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<資料>「国家崩壊」寸前、ベネズエラ国民を苦しめる社会主義の失敗

2017-05-08 21:08:36 | 南米

The Economist:ベネズエラ、回ってきたツケ

 ベネズエラの現在の危機の深刻さを伝えるのは難しい。経済は昨年、10%縮小し、国際通貨基金(IMF)によると今年末には2013年比で

23%縮小する。インフレ率は今年、1600%を突破するかもしれない。食料不足のために過去1年で国民の約4分の3が痩せ、1人当たりの体

重が平均8.7キロ減った。戦争や内戦が起きたわけではない。政策がもたらした結果だ。マドゥロ大統領の現政権が独裁色を強める中、苦境

は悪化している。50年前のベネズエラは中南米諸国の模範であり、比較的安定した民主主義国で、英国と比べてもさほど貧しくなかった。一

体なぜ、こんな悲劇が起きたのか。


■石油暴落でドル収入が急減

 ベネズエラの経済基盤は石油にある(指導者らは世界最大の埋蔵量だと誇る)。そのため今の窮状を石油価格のせいにしたがる。

確かに石油が輸出の9割以上を占め、政府予算を支え、消費財を輸入するための外貨を稼ぎ出す。トイレットペーパーからズボンまで

重要なモノはほぼ海外から輸入されている。


 00年代の原油価格高騰でベネズエラは莫大な資金を手にした。だが14年に石油ブームが終わると、ドル収入が急減。チャベス大

統領の死に伴い後を継いだマドゥロ新政権に厳しい選択肢を突きつけた。マドゥロ氏は通貨ボリバルの価値下落を容認することもでき

たが、その場合、輸入品価格は高騰しただろう。物価が高騰すれば、需要は抑えられるが、社会主義的な考えのボリバル主義を掲げ

るベネズエラ政府にとっては平等の精神に反することになる。


 それ以上に問題は、物価高騰は新大統領の不人気を招く点だ。そこでマドゥロ氏は激しく過大評価された公式為替レートを維持し、

信頼性の高い外貨の入手を厳しくし、輸入を制限した。チャベス時代から政府は、価値のあるものを輸入するのだと証明しない限りボ

リバルをドルに交換させないなど、石油業界が稼ぐドルの流れを管理してきた。この統制をマドゥロ氏はさらに強化した。


 その結果、輸入品が減るに従い、物価が上昇するという意図せざる事態を招いた。そこでマドゥロ氏は物価統制に出た。すると物資

の供給は激減するか闇市場に向かった。逼迫する政府の財政も事態の悪化に拍車をかけた。石油収入が半減し、財政赤字が膨らむ

中、支出を削り、課税対象を広げる道もあったが、新大統領はそれでは自分の政治生命が終わるとみたのだろう。支払い義務を果た

すべく代わりに紙幣を増刷した。それは壊滅的ともいえる高いインフレ率を招き、経済をさらに弱体化させた。


 つまり原油価格の乱高下が現在の経済的苦境の原因ではない。確かに原油に依存した経済のかじ取りは難しい。価格が高騰する

と、産油国の通貨は上昇し、その国の非石油産業の競争力をそぐ。それが石油輸出国の石油依存を一段と高め、原油価格が下落し

た際の苦痛を悪化させる。この危険性を知っている石油輸出国は、好況期の外貨流入で外貨準備を増やすなど、リスク軽減を図って

いる。後々の外貨建ての支払い義務と輸入費用をまかなう資金となるからだ。サウジアラビアは5000億ドル(約55兆7000億円)以

上の外貨準備を抱える。一方、石油の利益で石油依存という長期的リスクを減らすべく多角的な投資をする政府系ファンドを設ける国

もある。公的年金の給付原資に貢献することを目指すノルウェーの政府系ファンドは9000億ドル近い資産価値を持つ。


■将来の資金を無駄遣い

 チャベス氏は、20年にわたる原油価格低迷期の終盤に大統領に就任し、その後の価格高騰を謳歌した。00年から13年の政府支

