鏡海亭 Kagami-Tei  ネット小説黎明期から続く、生きた化石?

孤独と絆、感傷と熱き血の幻想小説 A L P H E L I O N(アルフェリオン)

生成AIのHolara、ChatGPTと画像を合作しています。

第59話「北方の王者」(その1)更新! 2024/08/29

 

拓きたい未来を夢見ているのなら、ここで想いの力を見せてみよ、

ルキアン、いまだ咲かぬ銀のいばら!

小説目次 最新(第59)話 あらすじ 登場人物 15分で分かるアルフェリオン

『アルフェリオン』まとめ読み!―第16話・後編


【再々掲】 | 目次15分で分かるアルフェリオン

11 血路を開け、アレスの覚悟!



 複雑に入り組んだ通路を、何の迷いもなく進んでいくあたりから考えて、イリスは遺跡内部の構造をほぼ知り尽くしているのかもしれない。そんな彼女の様子に驚嘆の念を覚えながら、アレスは後に付いていく。

 だが……。
「いたぞ! あそこだっ!!」
 突然、背後で声がした。甲冑の鳴る音、そして沢山の足音が近づいてくる。
「近衛機装隊? 何だろう? いや、ということは……」
 外で近衛隊を見たときにイリスが怯えていたことを、アレスは思い出した。
 また、現にこちらに向かって駆けてくる近衛隊の雰囲気も、どこかおかしい。
「やべっ。何だかわかんないけど、取りあえず逃げるぞ、イリス!!」
 アレスがそう言うよりも早く、彼女は彼の手を引いて走り出していた。
 右に左に、巧みに追手を巻くようにしてイリスは走る。彼女にこんな元気があったのだと、にわかには信じ難いほどの勢いだった。
 しかしファルマスも馬鹿ではない。アレスたちは最初から《追い立て》られていたのである。考えてみれば……あえて遠くから大声を上げて、自分たちの接近をわざわざ敵に知らせるようなことを、何の思慮もなく近衛隊がするはずがあろうか。
 何度目かの廊下を曲がった時点で、アレスたちはT字型の通路に出た。
 正面に立ちふさがった壁。
 そして左右を見たとき、アレスは愕然とした。両方の行く手に、沢山の兵士たちが整然と並んでいたのだ。しかも前列の兵たちは、片膝を付いて、いつでも撃てる状態で小銃を構えている。
「くそっ、罠だったのか?!」
 アレスは後ろに戻ろうとしたが、背後からもすでに近衛機装騎士たちが迫ってきている。ともかく銃にはかなわない……血路を開ける可能性があるとしたら、こちらだ。
「イリス、俺から離れるんじゃないぞ!」
 腰の短剣を引き抜き、アレスはイリスの前に立って走り出す。
「どけどけ! それとも、俺と正々堂々と勝負しろ!!」
 大声で叫びながら、切っ先を宙に走らせて威嚇するアレス。一応、その剣さばきは鋭かった。剣の腕に覚えのある者でない限り、彼の今の動きを見ただけでも、少し腰が引けてしまうだろう。
「気を付けろ! ガキだと思ってあなどるなよ」
 近衛隊の誰かが仲間に告げる。
 機装《騎士》といっても、剣や槍の達人である昔日の騎士とは違う。あくまで彼らはエクターなのだ。並みの軍人以上には武術の心得があるとはいえ、特別に剣士としての修行を積んでいるわけではない。そんな彼らの目には、アレスは相当の強敵と映った。
 レッケも低いうなり声を上げ、額の角を振りかざす。鋭い爪のついた足で床をとらえ、今にも飛びからんばかりの動きだ。
 猛獣の牙と一角獣のごとき尖った角とを合わせ持ったカールフは、本来なら、狼など比較にならぬほど恐ろしい生き物である。
「ま、魔物までいるぞ……」
「聞いてないぜ、そんなこと」
 人数にものを言わせて壁をつくり、慎重に、じりじりと間合いを詰める近衛隊。
 だがアレスの方としては、ここで足止めされていては本当に袋のねずみになってしまう。彼は意を決して攻撃の構えに出た。


