歓喜の饗宴のなかで示した成長。
Especiaのメジャー・デビューとなるミニ・アルバム『Primera』のリリース・パーティ〈「Primer Gusto」~Especia“Primera”Release Party~〉の関東での公演は、アーバンを指向しながらもどこか垢抜けない田園都市郊外、横浜のなかでも丘の方の港北にある、港北プレミアホールで開催。名前はザ・横浜でも出身が港北近辺という大所帯の“ハマのヤシの木楽団”、みなと&みらいがEspeciaのメジャー・デビューに花ならぬヤシと演奏を添えての賑やかなパーティとなった。
ステージにはヤシの葉や色鮮やかな花が添えられ、トロピカルな光景の中で“ハマの甘党”ことLUVRAWを中心としたビッグバンド企画、みなと&みらいが登場。MC/アジテーターのヒューヒューBOYがEspeciaのメジャー・デビューへの祝辞を述べた後、ドラの音とともにみなと&みらいのステージが開幕した。
いきなり背後のスクリーンには横浜の夜景に美空ひばりの顔のアップが。美空ひばりこと加藤和枝はたしかに横浜市磯子出身。観覧車やビル、ベイブリッジの夜景と合わせて横浜の象徴を映し出したのか、それとも丘側の横浜の港側のそれへの褒め殺しか(さらに、美空ひばりの愛称“お嬢”とEspeciaのお嬢様の晴れ舞台をかけた?)。Especiaでもヴィデオ制作を担当するホンマカズキのしたり顔が窺えるようなサウンドと映像のギャップによる先制パンチで、オーディエンスの体温も上がり始めたかもしれない。
前方に居並ぶ3台のトークボックス陣は壮観で、さながらザップも驚くか。享楽と黄昏が混じり合うリゾート・ミュージックを奏でながら、フロアにグルーヴを充溢させていく。海への憧憬と刹那を孕みながらアーバン色を醸し出すニュータウン・サウンドに揺られたオーディエンスが一気に熱量を上げたのはみなと&みらいの終盤、オリジナル・ラヴのカヴァー「接吻-kiss-」を披露した時だ。もう待てないとばかりにステージ前方へ次々と駆け寄りケチャするぺシストたち。オープニングアクトではあったが、それを“前座”とするにはあまりにも豪華で贅沢なステージだということは、興奮を抑えきれない数多くのファンの姿が十分に説明してくれていた。
そして、本編のEspecia。
リリース・パーティといういわば彼女たちの晴れ舞台、祝いの席。今日ばかりは拙さも気にすることなくステージを楽しもうと当初は思っていたのだが、蓋を開けてみれば、非常に驚かされることの連続だった。
まずは、森絵莉加の急速な躍進ぶりだ。「アバンチュールは銀色に(PellyColo Remix)」は原曲の印象とは大きく異なる、どちらかというとハウスのようなビートが走る大胆なアレンジだったが、このトラックに最も合っていたのが森のダンスだった。
Especiaでダンスと言えば三ノ宮ちかのスキルが最も高いと思うが、三ノ宮がアフタービート(バックビート、裏打ち)に乗るグルーヴィなダンスが得意としているのに対し、森はスパッと切れ味鋭い表のリズムに乗るダンスで特徴を発揮。モデルの経験や手足の長さが強調されているからか、彼女の手の先までピンと伸びた所作は実に観ていて気持ちがいい。そのダンスの切れ味が最も目を見張ったのが、前述の「アバンチュールは銀色に」のリミックスだった。また、歌唱でもこれまでにない伸びやかなヴォーカル・ワークをところどころで見せていて、その吸収と成長の速さに驚くばかりだ。
以前、ヴォーカルにおいて森の成長はEspeciaにとって大きいと述べた。これまでは冨永悠香、脇田もなりの両エースに次ぐという意味で成長著しいといったのだが、ようやく3本目の柱になれそうな予感がする。本当のところでいえば、柱というのは多少ニュアンスが違うかもしれない。たとえば、柔道や剣道などの団体戦での先鋒役になれそうだ、といった方が近いか。そのグループの明暗を分けるかもしれない先陣を切るという重要なポジションに、ようやく目途がついたと言えばいいだろうか。
次に、グループの底上げということで考えれば、全員の質の向上は必須条件となる。その意味で歌唱力という面で言えば、三瀬ちひろや三ノ宮ちかは冨永、脇田、森に後れを取っていることは否めない。グループは突出した者だけで引っ張る形では、どうしてもバランスが悪くなる。たとえば、自転車やスケートのチーム・パーシュート(団体追抜競走)を考えてみるといいかもしれない。同じチームの3~4名が空気抵抗による減速と疲労を避けるため、順番に先頭を交代しながらレースを進めていくのが特徴のパーシュートだが、誰か一人でも明らかに速度が遅いとチーム全体のスピードダウンに繋がってしまう。グループも同様で、誰か一人でもこの流れを止めるようなクオリティだとチームのバランスが乱れたものに映ってしまうはずだ。
ただ、この日は少しこれまでと違って見えた。三瀬は「シークレット・ジャイヴ」ほかのソロでのピッチはとれていたし、ダンスも含め、自身のソロ・パートでの自分らしい表現感覚を掴み始めているようなパフォーマンスが垣間見えた。クール系だからではないだろうが、ミディアム・テンポのやや低めの音程では不安定さも気にならない。また、三ノ宮は声の大きさというかハリがあって、それゆえピッチが不安定だと目立ってしまうということもあるが、ダイレクトに響かせるヴォーカルという意味で強いものを持っている。やはり、ハイトーンや抑揚の大きいメロディ・ラインでは多少ブレもあるが、以前よりもしっかりと自身のヴォーカルを乗せようとしている気配が感じられた。