出の国内総生産(GDP)比は28%から40%に上昇するほど、同氏は原油輸出で得た資金を使いまくった。00年当時、ベネズエラの

外貨準備は7カ月分以上の輸入をまかなえるだけあったが、13年には3カ月分弱に減った(同期間、ロシアの外貨準備は同5カ月分

から10カ月に、サウジも同4カ月分から37カ月に増えた)。


 チャベス氏はなぜ原油暴落に備えなかったのか。同氏によれば、1979年から大統領に就任した99年までの長い原油不況でベネ

ズエラ人が苦しんだのは、原油安が理由ではなく資本家が国民と分かち合うべき富を収奪したからだ。そのため大統領在任中は社会

政策への公共支出を増やし、食料とエネルギーへの補助金を増やした。おかげで国民は所得拡大と生活水準の向上という形で、その

成果を実感した。彼の政策は一定期間、効果をあげた。


 だがこの政策には欠陥がある。権力者はかなり時間がたった後、また自分が去った後にしか実を結ばない計画に投資するより、政

治的な脅威をカネで片づけようとしがちだ。産油国の場合、資金もある。チャベス氏は敵を弱くし、味方を取り込むため富を利用し再分

配した。誤った経済運営で石油により得られた富を散財し、同国の社会主義を支えた。民間企業を攻撃したため、同国の様々な資源

を開発するのに必要な知識や資本が蓄積されなかった。記録的な原油高騰時代に、将来の発展に使うべき資金までも無駄遣いした

のだ。


 ベネズエラはチャベス氏が権力の座に就くまでは中南米諸国の羨望の的だった。だが人気を維持するのは難しい。ポピュリストは切

羽詰まるほど、長期的リスクを抱え込むことになっても短期的に効果の出る手段を選ぼうとする。そのツケは必ず回ってくる。そして最

も苦しむのは常に一般市民だ。

 

2017/4/12 2:00



「国家崩壊」寸前、ベネズエラ国民を苦しめる社会主義の失敗

隣国コロンビアから卵を密輸してきた男(手前)。モノ不足で高く売れる

 原油の確認埋蔵量で世界一を誇るベネズエラの経済が、長年の社会主義政権のつけで崩壊寸前の危機にある。「経済的崩壊」が現

実味を帯びてきたと言っていい。以下に、ベネズエラの状況を伝えた各メディアのレポートを紹介する。

1. ベネズエラ経済は、風が吹かれるクレーンのようなものだ。いつ倒れてもおかしくない。原因はただ一つ、同国の徹底した社会主義

体制だ。米大統領選の自称社会主義者、バーニー・サンダースと彼の支持者が、なぜ身近にある社会主義の末路を気にも留めていな

いのか不可解だ。


 信じられないことだが、原油の埋蔵量で世界一のベネズエラが、今や原油を輸入している。ノーベル経済学賞を受賞したミルトン・フ

リードマンはかつて「もし社会主義政権にサハラ砂漠を管理させたら、すぐに砂が足りなくなる」と語ったが、ベネズエラの状況はその

説明にぴったり当てはまる。


 社会主義政権の下、食料やトイレットペーパー、紙おむつ、薬などのあらゆる必需品の不足も深刻を極めている。すべて政府による

計画経済や通貨統制、物価急騰が原因だ。


 IMF(国際通貨基金)によると、社会主義体制下の18年間に政府が浪費を続けたおかげで、ベネズエラのインフレ率は720%に達

する。凶悪犯罪の発生率も世界最悪で、メキシコのNGOが発表した「世界で最も危険な都市ランキング」では首都カラカスがワースト

1位になった。(2016年2月5日付「インベスターズ・ビジネス・デイリー」)


『肩をすくめるアトラス』の世界

2. 「飢えをしのぐために犬や猫、鳩狩りをする国民:ベネズエラでは経済危機と食料不足で略奪や動物狩りが横行」。(2016年5月4

日付「パンナム・ポスト」見出し)


3. ニコラス・マドゥロ大統領が、操業を停止した工場の差し押さえや経営者の逮捕など、政府による取締りの強化を表明。(計画経済

に移行したアメリカが衰退していく模様を描いた)アイン・ランドの小説『肩をすくめるアトラス』が現実に。(2016年5月15日付BBC

ニュース)


