*** june typhoon tokyo ***

Soulflex @Billboard Live TOKYO


 個々の才能と創造性が生み出す、洒脱で快活なグルーヴ。

 最近すっかり日本産R&B、特に男性ヴォーカルものを聴いていない。というか、日本の音楽シーンにはどうしてこうもR&Bは根付かないのか……などとネガティヴモードで漠然とネットの波を漂っていたところ、"Soulflex”(ソウルフレックス)なるコレクティヴに辿り着いた。当初は「安直に"Soul”を名に冠して、名前負けというパターンは少なくないからな」などと邪推していたが、ひとまず適当に何曲か音源を聴いてみると、これがなかなかのグルーヴ。そして、近日ビルボ―ライブ東京でライヴがあるという。"モノは試し”ということで、早速ミッドウィークの夜に六本木へ足を運んだ(なにしろ初見ゆえ、久しぶりに直前に音源を聴きまくった)。

 Soulflexは、ビートメイカー兼コンポーザーのMori Zentaro(森善太郎)を中心として、2010年に大阪で結成。メンバーはSIRUP、ZIN、Ma-Nuというシンガー/ラッパー勢3名と、ギターのsota、ベースのFunky、ドラムのRaB、キーボードのAkiee、サックスのKenTに加え、ペインターのhitch、フォトグラファー/アートディレクターの木村華子が名を連ねる。Soulflexのほとんどの楽曲を手掛けているという主宰のMori Zentaroは、この5月18日(水)に1st EP『Hue』をリリースするなどソロ・アーティストとしても活動しているが、原則ステージには立たず、作家としての立ち位置でこのクルーの舵取りをしている模様。そのMori Zentaroとhitch、木村華子を除いた8名がステージに所狭しと並び、ビルボードライブ東京というスタイリッシュな空間にマッチした、モダンで洒脱なグルーヴを展開していく(木村はライヴ中に住フロア各所を駆け巡ってステージを撮影していたようだ)。

 ヴォーカルの一角をなすSIRUPは、Honda「VEZEL」CMソングでも話題となった「Do Well」でも知名度を高めていたから、さすがに知っていたが、恥ずかしながらその他の面々はお初になるゆえ、どのような音楽をしているのかは分からず。前半のMCで、Ma-Nuが「Soulflexは集団であって、作曲家やペインターやいろいろな……そういうのをまとめてギュッとしたのがSoulflexなので、初めて観る方はそう覚えて帰ってください」というやさしく解説したようだがかえってまどろっこしくなった説明を、SIRUPが「Soulflexはクルーであって、バンドではない。概念でございます」と言い直して笑いが起こったが(余談だが、大阪出身で"概念”だと聞き、真っ先に「Especiaかよ!」と脳裏を過ぎるあたり、やっぱり自分はペシストなんだなと再認識した……というのはここだけの話)、音楽だけでなく表現者として意志を同じくした面々が集ったものたちを"クルー”と定義づけているようだ。今年で12年となかなかの活動年月だが、メンバーそれぞれがアーティストとして活動していることもあって、当初は頻繁には活動していなかったという。近年は楽曲も増え、バンド・スタイルでのライヴが増えてきたようだ。それゆえ東京でのライヴも久しぶりとのこと。

 活動して12年となると、メンバーも30代が中心といったところだろう。シャレた出で立ちと都会的なサウンドゆえ、女性ファンが多いのだろうと予想していたが、当日会場を見渡してみると、やはり圧倒的に女性が多い印象。20代から30代、40代前半がコア層だろうか。ミドルエイジ真っ盛りの自分が一人でオーディエンスの平均年齢を上げてしまっていた感も否めない(苦笑)。



 ところで、演者だけでなくクリエイティヴなアーティストを含めた、クルーやコレクティヴと称される集団で活動するスタイルは、日本でもそれほど珍しいものではなくなった。たとえば、KANDYTOWNやYENTOWN、それにBAD HOPとヒップホップにおいてその類はよく見られるが、SoulflexはラップがメインのMa-NuにSIRUP、ZINの3名ともラップを駆使するが、音色としてはヒップホップというよりもR&B、とりわけネオソウル色が濃いイメージ。ネオソウルを基盤にジャズやオルタナティヴなヒップホップあたりを往来する音作りというと、個人的にはクエストラヴやディアンジェロ、J・ディラらの"ソウルクエリアンズ”が想起されるのだが、彼らが日本版ソウルクエリアンズを意識しているかどうかは明確には分からない。主宰のMori Zentaroがパンク・バンド出身というからなおさらだ。

