VERI & heso’s Management

 経営理念の研究(VERI研)と 法人の総務(hi-soumu)

セムラーの理想とサバイバル (1)

2006-07-21 10:38:05 | VERI研
                       -VERI-情報0607

 猛暑と梅雨が交錯する今日この頃です。お元気でお過ごしでしょうか。

 「モダン・タイムス」(1936)が制作されて70年が経ちます。機械の一部のように働く従業員の姿、少しずれるチャップリン、人間の尊厳が失われた職場環境を風刺した作品でした。

人間の尊厳は、自らの判断と、生産への自主的な関与を意味します。この経営問題への解答は、今から46年前に出版された「企業の人間的側面」(1960)の中に、D・マクレガーがY理論として示しました。

Y理論では、組織が従業員を信頼して、仕事の流れや重要な決定をまかせることによって、全ての企業のサービスに彼らの創造力と発明の才が使用され、最も成功すると言います。

また、組織の目標に従業員が関与するならば、そして行動と間違いから学ぶことができる成熟した大人として扱われるならば、彼らには、会社または官僚的配置でさえ、自ら方向の決定と自己制御が自然にできると言います。

この参加的経営の仮説は、熱心な支持者を勇気づけ、また、多くの経営者は、原理としてそれが魅力的であり、無視できないということを発見しました。

しかし、従来の仕事場の現実の世界では、非現実的で、認識が甘いとして、しばしば不採用となり、職場環境を内外共に健康的なものに変革するということは、現在においても「言うは易く行うは難し」です。

1980-90年代の南米ブラジルの経済危機の中で、父から受け継いだ家業、セムコ社を生き残らせるために、息子のリカルドセムラーはその再構築・再設計に取り組み、急進的な形態の参加的経営を取り入れて行くようになります。

セムコでの現場経験を著した1988年の最初の本(Turning the Tables)は、ブラジルの歴史のベストセラーのノンフィクションになり、ウォール・ストリート・ジャーナルのラテンアメリカの雑誌は1990年に彼を「本年度のラテンアメリカのビジネスマン」に指名しました。

この成功物語の英語の著書「一匹狼(Maverick 1993、邦訳「セムラーイズム」新潮社)」は国際的なベストセラーとなり、その10年後に「7日間の週末(The Seven Day Weekend 2003、邦訳「軌跡の経営」2006 総合法令出版)」を著しました。

リカルドの革新的な会社の経営方針は、世界中の広範囲にわたる関心を引きつけました。世界経済フォーラムが彼を指名した1994年に、タイム誌はGlobal 100の若いリーダープロフィールシリーズの中で彼を特集しました。

しかし、ボストンビジネススクールを共同創設した、英国の経営学の権威であり社会哲学者のチャールズハンディは嘆いています。「より多くの人々が彼を信じてほしいなぁ」と。「これまで多くの賞賛を受けましたが、わずかな人しか、彼をまねようとしません」。

今回は、リカルドセムラーの理想、セムコの経営理念を探求したいと思います。

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<セムコの変革>
 リカルドは言います。
セムコの再構築を遂行するにあたって、資本主義制度からは個人の自由、個人主義、そして競争の原理を拝借し、社会主義の理論からは貪欲を抑え、情報と権限を共有する大切さを学びました。

日本人からは柔軟性の価値を教えられました。私たちの理念からすれば、社内の昇進は能力によるべきものであり、年齢や協調性とは無関係です。

自社の業務の実態を詳細に検討した結果、今までの12の階層からなる管理組織を3階層にまで整理し、伝統的な硬直型のピラミッド組織を、同心円型の組織に変えました。

セムコ社の社内では、ボスと従業員という関係でものごとを考えることさえありません。「同僚」と「コーディネーター」という言葉を使って、誰もが自由に、互いの職種に関係なく横の交流をすることが奨励されています。

規則なるものは、組織構成員に、企業は創造性を維持し状況に適応できなければ生きていけないのだということを忘れさせてしまいます。もし、規則そのものがなければ、答えはすべて常識で出されることになります。

