波とよく似合っている好きな句です。 (丸山美知子)

★灯を消して山気呼び込む網戸かな/宮本和美
真っ暗な山の夜、網戸を抜けてくる夜の風。平穏な一日の終わりの平和な風景。(古田敬二)

★電車行き交い凌霄の揺れ止まず/桑本栄太郎
凌霄が咲きはじめました。すぐ近くを電車がスピ-ドをあげて通りすぎます。そのたびに震動に揺れる蔓状の凌霄のふんわりとした花が目に見えるようです。 (小川和子)

★野薔薇咲く遙かな空はみずいろに/丸山美知子
野薔薇がそっと咲きはじめています。遥かに広がるみずいろの空と、無心に咲く野薔薇を眺めていると、思いも又清められ、はるかなるものへの憧憬にも似た想いに充たされるようです。(小川和子)

★夏蓬摘み摘み歌を口ずさむ/井上治代
夏雲立ちのぼる空の下、よく茂った蓬の青い香りの中での蓬摘み。歌が自然と口に出てくる解放感に溢れた楽しいひとときです。童謡のような味わいの句ですね。(柳原美知子)

★田より見れば家並みの窓にある簾/祝恵子
青田から家並みを見ると窓には簾がかけられ、すっかり夏景色となっている。青田を吹く風が簾を揺らす涼しげで美しい日本の風景です。(柳原美知子)

★梅漬ける真青なる実へ塩の白/古田敬二
芳香を放つ真青な梅に男手が振りかけるたくさんの塩の白さ。豪快さと生き生きとした梅漬けの様子が伝わってきて、心温まります。梅干しの仕上がりが楽しみです。(柳原美知子)

★夏ひばり今朝の赤城は風を生み/小口泰與
雲雀は留鳥であるから、夏にも見られる。「赤城は風を生み」に夏らしい大きな風が読み取れて、生き生きとしたひばりの姿が見える。(高橋正子)

【入選Ⅱ/18句】
★屈む背に帯高き子の金魚つり/小西 宏
お祭りか縁日のお店で幼稚園児か小学校低学年の可愛らしい子供が真剣に金魚つりをしている光景が微笑ましいですね。(小口泰與)

★炎天にうどん冷たき昼餉かな/成川寿美代
じりじり照りつける昼餉に冷たい饂飩を食す、これ至福。季語の「炎天」の選び、中七の「うどん冷たき」の措辞抜群で大いに食欲をそそられます。大いに共感を覚えました。(宮本和美)

★刈り込みて風の新たな初夏の庭/國武光雄
中七の「風新たなる」と詠まりれた詠者の感受性の鋭さに敬意を評します。 (宮本和美)

★ひとつ消えふたつ灯して蛍の火/渋谷洋介
真っ暗な闇の中に蛍の火が消えたと思ったら、次には二つの蛍の火が見え、蛍の恋の成就が思われました。幻想的な暗闇の中での儚い蛍の火明かりが、ひらがな使いの「ひとつ~、ふたつ~」の語句によって詩情豊かに詠われました。 (桑本栄太郎)

★夏帯のわが娘と連れの月の浜/下地鉄
夏帯を締めた娘さんとの月の浜辺の散策。婚期前の娘さんなら殊更、微笑ましい景と存じます。情景設定が素晴しい。大いに共感を感じます。(宮本和美)

★慰霊の日摩文仁が丘に夕日かな/下地鉄
沖縄の方が慰霊の日に寄せられる思いは、深いものがあるでしょうね。戦争を体験された世代ならばさらに。摩文仁が丘から見える夕日にそれが象徴されているように思います。(多田有花)

★夜の涼し星がほつほつ光り出づ/藤田裕子
上五の「夜涼し」の季語の選びとと中七の「星がほつほつ」により詩情豊かな夜の景が見えて来ます。好きな夜景の句です。(宮本和美)

★少女らに円く影置く合歓の花/甲斐ひさこ
やわらかな色合いの合歓の花と少女らの優しさが「円く影置く」と詠まれていて好きな句です。(丸山美知子)

★初とんぼ水の匂いを引いており/黒谷光子
ヤゴから羽化したばかりでしょうか?初々しい、今年初めて見かけたとんぼの透けて煌く翅が思われます。その様子は全く御句にあるように水の匂いがしそうです。共感の一句です。(桑本栄太郎)

★母訪えば待ちおり沙羅の花白き/小川和子
久しぶりにお母上を訪ねて、白い夏椿に迎えられた作者。お母様が待ち兼ねておられたことでしょう。おだやかな抒情を感じます。(河野啓一)

★いちじくの硬き匂いの青野かな/桑本栄太郎
「硬き匂いの」が秀逸かと思います。田舎の無花果畑のことをふと連想しました。(河野啓一)

★紫陽花や朝日を浴びて艶やかに/高橋秀之
朝日の中の紫陽花がとても鮮やかにみずみずしく感じます。生き生きと咲く紫陽花の明るさに元気を貰える朝です。(藤田洋子)

★星凉し夜空にかかる北斗星/河野啓一
梅雨の最中、晴れた夜空にまたたく星々はことに鮮やかで涼し気です。涼気とともに、北斗星が際立って明るく美しい輝きを放っているようです。(藤田洋子)

★雨しずく宿す茅の輪を潜りけり/宮本和美
六月晦日に行われる夏越の祓の、季節感あふれる雨のしずくです。清らな雨滴に、身を祓い清める茅の輪への敬虔な思いが伝わってくるようです。(藤田洋子)

★医者終えて薬舗へ曲がる径涼し/前川音次
今日の診たての結果がよかったのでしょう.その気持ちが下五の「径涼し」に直裁に表れて居ると存じます。共感の一句です。(宮本和美)

★合歓の花彼方に伊勢の海光る/篠木 睦
絵に描きたいような風景です。合歓の花のやさしさと力強い伊勢の海の取り合わせが魅力的です。(河野啓一)

★雷に犬の声だけよく響き/上島祥子
遠雷でしょうか。雷の音におどろき、犬であっても何か穏やかならぬものを感じとるのでしょうね。私も遠い記憶にこのような景が残っています。(小川和子)

★浅沓の並びし下宮夏木立/飯島治朗
神官の黒い浅沓が脱ぎ並べられている。下宮を取り囲む夏木立。清浄な神域が涼しそうである。(高橋正子)

●入賞発表/6月1日(月)~6月15日(月)

2009-06-15 11:18:00 | 入賞発表
■6月1日(月)~6月15日(月)
□高橋正子選

【最優秀/2句】
★田植時野を貫ける水の音/柳原美知子
田植時は、野が水浸しになるほど、田に水が張られる。田へ急ぐ水は、「野を貫く」勢いをもって音を立てる。日本のよい風景である。(高橋正子)

★沢音の高まり青葉に分け入りぬ/小川和子
沢の音が高まって、その先の沢の流れは、青葉の下を潜ることになる。青葉の中へと分けて入る。茂る青葉と豊かな水が、日本の季節をよく知らせている。(高橋正子)

【特選/6句】
★海風をはらみて軽し夏帽子/宮本和美
海の風が吹きぬけるところへ来た。夏帽子が風をはらんで、重さを感じさせないほどの心地よい気分なのだ。「軽し」に実感がある。(高橋正子)

★ふるさとは今母もいず麦の秋/松尾節子
ふるさとの麦の秋への哀愁が、「今母もいず」でさらに深められた。(高橋正子)

★海底は海女のふるさと海酸漿/篠木 睦
海女のふるさとは海底であるという事実の発見。海女のふるさとを象徴するものとして海酸漿。透明感のある抒情豊かな句となった。(高橋正子)

★蛍飛ぶ後ろ大きな山の闇/藤田洋子
大きな山を後ろに闇を乱舞する蛍の火。山間の清流を舞う蛍火の見事さを「山の闇」で的確に表現した。(高橋正子)

★夏来たる句帖に広き余白かな/古田敬二
「夏来る」の感動が大。句帳には、まだいくらでも句を書き込める広い余白がある。草田男の「毒消し飲むやわが詩多産の夏来る」に通じるものを感じた。(高橋正子)

★門内へ風の道あり立葵/甲斐ひさこ
立葵の咲く今日この頃、今年も又厚いですね。気持ちの良い風に思わず、ここは風の通り道であったかと目を細めて居られる姿を想像致しました。時期にマツチした季語のの選びに、思わす、共感を覚えました。(宮本和美)

【入選Ⅰ/10句】
★整然として曲がりたる植田かな/前川音次
田圃の形はきちんとした矩形もあれば、ゆがんだ形もある。田植機でも、手植えでも、同等間隔に苗は整然と植えられるが、曲がった田は、田の曲がりにそって植えられるので、整然としつつも曲がっている。それが、労を惜しまず、米を作ってきた日本らしい風景である。(高橋正子)

★おちこちの湧水ふふみ旅涼し/黒谷光子
旅に出て、あちこちの湧水を口にできるのは、嬉しいものだ。湧水の名所と言われるところも、そうでないところのでも、含めば、ひんやりと体にゆき渡るようだ。旅も心も涼しいのだ。(高橋正子)

★雲白し代田に落ちる水の音/小西 宏
水彩画で描きたいような情景です。さらに水音も加わって、すっきりと美しい句。(多田有花)

★乳飲み子の日毎豊かに柿若葉/國武光雄
柿若葉の透明な明るさと成長の速さが、赤ちゃんの「日毎豊かに」を受けて申し分なく、まことに瑞々しい句と思いました。(河野啓一)

★夏服にナースの紅の新しき/川名ますみ
口紅の新色のでるのも今頃の季節のようですね。お顔も紅の色で明るく見えたり、きりりと見えたり、表情に微妙な変化を感じとられたのでしょう。夏をさらりと詠まれていて好きな句です。(甲斐ひさこ)

★満月の青葉透かして昇りくる/多田有花
満月に照らされる青葉も、青葉を洩る月光も、満月と青葉、ともに色彩豊かに美しく呼応して、みずみずしい夜の輝きをより感じさせてくれます。(藤田洋子)

★さくさくと刻む胡瓜の水色に/下地鉄
青々と鮮やかな胡瓜。その濃い青を刻む内、澄んだ水色を見る。暮らしの中の細やかな発見が、大きな季節に通じます。読み返す度、五感が豊かに満たされる、好きな句です。(川名ますみ)

★惜しげなく切って持たさる花菖蒲/祝恵子
鮮やかに咲き開いた花菖蒲を切ってくださる方の心遣いも嬉しく、あたたかな心の交流に花の美しさをいっそう感じます。(藤田洋子)

★新緑や快速列車の通り過ぐ/上島祥子
新緑の中を音もなく通り過ぎてゆく快速列車。見ているだけで自分自身が走り抜けてゆくような爽快感を覚えますね。 (河野啓一)

★しゃぼん玉路地を吹かれて海のいろ/志賀泰次
海沿いの集落の路地なのでしょう。潮騒が聞こえ、潮の香りもする、その中をふんわり漂うシャボン玉。子どものうれしそうな顔も見えるようです。(多田有花)

