シャーデーを想わせるヴォーカルやヴィジュアル・アートワーク、UKクラブ路線な曲風と音響的なエレクトロ・ソウルといった佇まいのサウンドで話題となったRhye(ライ)。2013年の“フジロック”以来となる来日公演を観賞。場所は恵比寿・リキッドルームで、早い段階でソールドアウトになっていた。この日は、カナダ人のヴォーカリストのマイク・ミロシュとデンマーク出身のプロデューサー兼楽器担当のロビン・ハンニバルのほか、ベース、ドラム、チェロ&トロンボーン、ヴァイオリンのサポートを加えた6人編成でのステージ。奇しくも、高い評価を受けた“フジロック”の時と同様の生バンド・セットとなった。
月曜日の夜という決して良好とはいえない条件のなかでソールドアウトとなったことに個人的には驚いたのだが、フロアの隅々まで満たしていた客層から推察すると、“フジロック”からの流れでというよりも、“シャーデー”というキーワードに引っ掛かった、20代後半から40代を中心としたファッションなどに敏感な層が集まっているような気がした。コンサバ系の女性も少なくなく、そのあたりはシャーデーやそれをモチーフにしたライのアートワークにも共鳴した、という客層が目立っていたのかもしれない。
これまでアルバム『ウーマン』のみのリリースということもあり、楽曲は同作収録曲からがほとんど。音源を聴いた人たちの多くが女性ヴォーカルと思ったミロシュだが(それゆえシャーデーの名を多くの評論家やライターたちが挙げたのだと思うが)、ステージでは全く異なるとまでは言わないが、CDや音源とは印象がかなり違った。だからといって、その上質な佇まいや官能的なヴォーカルの魅力が削がれる訳ではなく、むしろ過不足なくツボを押さえながらもオーディエンスの刺激中枢をくすぐる興奮の発露を促すような演奏とともに、清濁併せ飲むというか、一見静謐ながらも内実は野性と肉欲へのエモーションを吐き出すヴォーカルでフロアの温度を上昇させていった。それは、暗闇に灯されて揺れるロウソクの炎のようでもあり、瞬間的なインパクトや重圧はそれほどないが、ジワリジワリと惹き込まれていってしまうという誘引力に満ち満ちていた。
アルバムを聴き、「この曲風の楽曲群でスタンディングはどうなのだろう」と気がかりになった人もいたかと思う。だが、それは杞憂以外のなにものでもなく、激しい煽りや動きはないものの、ミロシュのほかチェロやヴァイオリンの女性のクラップが緩やかな波動となってフロアを包み込むと、内面に眠っている五感を刺激するようなグルーヴが横溢。ステージ左で鍵盤を奏でるロビン・ハンニバルの表情と同様の恍惚がオーディエンスのあちらこちらで見られ、「ザ・フォール」あたりからはイントロが鳴り出すと歓声が沸き起こるという、実に心地よい空間が形成されていた。
特にこのサポート・メンバーの構成は正解で、苛立ちやナイーヴ、時に官能を呼び覚ますヴァイオリンやトロンボーンももちろんだが、陰ながらも“黒さ”を点描するように音色に彩り続けていた漆黒のベースや、アンニュイな風合いを支えながらもしっかりとビートをを重ねてアグレッシヴな推進力を失わせないドラムは、甘美で心地良い浮遊感といった言葉では単純に言い表わせない、ライ固有の世界観を構築していた。時にポスト・ロック的にも感じたが、土台に敷かれているのはソウル・ミュージックへの愛着か。ヴァイオリン、トロンボーンが絡むこともあり、ジャジィなインプロヴィゼーション的アプローチも。
ラストの「イッツ・オーヴァー」のアウトロでは、ヴォーカルのミロシュがマイクから離れてア・カペラ風にヴォーカルを際立たせる演出も。祈るように手を合わせながら、次第に声を絞っていく姿は、霧がかった湖上の夜やキーンと冷ややかに感じられる空気をも匂わせたどこか神秘的で荘厳な佇まいに。カナダ人とデンマーク出身のユニットだからという訳ではないだろうが、寒冷な地域に出自を持つユニットならではのものにも思えた。
その後、フロアには鳴りやまないアンコールを催促する拍手の波が。結果的にはアンコールはなく約1時間10分くらいという短めのステージに終わったが、多くのリリース曲がある訳でもないし、無駄に長い時間を費やして濃縮度を薄めるよりも、現時点ではベストと思える尺となって良かったのではないか。出し切ったというステージももちろん充実感を得られるが、もう少し観ていたかったという浸れ具合が彼らのライヴには適っている気もするので。
フロアを後にすると、まだ脳内にはゆらゆらと揺れる彼らの音の炎が。精神に訴えるような内的刺激は、まるで燻りかけた炭火のようにゆっくりと心身を巡っていく。次があるかは分からないが、彼らの物語の続きを知りたいと感じた、そんな不思議な空間に身を置いた夜だった。
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<SET LIST>
01 6 WOLVES
02 VERSE
03 3 DAYS
04 THE FALL
05 MAJOR MINOR LOVE
06 SHED SOME BLOOD
07 LAST DANCE
08 THE CITY
09 HEAR IN YOU
10 OPEN
11 HUNGER
12 IT'S OVER
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Rhye - Open
Rhye - The Fall
Last Dance - Rhye