*** june typhoon tokyo ***

FAREWELL, MY L.u.v『GOLD』


 ポップへと軸を寄せながら、“フェアラブ”マナーのソウルを拡張させた意欲作。

 スヌーピーライクな少女のキャラクターデザインが印象的な名古屋出身のガールズ・ダンス&ヴォーカル・ユニット、“フェアラブ”ことFAREWELL, MY L.u.v(フェアウェル マイ ラブ)。2019年発表の初の全国流通盤となった前作EP『DONT TOUCH MY RADIO』(レビューはこちら→「FAREWELL, MY L.u.v『DONT TOUCH MY RADIO』」)のジャケットにもそのキャラクターがデザインされていたが、この2nd EP『GOLD』ではサブカルテイストのイラストレーションでメンバー2名の顔と帆船をイメージした名古屋ポートビル(名古屋港海洋博物館がある)を描いたものに(ジャケット裏面には金鯱としっかりと名古屋イズムをアピール。なお、個人的嗜好としてはサブカルテイストのデザインはあまり好みではないのと、ソウル系の楽曲性とは合ってない気がするのだが、作画の大橋裕之は愛知出身とのことで地元を意識しての起用のようだ)。今回、スヌーピー風少女イラストにせず、メンバーの似顔絵にしたのは、2020年2月以降の児玉律子ともり きこまる(a.k.a. タイロン・ウッズ)の2名体制による〈現在進行形の“フェアラブ”〉を強調しようとしたのだろうか。その意図は解からないが、作品としては古き良きアメリカン・オールディーズのポップネスを窓口にした、ブライトなソウル/ダンスの小品となった。

 大きく関わっているのは、前作『DONT TOUCH MY RADIO』に引き続き、渡辺泰司(YASUSHI WATANABE)で、収録7曲中「HAPPY LIGHT」「obsession」「GOLD」の3曲を担当。そのほか、最近では天野なつのアルバム『Across The Great Divide』の作家陣としても名を連ねたスセンジーナ&松尾宗能コンビが「染まってゆく」を手掛け、KODAMA AND THE DUB STATION BANDへの参加をはじめ、ロックステディ・バンドのThe Dreamletsやスカ・レゲエ・バンドのROCKING TIMEなど東京を根城にするバンドでも活躍するマルチプレイヤー/トラックメイカーの森俊也がスプリームスの「ベイビー・ラヴ」のカヴァーとそのダブミックス版「BABY DUB」をアレンジ&ミックス。ボーナストラックの「REFRAIN」には、Party Rockets GT、ひめキュンフルーツ缶やその派生ユニットのバリキュン!!などに楽曲を提供する萩龍一が参画している。

 前作EP『DONT TOUCH MY RADIO』のレビューで、「フェアラブの音楽性は、バブルガム・ポップやそこから派生してR&B/ソウルへのアプローチを見せたバブルガム・ソウルのスタンスも感じられ、アーティストとして非常に楽しみな存在だ」と記したのだが、本作『GOLD』の構成から見ると、前作で軸となっていたR&Bやレゲエ、ヒップホップという重心をややキャッチーなテイストへ寄せて、普遍性を高めたポピュラー・ソング集を狙った感じもする。


 その理由の一つは、やはりスプリームスの「ベイビー・ラヴ」のカヴァーをダブミックス含めて2曲投入してきたこと。前作収録のヒップホップ・ソウル的アプローチのR&Bダンサー「gloomy girl」のような佳曲が雨後の筍のようにはそうそう生まれる訳でもなく、そのなかでブラック・ミュージックが持つスウィートネスやポップネスを端的に表現したいと考えるなら、名曲カヴァーという選択肢も一つとしてあろう。ダイアナ・ロスのスプリームスという王道のセレクトからは、ド直球でモータウンを意識するスタンスも感じられる。

 ただ、児玉のソロとなった「BABY LOVE」はふんわりとしたソフトな質感の楽曲ゆえ、良い意味で“緩さ”を有している児玉のヴォーカルとが微妙に“緩さの加重”を起こしてしまっていて、やや勿体ない気も。スプリームスなら「ストップ・イン・ザ・ネイム・オブ・ラヴ」や「ユー・キープ・ミー・ハンギン・オン」といったようなエッジのある楽曲で、児玉のヴォーカルとの緩さの“ズレ”を活かした方が面白さも増すかとも思う。

 しかしながら、そのソフトな質感をレゲエダブでよりレイドバックさせた「BABY DUB」は、その緩さが存分に活かされて、好結果を生む形に。「BABY LOVE」は全編英語詞カヴァーで、発音や抑揚に自信が持てずにややもたつき気味の歌唱も散見されたが、ダブ・ミックスによりそのたどたどしさが残るヴォーカルパートが削ぎ落されたのも奏功したか。そう考えると、英語詞カヴァーでなく日本語詞カヴァーであれば、また違った印象を抱いたのかもしれない。


