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映画【インランド・エンパイア】

2007-09-06 22:51:28 | 映画


インランド・エンパイア(INLAND EMPIRE)
2007
デイヴィッド・リンチ(David Keith Lynch)


前評判と鑑賞した方から「意味不明」「長い」「よく分からないけど、凄い」等の感想を聞き、覚悟して劇場へ。
確かに、長いことは長いです。
本作に比べたら「マルホランド・ドライブ」は娯楽作品。
「マルホランド・ドライブ」ではあくまで客観だった視点が、本作は主観。しかも、ニッキー(主演)を追っている誰かの主観。本作の場合はリンチ監督ということになるのでしょうか。
この辺の構造がまた複雑。

編集が恐ろしいほどのぶった切り。
一度観ただけで理解しろという方が無理。
序盤は完全に理解不能で、これはどう解釈したら良いのか?と考える感覚を忘れるまでが大変です。

しかし、考えることを放棄して、時間と尿意を忘れ、ただ目の前に映し出される映像と音だけを聴いていると、なんとなく世界が見えてくる。
いろんなところに書かれていることでもありますが、これが人の心の闇というものなのでしょうか。

ストロボの様な明るい映像のおかげで一瞬、我に返り劇場(恵比寿ガーデンシネマ)の天井のアーチとか人がまばらな客席とかが視界に入る瞬間の感覚がとても不思議でした。これは他の映画で感じたことはありません。
感じたことのない感覚をすり込ませるというのは映画としてはこの上ない成功なのではないでしょうか。


映像がとりたてて美しいわけでもなく、ビデオで撮影されているためにフィルムには無い生々しさがあり、一種ドキュメンタリーを見ているような感覚です。
作られた世界と言うよりも、キャメラが誰かの一部となっていいます。

ちなみに、本作で使用されたキャメラはSONYのDSR-PD150というDVカム。
作品自体が「撮りながら考える」という驚きの手法のために機動性を重視した判断だそうです。
一昔前のもので、どこの映像制作会社に行っても必ず1台はあるというキャメラです。
どちらかと言えばENGのサブキャメラだったり、低予算番組でアシスタントが資料映像を撮るために持たされるキャメラです。

たまにDVカムで撮影する映画とかMVがあるのですが、その場合でももう少しマシなキャメラを使っていたり、レンズだけシネレンズを使っていたりするものですが、恐らく本作ではほぼノーマルの状態でPD150を使っている様に見えました。
序盤はモロDVな映像に「大丈夫かなぁ」なんていらぬ心配をしていたのですが、普通はカラオケビデオになってしまうところをリンチ監督はここまで作品にしてしまう。恐ろしい。

とはいうものの、もしこの作品をフィルムもしくはシネアルタあたりの艶がある映像が撮れるキャメラで撮影していたらとんでもない作品になっていたことでしょう。予算がとんでもないことになると思いますが、それも観てみたい。



鑑賞中に仕事の電話が入り一旦劇場を出ることになってしまったのが悔やまれます。
これはもう一度は観ないと。

これから鑑賞する方は、最初から構えないでズルズルとリンチの世界へ引きずられていく為に劇場へ向かえば良いのでは。
私の稚拙な文章ではとても語ることが出来ません。
一つ思ったことが、映画の宣伝文句で使われる言葉に「体感する映画」という言葉がありますが、それを通り越して「経験を強制される映画」でした。


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