バルカンの古都ブラショフ便り

ルーマニアのブラショフ市へ国際親善・文化交流のために駐在することに。日本では馴染みの薄い東欧での見聞・体験を紹介します。

ルーマニアで観た歌舞伎

2008年07月06日 20時29分20秒 | 活動
 中村勘三郎率いる平成中村座の第1回海外公演は2004年ニューヨーク、2008年に入って第2回はベルリン、そして第3回がシビウです。

Q: シビウって? それどこ??
A: ルーマニアの中央部に12世紀頃ドイツ人が入植して作った人口20万人くらいの田舎町です。
Q: ええ? そんな所で?? 立派な劇場でもあるの??
A: いいえ、町はずれの廃工場跡倉庫が会場です。
Q: ええ?何でそんな所で??
A: 分かりません。
Q: 開演時間は?
A: 4回公演で、毎夜10時から翌朝1時までです。(最終日は午後5時から)
Q: 何でそんな時間に?
A: 分かりません。芝居がはねた後、皆さんどうやって帰宅されるかも。
Q: 料金は?
A: 全席900円均一です。
Q: 何でそんなに安いの?
A: 分かりません。


 工場倉庫を利用した会場

 数々の疑問を残しながらも、日本から総勢80名、そのうち役者が30名。勘三郎のほか、扇雀、橋之助、彌十郎、亀蔵、勘太郎、七之助といった歌舞伎座を一か月間満席にできそうな豪華キャストがやって来るというので、出掛けました。(ブラショフから車で3時間の所ですから、行かなきゃ損!!)
 演目は「夏祭浪花鑑(夏まつりなにわかがみ)」。会場入口では、坂東彌十郎さんたちが出迎えてくれました。「ひゃ!こんな至近距離で、彌十郎さん!!」と海外公演ならではのサービスにまず、大感激です。

 
  会場入口で迎えてくれる坂東彌十郎さんたち

 季節は、夏祭りということで、開演直前になると太鼓が鳴り響き、物売り・大道芸人に扮した役者さんたちが花道や客席にたむろし始め、徐々に舞台に近づきながら祭りの雰囲気を盛り上げながら物語が始まるという趣向でした。海外の観客にも親しみを持ってもらおうと工夫しているのでしょう。フレンドリーな幕開けで好感度が上がります。
 日本人の追っかけはいるのかなあと見渡したところ、ほんのチラホラ。圧倒的にルーマニア人です。話の内容はイヤフォン・ガイドを通じて問題なく伝わっているようで、可笑しい所ではちゃんと笑っていました。
 
 
 会場内部 (満員御礼です。)

 開演前、日本の夏祭りの雰囲気を盛り上げる。

 日本の伝統芸術が、海外でどれほど通用するものか、感動を与えることができるのかと興味津々でしたが、果たして結果は ・・・・ 一言で言って、涙が出るくらい感動的で、同じ日本人として誇りに思えるくらい素晴らしい出来だったと思います。
 筋立てはと言えば、人情話なので例によって義理と人情に挟まれながら運命的な方向に発展してゆくのですが、話の中で例えば、義理を果たすためには色気が邪魔になると言われた年増が自らの顔に火傷と作ってまで義理に拘る心意気とか、舅殺しの罪の意識とか、お上の御用と友情とのジレンマに悩む男の姿とか、日本人が特に重要視する心理が程良く織り込まれていて良かったと思います。
 演出面では、殺しの場面で電気照明を全て消して黒子達が走り回って役者の顔を下から照らして凄惨さを出したり、泥の中で死闘を繰り広げたり、死体が落ち込んだ井戸から水しぶきが上ったり(前方席の観客は予めビニール防水着が配られていた。)、大詰めの捕り物場面では投げ縄・投げ網の妙技、梯子を使った大立ち回りなど、私達が観ても日本にもこんな大アクションがあったのかと思わされるような素晴らしいものでした。しかも、これが何の仕掛けがあるわけでもなく、舞台上で役者とトンボの息の合った動きだけで行われている所がすごい。特に勘三郎は、こちらがハラハラするくらいの大車輪・大活躍でした。

 かくて舞台は熱狂に包まれ、カーテンコールではもちろんスタンディングオーべーション。熱い拍手はいつまでも鳴りませんでした。舞台はやはり生き物。役者と観客の相互作用で、無限に盛り上がるものだということを改めて思い知らされました。周りのルーマニア人たちも「素晴らしかった。」と口々に賞賛していました。もちろん、お世辞も含まれているとしても、かなり本心だったのではないかと思います。感動した。


スタンディング・オーベーションのカーテン・コール (中央が勘三郎)

 自然院はもともと日本の伝統芸能には関心が深く、謡曲は先生について習って久しいし、歌舞伎も一時は毎月歌舞伎座に通ったことがあります。特に今は、文化交流という職を奉じている関係上、伝統芸術がどの程度外人に理解されるのかという点には、予てより人一倍興味がありました。
 今回の歌舞伎公演の成功を見ると、芸術に国境なしという感が致します。しかし、だからと言って多くの日本の伝統芸能が海外で容易に理解され得るかというと、やはり課題は多いと思います。

 歌舞伎・能といった日本の伝統芸能は、文学的要素・音楽的要素・視覚的要素から成り立っていますが、海外公演の場合特に障害となるのは文学的要素でしょう。すなわち、ストーリー(例えば、建前と本音を使い分ける微妙な日本人特有の心理など)が外国で受容れられるか? 七五調の名文句や掛け言葉と言った修辞の心地良さが翻訳を通じてどれだか理解されるか? などといった課題でしょう。
 今回の歌舞伎では、平易で万人に受容れられやすいストーリーを採用することで文学面での障害を克服する一方、視覚に訴える高い見どころをふんだんに盛り込むなど演出上の工夫で劇的効果を高めたことが成功の要因と考えられます。
  どの芸能でも同じようにとは行かないでしょうが(特に文学的要素の強い能などでは)、今回の歌舞伎は大成功したと言う事は確たる事実であり、勇気付けられる快挙でありました。


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2 コメント

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おめでとう! (ハッペ)
2008-07-07 00:02:19
日本文化の代表でもある歌舞伎がルーマニアで受け入れられて
冷静な自然院様が、涙が出るほど感激した!などと
おっしゃるほどに素晴らしい公演だったと想像できます。
歌舞伎は好きでよく観に行きますが
勘三郎さんは次世代に繋げる事に頑張っていることが伝わって来ますね。
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感激が・・・ (ならん)
2008-07-08 09:29:05
まあ、感動されて、感激されて、鼻が高くなって・・・ぞくぞく感すばらしい時間でしたね。
勘三郎さんたちに、お声をかけられたのですか?
ここに住んでいる日本人に会えるなって!!と
あちらも感激したのでは?
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