*** june typhoon tokyo ***

水曜日のカンパネラ@LIQUIDROOM


 ヴォーカル/MCのコムアイとトラックメイカーのケンモチヒデフミ、ディレクターのDir.Fによるユニット、水曜日のカンパネラの初となるワンマンライヴを観賞。会場は恵比寿・リキッドルームで、チケットは数時間で完売となるなど大きな期待を寄せられていた公演だ。ドレスコードは“鬼”(鬼を想わせる衣装や青か赤の服の着用推奨)ということで、当日はフロアに溢れんばかりの人ならぬ“鬼”が駆けつけた。

 開演前から場内の熱気が上がるなか、“写真なんか撮ってるヒマがあったら踊れっていってんだろうがこのクソ野郎~”“野生化した犬、猿、雉が襲いかかってくる恐れがございますが、係員に知らせずやり過ごしてください”といったコムアイのアナウンスと白い布で覆われた天井やステージによって、フロアが次第に“鬼ヶ島”と化していくのを見やっていると、場内が暗転。「モスラ」の逆回転ヴァージョン「Interlude-ラモス-」のフレーズを含むイントロダクションを経て、黒いパーカー姿のコムアイが登場。水曜日のカンパネラの初のワンマンライヴが文字通り幕を開けた。

 ライヴのコンセプトは“鬼ヶ島の逆襲”。黒いパーカー姿のコムアイが「人間がぎょうさんおる」と老人風に呟くMCからスタートするも、なかなか状況が飲み込めずにいる観客。「右手に茶筅を持ってるの分からないかなぁ」とコムアイが発したところで『私を鬼ヶ島に連れてって』の冒頭に収録されている「千利休」へのフリだと分かった観客は、コムアイの煽りに素早く反応して、「千利休」から「デーメーテール」「二階堂マリ」と展開するステージへ興奮の渦を押し返していく。

 「インカ」では後方のスクリーン映像とともに4人のダンサーを従えながら“歌わない”という大胆なパフォーマンスを披露。ダンサーのうち屈強な男の上着を脱がすと赤いブラジャーが露見。それを視線や表情で辱めるコムアイという寸劇もあり、単純に音源を流して歌うだけのステージに終わらせない工夫も。そのようなパフォーマンスはほかでも見られ、「星一徹」ではフロアの人波をかき分け後方から同曲のキラー・ポーズ“ちゃぶ台返し”を観客へ促したりも。

 本公演の主題でもある「桃太郎」の後は、「マリーアントワネット」「ミツコ」という人気曲へ繋ぎ、一旦ここでコムアイはステージ・アウト。だが、この後の展開が、この公演の評価を極端なものにしてしまった。

 レーザーや幾何学的な映像がフロアに浮かび上がるなかで「お耳汚しとなりますが」と断りを入れてから始まったのは、オオルタイチのパフォーマンス。約20分強で4曲を披露した訳だが、これが観客の上がりかけた熱を止めてしまった気がする。

 断っておくが、オオルタイチのライヴの質が悪かったとかいうことではない。オオルタイチは後に披露した「ユタ」を手掛けたゲストで、コムアイが以前から個人的にフェイヴァリットだったということから呼ばれたようだ。ただ、この日に水曜日のカンパネラを観に来たコア以外の観客にとっては、前衛的なオオルタイチの楽曲を即受け入れるというのは容易ではなかったのだろう。1、2曲ならまだしも、30分近くもコムアイなしの別次元に思える楽曲を何の説明なしに聴かされているのは、観客を“焦らす”効果にはなり辛かったようだ。

 さらに、コムアイがオオルタイチとの共演で「ユタ」を披露した後の楽曲がすべて新曲というのも、この公演の主題をぼやけさせてしまったのではないか。もちろん、直近のアルバム収録曲をすべて披露することが是ではないし、ライヴにてリリース前の新曲が体感出来るのは、ライヴに参加した人たちのみの特権にもなる。過日、YouTubeにMVがアップされた「ナポレオン」を同曲を手掛けたOBKRも駆けつけて披露したり、北海道限定リリースの「シャクシャイン」や「カーネル」「ディアブロ」と新曲を5曲も観られたことは、このライヴだけではなく、水曜日のカンパネラのネクスト・ステップの入口へ直接に導かれたようで貴重な時間ともいえる。

 だからこそ、ドレスコードを設定し、“鬼ヶ島の鬼たちによる桃太郎一味への逆襲”というコンセプトで臨んだステージの割には、「桃太郎」が輝かなかった。フックのフレーズをコールするくらいでサラッと終わってしまったな……そんな印象さえ与えてしまった気がする。演目中に盛り上がりが欠けたということはなかったが、オオルタイチ以降の展開が唐突過ぎるのと、「ディアブロ」前のステージと物販コーナーをスクリーンを通じて映像中継するという試みが、締まりのないMCも含め、なし崩し的になった上にことのほか時間を費やしてしまったことで、熱を一気に下げてしまった感は否めない。

