鏡海亭 Kagami-Tei  ネット小説黎明期から続く、生きた化石?

孤独と絆、感傷と熱き血の幻想小説 A L P H E L I O N(アルフェリオン)

・画像生成AIのHolara、DALL-E3と合作しています。

・第58話「千古の商都とレマリアの道」(その5・完)更新! 2024/06/24

 

拓きたい未来を夢見ているのなら、ここで想いの力を見せてみよ、

ルキアン、いまだ咲かぬ銀のいばら!

小説目次 最新(第58)話 あらすじ 登場人物 15分で分かるアルフェリオン

『アルフェリオン』まとめ読み!―第10話・中編


【再々掲】 | 目次15分で分かるアルフェリオン




 ◇ ◇

 孤愁に浸る少年の目は、うら寂しい運河の風景を見つめている。
 いつになく空が高く思えた。
 その下に這いつくばるようにして、暗く濁った緑色の水路が伸びる。
 錆びた水門はもう開くこともない。苔むした鉄格子は役割を終えていた。
 土手に置かれた古い木の車輪は……
 誰が考えたのか、野草を寄せ植えした小さな花壇に造り替えられていた。

 けだるい午後の光と空気は、ルキアンの思考をむやみに鈍らせる。
 食事も手に着かず、過ぎ行く時に彼は心をゆだねた。
 そんな彼の様子を見て、メイが軽い溜息を付く。
「ところでルキアン。これから、どうするの?」
 彼女の視線が不意に真剣さを帯びる。
「えっ?」
 ルキアンの胸中で、彼女の言葉が何度も反響した。
 答えなんて、考えていなかった。
 途端に沈黙するルキアン。
 彼は曖昧に視線を泳がせ、隣のテーブルでレーナたちと遊ぶメルカを見た。
 マイエとノエルを加えて、4人でカードを楽しんでいる。
 メルカの澄んだ瞳は……いや、無邪気に透き通っているだけに、いっそう哀しみをはっきりと映し出していた。愛くるしさを振りまき、あどけない輝きを一身にまとっていたあのメルカは、もうそこにはいなかった。
 少女を見つめるルキアンに、苛酷な現実が静かに突きつけられる。
 心配したセシエルが、メイの隣からささやく。
「ルキアン君、話は聞いているわ。行方不明になった先生とそのお嬢さん、早く見つかるといいのにね」
 いまルキアンの為すべき全てのことが、彼女の言葉の中に簡明な形で含まれていた――それは、一昨日までの自分の《日常》を取り戻すこと。コルダーユの街で魔道士カルバの弟子として暮らしていた毎日へと、今の現実を少しでも復帰させること。
 分かっていた。そしてメルカを見るにつけ、あの日常へと回帰するための道を必死で探し求めるべきだということも、分かっていた。
 ――しかし、胸を締め付けるようなこの迷いは? 僕は何を迷っている?
 口に食べ物を詰めたまま、バーンが言った。
「ルキアン、そう難しく考えんなよ。しばらくはギルド本部でやっかいになるといいさ。王国の中でも、ここ以上に裏の情報が集まるところは少ないだろうからな。先生の消息とか……何かいいネタが舞い込んでくるかもしれないぜ。本部の方にも、艦長が話を付けてくれただろうし。クレヴィーじゃねェけど、まぁ何とかなるもんだぜ」
 相変わらずバーンの食欲は満たされるところを知らない。困惑するルキアンの顔から、目の前の料理へと、彼はたちまち視線を戻している。
 彼のそんな素朴さ……一部は無神経さではあっても、それが今のルキアンにはなぜか嬉しかった。





「あの、もう少し考えることにします」
 言葉をにごしたルキアンに、メイが鋭く告げる。
「考えるだけでどうにかなるのかしら? キミの《迷い》というのは」
 ルキアンの心の奥底を、彼女の言葉は雷光のごとく射抜いた。
 本当なら、今は迷う必要もないはず。やるべき事は決まっているはず。
 それなのになぜ……。
 動揺するルキアン。
 だがそこで、別の声によって場の雰囲気が一挙に変わってしまった。

