鏡海亭 Kagami-Tei  ウェブ小説黎明期から続く、生きた化石?

孤独と絆、感傷と熱き血の幻想小説 A L P H E L I O N(アルフェリオン)

生成AIのHolara、ChatGPTと画像を合作しています。

第59話「北方の王者」(その1)更新! 2024/08/29

 

拓きたい未来を夢見ているのなら、ここで想いの力を見せてみよ、

ルキアン、いまだ咲かぬ銀のいばら!

小説目次 最新(第59)話 あらすじ 登場人物 15分で分かるアルフェリオン

『アルフェリオン』まとめ読み!―第3話・後編


【再々掲】 | 目次15分で分かるアルフェリオン




 ――みんな……。
 メイは我に返り、決意した。
 彼女の念信がしっかりとした響きでルキアンに伝わってくる。
 ――ルキアン、よく聞いて。これからアルフェリオンを切り離すわ。そちらが泳げるかどうか知らないけれど、このままでは2人ともやられてしまう。私は敵を引きつける。キミはクレドールとともに脱出しなさい。
 ――そんな!
 ルキアンが動揺している間に、メイは一方的にアルフェリオンを切り離しにかかった。
 ロックを外され、アルフェリオンが風圧でぐらりと傾く。
 ――待ってください! 死んじゃだめだっ!!
 アルフェリオンの体が宙にふかれ、ラピオ・アヴィスの上から吹き飛ばされていく。そして凄まじい速さで海面に向かって落下し始めた。
 ルキアンの心の中に、メイの落ち着いた声が伝わってくる。
 ――ルキアン君、ほんとに短い間だったけど、なかなか面白かったよ。バーンたちにもよろしく。
 そこで念信は途切れた。
 ラピオ・アヴィスは、重荷から解き放たれて素早く飛び立ち、さらに上空へと登っていく。
 敵のアルマ・ヴィオが群をなしてそれに続いた。

 ――そんなの、そんなのないよ……。
 わずかの後、大きな水しぶきと轟音を立てて、アルフェリオンが海面に叩きつけられた。
 海の底へと機体がゆっくり沈んでいく。それにつれてルキアンの意識も薄れていく。

 だが、そのとき。

 ――お友達を見捨てて、すぐにあきらめるのは……いけないことだわ。
 ルキアンの脳裏に、不意にぽつりと言葉が浮かんだ。
 水面に落ちたひとつのしずくが、波紋となって周囲に広がっていくように、謎の声が彼の心中に響きわたる。
 ――誰?
 そう言いつつも、ルキアンはこの声に聞き覚えがあった。
 忘れもしない。カルバの研究所をアルフェリオン・ドゥーオが破壊したとき、ルキアンを導いたあの女の声である。
 なぜか彼の意識のうちに、必死に抗戦するクレドールの姿がくっきりと浮かび上がった。
 ――見なさい。あの船には、あなたのことをきっとよく分かってくれる人たちが……あなたの仲間になるはずの人たちが乗っている。空の上でも、大切なお友達が苦しんでいるじゃないの。
 ――僕のことを、分かってくれる人たち……。
 無数の痛ましいイメージと、薄暗いほこらの中に白く浮かんだあのセラス像の姿が、ルキアンの心の中で絡み合い、激しい渦となった。
 ――《あそこ》には、僕の探している《未来》はなかった。
 ――《ここ》ならきっと見付かるはずよ。あなたの《未来》を指し示してくれるものが。
 ――でも、僕にはどうすることもできないよ。
 ――そんなことはない。あなたが望めばいいの。ただ望めば……。
 ――望む?
 ――そう。大切な人たちを助けたいと心から祈りなさい。未来を取り戻したいと強く願いなさい。そして、自分にはそれができるのだと、まずあなた自身が信じるのです。