 締まりのないMCは、それはそれでコムアイの持ち味でもあるとは思うが、クライマックスへ向けて気持ちを高めよう(高めたい)とするその時の観客たちの心理とは、残念ながら相反してしまった形になった。アンコールを催促するものの数分経っても終演を告げるアナウンスもなく時が過ぎていったことも、ラストの盛り上がりで気持ちよくエンディングを迎えて「いいライヴだった」で締めくくりたい観客の高揚を削いだようだ。悪くはなかったが何となくモヤモヤしたものが残ったままフロアを後にした……というのがおおよその心境だったのではないかと思う。



 振り返ってみれば、初のワンマン。さまざまなハプニングもあるだろうし、最初からパーフェクトにはなかなかいかないのも観客は折り込み済みだろう。そのようななかで、寸劇を採り入れるなどヴァラエティに富んだ、予定調和に終わらせない斬新な構成でのチャレンジは、水曜日のカンパネラらしい、表現者や演者として面白いことをやってやろうという野心みたいなものが感じられて良かった。それは理解出来るだけに、徹底的にコンセプトに沿うのか、それともそれすらをも裏切った熱狂のパフォーマンスで酔わせるのか、そのあたり密度が薄く“ブレ”が生じてしまって、やや中途半端な印象を与えてしまったように思える。

 元来、圧倒的な歌唱力で聴かせるとか、スムーズな展開で心地良い空間を創り出すといったようなスタイルでないことは百も承知だし、それを誰もが求めていない。観客数のそれほど多くないイヴェント・レヴェルのものであれば、グダグダとしながらも流れに任せるパフォーマンスも気にはならないだろう。だが、これが900人のキャパシティで行なわれるソールドアウトの公演となれば、話は別だ。3000円で余る良心的な価格ではあるが、恐らく初見の観客も多かっただろう公演ゆえ、今後にファンを定着させる意味では思った成果が上げられなくても致し方がないところか。

 アイディアは持っているし、多彩な表現力も持ち合わせている。ただ、それを何でもかんでも出そうと詰め込み過ぎるきらいがあるのかもしれない。決して“小出しにしていく”ということではないが、表現したいさまざまなこと10のうち3、4、出来れば半分をやり切るくらいのスタンスの方が、アピール度も充実度も高まるはずだ。このステージを糧にして、また新たな“仕掛け”で楽しませてもらいたい。



◇◇◇
 
<SET LIST>
00 INTRODUCTION(including of phrase“Interlude-ラモス-”)
01 千利休
02 デーメーテール
03 二階堂マリ
04 インカ
05 チャイコフスキー
06 星一徹
07 ドラキュラ
08 お七
09 桃太郎
10 マリーアントワネット
11 ミツコ
≪オオルタイチ SECTION≫
12 flower of life
13 Makin a case for magic
14 Futurelina
15 Beshaby

16 ユタ(guest with オオルタイチ)
17 シャクシャイン
18 ナポレオン(guest with OBKR)
19 カーネル
20 ディアブロ 

◇◇◇



水曜日のカンパネラ『桃太郎』


水曜日のカンパネラ『千利休』


水曜日のカンパネラ『マリー・アントワネット』


水曜日のカンパネラ『ミツコ』


水曜日のカンパネラ『ナポレオン』


◇◇◇

 思い返してみると、EspeciaのWWWでの公演のオープニング・アクトだったのに間に合わず……以来となるから、水曜日のカンパネラのライヴを観るのは初めてか。ライヴ動画は頻繁に見ていたので、そんな感じはしないのだけれども。
 そのWWWの時には、Especiaのライヴの終演後、フロアにいたらコムアイの方から話しかけられ(ちょっかいを出され)、その後数分会話を交わすことが出来たのは、今となってはとてもいい思い出です。(爆)その時はアオザイ?チャイナ服?を着ていたっけな。変顔したり変態的なことばかりいいながらも、知的さを感じさせる美人さんでした。
 まあ、絶対覚えてないだろうけど。

 あと、この日は新曲の時にフロアのサイドにある柱の横のアッパーテーブルまでやってきて歌ったりしていたのですが、それが丁度自分が陣取っていたところから見上げたところの位置。コムアイの足首からスネあたりまで30センチもないという近距離のなか、彼女の綺麗なオミアシを直視出来たことは、僅かばかりの冥土の土産になりそうです。(笑)










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