12 立ちはだかる最強の機装騎士…



 と……一瞬、目の前の機装騎士たちが水を打ったかのごとく静まり、続いて左右に分かれて道を開いた。
「少年、おとなしくその娘を渡してもらおうか」
 純白のマント、金色に輝く鎧、そして華麗に波打った髪。
 相手を凍て付かせるような視線。その奥に秘められた、熱き戦士の魂。
 他の機装騎士とは見るからに異なる男が、アレスの目の前に現れた。
 ――こいつ、強い……。とてつもなく強いぞ……。
 アレスは直感的にそう思った。だが、イリスを渡すわけにはいかない。
「さ、さては悪者だな! お前は誰だ?!」
 せめて気迫では負けていられないとばかりに、アレスが声を上げた。
 黄金の騎士は冷然と言葉を返し、彼を見つめる。
「俺はパラス・テンプルナイツの機装騎士……ラファール・ディ・アレクトリウス。勇敢な少年よ、お前の名を聞こう」
 ――パラス騎士団だって? どういうことなんだ?
 さすがのアレスも、あのパラス機装騎士団の名前を聞かされては、つい弱気になってしまう。それ以前に、オーリウムの英雄パラス騎士団がなぜイリスを捕らえようとしているのか、理解に苦しんだ。
「アレス……俺はアレスだ! なんでパラス騎士団がイリスを追いかけ回すんだよ?!」
 そんなことを貴様が知る必要などない――とでもいう顔つきで、ラファールは無視する。
 それに代わって、アレスの背後で荒っぽい女の声がした。
「その娘が旧世界人だからさ!」
 同時に、鞭が鳴る音。
 毒々しいほど真っ赤な髪を腰まで垂らし、長身の女が歩いてくる。
 見ている方が恥ずかしくなるような衣装だと、アレスは思った。
 豊かな胸元をこれ見よがしに強調する、短い皮のヴェスト。膝上高く切り詰められた皮のスカート。そこから伸びる成熟した脚を覆う、黒いタイツとハイヒールのブーツ。それら全てが、漆黒色の妖しい光沢を放っている。
「あたしは同じくパラス・テンプルナイツのエーマ。元気なだけじゃなくて、なかなか男前の子じゃないの。ふふふ」
 その品の悪さとは裏腹に、エーマはかなりの美女である。女性に対して免疫のないアレスは、ついつい彼女の挑発的な姿に目を奪われてしまいそうになった。だが、そんなことにかまけている場合ではない。何より、エーマの言葉の意味が気になる。
「旧世界人? どういうことだよ?」
「おや、一緒にいて何も知らなかったとはね……。だから、そのイリスという子は旧世界人なのよ。お馬鹿さん」
 エーマの声が通路に反響したとき、アレスは背中でイリスの手が震えるのを感じた。明らかに恐れている。あの女を……。
「やい! そこの怪しい格好した革女、よくもイリスをいじめたな!!」
 むきになって叫ぶアレス。
「少年、そのあたりにしておけ。そこの娘は王国のために必要なのだ。黙って引き渡すというのなら、悪いようにはしない」
 エーマが事を荒立てぬうちに、ラファールがそう告げた。
 彼の後ろで不安げに見ていたセレナも、前に進み出て、真剣な眼差しでイリスに手を差し出す。
「昨日は酷いことをしてしまって、本当にごめんなさい。私たちが悪かったわ。チエルさんのためにも戻ってきて……」
 セレナがそう言いかけた途端、エーマがまた鞭を鳴らして彼女の言葉を遮る。
「手ぬるい。手ぬるいって言ってんのさ! あんたねぇ、いつもいつも、そうやって……いい年してお嬢様ぶってるんじゃないわよ! ふんっ、気持ち悪い」
「な、何を無礼な! エーマ、たとえ貴女でも、それ以上言うとただではすましませんよ!!」
 セレナも怒って剣の柄に手を掛ける。
 意外なところで敵が仲間割れを始めたのを見て、イリスの目が鋭く輝いた。
 その眼光、いつもの彼女ではない。
 不意にまぶたを閉じ、胸元で両手を合わせたイリス。
 ――私よ。聞こえる? イリスよ……。
 彼女は心の中で、言葉を思いの力に乗せ、強く念じた。
 金色の髪が微かに逆立ち、薄暗がりの中で青白いオーラが揺らめく。
 ――長い長いまどろみは終わったの。また目覚めるときが来た……。返事をして。あなたの力が必要なの。私はここにいるわ。あなたのすぐ近く。そう、分かるわね? 待ってる。急いで……。