「あらら、みーんなっ! 楽しんでますかぁ?!」
 そのとぼけた声には、メイとルキアンの間に漂う緊張感をも打ち消すだけの、思いも寄らぬ威力があった。暴力的なまでに脳天気な口調である。
「げっ、この声はフィスカ……」
 急に寒気を催した様子で、メイは恐る恐る振り向く。
 その瞬間、白衣を着た娘が飛び込んできた。
「わーい、おっ久しぶりー、メイお姉さま! ばふっ!!」
 彼女がメイにいきなり抱きついたので、もう少しでお茶や料理がひっくり返るところだった。
「離しなさいフィスカ! 暑苦しいっ。誰か、笑ってないで助けてよ!」
「寂しかったですよぉ。でも、こうしてまたご一緒できるなんて、感激ですぅ」
「あたしは感激してない。ちっとも嬉しくない。セ、セシー、助けて!」
 やや過激なほどメイを慕っている彼女は、クレドールの看護助手、フィスカ・ネーレッドである。彼女がいるだけで船が何倍も騒々しくなる……と、クルーの間ではもっぱらの評判らしい。
 良く動く黒い瞳と、少し上向き加減の可愛らしい鼻、茶色いお下げ髪。
 キュートな外見と天真爛漫な性格を持つフィスカは、男女両方の仲間たちから人気を得ていた。彼女に会いたいがために、仮病で医務室を訪れる乗員も多く、それはシャリオの苦笑の種になっている。
「ふふふ。いいじゃないの、仲がよろしいことで」
 セシエルは、フィスカとメイの大騒ぎを慣れた様子で無視すると、続いてやって来た2人の男に黙礼する。
 一方は、多くの点で普通のオーリウム人とはどこか違っていた。珍しい漆黒の髪は言うに及ばず、エキゾチックな濃褐色の目、少し黄白色がかった肌。ローブにも似た単純な白装束を、太い帯で体に巻き付けるようにして着こなしている。その上には革のマント。彼の得物も独特で、ゆるやかに湾曲した刀を大小2本、腰に差している。
 まずこの男に向かって、ヴェンデイルが手を振った。
「よぉ、サモン! それに……」
 彼は、そこでバーンに小声で尋ねる。
「サモンの横にいるのは誰だい?」
「お前、知らないのか? カリオスだよ、カリオス・ティエント……」
「カリオスって、あのカリオスか?!」
 ヴェンデイルは好奇の目を走らせた。





 そう、もう一人はギルド屈指のエクター、カリオス・ティエントである。
 顔なじみらしいバーンが大声で言う。
「おーい、カリオス、元気か?!」
 生真面目な笑顔を見せ、カリオスも黙って手を挙げた。
 最強のエクターという呼び声も高い男だが、拍子抜けするほど物静かだ。
 背格好も、顔も、振る舞いも至って平凡だった。しかし何というのか、常人にはない謎めいたオーラの如きものが、彼の全身に漂っている。ごく普通の姿の中に、そのくせ何を隠しているのか分からない、一種の不気味さがあった。
 バーンが2人に同席を勧める。
「まぁ、茶でも飲んでいけよ、カリオス、サモン。なんなら、酒もあるぜ」
 サモンと呼ばれているのは、ギルドのエクター、サモン・シドーである。孤独を好み、以前は一匹狼の賞金稼ぎとして知られていた彼だが、いつの頃からか、ときおりクレドールに同行することも多くなった。
「そうするかぁ。じゃあ、またな、カリオス……」
 抑揚の乏しい、寝ぼけた感じの声でサモンが言う。
 飄々としてつかみどころのない男だ。少年時代から20代半ばの今まで続けてきたという、浮き雲のような放浪生活が、彼の人格にもいくらか反映しているのかもしれない。
「何だ、カリオスは寄ってかないのか?」
 残念そうなバーン。カリオスは申し訳なさげに答える。
「すまない。私は今から、急いでミンストラに乗り込まなくてはいけない。艦長たちを待たせてしまっていることだし……」
「ミンストラ、もう出るのですね。行き先はやはりレンゲイルの壁ですか?」
 ほとんど面識がないのであろう、セシエルがよそ行きの口調で尋ねる。
「そうです。後でカルダイン艦長からお話があると思いますが、ミンストラは皆さんとは別のルートで反乱軍を攻撃します。またベレナで会いましょう。どうかお気をつけて」
 そう告げた後、カリオスは運河沿いの道を港に向かって歩き始めた。
「そっちもな! まぁ、お前なら心配いらねェだろうけどよ」
 彼の背後からバーンが呼びかける。
 聞こえているのかいないのか、カリオスはそのまま静かに歩き去っていく。