 ルキアンの心に小さな炎が灯った。
 それは、たちまちのうちに大きく燃え広がり、薄れつつあった彼の意識を呼び覚ましていく。自分でもわけがわからないままに、激しい闘志と勇気がわき上がってくる。
 ――僕に力を貸して、アルフェリオン……。
 ルキアンの気持ちに呼応するかのごとく、巨大な閃光が海を覆い尽くした。
 満ちあふれる魔力。
 海面は嵐の最中のように荒れ狂う。
 輝く翼が羽ばたき……白銀のアルマ・ヴィオが天に向けて咆哮する。





「大変! メイったら、1人で敵を引き付けるつもりだわ!」
 セシエルが叫んだ。
 クレヴィスが立ち上がり、廊下に向かって歩き出した。
 彼はすれ違いざま、カルダインにそっと告げる。
「私もアルマ・ヴィオで出ましょう。メイを死なせるわけにはいきません」
「しかしクレヴィス、お前の《あれ》は整備中だったが」
「えぇ。でも動けば、それで十分ですよ」
 だが艦橋の出口のところまで来たとき、クレヴィスがふと立ち止まった。
 彼は、日頃あまり見せることのない神妙な顔をしている。
「とてつもない力を感じます。これは、いったい……」
 ――エルヴィン、今の力を感じましたか?
 ――はい。
 少女の声。ただしそれを聞くことが出来たのは、艦橋の中ではクレヴィスのみであった。
 クレヴィスは目を閉じて、音にならない心の声に耳を傾ける。
 ――この魔力の源が分かりますか?
 ――すぐ近くに《それ》がいる。安心して、敵ではないと思う。身震いするほどの魔力、哀しい叫び……。

 クレドールの中央部分、艦の心臓部に位置する一室。
 少女の声はここからクレヴィスに届いていた。
 この広間の中には、植物のつた状の暗緑色のチューブが無数に《茂って》いる。それらは床を這い、壁面までをも何重にも埋め尽くし、天井に至る。ときおり、そこかしこのチューブがまるで生きているように脈打つのが、不気味と言えば不気味である。
 この異様な空間の真ん中に1本の《樹》が生えていた。大小さまざまなチューブは、全てここに端を発している。
 《樹》をよく見ると、幹の真ん中に透明なクリスタルでできた部屋らしきものがあった。その形態は、ちょうどアルマ・ヴィオの《ケーラ》(コックピット)に似ている。ただし、こちらの方が一回り、あるいは二回りほども大きいが。
 その中には美しい少女がいた。やや青みがかった長い黒髪に、天の芸術家によって造られた白磁の像を思わせる、異常なまでに白く滑らかな肌。
 細い肩、どこか寂しそうに沈んだ顔つき、風でも吹けば壊れてしまいそうに繊細な、硝子細工の妖精。
 彼女は生まれたままの姿で、水晶の棺の中を満たす緑色の液体に浮かんでいた。植物の根のごときチューブがその中に繁茂し、彼女のからだに幾つも絡みついていた。
 彼女は眠っているようにも見えた。ただし、ときおり小さくうなずいたり、囁くような、吐息とも、うめきともつかぬ声を上げている。
 驚くべきことに、このか弱い少女から凄まじい魔力が感じられる。
 おそらく、特別な感覚を持たぬ普通の人間でも、この広間に入った途端、肌を刺す霊気のほとばしりを感じるであろう。
 ここはクレドールの心臓であり、この少女はクレドールの命であった。彼女は、艦の《柱の人》あるいは単に《柱》と呼ばれる役割を果たしている。
 実は飛空艦もアルマ・ヴィオ同様に半ば《生きて》いる。ただし《柱》はエクターとは違って自ら艦を操ることはない。そして何よりも、エクターよりもさらに大きな魔力を持っていなければならない。その力を利用して、飛空艦は大気中の霊気をより効率よく動力に変換することができるのだ。
 《柱》の力は常に必要なわけではない。もちろん飛空艦は自分自身の力で飛ぶことが出来るのである。しかし戦闘の場合等、船の全力を出そうと思うと、《柱》の力が欠かせなかった。
 彼女、エルヴィン・メルファウスがこの船の《柱》であり、同時にいまクレヴィスと話しているその人であった。

