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<天安門事件30年>習氏が狙う「記憶抹消と歴史改ざん」

2019-06-03 12:29:55 | 中国・中国共産党・経済・民度・香港

 天安門30年、習氏が狙う「記憶抹消と歴史改ざん」

 2019 年 6 月 3 日 06:35 JST  By Charles Hutzler and Chun Han Wong

 

 30年前、北京の天安門広場を横切る巨大な戦車の列の行く手を遮ろうと、ある男性がその前方に

立ちふさがった。6月4日の流血の惨事が起こきた翌日のことだ。男性の身元は今でも分かっていない。

だがその名もなき男性の反逆を物語る写真は、世界中で権力者への抵抗を表す象徴となった――中国を

除いては。中国では検閲され、国民の記憶から消えつつある。


 中国のソーシャルメディア上では、その「戦車男」の写真は徹底して削除されているもようだ。

英国人ジャーナリスト、ルイーザ・リム氏は、天安門事件とその後の記憶抹消に関して、2015年に

出版した書籍を書き上げるために調査した際、その「戦車男」の写真を北京の4大学で計100人の

学生に見せた。この人物について正確に理解していたのは15人のみで、2人は推測で当てた。

リム氏はその自著「The People’s Republic of Amnesia(仮題:記憶喪失人民共和国」の中でこう

記している。


 中国政府はここにきて、世界においても、同じように自国の歴史のイメージをコントロールする

ことを狙っている。習近平国家主席とその側近らは、インターネットを「イデオロギーの戦場」と

位置づけ、中国共産党はそこで勝利し、世界の世論に対する同国の影響力を拡大しなければならないと

主張している。習政権は中国国内の情報統制を強化するだけでなく、自国の基準を外国人にも

押しつけようとしているのだ。


 中国および海外の研究者によると、中国の公文書記録へのアクセスは一段と制限されるように

なっている。承認された場合でも、入手できる記録は限られるもようだ。中国の学術機関が運営する

データベースでは、政府が問題視する記事が削除されている。これに加え、政府は中国人研究者の

著書を禁じる、また気に入らない外国の学者にはビザの発給を拒否するなどして、脅しも使う。


 上海財経大学で教授(文学)だったペイ・イーラン氏(64)は、自身の思想史研究の一環として、

中国共産党の激変の歴史について調べ始めた。ペイ氏は、研究に関して当局者からの圧力を回避

するため、同大学の教授職を早期退職することを選ぶ。だが圧力はやまず、毛沢東時代の政治・

経済を巡る混乱に関する研究をすべて抱え、2年前に渡米した。現在ニュージャージー州に在住の

ペイ氏は「不吉な前兆は出ており、可能なうちに逃げた方がいいと考えた」と当時を振り返る。

ペイ氏にとって、その意図は明白だった。つまり、習氏は「共産党の歴史的な正当性」を求めており、

権力を掌握することで「歴史を故意に書き換え、一方的な主張を唱えている」。


 中国古代王朝の皇帝は宮廷史学者を雇い、自らの統治の正当性を高めるために、過去を書き換えさせた。

中国共産党も同じような権限を強力に行使している。最終的に毛沢東と対立した革命家の同志らは

粛清され、写真から消された。毛沢東統治下の最も悲劇的な時代――「大躍進政策」によって起きた

1959〜1961年の大飢饉(ききん)から1966〜1976年の「文化大革命」による混乱と暴力まで――

には、数千万人の死者が出た。だがこの時代の出来事は、高校の歴史の教科書では曖昧にされ、

政府が承認した研究を除き、ほぼ禁止されている。

 

 中国指導部は、天安門事件を「民主化デモ」とする見方に即座に反論。兵士が1989年6月、

北京中心部に進軍すると、中国共産党機関紙の人民日報は抗議活動を「反革命的な混乱」と報道。

デモ制圧後の数日間、国営メディアは戦車男の写真ではなく、「暴徒」によって火を放たれ殺された

兵士の写真を繰り返し放映した。

 

 毛沢東と共産党の誤りについて分析することが時に許されることもあった。1989年の天安門事件に

至る数年は、多くの中国人にとって、共産党の寛容性が際立つ時代だ。だが習氏は、共産党の過去に

関する批判的な評価を「歴史ニヒリズム」と呼んで軽蔑する。同氏の目には、そのような否定的な

論調が旧ソ連の崩壊に寄与したと映る。


 習氏はこれまで、自身の指揮下では、共産党は中国のイメージを厳しく管理する考えを明確にしている。

習氏は実権を握った数週間後の2012年終盤、党幹部を前にした演説でこう警告している。

「ある国家を破壊するには、まずその歴史を破壊しなければならない」。習氏は、欧米の列強を前に

中国の崩壊を目撃した19世紀の中国人知識人からその教訓を得た。「国内外の敵対勢力」は

、現政権を崩壊させるために党の過去を汚そうとする。これから守るためには、自身の政権は

攻勢を強める必要があると演説で訴えた。


 豪メルボルン大学博士課程の学生、デートン・レクナー氏は、1950年代終盤の「反右派闘争」を

生き残った老人に話を聞いた。反右派闘争とは、毛沢東による反体制リベラル派を主に狙った

政治的な粛清だ。現地取材を終えようとしていた2017年初旬、レクナー氏は上海の警察署で

呼び止められ、3時間にわたり尋問を受けた。担当官は、レクナー氏が取材した人物を把握しており、

取材で得た情報を公開しないよう、また尋問についても口外しないよう要求した。

レクナー氏は後に、前出のリム氏(現在はメルボルン大学教授)と共同でホストを務める

「リトル・レッド・ポッドキャスト」でこれを明らかにした。レクナー氏はこの件に関する内容を

確認したが、これ以上のコメントは控えた。


 ネット上の資料は、政府管理下にあるものの、情報への広範なアクセスが認められており、

世界中の研究者にとっては魅力が高まっている。だが、歴史家のグレン・ティファート氏によると、

中国のネット上の資料はひそかに選別されているようだ。ティファート氏は中国にある2つの

ネットアーカイブを使って、1950年代半ばの司法の独立性問題などに関する議論について、

有力な司法ジャーナルの記事を検索した。習氏は中国の司法制度を構築する上で、多くの欧米基準を

取り入れることに抵抗しており、これらの議論は現在にも通じる。ティファート氏が受け取った

検索結果では、記事の1割近くが削除されていた。同氏は過去に司法ジャーナルのハードコピーに

アクセスしたことがあり、削除に気がついたという。


 ティファート氏はこの体験について、ジョージ・オーウェルの小説「1984」に登場する装置

「記憶の穴」をのぞき込むようだと語る。この小説でこの装置は、為政者にとって政治的にタブーな

文書などを廃棄するために設置されている。そのような制限は、欺瞞(ぎまん)だとティファート氏ら

学者は指摘する。人々や出来事を忘却させるのではなく、検索結果に修正を加えることは、未来を

形作るために歴史の記録をゆがめていることになる。

ティファート氏は4月、アメリカン・ヒストリカル・レビューへの寄稿で「中国は、過去の見解を

偏向的にゆがめることで、未来の可能性を損なっている」と語っている。


 同氏はインタビューで、天安門事件30年についてこう解説した。

「中国当局は、単に一連の不都合な真実や事実を葬り去ろうとしているのではなく、新たなストーリーを

構築しようとしている」

 https://jp.wsj.com/articles/SB12240879310288303561304585339581518709258


<資料>天安門事件の記録。戦車に立ち向かう「タンクマン」 / 天安門事件、記憶遺産申請目指す意向。

 


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