 食の進んでいなかったルキアンは、ようやく料理に手をつけ始める。
 メイが皿の上に取り置いてくれた魚の薫製。鮭を連想させるピンク色の肌は、残念ながら中途半端に生温くなっていた。
「あのカリオスさんって、どういう方なんですか?」
 ルキアンは誰にともなく尋ねた。
 当のカリオスの姿は、もう港の方へと遠ざかってほとんど見えなくなっている。
 目を凝らしてその後ろ姿を追いながら、バーンが答える。
「あぁ見えても、ギルドで一、二を争う凄腕のエクターさ。《魔獣キマイロス》を操るカリオス・ティエント、その名を聞けば、賞金首になってる奴らは震え上がるぜ。なんせ、あいつの強さはハンパじゃねェからな。最近も、盗賊と化した某傭兵団をたった1人で壊滅させたって話だ。20体だったか30体だったかのアルマ・ヴィオを全部片付けたというんだから、ほとんど化け物だな。敵でなくてよかったぜ」





「まったくね……。それにしても世の中、分からないものだわ。あんな凄いエクターが野に埋もれていたなんて。以前からそこそこ腕が立つ人だったらしいけど、正直言ってここまで成長するとは誰も思わなかったんじゃない?」
 フィスカの抱擁からようやく脱出したらしいメイ。彼女は意味ありげな笑みを浮かべて、ルキアンの目を見た。
「たぶん、彼の才能が呼び覚まされるためには、ちょっとした《きっかけ》が必要だったのよ」
「きっかけ、ですか?」
「うん。何て言うのかな、今ここで思い切って飛び込んでみたなら、ひょっとして何かが変わるかもしれないって……そんなふうに感じる瞬間。たいていは幻想かもしれないし、思いこみにすぎないかもしれない。だけど、そういう場面、これまでキミにも色々とあったでしょ?」
 メイの髪が揺れて、彼女の香りがふんわりと宙に漂った。
「そ、それはもちろん……」
 ルキアンは喉を涸らした。
 アラム川のほとりから水路沿いに風が吹き抜ける。
 運河に浮かぶ廃船の周囲で、緑の水面が細波を立てた。
 ――何かが変わるかもしれないって……そうなのかな、そうかも、だからあのとき、僕はアルフェリオンの翼を信じた? ここで羽ばたかなきゃ、僕は埋もれてしまうって、永遠の日常に……心地よい溜息の中に? 本当にそうなの?分からないよ!
 言葉を上手くまとめることができないルキアンに代わって、彼の背後で語る者があった。彼にもよく聞き覚えのある女の声だった。
「たとえ《きっかけ》があったとしても、難しいですね……人が自分の意志で生まれ変わるということは。それは自分に付与された《意味》に対する、孤独な叛乱なのですから」
「イミへの反乱?」
 やってきたその人に会釈しつつ、メイが素っ頓狂な声で復唱する。
「えぇ。《私》を形作っている様々な《解釈》……この砂の塔をいったん取り壊して、己の《生》に自分自身の手で新たな解釈を施そうとするとき、私たちは、諸々の《評価》というお仕着せの上着を脱ぎ去って裸になった自分の、その存在の頼りなさに直面し、激しく震えるのです。大抵の人間はその恐怖に耐えられません」
 そう告げたのは、白い法衣姿の小柄な女性だった。彼女はワインやチーズの入った篭を手に立っている。
「あ、シャリオ先生ーっ!! 遅かったですねぇ」
 椅子の上で跳ねるような仕草をしながら、盛んに手を振るフィスカ。
「先ほどまで、医薬品の補給について港で打ち合わせをしていたのです。今回もお世話になりますね、フィスカ」
 シャリオは静かに一礼した。
 全く対照的な船医と助手だが、だからこそ、かえって2人が上手くやっていけているのかもしれない。
「そうそう。これ、ギルド本部からの差し入れですの。船の方にもたくさん運んでもらいましたから、どうぞ気を使わずに召し上がってください」
 シャリオがそう言って篭をテーブルに置くやいなや、バーンとヴェンデイルがわれ先に酒瓶へと殺到する。
「こらぁっ、また行儀の悪い!!」
 彼らの動きを予想していたのだろう、メイが素早く篭を引ったくって、自分の背後に回した。
「アンタたちに渡したら、あっと言う間になくなっちゃうじゃないの」