 ――翼が見える。鎧に身を包んだ天の騎士が来る。
 エルヴィンはクレヴィスに伝えた。彼は黙って聞いている。
 ――なんて痛々しい、寂しそうな……傷ついた、こころ。
 ――そして《もうひとつ》は。
 ――あまりに哀しい、けれど憎しみに満ちた、全てを飲み込もうとする破壊への意思……。





 正体不明の強大な魔力が一帯を覆い始める。
 それに気付いたのはクレヴィスたちだけではなかった。
 ――隊長、パンタシア感覚器に異常が発生しました! 計測不能な超高出力の反応あり!! 場所は……馬鹿な、すぐそこ?!
 配下のアートル・メランから、ミシュアスに念信が入る。
 ――慌てるな。
 そう言った矢先、彼も異変を感じた。
 息苦しいほどの威圧感。空気が重い。
 ――何? この凄まじい力は。どこだ、海の方から……まさか?!
 ミシュアスは本能的に危険を感じ、ほとんど第六感によって回避運動をとった。
 それとほぼ同時のことである。まばゆい光の帯が海面から上空まで一閃し、直後に鞭のごとくしなって左右に揺らめいた。
 ほんの一瞬の出来事であった。光が弧を描いた場所で、2機のオルネイスが両断されていたのである。ナイフでバターを切るように、いとも簡単に真っ二つにされ、炎上したまま海面に落ちていく。
 メイは、そこで何が起こったのか理解できなかった。
 ――白い、影?
 眼下の海面の方に何かが見える。
 それはまさしく奇跡に感じられた。
 クレドールのクルー、そしてミシュアスやガライアの乗組員たちまで、
 この場に居合わせた誰もが身を震わせる。
 それは白く輝く巨大な十字架を思わせた。
 静かに、気味が悪いほど静かに、宙に浮いているのは……。
 翼を大きく広げたアルフェリオンである。

 凍った、時間。そして……。

 甲冑同様の分厚い金属製の外皮が、鈍い音を立てた。
 アルフェリオンの左右両方の肩当てがゆっくりとスライドする。
 胸部の鋼板も開き、青く光る楕円形のレンズ状の装置が姿を見せた。
 ルキアンの心の中に、聞き慣れたアルフェリオン・ノヴィーアの声、あの中性的で無機質に歌うような声が伝わってくる。
  ――パンタシア変換最大値、急激に上昇中。通常動力に代わって、ステリア系を作動させます。
 アルフェリオンの肩と胸の部分には吸気口が現れ、まるで巨大な生き物が呼吸をしているかのごとく、その吸気音が周囲に不気味に響きわたる。
 最後に、突撃を前にした騎士が兜頬を下ろすのと同じく、頭部のバイザーが顔面に降りていく。
 その奥で赤い眼が光った。

 ――何をしている? 敵だ!!
 ミシュアスが部下に念信を送りつつ、自らも攻撃の態勢を立て直そうとする。
 アートル・メランの1体が海面の方に向かおうとした、そのとき……。
 空を引き裂くような鋭い鳴き声が、辺りにこだました。
 アルフェリオンは、信じられないほどの速さで海面から上空まで一気に上昇し、アートル・メランの横に並ぶ。
 ――馬鹿な?! 汎用型のアルマ・ヴィオがどうしてこんな速さで。
 アートル・メランのエクターは絶句した。
 彼の脳裏にミシュアスの念信が響く。
 ――かわせ! 早くしろ!!
 だが既に遅かった。
 アルフェリオンのマギオ・スクロープの砲身が、瞬時に背中から左肩に跳ね上がり、アートル・メランに強烈な雷撃を叩き込む。
 青白い電光が、太いビームとなってアートル・メランを頭部から串刺しにした。
 光はそれでも直進を止めず、クレドールと交戦中の敵艦の目前で海面を貫き、大きな水柱と水蒸気を立てた。
 ガークスの乗ったガライアが激しく揺れる。
「どうした、新手の敵艦の砲撃か?!」
 思わず椅子から立ち上がったガークス。そのたくましい体も、大揺れの中でふらつきそうになる。
「分かりません。上空から、恐らくあのアルマ・ヴィオからの雷撃です!!」
 そう返答した部下に、ガークスは声をやや震わせていった。
「まさか、あのアルマ・ヴィオのマギオ・スクロープは、飛空戦艦の主砲並みの威力を持っているというのか?! ありえん、そんな……」