 ただ、現在奏でているネオソウルや都会的なジャズ、ヒップホップ・マナーのサウンドからは、その薫りがしっかりと感じられた。もちろん、ソウルクエリアンズだけでなく、たとえば、個人的にもフェイヴァリットなアーバンなオルタナティヴ・ソウルの側面を持つサーラー・クリエイティヴ・パートナーズや、ブラック・ミュージックとジャズを融合させたロバート・グラスパー、ジャズとヒップホップの融合という意味ではアリ・シャヒード・ムハマドとエイドリアン・ヤングによる"ミッドナイト・アワー”のほか、BJ・ザ・シカゴ・キッドやケンドリック・ラマー、ブルーノ・マーズとのシルク・ソニックでシーンを席巻しているアンダーソン・パークあたりまでの影響も窺える。これらの音楽性がメンバーすべての嗜好と一致するとは思わないが、さまざまな出自を持つアーティスト集団をまとめるという意味では、パンク・バンドを経てこの音色を奏でているMori Zentaroの音楽的な雑食性が、クルーを結束させていることに奏功しているともいえそうだ。



 さて、ステージだが、イントロダクションを経て、マイロンなどの肌当たりも思い出させる温もりあるネオソウル「Celebrate」から幕開け。グルーヴを崩すことなく展開することに注力しているからか、頻繁に楽曲をシームレスに繋いでいく。夜の享楽の裏側にある哀切を醸し出したような、フュージョンやシティポップとの親和性も高いジャジィ・ヒップホップ・マナーの「City Resort」といった沁みるミディアムから、サックスを高らかに吹き込むブリッジを介して、"Sunshine, Sunshine~”のリリックのごとくあたたかな陽光が注ぐようなアウトロが際立つ90年代テイストの「wassup」への流れや、軽快なギター・カッティングとともに熱量を高めていくダンサブルなアッパーソウル「Refill」から、スウィートなメロディと褐色のグルーヴがヴォルテージを高める「Like It」へ移行するなど、ドラムとサックスを軸としたジャズ・セッション的なアプローチによるヴァイブスを途切れさせない展開で、オーディエンスの鼓動や興奮を高めていく。時にキーボードのほか、サックスとベースがシンセを弾くという鍵盤3台が重なる場面もあり、楽曲によるアンサンブルの比重が異なるアクトも見せていた。

 サウンドアプローチもヴァラエティに富んでいて、鍵盤のコードとラテン・ダンサー風のドラミングが重なり合うヴァースや、マルーン5がクリスティーナ・アギレラを迎えた「ムーヴス・ライク・ジャガー」よろしく口笛のようなホイッスル音などのアクセントがジョイフルなムードを高める「Lucky」、ハイトーンのファルセットも響かせる、ウェットな質感と甘美な色香で包み込むようなスムース・グルーヴァー「Testimony」、明澄な"エオ!エオ!”という掛け声やファルセットによるフックと、硬質なラップ・フロウをうねるように這わせるヴァースという対照的な展開が印象的な「Chaotic Good」、R&Bラヴァー歓喜といえそうなメイクラヴァーの王道を行く官能的なミディアム・スローR&B「State Of Mind」など、それぞれに魅力がある楽曲を力むことなく、フロアに渦巻くグルーヴに身を任せるかのように歌い、音を発露させていく姿は、高いスキルとセンスを持ち得たメンバーが集っている"クルー”だからこその光景といえるだろう。



 「State Of Mind」を終えた後には、主宰のMori Zentaroが登壇。前述の5月18日リリースの1st EP『Hue』の告知をしてステージアウトかと思いきや、メンバーも予想外の「もう少ししゃべりたい」とマイクを握り続け、「ええと、ボクは凄く音楽が好きなんですけど」と語り始める。関西人的なボケなのかと一瞬頭を巡らせたが、さぞかしカッコイイことを言って去るかと思いきや、結局のところ「よろしくお願いします」を繰り返していた光景に、フロアからは笑みがこぼれていた。優しそうなルックスに朴訥な話し方と(違う見方をすれば、母性本能をくすぐるタイプなのかもしれない)、どちらかといえば頼りがいのありそうなタイプではなさそうなMori Zentaroだが、Soulflexのほとんどの楽曲を手掛けているというのだから、先入観というのはまったく邪念でしかないのだと再認識した瞬間でもあった(笑)。