【入選Ⅱ/13句】
★すっきりと三日月に咲く鉄線花/丸山美知子
咲き上った鉄線花の先は三日月が上り、恰も三日月に捧げているような美しい光景が浮かびます。(黒谷光子)

★山間の坂道上り青葉冷/飯島治朗
「山間の」という詠みだしから、景がよく見え、青葉に包まれた坂道をゆく、作者の晴れやかな思いが伝わってきます。山間であれば、ひんやりとした心地よさも感じられることと思います。 (小川和子)

★風薫る一年生のかけっくら/渋谷洋介
青葉若葉の美しい風が渡るもとでの、初々しい新入生の駆け競べ、季節の爽やかさが生き生きと伝わります。「かけっくら」の約音の響きがより効果的に、初夏のからっとした明るさを感じさせてくれます。(藤田洋子)

★緑深み青き空気を今朝の山/藤田裕子
万緑に抱かれた山々を中七の「青き空気を」により見事に表現した作。思わず、山に向かって深呼吸したくなりました。 (宮本和美)

★水を待つ讃岐の田植え始まりぬ/成川寿美代
雨の少ない讃岐の里です。田植も池の水を引いて水手配が済んでようやく、というような事情を巧みに詠まれたと思います。 (河野啓一)

★高きより低きへ水音代田満つ/柳原美知子
今しがた植えられたばかりの田んぼへ満々と水が張られ、溢れ落ちています。代田に苗が満ちて、水が一杯に溢れている光景は豊かな稔りを約束しているようで、気持ちが和みます。(桑本栄太郎)

★自家製の新茶の香りほのぼのと/井上治代
自家栽培の茶を摘み、自分で揉んで、汲むとは、最高の至福と存じます。季語の「新茶」と下五の「ほのぼのと」が相まって、仄々とした作品になって居り、好みの景の句です。(宮本和美)

★足もとの植えしばかりの田の匂う/藤田洋子
植えたばかりの苗のみどりを吹く風を感じ、水の匂いと土の匂いが足もとから立ち昇ってくるのが感じられます。美しく心地よい水田の広がりが生き生きと詠まれています。(柳原美知子)

★故里のほうたる強くつよく飛ぶ/前川音次
作者のふるさとへの深くつよい想いが感じられます。(松尾節子)

★六月に入りて新たな仕事あり/高橋秀之
緑濃く、気候も風物も夏らしい輝きを放ちはじめる六月です。「新たな仕事」に、気持ちもおのずとあらたまり、生き生きとした季節の爽やかさを感じさせてくれます。(藤田洋子)

★走り梅雨青き水音を砕く岩/河野啓一
走り梅雨でかなりの雨が降ったのでしょう。「青き水音」「砕く岩」の重ねた表現が雨の強さを感じさせてくれます。(高橋秀之)

★余り苗の固め植えられ代田満つ/桑本栄太郎
田圃には余った苗を隅っこに固めて植えている箇所があったりします。その様子が田圃に苗が満ちている様子を物語っていますが、全体ではなく余り苗を表現したところに、作者の物の見方を感じます。(高橋秀之)

★静けさやルーヴル展に風薫る/小口泰與
ルーブル展というからどこかの美術館なのでしょう。当然、静かな場所なのですが、その静けさが薫る風をより感じさせてくれたのでしょう。(高橋秀之)

●入賞発表/5月24日(日)~5月31日(日)

2009-05-30 14:32:28 | 入賞発表
■入賞発表/5月24日(日)~5月31日(日)
□高橋正子選

【最優秀】
★青蔦の登りきったる杉高し/黒谷光子
青蔦が杉の木に絡まって、非常に高くまで登っている。見上げれば、「登りきったる」と断定できる。把握がすっきりとしている。(高橋正子)

【特選/5句】
★ランドセルの子の声高らか麦の秋/國武光雄
下校中の子であろう。からりとした空気、明るい光に満ちた麦の秋に、子の声が元気よく高らかに響いて、気持ちのよい句である。(高橋正子)

★風向きのままに早苗田吹かれけり/小川和子
吹く風の向きが変われば、変わるままに吹かれている早苗。さみどりの苗のしなやかさだけでなく、根元の強さがふっと見える。(高橋正子)

★花いばら遠き潮止めひらきけり/宮本和美
潮止めは、海の水が入らないようにする堰門だが、花いばらが咲くとき、海との境の潮止めが開かれて、潮水が遡ってくる。風景の印象がきよらかで、明るい。(高橋正子)

★北摂の山を遠くに夏野行く/河野啓一
北摂の青い山々を遠く眺めながら、夏の野を行く。広やかに、すずしい心を共に感じる。(高橋正子)

★岩手山豊かに見せて桐の花/丸山美知子
岩手山を望んで、桐の花が咲いている。桐の花が咲くことで、岩手山は、どっしりと、緑が濃くなる。山があるから桐の花がよく、桐の花があるから、山がよい。(高橋正子)

【入選Ⅰ/10句】
★夕焼けの明るきうちに入浴す/桑本栄太郎
本当に日が永くなってきました。明るいうちに入浴するのはとても気持ちのよいものです。とりわけ、夕焼けの美しい中でのそれは、まさに極楽といったところでしょう。(小西 宏)

★新緑の迫る窓辺に風の音/上島祥子
裸木の頃には、離れて見えた木も、新緑の萌え立つ今は、その耀きが迫り来るほど。窓外の若葉に、風音を近く聞く。常に新鮮でいらっしゃる作者の心境が、美しく感じられます。(川名ますみ)

★ほとばしる堰の高鳴り青嵐/篠木 睦
青葉の生い茂った今日この頃、清爽なやや強い風が吹いている、田園地帯に、田植のための小川を堰きとめた水が勢いよく流れている様子がとても風情がありますね。 (小口泰與)

★牛乳で子ら温まるリラの旅/志賀泰次
北海道はまだ寒く、リラ冷え頃かと存じます。暖かい牛乳で、喉を潤して居る子らに目を細め乍、共に喉を潤して居られる詠者の姿を想像致しました。微笑ましい景で、好きな景の句です。(宮本和美)

★透きとおる器を卓に緑さす/藤田洋子
卓上に透きとおった花器に緑の葉物を活け、目を細めて居られる詠者の姿を想像致しました。初夏の季節感溢れる句に共感を覚えます。(宮本和美)

★葉桜に風音があり今日があり/矢野文彦
葉桜の樹の間を、心地よく五月の風がゆく。その静かに風音を聴きながら今日一日の出来事を噛みしめている。作者の悠々自適の心境が汲取れて共感を呼ぶ好きな句です。(志賀泰次)

★午後の陽は谷の若葉に残りけり/多田有花
午後の陽というのがいいですね。朝の軟らかい陽差しと違い、若葉に残る陽差しに太陽の勢いが感じられます。(高橋秀之)

★白き日に茅花飛びくる造成地/小西 宏
造成地はこれから開発がされていく広い土地なのでしょう。そこに飛んでくる芽花も広く映し出されて、きれいだったと思われます。(高橋秀之)

★青天へ若葉の風の膨らみぬ/藤田裕子
若葉の森や林に風がそよぎ、青空に揺れて大きく膨らんだ光景がよく見えます。若葉時らしい一句に共感しました。空の青と樹々の緑が広がる色合いも素敵です。(飯島治朗)

★水音を帯びて膨らむ蛍の火/柳原美知子
「膨らむ」がいいです。水辺を飛び交う蛍の幻想的な光の様子が目に浮かんできます。(多田有花)

【入選Ⅱ/14句】
★反り橋に立てば風あり花菖蒲/宮本和美
絵に描きたくなるような光景が見えます。微風のなか反り橋に立ち、花菖蒲をたのしまれている様子が伝わってきます。(飯島治朗)

★花ざくろ二輪に夕日集まれり/黒谷光子
ざくろの朱い花が咲きはじめました。夕日を集めて、いっそう鮮やかです。一輪、二輪と咲きはじめた花ざくろに命のみなぎりを感じます。(小川和子)

★病癒ゆくらし気負わず花葵/前川音次
病の癒えた眼に、素朴だが、日々少しずつ空に
向かって咲き上っていく花葵の姿が美しく心癒されます。気負わず日々できることを少しずつ楽しむくらしを念じ、肩の力が抜けたようです。(柳原美知子)

★行く船も志摩半島も虹の上/篠木 睦
虹の下ではなく「虹の上」なのですね。なんだか幻想的な天上世界のような雰囲気を感じました。こんな景色を想像するだけで幸福感に満たされますね。 (多田有花)

★牛窓のヨットハーバー初夏の風/小口泰與
ヨットハーバーでは、セーリングの準備をしているヨットが浮かんでいる。初夏の風にヨットがゆらりと揺れている。牛窓の風景が見えるようです。(高橋秀之)

★新緑の渓に黙して岩魚釣る/古田敬二
新緑のまぶしい渓谷で、じっと黙して岩魚のアタリを待つ。静かな渓谷の中のわずかな動きが感じられ、そしてその動きをうまく捉えています。(高橋秀之) 

★空晴れて田水のさざ波煌めけり/井上治代
田水のさざ波は風で揺れているか、水入れで揺れているのか。いずれなしても、陽差しを受けて煌く田水は、これからの田植えを控えて自然の息吹が感じられます。(高橋秀之)

★家に着きほっと一息冷奴/高橋秀之
新インフルエンザ騒動の折、無事帰宅し、家族揃っての夕食の冷奴に、ほっと癒されます。日常のなにげない幸せを実感するひとときですね。(柳原美知子)

★八木節の樽叩く音夏空に/飯島治朗
夏空に響く樽の音、元気が良くて大人でもいいですし、子供たちならさらに微笑ましいですね。(多田有花)

★雲低き今日の菖蒲を描きけり/甲斐ひさこ
雨が近いのかもしれません。しかし、だからこそ菖蒲を描くぞというスケッチ者の意気込みです。(多田有花)

★スチールのはがね色して夏の色/下地鉄
はがねの色に夏を感じていらっしゃる、その感覚が新鮮です。確かにエネルギーがあります。(多田有花)

★田に下りる夏鳥レンズで追ってゆく/祝恵子
夏鳥の動きにあわせて動く巨大な望遠レンズ、その映像が瞬時に浮かんできます。何となくユーモラスです。(多田有花)

★富士桜彼方に青き富士の嶺/渋谷洋介
伝統的な日本の美をさらりと詠んでおられます。そのまま絵にしたいようなそんな絶景です。(多田有花)

★休薬し胸の上なる五月晴/川名ますみ
副作用のために、薬をしばらく休まれるのだろうか。休薬は決断のいることであろうが、正面から病気に立ち向かう姿に、五月晴れのような明るい強さがある。(高橋正子)

●入賞発表/5月10日(日)~5月23日(土)

2009-05-23 09:03:49 | 入賞発表
■5月10日(日)~5月23日(土)
□高橋正子選

【最優秀/2句】
★田水張り黒く大きな夜となりぬ/宮本和美
田水が張られると、その上はただ大きく広い闇となる。それが「黒く大きな夜」。田からは、張られたばかりの水の匂いがし、風も静かに吹いているだろう。感覚的な捉え方がよい。(高橋正子)