4. 「瀕死の乳児にも投与する薬なし:機能不全に陥ったベネズエラの病院」

 ベネズエラでは経済危機の影響で命を落とす人が後を絶たない。とりわけ医療が危機的状況にある。ニコラス・マドゥロ大統領はつ

いに経済緊急事態を発令し、国家崩壊の懸念もささやかれ始めた。


 医療現場は経済危機の影響をもろに受けている。治療に必要な手袋や石鹸がなくなる病院も出てきた。がん治療薬は闇市場でしか

手に入らなくなってきている。電力不足も深刻で、政府は節電目的で公務員の出勤を週2日に制限した。(5月15日付「ニューヨークタ

イムズ」日曜版)


5. 「社会主義」とは、ベネズエラの惨状を伝える報道写真が象徴するように、衛生状態が最悪な手術室や壊れた保育器、血だまりの

中で横たわって治療を待つ患者、抗生物質が手に入らないために命を落とす犠牲者など、国民を悲惨な結果へ導く精神的な毒を指

す。


 これに対し「民主社会主義」とは、社会の一握りが富を独占していると不公平を訴えることにより、富を富裕層から合法的に盗むこと

を指す。社会全体の貧困化させることによって格差是正が達成される。政府に権力を集中させ、民間企業や個人の権限を抑え込む。

(5月16日付「ウォール・ストリート・ジャーナル」、ブレット・ステファンズのコラム)


6. 過去数十年間でベネズエラから国外へ逃れた医師の数は1万3000人に上ると推計される。医師不足解消の助け舟としてキュー

バ政府がベネズエラに医師を派遣したが、派遣されたキューバ人の医師たちは、ベネズエラからコロンビア経由でアメリカを目指す始

末だ。だがそうなるのも無理はない。ベネズエラでは医師も診療報酬を減らされ、料理に使う油や食料品を購入するのもままならない

状況なのだ。(4月26日付「リーズン」)


7. ベネズエラでは急激な物価上昇に対応するため貨幣を増刷しようにも、そのための紙代を支払う資金すらない。(4月27日付「ブ

ルームバーグ」)

 

8. 食料不足で苦しむベネズエラでは、食料品店を狙った略奪が日常茶飯事だ。(ロイター/ビデオ)


9. ベネズエラは原油埋蔵量が世界一であるにも関わらず、政府が国民の生存に必要な食料や医薬品すら供給できない事態に陥って

いる。(CNN)


稼いだ外貨を使いきった指導者

10. ベネズエラの経済危機は、1990年代末から続くウゴ・チャベス前大統領とニコラス・マドゥロ現大統領による社会主義政権が掲

げた約束がイリュージョンだったことを露呈している。


 外貨収入の96%を原油に依存しているベネズエラでは、原油価格が高かった時代には、住宅環境や食料供給の改善、賃金上昇や

福祉の充実によって国民も恩恵を感じることができた。


 だがベネズエラ政府は持続可能な経済への構造転換に失敗した。せめて石油で潤った外貨収入を蓄えておけば2014年に始まった

不況による影響を多少なりとも抑えられたであろうに、政権はそれすらばらまき政治に利用した。(5月17日付「ニューヨークタイムズ」

社説、ベネズエラの経済危機の元凶は社会主義体制だと批判して)

──ニューヨークタイムズはさらに、ベネズエラの殺人発生率は一日当たり52.2人、約28分ごとに一人が殺害される計算だと指摘して

いる。


 チャベスとマドゥロによる社会主義政権の終焉が近いことはしばらく前から明らかだった。それにも関わらず、左派の論客のなかには

つい数年前まで、チャベスとベネズエラの経済政策を全面的に支持する意見があった。以下に興味深い例を2つ紹介する。


11. デービッド・シロタは「ウゴ・チャベスによる経済の奇跡」とした記事の中で、チャベスの経済政策を絶賛した。(2013年3月6日付「サロン」)


12. 左派寄りの経済学者マーク・ウェイスブロットは、ベネズエラの経済政策に対する批判に反論して「ベネズエラ経済はラテンアメリカ

版の(財政破綻の危機にある)ギリシャではない。ベネズエラの経済的崩壊はあり得ない」と主張した。(2013年11月7日付「ガー

ディアン」)

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