この常識という代物は、はっきり定義のできるものではありませんが、ある人のとった行動を見れば、常識にかなっているかどうかは、はっきり分かるものです。

・ セムコの約3,000人の従業員は、彼ら自身の労働時間と給与水準を決めます。部下は、彼らの監督を雇って、評価します。

・ ハンモックは午後の居眠りの根拠にばらまかれ、仕事場で土曜日の午後を過ごすなら、浜辺で月曜日の朝を過ごすのを奨励されます。

・ 組織図がなく、5か年計画書がなく、企業価値声明書がなく、服装規定がなく、そして書面での規則がなく、漫画雑誌形式の短い「生き残りマニュアル」を越えた施政方針がありません。

・ 従業員は、新旧の事業所の中から会社指導部を選出して、大部分のセムコの動きは始まります。会社の3,000票の内、リカルドセムラーはちょうど1票を持っています。

<「サバイバル・マニュアル」抜粋>
 セムコの変わったやり方を紹介する漫画の入った小冊子、「生き残りマニュアル(THE SURVIVAL MANUAL)」以外には印刷された規則がまったくありません。これは、セムコの経営の理念を具体化したもの、社風の基礎となるもの、そして入社時に従業員に配付される就業規則となるものです。

1)組織図   ORGANIZATION CHART
 セムコには公式の組織図というものはありません。従業員のあいだの尊敬を受け、その結果推薦されることが、リーダーとなる唯一の資格条件なのです。会社のある部分の組織構造を描くことがどうしても必要な場合は鉛筆を使い、用が済めばできる早く破棄してください。

2)管理者の採用 HIRING
 管理者が新しく採用されたり、昇進したりする場合は、最終決定が行われる前に、その部門に働く全従業員により、候補者を面接し考課する機会があります。

3)勤務時間  WORKING HOURS
 セムコでは、フレックスタイム制を採用しています。勤務時間を決め、その記録をとるのは、個々の従業員の責任です。個人の作業のスピードには相違がありますし、一日のうちどの時間帯で働くかにより、作業能率も異なります。わが社では、この意味で、個人個人の要望とニーズにできるだけ対応します。

4)現場環境  WORKING ENVIRONMENT
 セムコでは、誰もが自分の職場をそれぞれの好みに合わせてデザインしたり、改良したりすることを勧めます。壁や機械を好みの色に塗り替えたり、室内植物を入れたり、自分の周囲を好きに飾るのはあなたの自由です。これに関して、当社には規則はありませんし、作るつもりもありません。あなたと、あなたの同僚たちの好みと希望にあったように環境をかえてください。

5)労働組合  UNIONS
 労働組合は、従業員の利益保護の大切な手段です。セムコでは、従業員による組合の結成は自由で、組合に関係している個人に対する迫害は絶対に禁止されています。組合側と会社側は、意見が異なることもあるし、仲が良くない場合もありますが、どんな場合でも、相互の立場を尊重し、対話を続けなければなりません。

6)ストライキ STRIKES
 ストライキは普通のことと受け取られています。それは、民主主義には欠かせない要素です。ストライキに参加しても、それが、わが社の従業員の考えや感じ方の表現である限りは、罰せられることはありません。その決定権を持っているのは、従業員大会です。ストライキが理由での欠勤は、通常の休暇として扱われ、これは不利な処分や処罰にはつながりません。

7)経営参加  PARTICIPATION
 セムコの経営理念は、従業員が経営に参加し、それと深く関わり合うことにその基礎を置いています、自分の殻に安住してしまわないように、意見を出し、昇進を含む様々な機会を積極的に追求し、いつも思っていることをはっきり言葉にしてください。自分を、その他大勢の従業員だと思わないように。
たとえ求められていない場合でも、あなたが出す意見は意味を持つのです。工場委員会に連絡して、選挙に参加してください。あなたの一票で意思表示をするのです。

8)部下による人物評価 EVALUATION BY SUBORDINATES
 年に二回、あなたにアンケート用紙が配られます。これは、あなたが自分のボス(上司)についてどう思っているかを発言できる機会なのです。アンケートの記入に加えて、その後にある集団検討の席でも、できるだけフランクで正直な意見を述べてください。

9)工場委員会 FACTORY COMMITTEES
 セムコの従業員は、個々の現業部にある工場委員会を通じて、自分の意見を組織に反映させる権利を保障されています。委員会規約を読んだ上でその活動に参加し、委員会にあなたの利益を十分守らせてください。これはセムコの利益とは相反します。しかし、わが社は、このような利益の相違を健康で必要なものだと考えます。