 終盤は「Boom Boom」「The Funner」とホリディ・ムードも湛えたうららかな作風から、Ma-Nuの「Let's go!」の掛け声とともに軽快で推進力ある鍵盤とファンキーなギターがうねるフロアキラー「Addiction」へ雪崩込んだかと思えば、Soulflexの楽曲で唯一Mori Zentaroが手掛けていないという(そして「(Soulflexで)一番人気らしい」とオチをつけて)ブリージンなアーバン・バラード「Then」へ。ラストは彼らクルーの意識やステージでの佇まいを示したかのようなタイトルの、チルなムードを携えた「Free Ya Mind」で本編を終えた。

 途中の「巻きで」と言いながらそこそこ尺を使ったMori ZentaroのMCがあったからか、時間が押してるとのことでアンコールも早めに登場(笑)。Ma-Nuの「人間は吸音材の役目があり、(観客がいるこのフロアは)リハーサルの時とは違う、(観客とともに作っている)世界でこの空間でしかない唯一無二の音です」というMCから、ピースフルな「Here To Stay」へ。バックのカーテンが開き、夜景がステージに注ぎ込むなかで腰を揺らせる、快哉なエンディングとなった。



 全体を通して感じたのは、"縛られることなく纏まっている”という自然体の一体感か。フロントのヴォーカル/ラップ勢がそれぞれに際立ったかと思えば、その3名がハーモニーで聴かせたり、バンドにおいても、鍵盤が畳み掛けるようにコードを連ね、跳ねたドラミングとともに推進力を持つトラックや、流暢なサックス、効果的に鳴るカッティングギター、ファットに弾けるベースがそれぞれ映える楽曲といった風に、個々が引き立つようなアレンジやディレクションがなされていても、芯の部分では一つのベクトルとして集積している結束性が通底している。所作としてはそこそこラフなアティテュードではあっても、良曲を活かす演奏をするという土台を崩さない共通認識が働いているのか、そのラフな部分が自由で柔軟な発想へ繋がり、良曲に活力を与えるという共通認識が演奏にメリハリと一体性をもたらしているとみるが、どうか。

 その意味では、ネオソウルやR&B、ヒップホップという軸はあるものの、変に堅苦しくせず向かい合っていることが、ジャムセッションのような意外性と化学変化を呼び起こし、想像以上のグルーヴを創り出す好循環をもたらしているともいえる。各々が内包するエナジーがステージで放たれ、その融合や変化に驚きながらも進化を体感する、そんなステージが彼らの真骨頂であり、魅力の一つにも感じた。また、ここまで長く続けられているというのは、やはりメンバーが適切な距離感で、互いをリスペクトし合っているゆえだろう。"決め事がないのが決め事”のような型にはめないフレキシブルなスタイルは、時に誤解を生むこともあるが、Soulflexにおいては、音楽的にも、集団としても相乗効果を生んでいるといっていい。

 東京では久しぶりのライヴということだったが、蓋を開けてみれば、ほぼ満席の盛況ぶり。その好評を受けて、9月9日(金)には東京・渋谷のduo MUSIC EXCHANGEにて、東京では初の開催となるイヴェント〈MILESTONE〉の開催も決定。平日の17時開演と一般社会人にはやや難しい時間帯となるが、ネオソウルやオルタナティヴ・ヒップホップあたりの好事家には体感しがいのあるライヴになるはずだ。


◇◇◇

<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Celebrate (*MV)
02 Someone Like You
03 City Resort (*C1)
04 wassup (*MM)
05 Lucky
06 Refill (*MV)
07 Like It (*C2)
08 Testimony (*C1)
09 Chaotic Good (*MV)
10 State Of Mind (*MV)
11 Boom Boom (*MV)
12 The Funner
13 Addiction (*C1)
14 Then
15 Free Ya Mind (*C1)
≪ENCORE≫
16 Here To Stay (*MV)

(*MM): song from album “SOULFLEX PRESENTS MILESTONE MIXTAPE”
(*C1): song from album “Collected 1”
(*C2): song from album “Collected 2”
(*MV):song from album  ”More Vibrant”


<MEMBER>
Soulflex are:
SIRUP(vo)
Ma-Nu(rap vo)
ZIN(vo)
Sota(g)
Funky(b, syn b)
RaB(ds)
Akiee(key)
KenT(sax, syn)
hitch(Painter)
Hanako Kimua / 木村華子(Photo, Art Director)
Mori Zentaro / 森善太郎(Composer)

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