日本人の起源

遺伝子・言語・考古・歴史・民族学などの既存研究成果を統合し、学際的に日本人と日本語の成り立ちを解き明かす

9.環境変動

2015年02月01日 | 本論1-世界的視点
 最後に、人類史において重要なFactorとなる環境変動についてごく簡単に触れておく。最終氷期の最寒期は2万年前といわれる。以降徐々に気温が上昇し、1万年前に現在とほぼ同程度の気温になったと言われる。ちょうどこのころに農耕が開始したことと無関係ではないだろう。
 気温が上昇すれば氷河・氷床が解けて海水面が上昇するから、もと平野であった所の多くが水没することになる。世界中に似たような洪水神話が存在するのもここに起源するものと思われる。特に「ノアの洪水伝説」は海水面上昇により持ちこたえられなくなったボスポラス海峡が約7500年前に決壊し、黒海に大量の海水が流れ込んだ事件が後世に伝わったものであるという(文献1)。古代ムー大陸やアトランティス大陸も、それを科学的に考えれば海面上昇により水没した大陸棚を指しているものと思われる。
 1万年前以降も寒暖の小変化は繰り返された。6000年前頃に最も温暖であったと言われ、日本では「縄文海進」が起きた。以降は徐々に寒冷化傾向にある。特に2500年前頃にやや強い寒冷期があり、中国大陸においては華北黄河流域に住んでいた漢民族の南下により長江文明が崩壊したとされる。歴史的には春秋戦国時代の呉、越の滅亡に当たる。呉の末裔が日本に東流した倭人であることは後で詳しく述べるが、このような民族大移動の原因は気候変動によるものが大きい。
 民族移動を考える際、古気候、古環境を考慮に入れねばならない。サハラ砂漠は8000年ほど前は湿潤であったという。現在砂漠であったところも過去は肥沃な草原だったかもしれない。現在のシベリア針葉樹林(タイガ)が広がる地帯は1万年前まではマンモスステップであった。過去の環境を現在と同視するととんでもない結論に至ることがあり注意を要する。人類史を紐解く場合はその時々の環境を背景に考察しなければならない。

図1-30(文献2より)

図1-31(文献3より)
「ノアの洪水」は温暖化による海水準上昇により、ボスポラス海峡を通って地中海から黒海へ大量の海水が一気に流れ込んだ出来事をさすとされる。その流量はナイアガラの滝の200倍であったという。最新研究では数々の科学的証拠が発見されている。

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<文献>
1.ウィリアム・ライアン  ウォルター・ピットマン(2003)『ノアの洪水』集英社
2.『日本人のルーツがわかる本』「逆転の日本史」編集部 編宝島社 1999 P129
3.http://userdisk.webry.biglobe.ne.jp/022/325/48/N000/000/003/138393926342062406226_blackseamap.jpg