 ポップ然としているのは、冒頭の「HAPPY LIGHT」もそう。これはもり きこまるのソロ曲っぽいのだが(児玉の声が聴こえないので)、全体的にハッピー・ヴァイブスが覆う曲調のなかで「みんな踊っちゃう?今日は踊っちゃう?」と歌うポジティヴな展開が、なんともガーリー。それでもイントロのジョイフルなヒップホップ・アレンジや「Step, step, turn, party girl」のリフレインなどからはバブルガム・ポップ/ソウル感も伝わってきて、単にポップのみに特化させない作風は渡辺の気の利かせ方ともいえそうだ。
 ボーナス・トラックの「REFRAIN」は「HAPPY LIGHT」以上にキラキラとしたグリッター感が散りばめられていて、アイドル楽曲を多く手掛けてきた萩龍一らしさが出ているか。しっかりとメリハリを効かせた陰影のあるアレンジで、分かりやすさ=キャッチーな濃度を高めたソウル・ポップに昇華させている。

 やや異色なのが、松尾宗能による「染まってゆく」で、タイトルよろしく夕陽が海に沈み、水面がオレンジに染まっていくような黄昏もチラつかせるムードが出色のナンバー。そうはいっても、スティールパン風の音色やアフタービート、ポコポコと鳴るリズムなど南国的な要素をふんだんに駆使していて、ノスタルジーやセンチメンタルといった哀愁や悲哀の感はなし。曲風はまったく異なるが、スパンダー・バレエの「トゥルー」をラヴァーズロックとしてろ過し、ニューミュージック風に出力した、とでもいえばいいだろうか。フェアラブにはなかったボサ・ノヴァのような“サウダージ”の要素は、フェアラブの楽曲性を豊かにするのに貴重な一曲といえそうだ。


 さて、本作がポップネスに寄せた作品だとしても、やはり核となるのはメイン作家・渡辺泰司による2曲、「obsession」とタイトル曲の「GOLD」だろう。「obsession」はヒップホップ・ソウル的に明確にトラックを敷いた上で、懐かしさをもたらす(古めかしさを寸前で回避する)レトロ・モダンなメロディを走らせていて、ナーヴァスな世界観ながらも推進力とグルーヴに満ちているという不思議な魅力を持っている。強迫観念や妄想、執着などを意味する“obsession”というテーマもこのサウンドにマッチしていて、ほのかに怠惰やアンニュイも垣間見えるラップ風ヴォーカルや「僕は マースィ マースィ」以降のソウルフルな躍動を見せる展開(もしや“マースィ マースィ”はマーヴィン・ゲイの名曲を意識したフレーズ?)など、派手さはないものの旨味が横溢している傑作だ。

 それに続く「GOLD」も秀抜。「そう私達がNumber one / I'm the best」と歌う彼女たちのイメージからは意外なボースティング曲だが、闇雲に威張るのではなく、スウィートとほんのりドライというそれぞれ2人のヴォーカルの特性を活かして、私達ならではの尺度でのナンバーワン(=オンリーワン)を、どこか冷めた視線ながら現実を見抜く利発性を持った現代の若者らしさ(と上の世代が見て取る印象)とともに誇示。外面はクールを保ちながらも、内に秘めたホットな感情がジワジワと伝播してくる、“冷静と情熱の間”モードなサウンドも美味だ。トラックはSUITE CHIC以降の安室奈美恵らしさ(そういえば、安室は「ベイビー・ラヴ」をリメイクした「NEW LOOK」をリリースしていたっけ)も窺えるクールビューティな彩りもあり、導入の「Gloomy Gloomy(Girl girl)」はフェアラブの代表曲「gloomy girl」からの意匠を感じさせたりと、しっかりと当初から目指すフェアラブ流ブラックネスも継続させている。

 ニッチなスタンスからポピュラー濃度を高めて大衆性に舵を切ってはいるが、それはあくまでも前作と比べてのもの。渡辺泰司を中心とした作家陣たちが、R&B、ヒップホップからラヴァーズロックなどを横断しながら、フェアラブ流ソウル&ポップを構築していることに違いはない。彼女たちの音楽性振幅を拡げるステップとして、恰好の一枚となったといえるのではないだろうか。
 
◇◇◇

■FAREWELL, MY L.u.v / GOLD(2020/10/28)
FWML-005

01 HAPPY LIGHT
02 染まってゆく
03 BABY LOVE
04 obsession
05 GOLD
06 BABY DUB
07 REFRAIN 〈Bonus track〉


◇◇◇




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