13 地底深く眠る旧世界の守護竜が、再び…



 ◇

 遺跡の最下層。真っ暗な格納庫で何かが光った。
 地響きを思わせるうなり声が、闇の中にこだまする。静かに、しかし、次第に大きく。それは人のものでも獣のものでもない。
 重厚な金属音と共に、途方もない大きさの物体が動いた。
 真っ赤な目が2つ、暗がりに浮かび上がる。

 静寂を切り裂き、突然、地底の世界に凄まじい雄叫びが響き渡った。
 恐竜? いや、むしろ竜(ドラゴン)そのものの咆吼……。

 ◇

「何だ、地震か?!」
 急に床が揺れだしたのを感じて、近衛機装隊の騎士たちが騒ぎ始めた。
 地鳴りは急速に近づいてくる。しかも足元から上へと向かって。
「どうなってるんだよ! お、おい……でも、今がチャンスだな」
 混乱に乗じ、アレスは素早く退路を切り開こうとする。
「何?」
 そのとき、彼の肩にイリスの手が置かれた。
 慌てて背後を見たアレス。
 イリスは首を左右に振り――どうやら、ここに留まるようにと告げているらしい。彼女の意図がアレスには分からなかった。
 実際、逃げるなら今である。何しろ《お坊っちゃん機装兵団》と陰口をたたかれている近衛隊のこと……前触れもない異常事態に際し、統制を失い、素人同然に混乱しかけているのだから。
「落ち着きなさい! 包囲を解いてはいけません!!」
 若干の後ろめたさを覚えつつ、セレナは仕事熱心にもそう叫んだ。半ば無意識のうちに。だが今となっては近衛機装隊など大して役に立たない。舌打ちした後、彼女は反射的に剣を抜いて、アレスの前に突きつける。
 2人の目がにらみ合った。
 双方とも、《敵》の持つ澄んだ瞳に――偽りのない、不正を憎む互いの瞳に驚きを覚えて、体をこわばらせた。にもかわらず、刃を向け合わねばならないこの現実……。
 ――私のやっていることは……本当に正しい?
 セレナの目が微かに曇った、そのとき。
「危ないっ! よけろ!!」
 ぼんやりと突っ立っているセレナを、ラファールが力一杯引き戻す。
「ラファール?!」
 わずか瞬きひとつ分遅れて、アレスとセレナの間を巨大な影が貫いた。
 気が付いたときには、その場にいた者たちはみな足元を奪われたり、柱に叩きつけられたりしていた。
 床が粉々に砕け、壁が突き破られている。
 天井までも一部崩壊し、そこからのぞく青空がどこか滑稽だった。
「何なのよ……何なの、これは?」
 さすがのエーマも緊張に身を固くする。
 降ってわいた修羅場の中で、イリスだけが落ち着きはらっていた。
 壁と屋根とを破壊して現れた謎の物体に、彼女は親しげに手を掛け、心を許した視線で見つめている。
「イリス、危ない! そこから、そいつから離れろ!!」
 それ――この少女を軽く丸飲みにしそうな口を開き、真紅の目を爛々と輝かせる鋼の化け物を見て、アレスは必死に叫んだ。
 岩をも噛み砕く牙をむき出しにして、白い蒸気からなる高熱の息を静かに吐き出しながら、その《竜》は静かにうなり声を上げている。
 だがイリスは……隔壁の向こうから首をのぞかせた魔獣に寄り添い、冷たい金属の肌を優しくなでていた。
 ――お久しぶりね。私の大切なお友達、《サイコ・イグニール》……。

 久遠の時を超えて、今、旧世界の《超竜》が再び目覚めた。
 堂々たる姿は、まさに秘宝の守護竜という比喩にふさわしい。
 ほぼ濃紺に見える深紫色の肌が、魔法金属の妖しい光沢を浮かべている。そこに青とグレーが加わって、神秘的かつ精悍な雰囲気を醸し出す。
 体表を覆う複合装甲は、剣すら通さぬというドラゴンの鱗さながらに、並みの攻撃では傷ひとつ付けられそうもない。
 《それ》は、旧世界の――しかもその末期、古代の文明が頂点に達した時期の――魔法工学の粋を凝らして生み出されたアルマ・ヴィオだ。ある意味で究極の姿に近い完成度を持っている。


14 今は忍耐…見せ場を待つ地味な主人公?