★麦秋の野へ開け放つ床屋の戸/柳原美知子
「麦秋」のいい季節を捉えた。明るく開放的な景で、下五の「床屋の戸」が「麦秋」を身近な生活の中に取り込んだ。作者が明るいのだ。(高橋信之)

【特選/6句】
★湖風に揺れては光る茅花の穂/黒谷光子
湖の風が茅花の穂をきらめかせ、風も日もさわやかな、広々とした景色が詠まれている。(高橋正子)

★満月は地上の若葉濡らしおり/多田有花
満月の美しさは、若葉の季節にもある。つやややかな若葉を濡らすように照る満月が、若々しく、明らかである。(高橋正子)

★窓辺より胡瓜の花の見える位置/祝 恵子
窓辺に座ると、植えられた胡瓜の花がちょうど見える位置になる。窓辺から見る胡瓜の花が、緑の葉のなかで涼しげなこと。それにささやかながら、感嘆して詠まれた。(高橋正子)

★干拓の幾千枚の田植かな/丸山美知子
秋田こまちの銘柄米で有名な、大潟村であろう。見渡す限りの、幾千枚の田の田植は、壮観であろう。一面が水浸しとなったような米どころの景色である。(高橋正子)

★竹林の奥まで届く五月光/篠木 睦
五月になると、光は強くなり、竹林の奥までが光で明るくなる。竹林の丈の作る空間が初夏の明るさに美しい空間となっている。(高橋正子)

★薄影を仰げば淡き花栴檀/甲斐ひさこ
栴檀の木陰は、「薄影」というほどに、やわからく、うすうすとしている。その影に惹かれ見上げると、薄紫の栴檀の花が目に入る。影と言い、花と言い、優しく美しい句である。(高橋正子)

【入選Ⅰ/10句】
★青天の黙よ渓間の花わさび/小口泰與
青天は、晴れ渡った青空のこと。あまりによく晴れて、黙しているような空。その空の下の渓間には、山葵の可憐な白い花が咲いて、一人ささやいているようだ。(高橋正子)

★遠海は照りつつ島の梅雨に入る/下地鉄
もう沖縄は梅雨入りなのですね。「遠海は照りつつも」というのが情景をほうふつとさせて島々の光景が目に浮かぶようです。琉球列島の梅雨が開ける頃、本土は梅雨入りですね。(多田有花)

★青き空青き岬や花みかん/宮本和美
空も岬も青一色に、花みかんの白さが際立ちます。広々とした鮮明な風景に、潮の香り、花みかんの芳しさに包まれて清々しいかぎりです。(藤田洋子)

★バラの香の流れる夕べ空蒼く/河野啓一
おそらくバラ園の中、たくさん咲いたバラを眺めながら行けば、流れるように匂いくる香りのなんと芳しいことでしょう。夕べなればこその抒情も伝わってきます。 (小川和子)

★えごの花揺れて風知る硝子ごし/小川和子
見えないものを見た。「えごの花」の「揺れ」を見て、見えない「風」を知った。心の向くところは、「無」であって、「無」と隣り合わせに「有」がある。これが日本人の心なのであって、「色即是空」と言ってもよい。(高橋信之)

★花蜜柑稜線蒼く暮れ残る/藤田洋子
蜜柑の花咲く丘での香りの中で、暮れかけてゆく山並みは蒼く、しばらく見続けられたことでしょう。(祝恵子)

★尾根に出る拡がる若葉と青空と/古田敬二
視野に入る若葉と青空の鮮明な色彩、尾根の風景の広がりに心も晴ればれとします。若葉の季節の山歩きの爽快感が余すところなく伝わります。(藤田洋子)

★赤坂に葉桜の路ふくらみぬ/川名ますみ
都会の真ん中とは言っても新緑の美しさは変わりません。否、都会だからこそかもしれませんね。路一杯になるほど葉桜が生い茂って、これからはその下を通る人を都会の暑さから涼しく癒してくれます。「赤坂に葉桜」の取り合わせがとても素晴らしいですね!。(桑本栄太郎)

★豆ご飯香る頃には夕べ暮れ/高橋秀之
炊き上がる豆ご飯の芳しさに迎える夕べ。季節の彩りと香りを囲む食卓の、あたたかな一家の団欒が目に浮かび、暮らしの中の喜びがしみじみと伝わります。 (藤田洋子)

★大玻璃の窓一面の若楓/渋谷洋介
ガラス戸が大きな額縁、描かれているのは若々しいかえでの葉。どんな絵もこれに勝る色は出せない。(古田敬二)

【入選Ⅱ/12句】
★石楠花に明るき朝の日差かな/飯島治朗
朝の日差しは、気持ちいいものです。石楠花に差す朝の日差しが明るく、一日の出だしを爽快な気分にさせてくれるでしょう。(高橋秀之)

★語り部にコタンの夕の花明かり/志賀泰次
阿寒湖畔の、花の季節を迎えた美しい自然、豊かな風土性を感じる御句です。コタンの夕べに漂う柔らかな叙情を感じつつ、どこか物憂い花明りの明暗に、語り継がれる歴史の重みがひしひしと心に響きます。 (藤田洋子)

★黄菖蒲の咲いて水辺の明るさに/河野啓一
何の変哲もない水辺に黄菖蒲が咲いて、其処だけ一点明るく華やいで見える。季語の「菖蒲」がよく効いた初夏の一風物詩。小生も昨日、同じ景を見たばかり、共感が大です。(宮本和美)

★竹落葉高き天よりひらひらと/井上治代
高みより竹落葉の「ひらひらと」軽やかに舞いながら散るありさまがよく感じ取れます。竹落葉の静かな心落ち着くような情景です。(藤田洋子)

★牧開く仔牛に勢い宙を蹴る/志賀泰次
初夏の明るい牧場に出た仔牛、やっぱりうれしのでしょうね。躍動感と喜びが伝わってきます。(多田有花)

★句集へのはがきの重さ風薫る/矢野文彦
句集を差し上げた方からのお礼状でしょうか。はがきに寄せられた言葉に、句集の重みを受け止めながら、爽やかな季節の喜びをしみじみと感じていらっしゃるようです。(藤田洋子)

★バラの香のわずかな風に留まらず/上島祥子
薔薇のの香りが馥郁と漂って来る感じを的確に表現して居り、特に下五の「留まらず」の表現が抜群で、好みの句です。(宮本和美)

★雲ひとつ無きぞ代田の夕陽かな/桑本栄太郎
代搔を終わって田植の準備ができ、ほっとした気持ちで空を見上げると、茜色に輝く夕焼けの美しい空が眼間にあった感動を素敵に詠っていると思います。(小口泰與)

★繰り言の母に相槌麦の秋/國武光雄
ほのぼのと通う母子の情がひしひしと伝わって胸を締め付けます。下五の季語がとてもあっていて句を引き締めていると思いました。十五年前の自分を思い出しました。(志賀泰次)

★渓谷の水は清冽棕櫚の花/下地鉄
棕櫚は、意外なところに育っていて、渓谷にも見られる。清冽な水と、黄色い棕櫚の花とが鮮明で、涼しい印象の句だ。(高橋正子)

★蓮浮葉風わたらせて澄める水/柳原美知子
蓮の葉の浮かぶ水面。水面一面をそよ風が吹き渡ると、水澄んで見える。平らな浮葉、平らな水面が、涼しい景色となっている。(高橋正子)

★葉がくれの青梅日毎太りゆく/藤田裕子
青梅は、葉の色と非常によく似ているので、葉隠れに梅の実が育っていることに気づかないことも多い。気づいてからは、目にも明らかなほどに、日毎太ってゆく。(高橋正子)

●入賞発表/5月1日(金)~5月9日(土)

2009-05-08 18:16:51 | 入賞発表
■5月1日(金)~5月9日(土)
□高橋正子選

【最優秀】
★子が発ちし八十八夜の月明り/藤田洋子
「八十八夜の月明かり」の美しい抒情に、旅立つ子を送り出す母の一抹の寂しさが添えて詠まれた。(高橋正子)

【特選/6句】
★春筍茹でるとて火をおこしけり/多田有花
掘り立ての筍であろう、みんなが釜を取り囲んで、「さあ、これから茹でるぞ。」と活きこんで火を熾している。筍と火の野趣ある取り合わせ、また、俗気のないところが面白い。(高橋正子)

★瀬に入りてほぐれ行くかや鮎の稚魚/篠木 睦
鮎の稚魚を放流すると、すぐ瀬にほぐれて流れに混じり、散りぢりに泳ぎ流されて行く。「瀬」がよく効いている。稚い鮎への慈悲。(高橋正子)

★幟立つ奥利根いまだ雪の中/小口泰與
鯉幟が立つ奥利根はまだ雪が残っている。暮らしの暦は着実に進む一方、自然の大きな景色は、雪を残したままである。人の暮らしと雪の残る自然がしっくりと調和している。(高橋正子)

★お城までどの道行くも楠若葉/宮本和美
城は、楠若葉に囲まれ、どっしりとした佇まい。烏城だろうか。それなら、なおさら、城を盛り上げるように楠の若葉が輝いて美しい。新緑の色と光が街に溢れる季節。(高橋正子)

★水芭蕉滴るるほどに朝かすみ/志賀泰次
早朝の水芭蕉は瑞々しいものです。その水芭蕉が滴るほどの空気に、朝かすみの強さがあり、思わず深呼吸したくなるような一瞬があります。(高橋秀之)

★青芦の池に棲むもの水揺らす/小川和子
青々と伸びた芦の池に爽やかな初夏の風が吹きわたり、水辺の生き物たちの動きも活発になります。静かな水面に映るみどりの水を揺らす小さな動きを捉えて、美しく生き生きとした情景が眼に浮かびます。(柳原美知子)

【入選Ⅰ/10句】
★能登の海金波銀波や夏近し/渋谷洋介
海上に立つ金波銀波の波頭の眩しさが、夏も間近の能登の海をより美しく輝かせてくれます。眼前の海の広がり、きらめく波にも明るく華やいだ旅情が感じられ、夏を迎える喜びが溢れているようです。(藤田洋子)

★落日の赤くなりつつ夏に入る/下地鉄
地平線に真っ赤な太陽が沈んでいく。真っ赤な太陽を見ていると、これからもっとも暑くなる夏が来るのだなぁ~と感慨にふけっている作者。夏の想いがいろいろ含まれている句だと思います。(小口泰與)

★窓広き初夏新生の孫に会う/小西 宏
新しくお孫さんが誕生されたようで、おめでとうございます。「空広き初夏」が、歓びのお気持ちに呼応したぴったりの感じと思いました。(河野啓一)

★風薫る空の青きを吹き抜けて/河野啓一
初夏の風が青空を吹き抜け、心地よ季節感溢れる句と存じます。季語の大切さを実感させる句と思い、思わず共感を覚えました。(宮本和美)