 3人の馬鹿騒ぎに吹き出しながら、シャリオはルキアンの隣に座った。
「昨日は良く眠れた、ルキアン君?」
「はい。色々と考えて眠れないかと思ったんですが、疲れていたせいで、すぐ寝ちゃいました」
 にっこり微笑むルキアン。わずかに1時間余りの間だったとはいえ、旧世界の塔で冒険を共にしたことにより、彼はシャリオにも親近感を覚えていた。
 それはシャリオの方も多かれ少なかれ同様だった。何しろあの特異な経験を共有したのだから、無理もないかもしれない。
「それはよかったですわ。本当によく頑張ったから、疲れたでしょう?」
「えぇ、とっても。コルダーユを離れてから大変な出来事の連続で……今になっても、僕がここにいるということ自体、現実じゃないみたいに思えて」
「そう感じるのも仕方のないことです。選択する余裕もないまま、成り行きでこんな所まで連れて来られたんですもの。でも次はあなた自身が決める番ですよ、ルキアン君……」
「えっ?」
 ルキアンは眼鏡の奥で目を細めて、不可解そうにシャリオを見た。
「クレヴィス副長が、あなたに話があるとおっしゃって本部でお待ちです。私もその件で呼ばれていますので、よかったら案内させていただきますよ」
「ひょっとして、あの《塔》の話ですか?」
「それもあるでしょうね。お食事中に申し訳ないのですが、明日の出発を控えて副長もご多忙なので、できれば今すぐにでもご一緒いただけると助かります」
 ルキアンの胸が、なぜか早鐘のごとく鳴った。
 恐れ……不安、否、期待?! どうして、何について?
 未知の感情が彼の戸惑いをいっそう大きくした。さきほどまでの迷いと共に。
「どうしたんです、シャリオさん。ルキアンに何か御用?」
 心配そうな顔つきで、メイが話に割り込んできた。いつのまにかルキアンの保護者といった口振りである。
「いえ、私ではなくて副長が、彼に大切なお話があると」
「クレヴィーが?」
「はい。では、メイ、私たちは急いでいるので……」
 シャリオは聖杖で地面を軽く突いた。杖の上端に付けられた幾つかの輪がぶつかって、澄んだ金属音を響かせる。
 半ば連れ去られるように、おずおずと席を立つルキアン。
 すると、彼のフロックの裾を小さな手がつかんだ。
「ルキアン……」
 いつの間に席を離れたのか、メルカが後ろに立っていた。
「行っちゃだめ」
「大丈夫だよ。どうしたんだい、急に?」
「行っちゃダメ。やだやだ。ルキアンとずっと一緒がいいの!」
 突然、メルカは必死になってルキアンの手を引っ張った。
 顔を真っ赤にして、今にも泣き出さんばかりのメルカ。
 シャリオは慌てて彼女の頭を撫でた。
「メルカちゃん、大丈夫よ。ルキアンお兄さんは、あそこに見える本部に行くだけなの。すぐに戻ってきますから」
「嫌、いやイヤっ! ルキアン、離れちゃダメーっ!!」
 メルカがこれほど駄々をこねるのを見たのは、ルキアンも初めてだった。
 異様なほどに取り乱した少女。いったい、なぜ?
「心配いらないよ。僕はいつでも一緒だから……」
 彼は背をかがめて、メルカの額に軽くキスをした。