「こ、これは……」
 見たこともない深紫(しんし)の竜を前にして、セレナは言葉を失った。今まで数多くの機体を目にしてきたが、これほどの威圧感を持つ相手と遭遇したことはない。
「一体、誰が操っているの? いや、人の気が感じられない。そんな馬鹿なことが!?」
 セレナの背中を支えながら、ラファールが答える。
「そうだ。このアルマ・ヴィオには恐らく誰も乗っていない」
「ひとりでに動き出したとでも? まさか……」

 混乱の中、アルマ・ヴィオが突然に雄叫びを上げた。
 本物のドラゴンの鳴き声を知っている者など、今の時代には滅多にいるはずもなかろうが――実物の竜に勝るとも劣らぬ迫力である。
 体の奥底まで響き渡るその轟音には、手練れの戦士でさえ思わず身をすくませてしまうだろう。
 近衛隊の機装騎士たちは浮き足立って、もはやイリスを捕らえるどころではなくなっている。繰士としての技術だけを取ってみれば、確かに彼らは《精鋭》だといえよう。しかしその心根は、自分の血を見て驚くような、金持ち貴族のお坊っちゃんのままなのだ。
 己の経歴に薄っぺらな名誉を加えるために……若い頃の一時期に限って、彼らは近衛隊に身を置いているにすぎない。それゆえまた、《運悪く》実戦を経験する者などごく希である。
「うろたえるな。シルバー・レクサーを早く起動して、こいつを叩きつぶせ!」
 さすがにパラス・ナイトのエーマは、少しも慌てていない。彼女は歯がゆそうな表情で、世話の焼けるエリートたちを後押しする。
「何をしている、グズグズするんじゃない! そんなことではアルマ・ヴィオの餌食になるぞ!!」
 我慢ならなくなったエーマは、しまいには鞭を振って味方を追い立て始めた。

「な、何だ? イリス、このアルマ・ヴィオと知り合いなのか?」
 全く状況を把握できていないアレスは、とりあえず剣を構え、イリスと近衛隊との間に立ちはだかっていた。
 彼に向かって、イリスは《超竜》の方を指し示す。しきりに手を動かしているその様子は、どうやらアレスに《乗れ》と言っているらしい。
 イリスが黙って頷く。すると、以心伝心――アルマ・ヴィオの方も姿勢をかがめ、分厚い装甲をスライドさせて腹部のハッチを開いた。
「《ケーラ》と乗用席が、同じ部屋にあるのか? 中に3人ぐらい乗れそうだな。変わってる……いや、急がなきゃ。レッケ、お前も来い!」
 何しろアレスは、馬鹿が付くぐらいのアルマ・ヴィオ好きである。操縦方法は十分に知っている。彼はケーラを開いて中に身を横たえた。
 その手慣れた動作を見て安堵の溜息をもらすと、イリスも乗り込む。
 床に倒れていた敵兵が体勢を整え始めた頃には、彼女たちはすでに搭乗を終えていた。
 ケーラの手前の席にイリスが座ると、同時に、沢山のコードを伴った冠のようなものが天井から降りてくる。
 イリスはそれを手に取り、一瞬、寂しげな眼差しで見つめた後……おもむろに頭に被った。
 深呼吸。そして少女は精神を集中する。
 ――エクターの状態に異常なし。交感ユニット、自動制御完了。《サイキック・コア・システム》コール! サイコ・イグニール、起動!!
 彼女の思念に応えて、壁面を埋め尽くす計器やスクリーンに明かりがともり、一斉に作動し始めた。
 ケーラの中でクリスタルに包まれたアレスも、準備万端だ。
 ――いい感じだぞ。このドラゴンみたいなヤツ、よくなじむ……。おっ?
 落ち着いた調子で、彼の心にアルマ・ヴィオが語りかけてきた。その低く穏やかな声は、人間に例えれば紳士的な青年というところだろうか。
 ――若き戦士よ、わが名はサイコ・イグニール。よろしく頼む。
 ――あぁ。こっちこそよろしくな! 俺はアレス・ロシュトラム。アレスって呼んでくれ。それじゃあ、さっそくひと暴れしてもらうぜ、イグニール!!


【第17話に続く】



 ※2001年1月~2月に鏡海庵にて初公開
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