*** june typhoon tokyo ***

MISIA@Zepp Divercity TOKYO


 ※ 一部ネタバレを含みますので、各自了承の上閲覧ください。

 夏の夜に吹いた、心地良いソウル・ジャズの風。

 2016年の〈ブルーノート・ジャズ・フェスティヴァル〉出演を機にジャズ・ミュージシャンとのコラボレーションの期待が高まっていたのを受けた形で開催された、〈MISIA Summer SOUL JAZZ〉ツアー。名古屋での2デイズを経て、MISIAの誕生日である7月7日からの東京公演3デイズの最終日のステージを、Zeppダイバーシティ東京にて観賞。従来の〈THE TOUR OF MISIA〉や〈星空のライヴ〉とは異なった、ライヴハウスでのスタンディング公演は久しぶりとなる。開演定刻より気持ち早くバンドメンバーがステージイン。バンドマスターを務めるトランぺッター、黒田卓也の米〈ブルーノート〉デビュー作『ライジング・サン』収録の「アフロ・ブルース」(黒田自身がアフロヘアによるからか)で東京の暑い夜をホットに、時にクールに彩るMISIA流“サマー・ソウル・ジャズ”が幕を開けた。

 バンドメンバーは黒田と苦楽を長く共にしたという盟友で気鋭の面々が揃った。黒田自身、ホセ・ジェイムスのプロデュースでメジャー・デビューし、DJプレミアのバンドとも共演するという実力者だが、エスペランサ・スポルディングのツアーにも参加し、この7月11・12日には来日公演を行なうテキサス州ヒューストン出身のトロンボーン奏者/シンガー・ソングライターのコーリー・キングや、ビラルのバンドにも参加しているドラマーのアダム・ジャクソンなど、ジャズやソウル・シーンを通過してきた辣腕。ボトムでアフロビート的なビートが進むなか、メロディやトラックはループを基調にしたシンプルなカラーで演出するという手合いで、親しみやすい“上モノ”とウネウネと動きまくるボトムがスタイリッシュな音を創り上げていく。オールドスクールなジャズというよりも、雑食性を帯びながらも鋭角的に束ねる現行ニューヨーク・ジャズというスタイルというのだろうか。



 バンド・インストの「アフロ・ブルース」が終わると、「BELIEVE」からMISIAが登場。以降、7月26日にリリースされるミニ・アルバム『SOUL JAZZ SESSION』収録曲を中心に展開。新曲として披露された「来るぞスリリング」「運命loop」は、それぞれラウル・ミドン、マーカス・ミラーとの客演曲としてミニ・アルバムに収録。前者はラウル・ミドンのスパニッシュな影がちらつくギターと晴れやか展開が爽快感を生むミディアム・アップ、後者はホーンとベースが絡むジャズ・ファンク的な側面も見せるミディアムという感じ。ともに跳ねたり細かな上下動が特色のビートを下敷きにしたスウィング感ある音鳴りで、MISIAの新機軸となるナンバーに。

 既存曲では「真夜中のHIDE-AND-SEEK」や「めくばせのブルース」などは、元来ジャズっぽさや“黒さ”を携えていた楽曲ゆえ、個人的には今回のステージでのナイスな選曲だった。それ以外でも、「オルフェンズの涙」はライヴ用にトランペットのソロを入れたりするなど、従来にはないジャズ・アレンジによってスタイリッシュに彩られてはいたが、(アルバムやライヴのプロデュースを行なった黒田が)メロディや上モノについてはそれほどクセのあるアレンジではなく意外とシンプルな演出を好むのか、MISIAのヴォーカルにはあまり手を入れない風だったこともあり、ヴォーカルが活き活き“し過ぎている”ように感じられるところも。ジャズ・ヴォーカルというとスキャットやムーディなヴォーカルのイメージがあるが、ここではMISIA本人も述べていたが、あくまでも“ソウル・ジャズ”スタイルに特化。スティーヴィー・ワンダー「ドント・ユー・ウォーリー・アバウト・ア・シング」(邦題:「くよくよするなよ!」)の日本語カヴァーでも分かるように、原曲をカヴァーしたインコグニート版に近いアレンジといえる。元来MISIAがヒップホップ/R&Bなどやリミックスではハウス・ヴァージョンを多用するなどクラブ系に親和性の高かったことを考えると、トラディショナルなジャズに寄せずにアシッド・ジャズやクラブ・ジャズに寄せたのは正解。本編ラストの“タオル回し”曲「MAWARE MAWARE」もジャジィながらも4つ打ち風のアプローチで、クラブ・スタイルとの順応性を改めて見せた形となった。