★何ひとつなき空ぞ空五月来る/矢野文彦
五月に入って新緑に映える好天の青空の日が続き、一番良い時候ですね。真っ青に晴れ渡った爽やかな五月の空を「空ぞ空」と強調され、作者の感動がとても良く伝わります。(桑本栄太郎)

★窓をあけキャベツ畑のあまき風/川名ますみ
初夏の生き生きとしたキャベツ畑の風景がひろがって見えます。「あまき風」がすてきですね。(丸山美知子)

★初夏の夕焼け溢る田の水に/丸山美知子
もう田植の準備ですね。北国の方が田植のシーズンが早いのは早稲が多いからなんでしょう。田の水に映る夕焼け空、この風景はこの時期ならではのゆったりとした気分を引き出してくれます。(多田有花)

★広島の若葉のなかを花電車/佃 康水
広島電鉄が運行する花電車はフラワーフェスティバルの期間限定です。正に若葉の中を走る光景は5月の季節感を映し出しています。(高橋秀之)

★朝風を腹いっぱいにこいのぼり/高橋秀之
今日はよいお天気。薫風を腹一杯に大空を泳いで居る鯉幟。それを親子ともども、目を細め乍、眺めて居られのではと想像しました。微笑ましい景の句に共感を感じました。(宮本和美)

★夕風に身をまかせつつバラ大輪/藤田裕子
日ごと遅くなっていく夕暮れ、長い夏の午後を絢爛と咲き誇った大輪の薔薇、
豪華でゆったりとした空気が流れています。(多田有花)

【入選Ⅱ/14句】
★牡丹園思い思いに人歩き/飯島治朗
牡丹が満開のなか、それを楽しんでいる人の喜びが、「思い思いに」という表現で伝わってきます。(高橋秀之)

★一八や朝の雨戸はまだ開かず/多田有花
今日は連休最後の日。久し振りの静かな雨模様に朝寝をしてしまい、いつもより遅めに雨戸を開けたら一八の花が咲いていた・・と言う光景のようですね。初夏の雨模様の静かな朝の光景が、上五の「一八」の季語で効果的に表現されました。(桑本栄太郎)

★山法師咲けば連休果てにりけり/桑本栄太郎
長き連休も終わり、山法師が咲く様に見える頃となり、本格的な夏がやって来たと詠嘆されて居られる詠者の姿を想像親しました。共感を感じます。 (宮本和美)

★散歩道交わす挨拶風薫る/國武光雄
毎日の決まった時間の散歩道。出会う人と交わす挨拶はそれだけでも気持ちよいものですが、風薫る初夏の季節がさらにその気持ちよさを強くしてくれます。(高橋秀之)

 しまなみ海道
★風薫る海を眼下に橋歩き/柳原美知子
眼下に広がる瀬戸内海を眺めながら歩く作者に五月の薫風が気持ちよくふいてくる。その風は瀬戸内海の海にもふいていて、さわやかな気持ちにさせてくれます。(高橋秀之)

★ゴム風船電車にあれば子は眠り/祝恵子
面白い観点ですが、なるほどと思いました。電車の中のゴム風船は、見つめる子どもにとっては格好の興味の対象で、睡眠誘発のここちよさがあるのでしょう。(高橋秀之)

★一掻きの距離長くなるアメンボウ/古田敬二
アメンボウの動きも一様ではなく、小さな一掻きも大きな一掻きもあるのですね。何かをみつけたのか、あるいはじっと見つめる作者の気配を察知したのかもしれませんね。(安藤智久)

★新緑を見上げる裾に風そよぎ/迫田和代
美しい新緑の裾は風の通り道になっているのでしょう。香るような風の道に立つ心地よさが伝わってきます。(安藤智久)

★わが近く燕鳴き冴え夏に入る/甲斐ひさこ
遠目に燕の影を見た、燕らしい声を耳にした、そんな気づきの春が過ぎ、今や「わが近く」に「鳴き冴え」る季となりました。夏が間近にあることを、五感へ響く御句から、気づかせて頂きました。(川名ますみ)

★ざわめいてパスタ料理の夏期講座/成川寿美代
冷製トマトソースにカッペリーニ等、パスタも、そろそろ夏料理になりますね。イタリアン独特の、明るく彩ったお皿が目に浮かび、心浮き立ちます。 (川名ますみ)

★紅白のつつじを葺きて花御堂/黒谷光子
灌仏会を過ぎて季節の花々をしつらえた御堂の佇まい。紅白のつつじがひときわ明るく鮮やかに、参拝の方々の目も心も和ませてくれるようです。(藤田洋子)

★両側につつじ燃ゆ道帰りけり/堀佐夜子
花の盛りを迎えたつつじの、道の両側の燃えるような色彩が目に鮮やかです。その彩りにおのずと明るく心楽しい、帰路に着く作者の心情がうかがえます。(藤田洋子)

★山鳥の初音五月の青空に/上島祥子
若葉を眺めながら山道を歩いていると、青い空に小鳥の澄んだ鳴声が響いて実に爽快な気分です。スッキリとした写生に魅力を感じました。(河野啓一)

★五月晴れ鳩旋回し降り立ちぬ/井上治代
公園の広場などでよく見かける、鳩の生態が目に浮びます。上五と中六が上手くマッチしていると思いました。(河野啓一)

●入賞発表/4月19日(日)~4月30日(木)

2009-04-29 11:04:02 | 入賞発表
■4月19日(日)~4月30日(木)
□高橋正子選

【最優秀2句】
★荒れし日も棕櫚の花房ふくらめり/甲斐ひさこ
棕櫚の黄色い肉厚の花が咲く頃は、晴天ながら風の強い日がある。荒れた日にも棕櫚の花は、花房がふくらんで風にゆるがない。地味ながら、人に力を与えるようだ。(高橋正子)

★月光の真珠となりて花蜜柑/宮本和美
花蜜柑に降り注ぐ、月光は、「真珠」と言いたい。蜜柑の花の匂いがそうさせる。蜜柑の花の咲く夜が、詩的に詠まれた。(高橋正子)

【特選/7句】
★茄子苗の根付きて紫濃くなりぬ/古田敬二
茄子の苗を植え付け、たのしみに水を遣っていると、根付いて、茎も葉もしっかりしてくる。茄子の紫色が鮮やかに、濃くなると、根付き、成長を始めた証拠となる。目にも涼しげで、たのしみな野菜である。(高橋正子)

★蓮華草遠回りして子のもとへ/祝 恵子
蓮華畑の向こうに子どもがいるのでしょう。突っ切れば早いけれど蓮華草を踏み荒らしたくないという気持ちが素敵です。 (高橋秀之)

★新緑の山を多めの水で描く/川名ますみ
「多めの水で描く」が、新緑に向かい合ったときの作者の瑞々しい感覚をよく表していると思います。(河野啓一)

★音もなき流れ豊かに青柳/小西 宏
吹く風にまかせて、音もなくなびく晩春の枝垂れ柳の情景が目に浮かびます。風と光も感じる一句です。(飯島治朗)

★燕飛ぶ広き草野を高低に/飯島治朗
春先に渡来した燕は巣作りもすませ、広い草野を高く低く自在に飛ぶのでしょう。生命あふるる光景です。(小川和子)

★遠き田の一枚はっきりげんげ色/多田有花
げんげ田は遠目にも明るく華やいだ色を見せてくれ、その色を見ると、子供の頃を思い出し、郷愁を感じます。のどかな田園風景に春の光が溢れ、静かに季節が移ってゆきます。(柳原美知子)

★宮跡の広きや遠く草若葉/河野啓一
都のあった宮城跡地は広い空間です。その空間は遠くまで草若葉が生い茂って。春の息吹が感じられます。(高橋秀之)

【入選Ⅰ/10句】
★畦青む新ランドセル背にしかと/藤田洋子
桜のころに入学した一年生も、畦が青むころになると、ランドセルも背に馴染んできて、「しかと」背負っている。ほんの一月ほどの間に、学校生活を着実に歩み始めた子をやさしい目で捉えた。(高橋正子)

★アイリスの屹立したる花と葉と/河野啓一
アイリスは菖蒲やあやめに似ているようでもあるが、西洋の花なので、趣が全く違う。一切曲がりそうもない茎、灰色がかった細みの葉など、「屹立」と言いたいのである。(高橋正子)

★桃咲くや潮風向かい走る子等/小口泰與
桃の咲く頃の潮風はもう暖かで心地よく、子どもたちも体じゅうに風を感じて走っていくのでしょうね。自然と大きな声も出しながら。(安藤智久)

★若葉風眠る赤子の頬丸し/藤田裕子
若葉風と赤子が響き合って好きな句です。赤ちゃんは丸々とした男の子でしょう。(國武光雄)

★紋白蝶子らに追われて大空へ/高橋秀之
無心に蝶と戯れる子供、光り溢れる長閑な情景が素適です。(渋谷洋介)

★初蛙一両電車の通り過ぐ/黒谷光子
多分夕暮れ時、ほんのり灯かりのついた一両電車がさびしい、其処に蛙の声が聞こえた。のどかな田舎の風景。一両電車が効いています。(下地鉄)

★ゆさゆさと百の牡丹も風のまま/黒谷光子
芳香のある紅・淡紅・白・黄色・絞りなどの色を呈して大輪が咲くさまは豪華で花の王様の名に背きませんね。その大輪がゆさゆさと風に揺れている様子は見事なものですね。我が家の牡丹も咲き始めました。とても素敵な句ですね。(小口泰與)

★うりずんや雨にたわむる浜の子ら/下地鉄
乾季が過ぎて暖かくなった沖縄の地は、はや初夏の気候のようですね。浜の子供たちが雨の中でも元気に飛び回っている様子がうかがえます。好きな句です。(小口泰與)

★医科大の構内大樹や樟若葉/桑本栄太郎
医科大病院や、大学の構内はゆったりとして楠若葉の季節を迎えているのでしょう。広い構内をゆっくり歩けは゛、それだけで気持ちも晴々としてくるようです。(小川和子)

★ゆらゆらと揺れる桜を船からも/迫田和代
風に揺れる桜と波に揺れる船。どちらの揺れも心地よいものです。船上でその揺れを楽しむ様子が伝わってきます。(高橋秀之)

【入選Ⅱ/14句】
★新緑に揺れるピアスや風走る/成川寿美代
さわやかな風、風に揺れるピアス。若々しい動きを感じます。(丸山美知子)

★朝摘みの莢豌豆の雫かな/渋谷洋介
雨上がりの朝に摘まれた、新鮮な莢豌豆のみどりが目に見えるようです。雫をまとい早速、お味噌汁の具にもなりそうです。(小川和子)

★遠くから田起こしの音響きくる/丸山美知子
田植の準備の耕運機の音が快く聞こえて来る。季語の好く効いた今日この頃の句と存じます。瑞穂の国の田園風景に共感を覚えます。(宮本和美)

