*** june typhoon tokyo ***

FAREWELL, MY L.u.v @LOFT HEAVEN


 無邪気のなかに新体制としての意欲を垣間見た、微笑ましき“リブート”。

 米作家レイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説『さらば愛しき女よ』の原題「Farewell, My Lovely」を由来とする名を冠し、愛知・名古屋を拠点に活動を展開する“フェアラブ”の愛称で知られるガールズ・ダンス&ヴォーカル・ユニット、FAREWELL, MY L.u.v(フェアウェル・マイ・ラヴ、以下“フェアラブ”)。ソウルやR&Bをベースにヒップホップなどの現代的アプローチを加えた楽曲とティーンエイジャーらしいスウィートネスも兼ね備えたユニークなスタイルで、好事家たちから評価を獲得。名古屋をはじめ東海地区での活動が主だったゆえ、これまでライヴは未見だったが、遅まきながらも初の全国流通盤作品『DONT TOUCH MY RADIO』(レビュー記事→「FAREWELL, MY L.u.v『DONT TOUCH MY RADIO』」)やそれに続く2nd EP『GOLD』(レビュー記事→「FAREWELL, MY L.u.v『GOLD』」)を聴き、その動向を注視していた。

 なかなかタイミングが合わずにライヴ観賞が出来ずにいると、2015年9月の始動から幾度のメンバーチェンジも重ね、2020年2月からスタートした2名体制も同年末に終わりを告げることに。その後の動向にやきもきするファンも少なくなかったが、一旦リセットした形での活動休止を経て、2021年11月より新体制として再始動。その初披露となるステージに駆け付けた。個人的には“ようやく”という言葉通りの初のフェアラブ。会場はかつてシャンソンバー「青い部屋」があった渋谷・六本木通り沿いの坂上にある「LOFT HEAVEN」。チケットはソールドアウトと、再始動に期待を抱くファンたちが夕暮れ深まった渋谷に集った。

 文字通りの“REBOOT”となったフェアラブは、大学1年の金津美月(かなつ・みづき)と中学3年のゆいかの2名でリスタート。成長著しい時期の4歳差ゆえ、特にゆいかはあどけなく感じ、そのユニット・バランスも気になるところだったが、どうやらリアルの姉妹とのことで、姉・美月に対して遠慮なく物言いしているところをみると、その年齢差のギャップからくる違和感はなさそうだ。美月は元ハロプロ研修生(旧・ハロプロエッグ)として活動していたからか、観客にはハロプロからのファンも少なくないという。
 
開演前はアイズレー・ブラザーズのムーディなメロウ・バラード「ビトゥイーン・ザ・シーツ」(Between the Sheets;邦題「シルクの似合う夜」)やウォーレン・Gの「アイ・ウォント・イット・オール」が流れるなど、“黒”好きにとってはニヤリとしてしまうBGMに身体を揺らしていたが、オーディエンスは“その手”に染まっている訳ではなさそうな感じも。そこはハロプロ経由でフェアラブへ辿り着いたアイドル・ファンが多くを占めているからかもしれない。


 姉・美月は白と黒のボーダーラガーシャツ、妹・ゆいかはイメージカラーのグリーンのパーカー姿で登場。冒頭の「プリティKiSS」や「NAGOYA ZOO」はキュートに弾けるポップ・マナーの楽曲で、よく耳にするアイドルのそれといっても違わないか。リアルシスターズらしい、家での会話のようなわちゃわちゃしながらもなぜだか意思疎通しているMC(原則、MCは特にテーマをしっかり遂行する訳でもなく、あちらこちら話題が飛びながらなし崩し的に進んでいく。それが観客の笑いを誘ったりもする)を経て、「UP DOWN」以降はフェアラブ流ブラックネスが通底した楽曲へ。「GOLD」「obsession」「gloomy girl」と続く、どこか憂いを帯びながらもスウィートなグルーヴを生む作風に、身体を揺らしながらあらためて楽曲のクオリティの高さを、このステージでも再認識した次第。

 一方で、それらを二人がどう表現するかに注視すると、高音などにばらつきがあったりと不安定な箇所が散見されるなど、いわゆるピッチにフォーカスした歌唱力という点では、発展途上という言葉に集約されると思う。だが、フックで開放感よろしく突き抜けるありがちなポップスではなく、何かくぐもったメランコリックなムードも帯びる“R&B特有のグルーヴ”への対応力は、二人ともにありそうだ。楽曲を表現するための咀嚼力はこれから高めていくことだろうが、リズム感もなかなかあって、コンセプトにもある“可愛くもダンサブルなオリジナル楽曲で独自のスタイルを確立”というところへも十分アジャストしていけるはずだ。