10

 ぼんやりとしていたメイは、アルフェリオンの姿を見て我に返った。
 一瞬の隙をついて、ラピオ・アヴィスもオルネイスに向かって猛進する。その金属の鋭い爪が敵の首をとらえ、くちばしが頭部を打ち砕く。
 ――勝てる……勝てるわよ。
 メイはもう1機のアートル・メランに向かって、マギオ・スクロープを発射した。
 しかし敵も、慌てながらもそれを素早く回避する。
 アートル・メランの胸部にある2門のマギオ・スクロープから、轟々と燃える炎が走った。それを皮切りに、ラピオ・アヴィスとアートル・メランは空中で激しく交差し、離れ、闘い始めた。

「カムレス、右舷の砲列を敵旗艦に向けろ! 砲手長に連絡、一斉射撃!!」
 カルダインが叫ぶ。アルフェリオンの思わぬ加勢によって、艦内の士気も上がっている。
「敵は怯んでいる。砲撃しつつ、退路を確保」
「了解!」
 カムレスは大きく舵をきった。
 そしてクレヴィスが、カルダインと無言でうなずき合う。
 クレヴィスは気軽な声で囁くように言う。
「セシー、メイに念信を伝えてください。今のうちに帰還するように」
「わかったわ」
 セシエルは念信のコンソールを操り、メイに連絡を始めた。

 ――敵艦をなんとかしたい……どうしたらいい?
 ルキアンはアルフェリオン・ノヴィーアに尋ねる。
 ――《ステリアン・グローバー》を使用するのが良いでしょう。味方を巻き込まぬよう、出力はこちらで縮減させます。
 ノヴィーアは機械的に即答した。
 空中でアルフェリオンの動きがぴたりと止まった。
 4対の大きな翼と2対の小さな翼が、背中で機械的な動きをし、X型に重なる。翼は次第に白熱化し、つけ根の方からまばゆく輝いていく。
 膨大な魔力がアルフェリオンに向かって流れ込んでいるのがわかる。アルフェリオンの体がぼんやりとした光を放ち始め、周囲の気圧さえも急激に変化していくように感じられた。
 風の流れが、海が……自然に満ちあふれる霊気が共振している。
 アルフェリオンの胸のレンズがその青白い光を強めていく。
 光の渦が次第にはっきりと目に見え、アルフェリオンの周囲を取り囲む。
 この様子を見ていたミシュアスは、底知れぬ危険を直感的にとらえた。
 ――いけない。あれは恐らく……。
 彼はもう1体のアートル・メランに退却命令を出し、自らもこの場から急速に後退し始める。

 ガークスは、アルフェリオンに対する砲撃を命じる。
「ミシュアスめ、口ほどにもないわ。あのアルマ・ヴィオが何をしようとしているかは分からんが、あれでは撃ってくださいと言わんばかりではないか!」
 ガライアの艦砲が上空のアルフェリオンめがけて発射された。
 だが……。
 ガライアの放った魔法弾は、アルフェリオンの近くで急に軌道をねじ曲げられ、向きを変えたのである。