★サフィニアの白映ゆ明日は「昭和の日」/小川和子
サフィニアを植え終わって満足げな、ホッとされた作者の姿を思います。その白さと「昭和の日」との取り合わせに何か寓意が?と推理してみたりしています。(河野啓一)

★草萌えの寄りくる山羊に陽がいっぱい/志賀泰次
草が萌え、きらきらと光る牧場に白い山羊が日差しを体中に受けて草を食んでいる。北国の春の喜びが溢れる、美しい光景です。作者の生き物への優しい眼差しを感じます。(柳原美知子)

★観覧車空ゆっくりと山笑う/堀佐夜子
空高くゆっくりとのぼる観覧車から見える山は、青々として、春の息吹に包まれているのでしょう。 山笑うという表現が引き立って感じられます。(高橋秀之)

★戦経し大樟鳴らす若葉風/柳原美知子
幾多の時代を乗り越えて、なおも青々と若葉の季節を迎える大楠の姿。その逞しく風格ある大樹に吹く清々しい若葉風を身に受けて、時の流れを感じつつ心励まされるようです。 (藤田洋子)

★夫が手でぽんと木の芽の香りそえ/佃 康水
「ぽんと」叩かれた木の芽の芳しさが漂ってくるようです。季節の旬の香りを楽しむ食膳に、ご夫婦の豊かなあたたかなひとときを感じます。 (藤田洋子)

★坂の上の雲見つづける昭和の日/矢野文彦
あの大戦を経験された世代とそれ以後の世代とでは、昭和の日に寄せる思いに大きな違いがあるでしょうね。雲を見ながら戦争のこと、その時代の生活、亡くなられた方のことなどを偲ばれているのかと感じました。 (多田有花)

★キャンバスの高きチャペルや風薫る/國武光雄
若葉のきらめく光の中を風が渡っていく。いま描きかけの画布には高くチャペルが姿を現したところだ。初夏の風景が芳しい。(小西 宏)

★すかんぽの穂が揺れ畦に赤く揺れ/桑本栄太郎
すかんぽの穂が揺れている。それは赤みを帯びたすかんぽの花だ。畦が続いている。風が緩やかに渡っていく。「揺れ」のリフレインに風景の奥行きを感じます。(小西 宏)

★箆つかう遺跡の上につばくらめ/前川音次
遺跡は箆(へら)を使って、地面に屈みこみ、細密に掘り進められる。すると興味ありげに、燕がよぎり飛ぶ。遺跡も空も春である。(高橋正子)

★掃き終えし庭に又散る藤の花/篠木 睦
清潔な印象の句。掃き終えるとすぐまた藤の花がこぼれ散る。掃かれているからこそ、塵となるはずの花もまだ、みずみずしいのだ。(高橋正子)

★摘み取れば山椒の芽の香畑に満つ/井上治代
畑の隅に山椒の木があって、摘み取ると、あたりの畑に山椒の匂いが満ちる。畑より摘み取る山椒の野趣がいい。(高橋正子)

●入賞発表/4月12日(日)~4月18日(土)

2009-04-18 09:46:47 | 入賞発表
■4月12日(水)~4月18日(土)
□高橋信之・高橋正子選

【最優秀】
★藤棚をくぐれば風もその色に/下地 鉄
藤房が垂れる藤棚をくぐった風は、藤の色に染まっているようだ。それほどに、藤の花房は、たっぷりとゆたかで、風をさらさらと潜らせているのである。(高橋正子)

【特選/6句】
★芦の角みんな戦ぎて川の中/甲斐ひさこ
芦の角は、芦の芽のことであるが、水の中から角のように突き出てくる。少し丈が伸びると、稚いながらも川風にも戦ぐようになって、夏へ向ってゆく爽やかさがある。(高橋正子)

★初蝶の白一点を川岸に/藤田洋子
初蝶に出会い、目を離さず、目を凝らして見ていると、舞う蝶でありながら、終には、川岸の白く輝く一点となり、川岸のうららかな景色の中に記憶される。(高橋正子)

★八重桜花毬膨らむ朝の風/上島祥子
朝の風がさわやかに八重桜の花毬が膨らむ。初夏を間近に感じさせる朝の風に、優艶な八重桜もふっくらとかわいらしい花毬となった。(高橋正子)

★柿若葉吹き出す窓の明るさよ/安藤智久
桜が終ると、柿若葉が「吹き出す」ように燃え出てくる。柿若葉の明るい輝きに、窓は明るい季節へと変身する。(高橋正子)

★芽吹く木を透かし彼方に芽吹く山/多田有花
芽吹く木の枝を透かして見れば向こうに芽吹く山、辺り一面芽吹きの勢いが感じられます。(藤田裕子)

★揺るる葉に揺れつつ蝶の止まりけり/宮本和美
ゆったりと揺れる枝の葉。そして、それまで宙にあって彷徨っていたものが葉と揺れを同じくする。それが、蝶が止まることだと見定められたのでした。春の日の一瞬を凝縮して見せられた思いです。 (小西 宏)

【入選Ⅰ/10句】
★木の芽どき子ら一斉に走り抜け/丸山美知子
万樹ことごとく芽吹くとき、子どもたちの漲る躍動感に、芽吹く生命のきらめきや力強さを感じます。みずみずしい季節を迎えての、明るい陽光、爽やかな風を感じる情景です。(藤田洋子)

★花筏組めぬは組めぬまま流れ/黒谷光子
花びらに意思があるわけでもなく、命があるわけでもないのに、花筏を離れて流れて行く花びらがちょっとかわいそうに思うことがあります。(古田敬二)

★葉桜や肩車する子の先に/高橋秀之
すっかり葉桜の季節になりました。お子さまを肩車されてのお散歩でしょうか。新鮮な空気をいっぱいすって、父も子も共に至福のひとときですね。(小川和子)

★だいこんの花に夕陽や啄木忌/桑本栄太郎
晩春、菜の花と同じように薹を立て、白または紫の花を咲かせる。夕日に当たった大根の花のひっそりとした寂しさと、啄木の生活苦に追われた姿がよく対比されていて、素敵な句だと思います。(小口泰與)

★初蝶の舞う先々の水光る/藤田洋子
この春、初めて見る蝶が川の上をひらひらと舞っている。その蝶の行き先を追うと、川の水がきらきらと光っている。春らしい爽やかな光景をとららえています。(高橋秀之)

★えんどうの花咲き溢れ自家菜園/河野啓一
豌豆の花が咲き乱れて居る自家菜園の様子が中七の「花先溢れ」により手に取るように判る作品と思います。収穫が楽しみですね。(宮本和美)

★枝先まで川面にあずけ夕桜/藤田裕子
川端に植えられている桜並木でしょうか。花をいっぱいにつけた枝を伸ばしています。満開の花が水面に映り、華麗な光景を演出しています。(多田有花)

★かろやかに菜畑飛び交う蝶の昼/堀佐夜子
ひらひらと菜畑を離れずに飛び交う蝶の、のどかな景が目に見えるようです。「蝶の昼」がよく効いて、一句をしっくりと詠いあげているように思います。(小川和子)

★にぎやかにトロッコ列車桃の花/小西 宏
「にぎやかに」が、桃の花を車窓にトロッコ列車に乗車した折の楽しさを伝えています。作者の心に残った、春の一日の思い出深い情景がそこにあります。 (臼井愛代)

★野は静か蝶の翅音の聴けるかに/古田敬二
たんぽぽや犬ふぐりが静かに野を染め、春の日が生き物の眠りを誘うかのような昼の静寂の中に、蝶が飛んでいる。その翅の音にも聴き耳をたてる作者の自然や小さな生き物への愛が伝わってきます。(柳原美知子)
蝶の羽ばたきは普通ただ視覚的にしか捉えることができません。しかしふと、翅音が聞こえたように思う。それほどまでの静寂の中におられるのでした。 (小西 宏)

【入選Ⅱ/11句】
★勿忘草湖見ゆ墓に詣でけり/小口泰與
お墓参りというと私は穏やかな気持ち、懐かしい気持ちになります。勿忘草の可愛らしい色や、明るい湖の景色も広がり、春のひとときが心地よく感じられます。(安藤智久)

★半熟の卵に弾み春のあさ/志賀泰次
半熟に茹でられた卵の弾力が、ことに新鮮で明るい春の朝を感じさせてくれます。春朝を迎えての、つつましくささやかな日々の喜びに感じる、作者の心の弾みが伝わります。 (藤田洋子)

★便りより母校の花の赫々と/川名ますみ
届く便りに、今年も母校に咲く爛漫の花の美しさを思い浮かべられたのでしょう。母校を離れての歳月に花へのいっそうの愛着を覚え、「赫々と」咲く花の姿に、作者の母校へ寄せる深い思いを抱かせてくれます。 (藤田洋子)

★鶯の声はればれと空翔る/井上治代
心地よい春風と春の日差しに包まれた野山に、鶯の透き通った声が響きわたり、その声は晴れ晴れとした青空をも翔けていくかのようです。春の野山での至福の時を感じます。(柳原美知子)
鶯の澄んだ声が空に高く響きます。「はればれ」は鶯の声のみならず、その日の作者の、ゆったりとして清々しい気持ちでもあるのでしょう。 (臼井愛代)

★順番の滑り台長しさくら散る/祝恵子
さくら散る公園の滑り台で、自分の番になるのを待ちかまえている子供たちの賑やかな声が聞こえてくるようです。早く滑りたいと逸る心に滑り台は長くて時間がかかる。子供たちの気持ちに寄り添って、見守る作者の優しさが伝わってきます。(柳原美知子)
長さをセールスポイントにした滑り台が近くの町にもあります。あの長さだけで思わず大人も滑りたいと思うもの。まして子どもなら。のどかな昼下がり、順番を待つ子どもたちの列の上に桜が散っています。(多田有花)

★百合の香の充つ会堂の満席に/小川和子
定例の礼拝でしょうか。それとも何か行事でしょうか。信仰を胸に集われた人々の清らかな思いが「百合の香」に象徴されているようです。 (多田有花)

★要垣若葉煌めく登校子/國武光雄
かなめもちの若葉が真っ赤に萌える生垣に沿って、新学期の子供たちが元気よく投稿してゆきます。春酣の景が見えて来るようです。 (河野啓一)

★平らかに一面真白き梨の花/飯島治朗
遠目にも白く、梨の花の季節。秋の収穫を考え、平らに仕立てられているのでしょうね。今から甘く瑞々しい味覚が思われます。(河野啓一)

★一湾の春のうねりやタンカー行く/篠木 睦
湾口をゆっくりと進むタンカーがまるで浮んでいるだけのようにも見えます。茫洋とした春らしい風景です。(河野啓一)

★足跡に花降り積もる浜行けば/柳原美知子
浜に残る足跡に降り積もる落花。ここにも人と桜との出会いがあります。春爛漫のうつくしい海岸の情景です。(臼井愛代)

★掌に軽く弾んで八重桜/渋谷洋介
八重桜を手にとって見た。木に咲いているとぽってりと重みのある感じだが、掌に載せると、毬のように軽く弾んで、意外であった。八重桜のかわいらしさ。(高橋正子)