10)権限    AUTHORITY
 セムコ社内での地位の多くは、それに伴う職階上の権限が付与されています。しかし、部下に圧力をかけ、恐怖や不安感にかられて働くように仕向けたり、部下の立場を無視するような行為は不当な権限の行使であり、当社では許されません。

11)職業の安定と年齢 JOB SECURITY AND AGE
 セムコでの勤続年数が三年に達したか、または年齢が五十歳に達した場合には、特別の保護を受けることになります。解雇には、社内での慎重な、長い承認手続きが必要となります。一時解雇をしないというわけではありませんが、これは、従業員の皆さんの職業の安定を意味します。

12)変化    CHANGE
 セムコでは、ときどき大きな変化がありますが、これで不安にならないでください。わが社では、変化を健康で前向きなものだと考えています。怖れずに変化を見守ってください。これはわが社の特徴なのですから。

13)服装と外見 CLOTHING AND APPEARANCE
 このどちらも、セムコでは重要ではありません。外見は、採用や昇進の際には考課の対象とはなりません。誰もが、自分の好きなまた自分にとって必要な服装とは何かを知っています。ですから、気楽に考えて自分の「常識」を身につけるようにしてください。

14)個人生活  PRIVATE LIFE
 誰もが自分自身の生活を持っています。個人のプライベートな問題には、会社はまったく干渉しません。セムコは、各自の職場をはなれた個人生活の中での行為には、それが仕事の邪魔にならない限りは、関わり合いを持つ権利はないと考えます。
もちろん、わが社の人的資源部は、皆さんの必要とするサービスや支援を惜しむものではありません。

15)社内ローン COMPANY LOANS
 セムコでは、緊急事態にある従業員に対しては、必要資金のローン要請に応じます。これ以外の住宅、自動車の購入といった計画的な出費については、ローンの対象から除外されます。しかし、あなたが困難な、予想外の問題を抱えて資金の必要に迫られた場合には、いつでも協力の体勢にあります。

16)誇り  PRIDE
 自分が誇りを持って仕事ができるのが、本当に働きがいのある職場です。職場での仕事の質の高さを全ての面で確保することを通じて、あなたはそんな誇りを自分のものにできるのです。あなたが職場から送り出すのは、最高の品質基準に合う製品だけにしてください。思慮に欠ける手紙やメモは書かないでください。自尊心を高く持つのです。

17)コミュニケーション COMMUNICATION
 セムコとその従業員は、フランクと正直さを持ってお互いのコミュニケーションをはかる努力をしなくてはなりません。現場の従業員が言った意見は、そのまま信用する必要があります。もし多少でも疑問が生じれば、互いの不透明感を払拭すべく、要求してください。

18)くつろぎ  INFOMALITY
 一日の仕事が終わった後で同僚の誕生パーティをしたり、出席を要請されていない会合へ突然顔を出したり、職場でニックネームを使う、といったことは、みなわが社の企業文化の一部なのです。遠慮したり、形式にこだわる必要はありません。

19)セムコの女性従業員 SEMCO WOMAN
 ブラジルの女性は、男性に比べると、就職や昇進、それに自分の所得を得る機会には恵まれていません。セムコでは、このような男女間の差別を減らすのを目的とする、多くのプログラムが女性によって運営されています。「セムコ婦人会」と呼ばれるグループがその活動を行っています。ご婦人はできるだけ参加してください。もし参加しない場合も、その活動に不安感を持ったり、反対したりしないでください。プログラムへの理解と支援をお願いします。

20)休暇    VACATIONS
 セムコは、特定の社員が職場になくてはならない存在だ、といった風潮を良いものだとは考えていません。従って、誰もが毎年三十日の休暇を取るべきだと考えます。休暇は、あなた自身の健康のためになくてはならないし、会社のためにも必要なのです。有給休暇を「先延ばし」に積み上げてゆくのは、どんな場合にも許されません。

21)提案箱   SUGGESTIONS
 セムコは、提案に対して報奨を出すのはいいことだとは思いません。誰もが何に対しても意見を述べるべきですし、すべての意見や提案は歓迎されるべきです。しかし、その見返りとして金品の報酬を出すのは健康的ではないと考えます。

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<セムコの歴史>

1953年 植物油産業で使用される遠心分離機を製造することを唯一の目的として、オーストリアのエンジニアであるアントニオ・カートゼムラーは、1953年にサンパウロでセムコを設立。
1959年 リカルドセムラーが誕生

