i saw a film today, oh boy

心の1本を探す~私的・映画鑑賞記録

ヴェニスの商人 (The Merchant of Venice )

2006年01月29日 | 2006年の映画鑑賞
★★★☆☆(B゜)

シュールな現実感を描く「現代劇」。

復讐に取り憑かれたユダヤ人高利貸しに扮するアル・パチーノの、
「ディアボロス」(97)を思い出すような
鬼気迫る怪演が光っている。

クライマックスシーンから一転、
仇敵相手とはいえ、シャイロックに
刺し違えるほどの覚悟はないということが分かると、
一瞬の安堵と、どこか裏切られたような期待はずれの苦々しさが
ない交ぜになって浮かんでくる。

判決を聞き終えたシャイロックの、
「何を言われたのか理解できない」とでもいうような表情は、
これまでに見てきたアルの演技の中でもハイライトシーンだ。

抑圧されながらでも生き永らえることへの、
そして財産への執着を捨てきれない往生際の悪さが、
悲哀と、ある種の滑稽を描く。

気勢を削がれた哀れな高利貸しは結局、
恨みを晴らすことも死ぬこともできず、
やはり高利貸しとしてしか生きられない。
そのシュールなリアリズムが、痛いほどに生々しい。

そして、それはけして他人事ではない。

          (シアタープレイタウン秋田)

スタンドアップ (North Country)

2006年01月27日 | 2006年の映画鑑賞
★★★★☆(A’)

「最初に立ち上がる人」になれるだろうか。

鉱夫の間で、自分たちの仕事が「男のもの」だとする
既得権益の意識が根強かったのは仕方ないと思う。
男にだからできる仕事だという矜持さえあったのだろう。
良い悪いは別にして。
ひとえに、その主張の仕方が悪いのだ。胸くそ悪い。

そんな中、またしてもシャーリーズ・セロンが輝きを放っている。
美しくも、その美しさが、けして見る者を邪魔しない。
美人だなあ、などと作品世界から「注意が逸れる」ことがない。

生活感ある表情の合間に時折滲み出る美貌だけで、
男どもから好奇や性的な衝動の対象に、
同性からは嫉妬の標的にされてしまった不条理さを
十分な説得力で物語っている。

あくまで「立ち上がる」勇気の尊さを描いた作品だが、
その蔭で、立ち上がれずに泣き寝入りせざるを得ない
弱者の存在がどれだけ多いかも、克明に描かれている。

テーマが身近なだけに、
単なる「感動作」「勇気をくれる映画」に留まらず、
普段の自分自身の社会的なあり方、
―セクハラ含め、立場の強い・弱い相手への対し方一般―
について、鑑賞後も問題提起しつづける作品だ。

                (TOHOシネタウン秋田)

秘密のかけら (Where the Truth Lies)

2006年01月23日 | 2006年の映画鑑賞
★★★☆☆(B)

下心あれば出来心。

出てくる人間おのおのが後ろ暗い思惑を秘めながら、
いい顔を作って登場してくる。
そもそも、ケヴィン・ベーコンが出てきて
物事が無事に運ぶはずはない。

にもかかわらず、思惑の実現を目の前にすると、
真犯人を除く全員がことごとく安直な行動に出て失態を演じ、
作品の退廃的なムードを演出する。

本音と建前を使い分ける技術は、
まだまだ日本人あたりに学ぶ余地が大きいようだ。

いかがわしいシーンもこなす主演のアリソン・ローマンが、
「マッチスティック・メン」(03)でニコラス・ケイジの
「かわいい娘役」を演じたあのファニーフェイスな女優と知り、
いたくショックを受けてしまった。諸行無常。

               (シャンテ シネ銀座)

プルーフ・オブ・マイ・ライフ (Proof)

2006年01月23日 | 2006年の映画鑑賞
★★★☆☆(B)

「博士は、どんな数式を愛したのか?」

数学を通じた人間関係、という主題がユニークだ。
ただ、肝心の数学に関する描写が不十分で、
登場人物にとってそれがどんなに重要なのかが実感できない。
彼らが情熱を燃やす根拠がよく見えないために共感できず、
歯がゆい気がした。

主人公が書いたと主張する証明の価値は、どれほどなのか。
丁寧に説明してもらっても、素人に理解できるはずはない。
ただ、物語に共感するためにイメージくらいは欲しいのだ。
証明が完成すると、何が叶うのか。
テクノロジーへの応用か。数学者の積年の念願か。

博士はどう凄くて、どう壊れてしまったのか。
壊れているのか正気に戻ったのかの判断にさえ苦しんだ。
氷点下の屋外で定理の証明に没頭する様は、
一般人から見れば明らかな奇行である。

数式が音楽を奏でる、とはどんなイメージなのか。
きれいな叙述表現が一人歩きしてはいないか。
とにかく、数学が小道具に留まってはいけないと思う。
 
グウィネスの、今にもプツンといってしまいそうな
ぎりぎりの精神状態の表現はすばらしい。
相手役のジェイク・ギレンホール(髭面で最初気付かず)も、
「遠い空の向こうに」(99)以来応援している。
今後は悪役など、クセのある演技にも期待したい。

                (銀座みゆき座)