●入賞発表/4月1日(水)~4月11日(土)

2009-04-11 11:25:49 | 入賞発表
■4月1日(水)~4月11日(土)
□高橋信之・高橋正子選

【最優秀】
★菖蒲の芽尖り出でくる水の中/祝恵子
菖蒲の葉は剣にも例えられる。柔らかな水に、「尖り出でくる」芽の鋭さがよく詠まれている。(高橋正子)

【特選/5句】
★散る花に一片の雲動かざり/藤田洋子
「一片の雲」に作者の視点は定まって動かない。「散る花」にも作者の心は快く遊んでいる。いい心境の句だ。(高橋信之)

★花けぶる山の青さの幾層も/柳原美知子
幾層にも広がる青々とした山なみに、花がけぶるように明るく彩をなしている景が浮かびます。大きくて、崇高な感じのする御句に感じ入る思いです。(小川和子)

★水色の小舟隠るる花の影/川名ますみ
水色と花の桜色、色彩感覚にあふれた句です。そのまま絵が浮かんできます。透明水彩でさらりと描きたいですね。(多田有花)

★時はいまゆっくり流れ蝶の昼/多田有花
蝶の飛ぶ真昼。蝶の飛ぶ辺りは蝶の空間と時間となって、ゆっくりと時が過ぎている。春昼の気だるく長閑な時間が詠まれている。(高橋正子)

★弾みつつ小手毬の花剪られけり/宮本和美
「弾みつつ」がまさにそのとおりですね。小手毬の花の持つ雰囲気がまっすぐに
伝わってきます。剪っておられる方も見ていらっしゃる方も思わず笑顔になってしまうような、そんな情景を想像します。(多田有花)

【入選Ⅰ/10句】
★潮騒や花片栗の路登る/丸山美知子
潮騒を聞きながら登る崖の路、可憐な花片栗の紅紫の色も美しく青空と海の碧に映えています。澄みきった空気と明るい春の日差しに包まれた心やすらぐひとときが伝わってきます。(柳原美知子)

★漂いて水の形に花筏/宮本和美
ひとひらずつ水面に落ちた花弁が、水の微妙な流れによって、離れたり寄りあったり、さまざまな形を作っていくのでしょう。ゆっくりと万華鏡を回しているようでもあります。「水の形」という表現が好きです。(安藤智久)

★谷戸山の空ぽっかりと山桜/渋谷洋介
山桜の大木なのでしょうね。それだけが空に浮き出たように淡い花の色を見せています。「ぽっかりと」でその情景が目に見えるようです。(多田有花)

★刃を入れて白さくさくと新玉葱/小川和子
長い花冷が明けた、と思っておりましたら、もう夏が近いのですね。新玉葱に刃を入れた時の、新鮮な感動が「白さくさく」に満ちています。色も音も、香や手応えも、御句から届くようです。 (川名ますみ)

★逆光を浴びて菜の花風の中/小口泰與
逆光を浴びて輝く菜の花の色。それをやさしく包む、ゆったりとした風の動きがおおらかに描かれています。 (小西 宏)

★麦青き斑れの畑の土黒く/志賀泰次
斑に消えのこった雪の間に見える畑土の黒と、大きく伸び始めた麦の青が、目に鮮やかです。確かな春の到来を伝える情景です。(臼井愛代)

★自転車の少年真直ぐに花菜道/黒谷光子
想像では土手沿いに、真直ぐに続く道を自転車で通りすぎる少年。花菜が咲く道は明るく清々しく、作者の思いも、景もそのままに伝わってきます。(小川和子)

★風透ける高木にさらの巣箱揚ぐ/甲斐ひさこ
新しい白木の巣箱を枝にかけています。落葉樹なのでしょう。枝振りがはっきり見える様子が「風透ける」にうかがえます。巣箱ではやがて新しい命が育ちます。いきいきと明るい句です。(多田有花)

★園児らの瞳煌めくチューリップ/國武光雄
入園式でしょう。子どもたちの傍らに並んだ色とりどりのチューリップ。チューリップには幼い子どもの姿が良く似合います。新しい生活を前にいくばくかの不安と期待を胸にどの子も並んでいます。(多田有花)

★柳の芽風をとらえてほころびぬ/井上治代
柳を揺らす風、それがあたかも芽をほころばせているように見える、柳の枝の動きと芽吹きの様子を重ねられ、その姿が絵のように浮かんできます。風も芽吹きの色もやわらかです。(多田有花)

【入選Ⅱ/14句】
★大木も一寸の木も芽吹きけり/古田敬二
堂々たる大木の高々とした枝への芽吹き。そしてまだ幹とも呼べぬ小さな若木にも鮮やかな緑が芽を伸ばしています。「一寸の木」との表現に、作者の慈しみの心と植物の生命の力強さとを感じます。 (小西 宏)

★揚雲雀明るき新興住宅地/飯島治朗
郊外の新興住宅地。あるいはまだ空き地も残っているのかもしれません。そして、野原や畑からもそう遠くはないのでしょう。そんな真新しい街に雲雀の囀りが明るく聞こえてきます。すみわたる春の情景です。 (小西 宏)

★麦畑を仕切る花菜や近江富士/桑本栄太郎
あおあおとした麦畑を仕切るように咲く花菜の黄。遠くには近江富士が見えています。色彩と光に満ちた、大きな春の情景を思い浮かべます。(臼井愛代)

★街中のさくら色して昼下がり/河野啓一
野も山も街中も桜が満開、商店街も花に綾かって桜色の雰囲気に、桜の時期ならではの景で、"昼下がり"がぴったりで素敵です。(志賀泰次) 

★虎杖の土割り紅のみずみずし/丸山美知子
虎杖が土を割り茎芽を出しはじめたのですね。みずみずしい紅いろは、やがて青々とした虎杖となるのでしょう。口に含んだ時のすっぱさを思い出しました。 (小川和子)

★まさらなる空埋めつくす桜かな/宮本和美
春の花王と言われる桜の古木が真っ青な空一面を覆い尽くして爛漫と咲き誇っている様子がとても素敵ですね。また、咲き誇った万朶の花の散り際のあわただしさが、ひとしお愛惜されますね。 (小口泰與)

★蒔く種の掌で温めもして土反す/志賀泰次
大地の恵みに感謝しながら、収穫を楽しみに、種蒔をしていらっしゃる詠者の姿を想像致しました。中七の「掌で暖めもして」の表現が素敵で、好きな句です。 (宮本和美)

★立ち寄りし桜を前で深呼吸/高橋秀之
桜花爛漫の季節、昼休みや仕事が一段落した合間にも自然と桜の咲いている場所に引き寄せられます。桜の前に立ち、ほのかな花の香と日の匂いを深呼吸すると、疲れも吹っ飛び、又元気が出てくるようです。 (柳原美知子)

★さくら花ひとひら舞えり嬰の手へ/藤田裕子
淡いさくら色の花びらがひとひら、柔らかくふくよかな嬰児の手に舞い落ち、やさしく光っています。はかなくも美しい落花といとけない生命との出会いに、しみじみと生命の営みの美しさと不思議さを感じます。 (柳原美知子)

★渓流の音を近くに桜の実/篠木 睦
花びらを落とした桜にもう青い実がつき始め、透き通った渓流の水に葉桜が影を落としています。清らかな流れに差しだされた枝に、青々と揺れる桜の実に、新たな季節の到来を感じます。 (柳原美知子)

★農小屋の開け放たれて花の下/臼井愛代
花の季節、農小屋の伸びやかな開放感に、ゆったりとした春の駘蕩の気分があふれます。おのずと花のもとの穏やかな心地よさを感じ取れます。 (藤田洋子)

★楓の芽かさなり合いて薄曇/小西 宏
芽立ちの早い楓の芽、その鮮紅色の柔らかい若芽のありさまが、薄曇の空に美しく映えています。優しく穏やかな季節感を感じさせてくれます。 (藤田洋子)

★初燕すばやく行きかい軒上に/上島祥子
ツバメのつがいが帰ってきたのでしょう。迷うことなく戻ってきた様子がすばやく行きかうことでよく伝わってきます。(高橋秀之)

★砂浴びのまろまろまろと雀の子/堀佐夜子
「まろまろまろ」というのがいいですね。子雀たちが集まって遊んでいる雰囲気がとてもよく分かります。(高橋秀之)

●入賞発表/3月22日(日)~3月31日(土)

2009-03-31 18:57:26 | 入賞発表
■3月22日(日)~3月31日(土)
□高橋信之・高橋正子選

【最優秀/2句】
★一山の花明りして暮れゆけり/藤田洋子
一山が桜の花で見事であるが、暮れてゆくときは、花の色が発光するようように暮れ残る。「花明かり」にある華やかさと寂しさの混じった抒情がよく詠まれている。(高橋正子)

★辛夷咲く川辺晴れ晴れ風渡る/堀佐夜子
辛夷の咲いている景色がよい。川辺であり、晴れ晴れとして、風が渡っている。そういう景色がよく、作者の気持ちに一致している。(高橋正子)

【特選/6句】
★咲き初めし辛夷湖へと枝を張る/黒谷光子
この句の眼目は、景色がよいことである。「咲き初めし辛夷」も、「湖へ枝を張る」も、これからのさらに美しい景色を想像させて、芯にしっかりとした力の強さがある。(高橋正子)

★花の冷え纏いてさらの句集来る/臼井愛代
花がほころびはじめた日に届いた句集。新刊書は、花冷えのする空気を纏い、受けとられた著者の喜びが静かに、ゆたかに伝わってきます。「さらの句集」が、心に残ります。 (小川和子)

★風走る青麦畑を沖となし/柳原美知子(正子添削)
青麦畑を沖と見立てたところが素敵です。青麦畑の広さと波打つ様子に風の爽やかさが感じられます。(高橋秀之)

★白魚を掬いて透ける湖の水/河野啓一
白魚を掬うと、透き通った体から透き通った春の水が滴り、白魚も水も春の日にキラキラと輝いています。瑞々しい生命に触れた作者の喜びが伝わってきます。 (柳原美知子)

★青天の高嶺まぶしき花辛夷/宮本和美
青空の下、花辛夷の白い花が咲き誇っています。遠くに望む高い峰もまぶしく聳えて、光あふれる大きな春の景色となっています。 (臼井愛代)

★富士見える斜面にさみどりふきのとう/古田敬二
遠望の富士と斜面のふきのとう、風景の遠近と色彩の対比が鮮やかに目に映ります。さみどりのふきのとうのみずみずしさに、春の訪れをしかと感じます。 (藤田洋子)

【入選Ⅰ/10句】
★ひかり得て闇より生れし春の雪/小西 宏
夜降り始めた春の雪であろう。闇から舞い落ちる雪は、身の丈あたりに来ると、白く光って、それが雪と分かる。それが「ひかり得て」、ゆっくりと降る春の雪である。(高橋正子)

★下萌えに一歩の弾み佇めり/志賀泰次
北国にも春が訪れ、おそらく雪のかたまりも残る地面に下萌えの草をみつけられた作者。春に寄せる思いが、遺憾なく伝わる好きな句です。(小川和子)