「霊気濃度差による屈折現象です。こんなことが実際に起こるとは」
 クレヴィスがつぶやく。
「ん? そのなんとか現象ってのは?」
 ランディが皮肉っぽい笑みを浮かべて尋ねた。
「簡単に言うと、ある物体の周辺の霊気の濃度が、周囲のそれよりも異常に濃くなると……現実にはあり得ないほどの濃度差が必要なのですが……その物体に向けて進む別の霊気の流れは、進行方向をねじ曲げられてしまうのです」
 クレヴィスの説明を聞いて、ランディはニヤニヤしながらお手上げのポーズを取る。
「しかし、霊気濃度差による屈折現象については、私は本で読んだことしかありません。現実にはありえない、あくまで理論上のことだと思っていました」
 クレヴィスは感慨深げに言うと、アルフェリオンの姿をじっと見つめた。
「ただ、かつての極めて高度な魔法工学によって造られたある仕組みが、この現象を発生させることがあり得るとは聞いています。それは《ステリア》……その昔、旧世界を滅亡寸前にまで追い込んだという、魔の力だと言われています」



11

 アルフェリオンに向けた砲撃がまったく効果を発揮しなかったのを見て、ガークスも不安になってきた。
 彼は歯ぎしりしつつ数秒ほど考えていたが、大声でこう叫んだ。
「全艦、急速潜行!! ここはひとまず退け!」
 彼の命令を、部下が念信で各艦に慌てて伝えている。

 アルフェリオンの翼がいっそう輝きを増した。
 胸のレンズがぼうっと赤みを帯びたかと思うと、その赤い光が急速に強まっていく。
 それに呼応するかのごとく、アルフェリオンの前に、陽炎のようにゆらめく光のかたまりが現れた。それは次第に大きく膨らみ、こちらもレンズのような形を取り始める。
 周囲を取り巻く霊気の渦が徐々に収束され、強烈な熱と光を放っている。
 ルキアンの気合いが高まり、彼の中で何かがぷつりと切れた。
 と……心のむこうで誰かが振り向いたような気がした。
 姿はよく分からない。
 ただ、ルキアンはその人影にとても懐かしさを覚えた。

 白い閃光が全てを飲み込んだのは、そのときであった。
 何が起こったのか、理解できた者は少ない。
 海が二つに裂けるのを見た者がいた。
 光の柱がガライアを飲み込むのを見た者もいる。
 気が付くと、跡形もないほどに粉々になったガライアの残骸が、海面に漂っていた。
 やがて海は何事もなかったかのように静まり、クレドールは穏やかな波間にぽつりと浮かんでいた。

 ◇ ◇

 白い海鳥が飛んでいく。
 岸辺に打ち寄せるゆったりとした波の向こう、つい先ほどまで激しい戦闘が行われていたとはとても思えなかった。
 港の埠頭近くの小さな浜辺に、アトレイオスの姿があった。
 その足下に大柄な若者が腕組みして立っており、波打ち際で遊ぶ少女を見守っている。
 少女は、熊のぬいぐるみの腕を持って、それを振り回すほどの元気で波と戯れていた。岸辺で砕けた波と、春の穏やかな日差しとが創り出す、光の幻想の中で、彼女は無心に遊んでいる。

「ねー、バーナンドぉ」
「こらこら、メルカちゃん、俺はバーナンディオだってば。バーンって呼んでくれよ」
「んじゃぁ、ばーん。あのね……」
 メルカは風で乱れた髪を片手で押さえながら、無邪気に微笑んだ。
 それを見て、バーンも不器用な笑顔を浮かべ、いかつい肩をすくめた。
「奇跡って、信じる?」
 何の脈絡もなく、メルカの口から不意にこんな言葉が飛び出した。
 バーンはしばらく黙っていた。
「どうだか。でも、もし奇跡ってのがこの世にあるとしたら……たぶん、ただひとつだけ、自分の全てを賭けて信じたときに、初めて起こるのかもしれねェな」
 独り言に近い答えだった。
「ふぅーん」
 メルカはちょこりと首を傾け、不思議そうに目を丸くしている。
「さぁ、お仲間のお帰りだぜ。迎えに行こうか」
 バーンは彼女の背中をぽんと叩いた。
 彼が指さした方角には、沖合から港へと帰ってくるクレドールの姿があった。

【第4話に続く】



 ※1998年6月に鏡海庵にて初公開
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