 アンコールはダブルで、甲斐バンドのカヴァー「最後の夜汽車」を終えてメンバーが退場。明転するものの、再びメンバーが登場すると、フロアの扉から出始めていたオーディエンスも急いで戻る光景も。「キスして抱きしめて」をしっとりとしたアレンジで歌い上げ、東京3デイズのラストを締めくくった。



 楽曲数としてはそれほど多くなく、ジャズ・セッションでありがちな長尺による各パート・ソロというのもあまりなかった。その代わり、MCの回数が多かったが、メンバー紹介を兼ねての黒田のMCが面白く(MISIA自身も楽しみにしているとのこと)、スタンディングながらも時間を長く感じた人はそれほどいなかったのではないだろうか。「音楽業界では定番なんだけど、ライヴは東京の最終日が一番(大阪はもちろん、名古屋なんてもってのほか…)」「(メンバーへ向かって)コイツは僕の卵かけご飯は見向きもしないが、とんこつラーメンには生卵を入れる……という関係ない情報を挟んでみた」「ライヴでは〈フロム・ニューヨーク!〉とか煽るんですけど、コイツ(クレイグ・ヒル)は本当はまだボストン在住なんですわ」「武司(大林)は広島出身なんで、昨日、カープのユニフォームを着た人が歩いているのを見て〈カープのファンおるで〉って言ったら、〈あれはホンモノじゃない〉とか言うんで、武司の前でニワカファンは気を付けて」「なんと、武司もツアーでいろいろ学んできて、今日はMISIAの頭(ターバン)と同じ色のTシャツ着てきた。実はパンツも同じ色らしいのですが、それはもしかしたら後で見せてくれるかも」「アダム(・ジャクソン)は声がでかい、そしてめっちゃ力が強いので、イェーイと喜び合う時も全力で向かっていかないと力にやられてしまう(怪我する)ので注意してください」などを関西弁で小気味よく話す。MISIAとのボケ、ツッコミもあるこのMC、黒田バンドが今後も〈Summer SOUL JAZZ〉シリーズで帯同するのであれば、名物コーナーの一つになるかもしれない。

 黒田のメジャー・デビュー作がネオソウル作風だったこともあり、ソウル・ジャズ/クラブ・ジャズとしてのアレンジメントは奏功していたと思う。ただ、バラードではMISIAの超絶ながらも可憐な声質のヴォーカリゼーションで良くも悪くも圧倒してしまうゆえ、そこではトータルバランスとしての“ジャズ感”はやや薄くなってしまった気もする。スキャットを駆使したインスト(インコグニートでいう「コリブリ」あたりの曲)やライトでリズミカルなヴォーカルワークなどよりサウンドに寄せた声色で歌う部分を増やしたりすると、さらにソウル・ジャズの完成度も濃密に高まっていくのではないか。次はどんな楽曲がジャズ・アレンジされるのか、はたまた新たな楽曲が生まれるのかを含め、大いに期待出来るシリーズになりそうだ。


◇◇◇

<SET LIST>
01 Afro Blues(Band Only)(Original by Takuya Kuroda)
02 BELIEVE (*)
03 真夜中のHIDE-AND-SEEK (*)
04 陽のあたる場所 (*)
~MC~
05 来るぞスリリング(New Song)(*)
06 運命loop(New Song)(*)
07 The Best Of Time (*)
08 めくばせのブルース
~MC~
09 オルフェンズの涙 (*)
10 It's just love (*)
~MC~
11 つつみ込むように…
12 Don't You Worry 'Bout a Thing(Japanese Ver.)(Original by Stevie Wonder)
13 MAWARE MAWARE
≪ENCORE #1≫
14 最後の夜汽車(Original by KAI BAND)(*) 
≪ENCORE #2≫
15 キスして抱きしめて

(*): song from album“MISIA SOUL JAZZ SESSION”

<MEMBER>
MISIA(vo)

黒田卓也 / Takuya Kuroda(tp)
クレイグ・ヒル / Craig Hill(ts)
コーリー・キング / Corey King(tb)
大林武司 / Takeshi Ohbayashi(key)
ラシャーン・カーター / Rashaan Carter(b)
アダム・ジャクソン / Adam Jackson(ds)


◇◇◇

















にほんブログ村 音楽ブログへにほんブログ村 音楽ブログ ライブ・コンサートへブログランキング・にほんブログ村へ

ランキングに参加中。クリックして応援お願いします!

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「ライヴ」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事