10

 ◇ ◇

 オーリウムの都・エルハイン――内乱のさなかにあって、王城の警備に当たる近衛兵の数も普段より増えていた。赤紫のフロックに白のブリーチズという派手な衣装の兵士たちが、これまた過剰な装飾の施された小銃を手にして、城内の随所に立ち並ぶ。
 王家の威光を世に誇示するための、要するに《見せるため》の兵士であるせいか、みな一様に、比較的長身で整った顔立ちをしていた。
 城の本館から北館への廊下。宮廷の人々や各地からの使者が慌ただしく通り過ぎていくと、その度に近衛兵たちは物々しい敬礼を行う。精密な機械仕掛けさながらの彼らの一挙一動は、少なからず驚嘆に値する。この儀式張った振る舞いを磨き上げることに、日々の訓練のうち大半の時間を費やしているだけのことはあった。
 そして今、衛兵の間にいっそうの緊張感が漂う。その理由は、向こうから近づいてくる一群の人々にあった。
「我らが王国における真のエクターにして、国王陛下の栄光ある機装騎士団……《パラス・テンプルナイツ》に敬礼!」
 士官の号令と共に、いつになく気合いの入った儀礼が執り行われる。
 兵たちは微動だにせぬ姿勢を保ちつつも、好奇と驚嘆の入り混じった視線を走らせている。仏頂面の近衛兵たちが、日頃にはおよそ見せない態度である。
 先ほど仰々しい名前で呼ばれた《騎士団》が、いよいよやって来た。彼らの服装は様々だけれども、いくつかの点については統一されている。今どき鎧を身に着けているのも珍しい話だが――金色に輝く胸甲。誇らしげに巻かれた真っ赤なクラヴアット。そして何より目立つのは、竜の紋章を紺で描いた純白のマントだった。
「出迎えご苦労」
 先頭を行く男が手短に告げる。20代前半の超エリートである。上品さの中にも、気位の高さが露骨に漂っているような口振りだった。
 彼の髪はほど良く波打ち、色、つや、共に見事な黄金色だ。その瞳には、怜悧さと情熱とが同居した、常人にはない輝きが宿っている。胸甲と同じく黄金色の肩当てと篭手を身につけた彼の姿は、《ナイト》たちの中でも、文字通りの騎士のイメージに最も近かった。
 彼は前髪を手で軽くかき上げると、そのまま衛兵たちの前を通り過ぎていく。
 大きな帽子を被った青年が後に続き、敬礼を続ける兵たちに黙礼した。緑がかった長髪と、涼しげな目元が印象的な美形である。
 長い刀を背負った男。どこか斜に構えた感じの雰囲気だが、その目は狼の如く鋭い。マントと胸当て以外、全て黒ずくめの服装が目立つ。
 次は女だった。燃えるような赤で染めた髪、それに見合ったいかにも気性の激しそうな顔つき。ぴったりとした革の衣装で上から下まで固めている。
 髪を短く刈り上げた、中肉中背の若者――あるいは少年と表現した方が適切かもしれない――が颯爽と歩いていく。太い眉と、気合い十分な眼差し。
 単純な数比べという意味では、国王軍の戦力は議会軍に遠く及ばない。それにもかかわらず、オーリウム国王軍は、議会軍はおろかイリュシオーネの列強の軍隊にすら一目置かれている。その理由というのが、彼ら《パラス機装騎士団》、通称パラス・テンプルナイツの存在なのである。
 9人の機装騎士団のうち、いま5人がここに居るのだった。
 彼らが王城に召集されたことからすると、今後、ただならぬ動きが国王軍に起こる可能性もある。


【続く】



 ※2000年5月~7月に鏡海庵にて初公開
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