 ダンスについては、「ダンスとか頑張ってるんですけど難しくて、クルクル回るのって、目が回って倒れちゃうじゃないですか」というゆいかの発言に、「ゆいかは意味不明な〈遠心力の病気だ〉とか言ってるんですよ。しっかり回って欲しいです」と美月が笑いながら喝を入れていたが、そのダンスも場数を踏むことでステップアップも見えてくるだろう。
 また、「〈フェアラブ〉の曲って本当にいい曲が多いじゃないですか。だから、曲に負けてしまわないように……やっていかなきゃならないですよね」と美月が語っていたが、おそらくそこが現時点での最も意識すべき課題であることは間違いない。しかしながら、その点を認識・自覚しているゆえ、今後の“伸びしろ”や成長を窺える期待値はあるといってもよさそうだ。


 さて、再始動とはいえ、二人にしては新体制フェアラブとして正式に初となるステージ。この日披露した楽曲も、言ってみれば自分たち以外が歌ってきた既存曲で、音源などで発表されたこれまでのイメージを“新生”フェアラブのものにするには、やはりいくらかの時間はかかるだろう。それでも、現時点で唯一の新生フェアラブとしてのオリジナル新曲「Stella」を披露した際は、姉妹ならではのコンビネーションの良さも発揮。美月が(ハロプロ研修生での経験が効いているのか)メリハリを持った、時に熱を込めた歌唱も繰り出すと、ゆいかは特にラップ・パートで意外性を発揮。MCでの口調から受ける印象とは異なる、少し大人めいた部分もチラつかせるフロウは、このリアルシスターズ・ユニットの一つの武器として有効活用出来そうな予感もした。

 「Stella」は、ズッチャ、ズッチャ……タッタッという推進力あるシンセ・ビートに煌びやかなアレンジを施した、スタイリッシュなソウル・ディスコや00年代R&Bの薫りを漂わせるソウル・ダンスポップ作風。懐古過ぎないほんのりと頬を拭わせるような懐かしさを湛えたモダンなグルーヴが絶妙で、そのあたりの質感は「GOLD」や「obsession」に通じるところも。特にゆいかがラップを繰り出す後半のブリッジパートからの展開は、この楽曲のヴォルテージがより高まる肝の部分といえる。


 本編ラストの「Good Day」のパフォーマンスを終えてステージアウトすると、クラップの波は途切れることなくアンコールの催促へ。フェアラブの二人が再登場してのアンコールは、本編でも披露した新曲「Stella」をもう一度。“Stella”とはラテン語源に由来する星や惑星を意味する言葉だが、「お願い お願い Stella 君のように輝きたい / 知りたい お願い Stella 足りないもの探してる 星月夜に」というフレーズは、初のオリジナル楽曲として、夜空の星のように輝くための第一歩を踏み出す新生フェアラブに相応しいものになったのではないだろうか。
 歌唱後に求めたゆいかの「ん、……疲れてるんですけど」「楽しかったです」の感想に笑うしかなかった美月が「FAREWELL, MY L.u.v、ここからがスタートなので……」と真摯に話すと、隣でゆいかが頷くピュアな光景が印象的だった。

 個人的に以前のフェアラブを知らないゆえ、比較することは出来ないが、良質な楽曲を受け継ぎながらも、二人ならではのスタイルを築き上げることが肝要だ。もちろん課題は多くあるが、リアルシスターズとしての強みも活かした、”黒”濃度の高いダンサブルなソウル・グルーヴを描出するユニットとして、これからの成長を期待しながら、2022年早々に予定しているという再始動後初のシングル・リリースにも注目していきたい。


◇◇◇

<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 プリティKiSS 
02 NAGOYA ZOO
03 UP DOWN
04 GOLD
05 obsession
06 gloomy girl
07 Stella (New Song)
08 Good Day
≪ENCORE≫
09 Stella (New Song)


<MEMBER>
FAREWELL, MY L.u.v “REBOOT” are:
金津美月
ゆいか



◇◇◇

【FAREWELL MY L.u.vに関する記事】
2018/12/31 MY FAVORITES ALBUM AWARD 2018(「ブライテストホープ賞」の項)
2020/07/11 FAREWELL, MY L.u.v『DONT TOUCH MY RADIO』
2020/12/09 FAREWELL, MY L.u.v『GOLD』
2021/01/13 MY IMPRESSIVE SONGS in 2020
2021/12/04 FAREWELL, MY L.u.v @LOFT HEAVEN(本記事)

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