★ローカル線森抜け春田の広びろと/飯島治朗
瑞穂の国の春田の景が見える様で、思わず長閑な気分になりました。 (宮本和美)

★風吹けば大空に満つ花つぼみ/小川和子
春の風に大きく揺れ、青空いっぱいに桜の花の蕾がひしめき合っている。目を瞑り、この句を口ずさんでいると、豊かな自然のエネルギーを感じることができました。(井上治代)

★野花にも触れて揺らしてつくし摘む/祝恵子
つくしの出ている野原には、仏の座やおおいぬのふぐりなどの花が咲いていて、つくしを摘んでいると、自然にそのような花に触れることもあり、つくし摘みの楽しさが伝わってきました。(井上治代)

★林間に大きく懸かる春夕焼け/丸山美知子
木と木の間にまるで虹のように夕焼けの空があり、その空は少しずつ変わっていき、いつまで見ていても飽きない景色だったと思います。(井上治代)

★春風の集いしところ頂は/多田有花
遮るもののない頂に辿り着くと、春の日差しが溢れ、春風が四方から吹いてきて、解放感に溢れ、この上ない安らぎを感じます。その心地よさを「春風の集いしところ」と表現されたのは妙だと思います。 (柳原美知子)

★花こぶし映し水面の揺れ始む/川名ますみ
花こぶしを静かに映していた水面に生じた小さな動きにはっとした作者の心の動きが伝わってきました。水面の白い花が光にまぶされてゆらめくさまに、あたたかい春風のそよぎを感じます。 (臼井愛代)

★春ショールたたんで膝にさくら色/川名ますみ
春も半ばになると、冬の防寒の意味が薄れ、アクセサリーとして、色の明るいショールを和服の肩掛けに用いますが、特にこの二三日は寒さが戻り、春寒しの感があります。膝に春らしい桜色のショールを置いて春のぬくもりを感じている作者。とても素敵な光景ですね。(小口泰與)

★川端に七色十色風車/井上治代
川沿いの心地よい風が子どもたちのもつ風車をまわしています。七色なのか十色なのか、心地よく回る風車が春の爽やかさを感じさせてくれます。 (高橋秀之)

【入選Ⅱ/12句】
★夕闇に辛夷の占むる一ところ/藤田洋子
夕闇に包まれ白く咲く花辛夷の一所だけが、灯を点すように明るい。春の夕暮れ時の情景がよく見えます。 (飯島治朗)

★さえずりや田を賑わしき耕運機/小口泰與
鳥のさえずりが響く中、田を耕している耕運機の音も響いている。春先の穏やかな光景です。 (高橋秀之)

★菜の花や榛名に向かい深呼吸/小口泰與
田園地帯が菜の花に彩られる季節になりました。その明るさ、長閑さに、春が来たという実感が湧き上がります。思わず、榛名に向って深呼吸したくなるようなうれしい実感です。(臼井愛代)

★百合樹の芽吹く広場や版画館/渋谷洋介
広場の百合の樹のさみどりの芽吹きが、街に、春らしい明るい印象を与えています。版画の素朴な躍動感とも相通じる生命感があります。(臼井愛代)

★青空へ大きく開くチューリップ/高橋秀之(信之添削)
いかにも伸びやかな春の花壇です。陽光を受け、空に向けて大きく耀く、チューリップならではのシンプルな姿が描かれています。(河野啓一)

★朝の空気ひときわ澄みし初音聴く/藤田裕子
何とも言えない爽やかな気分。今日一日よいことがありますよ。私も嬉しくなつて参りました。(宮本和美)

★春水を筆にたっぷり風と書く/藤田荘二
「筆にたっぷり」という豊かな響き、「風」という字のおおらかな姿、これらを力強く縄なって春の気をどっしりと届けてくれています。(小西 宏)

★教会の門戸開かれ初音かな/桑本栄太郎
オルガンの音、讃美歌の声、あるいは手を組んで跪く祈り人に春の風が優しく触れています。そんな新鮮な鶯の声です。(小西 宏)

★手を振って春泥の庭児が過る/矢野文彦
ニコニコとした笑顔や上下に弾む脚の動きが(文字に直接書かれていないのに)元気よく伝わってきます。(小西 宏)

★山桜先に満開兄の家/甲斐ひさこ
一足先に山桜の咲き満つ兄の家。満開の山桜の明るさに、作者のお兄様へ寄せる優しさや敬意があらわれているようです。 (藤田洋子)

★柳の芽風のある日は風に添う/村井紀久子
柳の芽の柔らかなしなやかな動きが見てとれるようです。風のある日の柳の芽の揺れをよく捉えていると思います。 (藤田洋子)

★春光や千手観音しなやかに/篠木睦
千手観音像が春の日差しを浴びているのでしょう。しなやかにという表現が春の日の暖かさを感じさせてくれます。 (高橋秀之)

●入賞発表/3月15日(日)~3月21日(土)

2009-03-21 13:15:39 | 入賞発表
■3月15日(日)~3月21日(土)
□高橋正子選

【最優秀】
★希望なお地にありいぬふぐり咲けば/多田有花
一見、理屈が勝っているように見えるがそうではない。昨今の世情不安の世の中、どちらを向いても希望がないように見える。いぬふぐりの青い花が地上にきらきらと咲けば、やはり「地に」、言い換えれば、地球上に希望があると思えた。自然の小さな花によって希望が湧いたのだ。(高橋正子)

【特選/5句】
★涅槃西風空に来るもの去りしもの/藤田洋子
涅槃会の頃に吹く風に西方浄土からの風と古えの詠み人は人の心へ特別の思いを抱かせた。空に来るもの去り行くものと読者にとっても時の流れ、季節の移ろいの中に心の奥に思い起こさせてくれるものがあります。作者の思いは広くて深い句になった、好きな句です。 (志賀泰次)

★彼岸会の合図の鐘は星空へ/黒谷光子
彼岸会は、秋と春の彼岸の間に行われる寺の法会。俳句で彼岸会といえば、春の彼岸会を指す。この句では、お寺の鐘を合図に始まるようだ。星空へ向けて、村のみんなの家に届くようの鳴らす。昔ながら、彼岸会に集まる人たちがいて、寺がある。(高橋正子)

★滔々と坂東太郎下萌ゆる/小口泰與
奥深い雪の山々の上流からの雪解水。滔々と流れる蒼い川。下萌の草の青。景が実によく見えます。季語がよく効いています。 (飯島治朗)

★翔ぶかたちゆるり整え鳥雲に/志賀泰次
北へ帰る渡り鳥が、方向を見定めるためか、仲間が揃うのを待つのか、隊列を整えるまで旋回を繰り返し、その後逡巡なく真っ直ぐ飛び去る様は見飽きることはありません。この間の情景を「ゆるり」と表現されたのだとおもいます。春の空の明るさと、おおらかな気分が込められているとおもいました。(藤田荘二)

★一畝を外れ菜花の風に揺れ/甲斐ひさこ
畝を外れて、菜花が咲いている。種がこぼれて咲いたのだろうが、畝を外れているだけに、菜花の姿がよく見える。風を受けて揺れて、いかにも春を感じさせてくれる。(高橋正子)

【入選Ⅰ/10句】
★対岸の斑れの山が近くなる/志賀泰次
網走にもようやく遅い春がやってきました。雪解けが進む対岸の山、北国の春の訪れに寄せる喜びが「近くなる」からしみじみと感じられます。(多田有花)

★上州の辛夷咲く日の風素直/小口泰與
上州といえば空っ風が思い浮かびますが、この日の風は違ったのでしょう。辛夷咲く日がよく効いて春の風のやさしさが伝わってきます。(高橋秀之)

★花菜洗う小さき花の黄水に浮き/祝恵子
小さくても水に浮く花菜の黄色が鮮やかで、いそいそと食事の準備をしている作者の様子が目に浮かびました。花菜はおひたしになるのでしょうか。 (井上治代)

★注ぎ入る水音傍に蝌蚪の紐/臼井愛代
やわらかに注ぎ入る水の音に水底を覗き込めば、ぬるりとした蛙の卵。音と、水のゆらめきとに、春の到来をしみじみと感じさせてくれます。 (小西 宏)

★水草生う命の力湧き出でて/河野啓一
水温む季節なってきました。さまざまな水草が、まさに「命の力」として生え始めています。春の生命の張り、歓喜を感じるいきいきとした句です。 (多田有花)

★小さくともタンポポの黄は遠目にも/宮本和美
タンポポがあちらにもこちらにも咲き、明るく辺りを照らしてくれています。黄色は目立つ色で遠くからみても、はっきりその姿が分かります。小さな命の輝きのすばらしさを感じました。 (井上治代)

★木蓮の向こうに広がる空青し/高橋秀之
空の色に映える木蓮も、広がる青空も、ともにくっきりと際立つ美しさです。花も空も明るくみずみずしい風景の広がりに、心も晴ればれとします。 (藤田洋子)

★春の潮満ち来るものの静けさよ/志賀泰次
「満ち来るもの」の充実を作者が「静けさよ」と受けたのは、作者自身の心の「「静けさ」でもあって、そこが深い。(高橋信之)

★花辛夷空晴晴と雑木林/渋谷洋介
「晴晴と」した空の下の「雑木林」がいい。雑木林の中の「花辛夷」がいい。街中の「花辛夷」とは美しさが違うのだ。(高橋信之)

★山風の椿を吹きて露天湯に/柳原美知子
俗なところから開放され、いい風景だ。作者が「露天湯に」浸かっているかは、どちらでもいい。(高橋信之)

【入選Ⅱ/15句】
★山の春氷柱の滴のきらめきに/藤田荘二
柔らかく降り注ぐ日差しが、がっちりとした山の氷柱も溶かす頃となりました。その滴のきらめきや、滴の落ちる小さな音に、「山の春」の実感があります。(臼井愛代)

★春日和枝に幾つも子の上着/飯島治朗
春の日差しの暖かさに、子供たちが思わず脱いだ上着が、木の枝に無造作に掛けられているのでしょう。戸外で元気に遊ぶ子供たちの明るさや素朴さが感じられて微笑ましい御句と思います。(臼井愛代)

★空に揺る木蓮真白影揺らし/祝恵子
木蓮は中国原産の落葉高木で、玉蘭の別名もあるように僅かに陰影を帯び、白く風に揺れる豊かさは壮観です。偶然、箕面の山近くで綺麗な満開の木をみかけたばかりで、まさにそのとおりかの風情が印象的でした。(河野啓一)

★五輪咲き道後の桜大写し/藤田裕子
先日、全国にさきがけて開花した道後の桜の映像が流れました。クローズアップされた初々しい五輪の花びらが、ありありと目に映り、実に新鮮な明るい思いを抱かせてくれます。 (藤田洋子)

★離れつつ寄りつつ二人春田ゆく/小西 宏
二人の人が、「離れつつ寄りつつ」行く様子がのどかです。その場所が田んぼであるのですから、明るく平和な、まことに春らしい情景となっています。(臼井愛代)