そんな3人に刺激されたのかは解からないが、冨永は「West Philly」はじめファルセットでのフェイクを多用して情感を込めれば、脇田は「アビス」でのハイトーン・ヴォーカルにこれまでにはあまり感じられなかった声色に艶やかな彩りを添えるなど、自身で進化しようという向上心(野心)も。まだ、喉に頼って歌っているきらいがあるが、メンバー各人の努力によって相乗効果というものがグループとしてしっかりと目に見えるようになってきたことは実に喜ばしく、期待感を抱いてしまうパフォーマンスといっていい。
そして、EspeciaがEspeciaたらしめているクオリティの高い楽曲群だが、この日はリミックス・ヴァージョンを随所に仕込んできて、ダンスやフォーメーションもアレンジ。時間としては非常に短いなかでの練習で新しい振り付けを披露し、歌唱パートも変更。既存曲をいつまでも輝かせるための仕掛けにしっかりと着いていくだけでなく、ステージの度に新鮮な色付けをしていこうという気概が強く感じられた。もう“アイドル”という枠を外す覚悟は出来ているのではないか(ギミックを仕掛けた『Primera』のライナーノーツのように、アイドルが低いレヴェルにいるということではなくて)……ガールズ・グループとしての険しい道を5人で歩んでいく覚悟を決めているとも思えるステージングは、無意識のうちにぺシストたちを思いがけない加速度で興奮の坩堝へといざなっていった。
MCでは名古屋、渋谷、広島、大阪でのクアトロツアー決定の報告。彼女たちをもうワンステップ駆け上がらせるチャンスでもあり、メジャー・デビュー後の試練でもある。知名度も実力もまだまだ。当然壁にぶつかることも多く待ち構えているはずだ。楽しみながら成長していくことは言葉で言うほど容易ではないはずだが、彼女らにはそれをやり遂げる強い意志が芽生えている。そう言ってもいい充実感がステージから響いてきたライヴだった。
この日は二度披露されたEspeciaのアンセム「We are Especia~泣きながらダンシング~」。メンバー自身、界隈、ファンら皆の力でネクスト・ステージへ“GoSo!!!”(ゴッソ!!!)する時は、もうすぐそこだ。
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<SET LIST>
【みなと&みらい】
接吻-kiss-(Original by Original Love)
【Especia】
00 Intro(from GUSTO)
01 海辺のサティ(va Bien Edit)
02 シークレット・ジャイヴ(*)
03 さよならクルージン(*)
04 アバンチュールは銀色に(PellyColo Remix)
05 BayBlues
06 West Philly(*)
07 アビス
08 FOOLISH(12inch Extended Ver.)
09 Sweet Tactics(*)
10 Security Lucy(Insecure Booty Mix)(*)
11 きらめきシーサイド(12inch Extended Ver.)
12 No1 Sweeper(nueva cocina)
13 We are Especia~泣きながらダンシング~(*)
≪ENCORE≫
14 ミッドナイトConfusion
15 FunkyRock
16 YA・ME・TE!
17 We are Especia~泣きながらダンシング~(*)
18 Outro(from Primera)
(*):song from Album『Primera』
<MEMBER>
Especia:
Haruka Tominaga
Chika Sannomiya
Chihiro Mise
Monari Wakita
Erika Mori
みなと&みらい:
LUVRAW(Talkbox)
Showkoo(Talkbox)
Ryoichi(Talkbox)
PellyColo(Vocorder/Synthesizer)
Ochiai Shiro(Keyboard)
Kashif(Guitar)
Takafumi Sakuma(Costa De Palma)(Guitar)
Yuuki Yokoyama(Costa De palma)(Bass)
Yoshihiro Nakagawa(Costa De Palma)(A.Sax)
Shun Yonehara(Costa De Palma)(Trumpet)
So Sato(Costa De Palma)(Percussion)
Kaoru Ajima(Drums)
ホンマカズキ(VJ)
神林光弥(Palm Tree)
ヒューヒューBOY(Good Vibes)
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Especia「We are Especia ~泣きながらダンシング~(ショート ver.)」
Especia「シークレット・ジャイヴ (90sec. Ver)」