1960年 ブラジルで海運産業の成長を利用して、油圧ポンプ、電荷ポンプ、車軸と他の構成部品を製造開始。(1964年 軍事独裁開始)
1960-80年 ほぼ20年の間、国家海運業の70%以上を用意。
1975-80年 ブラジルの海運業と主要な顧客が深い衰退を乗り切ったとき、セムコの営業利益は全て蒸発しました。

1980年 創設者の息子であるリカルドセムラーが父の後を継ぎ、海運業界で少しの造船所だけを顧客としている現状に改革を断行。
最初の事業の多角化として、化学、製薬、食品および鉱山産業のためのミキサーの製造を開始。

1981年 次の多角化として、ブラジルのもとを去ることを望んだ外国の会社の子会社の買収を通してのより多くの多様化。

1984年 更なる多様化として、業務用冷凍機器、空気調節システム、フードプロセッサー、その他の機器の製造を開始。(1985年 文民政権復活)

1986年 決定の機敏さを求めて、従来の集中化された機能的な管理のモデルを4つの戦略的なビジネス部門に分散。海運部門、産業装備部門、冷凍装置部門および耐久消費財部門。

1988年 リカルド、Turning the Tablesを出版。(1988年 アルゼンチンに経済成長の後退からハイパーインフレが発生。1992年にアルゼンチンペソと米ドル間の固定相場制を導入するまで、南米経済が大混乱となる。)

1989年 新しい組織として、セムコの新しい企業の全ては、ビジネス部門概念で組織開発を開始。個々の会社の監督者と職員へ、より多くの自由と責任が与えられる。

1990年 ブラジル会社の国際化。その影響で競争者が世界のどこからでも来ることができることが予知され、セムコの戦略はその長所に集中すること。

1991年 その最初の段階として、新しい市場要求に応じた革新的サービスの領域に入る多角化対策を開始。最初の国際的に有名な会社との合弁は、次に選ばれる道筋となること。

1993年 セムコ・ERM・ブラジルは、環境工学を専門として設立。

1994年 カシャム&ウォークフィールド・セムコは、資産管理と不動産コンサルティングのために設立。2005年、そのパートナーのジョンソン・コントロールスの関心を得て、同社にその活動を合併した結果、セムコはその協力を強固なものにし、ラテンアメリカの資産及び不動産管理市場で主要な会社と一緒に活動の中心となる。

1998年 セムコ・RGISは、コンピュータ化された在庫サービスを専門として設立、主要な小売ネットワークに集中するように構築される。翌年設立のセムコ・テクノロジーのいくつかの技術は、全ての協力でブラジルと南アメリカのいたるところの国々で顧客が利用可能。

2000年 変化の第四の多角化は、セムコ・ベンチャーの開設から始る。新事業の見通しをもつことを専門とする。

2001年、セムコは、統合された文書の保管と検索システムを持つメービィウスのブラジルの独占的代理店となる。セムコ・バン・ベースド・メンテナンスは、全国で最大の革新的モバイルサービスを提供するために設立。電気、土木、油圧、空調機とその他の保守サービス専門。

2004年、セムコ・グループは、ブラジルのHewitt/Exultの独占的代理店となる。Hewittは、サービスを外注化して統合した人的資源の主要な提供者。ピトニー・ボウズ・セムコは、メールと文書管理解決の世界リーダーとの合弁。

今日、Semco Groupは、約3,000人の従業員のSemco Groupは、会社取締役のチームと各ビジネス部門の幹部社員によって経営され、ブラジルの主要な会社の多くに奉仕します。

ラテンアメリカの非上場のブラジルの持株会社と主要なサービス会社であり、統合サービス、製造とテクノロジー市場で主要な世界的な会社とともにいくつかの成功した合弁事業を確立しました。

(つづく)

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いかがでしたか。

セムコの主な株主であるリカルドセムラーは、今年47歳、ビジネス成功への実践的な道筋として、また健康的で楽しい生き方として、参加的経営を提唱しています。

従業員を子供ではなく大人として扱い、自由を認め、代わりに自己管理の責任を求めるこの組織の原動力は、やる気と仕事への純粋な興味と関心です。セムコにおいても理想への途上にあります。




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