★薔薇の芽のチョコレート色して優し/井上治代
薔薇の芽の、まるでチョコレートの色のようだと思えるほどの深く濃く優しい赤。その芽には、薔薇が華やかに開花する時までの豊かな時間が詰まっているかのようです。(臼井愛代)

★マフラーの色淡くして美術館/村井紀久子
まだマフラーを巻きたくなる寒さの残るなか、それでも兆し始めた春の気配に、淡い色調のものが選ばれたのでしょう。マフラーを淡い色にして美術館へ出かけた楽しい一日に、春の明るさ、軽さが感じられます。(臼井愛代)

★一瞬の影置き初蝶遠ざかる/小川和子
一瞬の影を見せて遠ざかってしまった初蝶に心を残されている作者の心境が伝わってきます。春の到来を告げるかのような、初蝶とのうれしい出会いです。(臼井愛代)

★春半ばオリオン大きく西へ行く/古田けいじ
冬の代表的な星座であるオリオン座も西の空へ移動しました。季節の移ろいを星座で感じるところに楽しさがあります。(高橋秀之)

★茶話弾み叔母の手づくり桜餅/桑本栄太郎
桜餅をほおばりながら話が弾むひとときが春の暖かさ、のどかさを伝えてくれます。それがご親戚の手作りで、なおさら楽しいひとときだったのでしょう。(高橋秀之)

★水牛車手綱捌きの長閑なり/國武光雄
手綱捌きが長閑にみえる水牛車。実際はそんなことはないのでしょうが、それが長閑な感じるところに、春の楽しさがあります。(高橋秀之)

★春雲と湖面大きく天守閣/前川音次
静かな湖面の水色の空に白い春の雲がふんわりと浮き、天守閣がくっきりと映って漂う水に光っています。のどかで光溢れる春の到来です。 (柳原美知子)

★はこべらの萌えて懐かし産土の家/堀佐夜子
はこべらの柔らかいみどりが地面を覆い、星のような白い花がポツポツと春光に輝いている産土の家。佇んでいると過ぎ去った歳月を忘れてしまうかのようです。 (柳原美知子)

★全身の力を抜きて草青む/篠木 睦
春の陽光に、芽を出した草がいつの間にかすくすくと伸び、青々と輝きを放っている。そんな飾り気のない草を見ていると、自然に素に戻って、あるがままの姿でいられるような気がします。 (柳原美知子)

★小糠雨ふっくら包むふきのとう/丸山美知子
細かな雨に包まれるふきのとうが、ことさら柔らかくみずみずしく感じます。萌え出る春の息吹そのもののふきのとうへの、作者の優しい心情がうかがえます。(藤田洋子)

※コメントの無い句にコメントをお願いします。書き込みの場所は、下の<コメント>です。よろしくお願いします。
※入賞発表の作業中ですので、コメント以外は書き込みを禁止いたします。お礼などは、午後12時過ぎてからお書き込みください。

●入賞発表/3月8日(日)~3月14日(土)

2009-03-14 07:11:23 | 入賞発表
■3月8日(日)~3月14日(土)
□高橋正子選

【最優秀】
★きらめきの水面一巡鳥帰る/篠木 睦
冬を過ごした水面を見納めるかのように、帰る鳥は、一巡する。「きらめきの水面」の印象が、読者にとっても、帰る鳥にとっても鮮やかである。(高橋正子)

【特選/5句】
★花あしび谷吹き下る風のなか/臼井愛代
小さい鈴がいっぱい下がっているような馬酔木の花、谷を下りてくる風に揺れて、かわいい音を奏でているようです。(黒谷光子)

★草萌を幾度と踏み行き幼き子/上島祥子
萌え出でる草々の柔らかくみずみずしい、春の生気を生き生きと感じられる光景です。幼子への温かな眼差しとともに、「幾度と踏み行く」幼子の姿に、逞しい成長を願う思いも込められているようです。(藤田洋子)

★梅咲けるそこに明るく谷戸の道/藤田荘二
谷沿いに咲いた紅白の梅がほのかに香り、春の光が水辺に射して、きらめいている。梅が咲くと谷戸に一気に春が来て、道も心も明るくしてくれるようです。 (柳原美知子)

★傾きて摘草の籠草の上/宮本和美
傾斜した土手沿いでしょうか。おかれたままの、摘草を入れる籠が心に残ります。草あおむ春の訪れです。 (小川和子)

★それぞれの雑木に囀降らせつつ/柳原美知子
それぞれの雑木から、春の鳴禽類のいろいろな囀が聞こえてきます。明るい囀の降る自然の中で、季節の喜びに浸るひとときを感じます。(藤田洋子)

【入選Ⅰ/15句】
★凍滝に時うごきだす水の音/志賀泰次
凍っていた滝も、時計の針が動きだすかのように溶け出して水音がするようになった。北国の春はすぐそこまで来ている。景がよく見えます。(飯島治朗)

★地の息吹き集めて浅間木の芽かな/小口泰與
春の息吹をいっしんに集めて芽吹く木々。「浅間」の地名が一句を生かしているように思います。(小川和子)

★フラミンゴ彩添え春の動物園/河野啓一
フラミンゴの鮮やかな華やぎを添え、心躍るような明るさの満ちた春の動物園です。にわかに春めく気配に、動物たちの生き生きとした表情も見てとれるようです。(藤田洋子)

★マラソンや丹波篠山木の芽風/堀佐夜子
山深い丹波篠山の木の芽風の吹く中、爽やかな空気を吸って走る、丹波篠山の市民マラソンの長閑な光景がリズミカルに詠われて、素敵な句です。(桑本栄太郎)

★春月にきれいと洩れて消ゆる声/川名ますみ
思わず「きれい!」と洩れる春月ですね。私も先日きれいな朧月を見てました。(丸山美知子)

★野の香り溢る草餅届けられ/黒谷光子
持つて来られた手作り草餅。その好意に感謝しながら、食されている詠者の姿を添想像致しました。ご近所付き合いの深さを感じさせる微笑ましい句と存じます。(宮本和美)

★菜の花や一反畑の黄のさかり/桑本栄太郎
「黄のさかり」が菜の花の鮮やかな広がりを目の前に見せてくれるようです。黄色一色ですね。(多田有花)

★谷戸山の緋寒桜に迎えられ/渋谷洋介
山道を登っていくと、緋寒桜が美しく咲いていて、ほっと一息ついて、静観していると、まるで、作者がくるのを心待ちにしていたような桜の姿に「迎えられ」という下五の言葉が浮かんできたのではないでしょうか。 (井上治代)

★生きていく限りは別離鳥雲に/多田有花
何度も読み返すうちに詩の情感がよく伝わり好きな句です。 (篠木 睦)

★せせらぎの音に傾ぎて野ばらの芽/甲斐ひさこ
心地よいせせらぎの音に耳をすますかのように川岸に枝垂れている野ばらの芽。春の野の光に包まれて生命が輝いています。 (柳原美知子)

★水を得てげんげ卓上の花となる/小川和子
野に摘むげんげが水を上げて、生き生きと可憐に開く嬉しさ。げんげのつつましやかな春の彩りの卓上に、作者の優しい心遣いも感じられます。(藤田洋子)

★池の面に青き空あり土筆摘む/宮本和美
一読して春の長閑さを感じました。さらに土筆を摘まれている作者が、春の恵みに感謝するとともに春を謳歌している様子が眼に浮かんできます。 (飯島 治朗)

★角島や灯台までを花大根/宮本和美
大根の一つ一つの花は素朴ですが、一面の花大根になれば、集団の美しさに感動します。角島というところに行ってみたいと思いました。(井上治代)

★畑芹に声の弾みて青き空/小口泰與
みずみずしい芹の育つ畑、畑仕事の声も明るく青空へと響き、伸びやかな春田の光景に心も晴ればれとしてきます。 (藤田洋子)

★花馬酔木花も樹も揺れ風の中/河野啓一
風に揺れる花は、風情のあるものですね。可憐な花馬酔木だとなおさらだと思います。また、「花も樹も揺れ」とたたみかけて詠まれたことで、詩情が豊かに広がっていき、読む人にとって臨場感のある句になったと思います。 (井上治代)

【入選Ⅱ/12句】
★梅見かな香に包まれて上る坂/飯島治朗
「上る坂」がいい。梅の香に包まれ、「上る坂」の少しの緊張に、ゆったりとした時間が流れる。偶然であろうが、いい時を与えられた。(高橋信之)

★パンジーを植える小さなスコップで/高橋秀之
「パンジー」に春の喜びがある。「小さなスコップ」に子ども達の嬉しい声が聞こえてくるようだ。(高橋信之)

★春月や狭庭の試歩となりにけり/前川音次
わが家の庭の「春月」である。病癒えて、日常の風景が嬉しい。日常の生活が嬉しい。(高橋信之)

★供花挿して山の初音を聞きとめし/藤田洋子
山のお寺へお墓参りでしょうか。お花を供えていらっしゃるときに鶯が啼きました。初音の新鮮な音に山の空気が一瞬ひきしまったようです。 (多田有花)

★雲間より春月すっきり光り出づ/藤田裕子
すこし気温が下がり、今夜の月の姿はすっきりとしています。先ほどまで雲に
覆われていましたが、明るい月が姿を見せました。 (多田有花)

★二人してキリンを眺む春の雲/小西 宏
奥様とお二人並んで動物園のキリンを眺められているのでしょうか。
なんどもほのぼのとした雰囲気です。キリンの優しい目、その上の春の空和みます。 (多田有花)

★生まれきて初めに春の陽を握る/川名ますみ
春生まれのみどり児が産声をあげながら最初に握るものは、生命力と希望に満ちた、明るい春の陽なのでしょう。生まれてきたひとつの命へのきよらかな讃歌と存じます。(臼井愛代)

★豌豆の花芽を待ちぬプランター/祝恵子
プランターでたいせつに育て始めた豌豆に、花芽を見つけたときのうれしさ。ささやかではありますが、このような瞬間も、普段の生活の中で出会う幸せですね。(臼井愛代)

★遠足の弁当なつかし母の味/井上治代
母のお弁当に定番で入っていたものの味は忘れられません。遠足という心浮き立つ思い出にまつわる素朴で優しい「母の味」を詠まれて、しみじみとした御句と思います。(臼井愛代)

★わかさぎの細波のうえ雲流る/丸山美知子
ワカサギ釣りの釣り糸の動きで波が立っているのでしょう。その上をゆったりと雲が流れる風景に、春の穏やかさがあります。(高橋秀之)

★春眠やベートーベンのソナタ「春」/古田敬二
春眠暁を覚えずといいますが、クラッシック音楽が心地よい眠りをさらに気持ちよくさせてくれているのでしょう。(高橋秀之)

★空青く次々さくや花えんどう/小河原宏子
大空の青さが春の深まりを、次々と咲くに春の喜びを感じます。春がきて嬉しいという心情がよく伝わってきます。(高橋秀之)