耳を洗う

世俗の汚れたことを聞いた耳を洗い清める。~『史記索隠』

“風邪”の体内順路~「風門」→「風池」→「風府」

2009-05-26 09:26:08 | Weblog
 先週木曜日、久しぶりに遠出したためか“風邪”を引いたようで、日曜日の「町内碁会」のあと微熱が出て、咽喉がイライラし出した。まさか“豚インフルエンザ”の前兆でもあるまいと思い、葛根湯を一包服用し、夕食後、適応のツボに中国温灸をして早めに床に就いた。一夜明けた昨日は“風邪”の症状はまったく消え、終日畑仕事に精を出すことができた。

 「風邪は万病のもと」というが、中医学では、風邪は首筋の、少し下にある「風門」というツボから入るとされている。『図説 東洋医学』(学研)にいう。

 <人が南に向かって、両手を伸ばし、まっすぐに立った姿を、もっとも自然な姿とする。そのとき、寒と合体した風寒は、えてして北風となって、人を背後から襲う。このとき風寒邪が体内へ侵入するツボは、風門といわれている。風邪のひきはじめに、まず最初にゾクゾクとするのが、背中のこのツボあたりである。>

 『針灸経穴辞典』(東洋学術出版社)で「風門」をみれば次のように解説する。

【穴名の由来】
 「門」は出入りする場所。本穴は膀胱経に属し、全身の表を主る。風邪が侵入する「門」となっているので、風門と名づけられた。
【位置】
 第二胸椎棘(きょく)突起下の両側1寸半。(リンク図)
【主治】
 咳嗽、発熱・頭痛、悪寒、項部の強ばり、腰背部痛

 「風門」の位置図:http://www.geocities.jp/bio_balance_harmony/bl12.htm


 「風門」に入った風邪は、たいがい葛根湯を飲むなり、風門に鍼や灸をすることで退散するが、手当が遅れると熱や咳が出て重症化する。このとき風邪は「風池」というツボに至るとされる。同書で「風池」の解説をみてみよう。

【穴名の由来】
 「池」は浅い陥凹部を指す。本穴は足の少陽と陽維脈の会穴であり、傷風感冒、中風偏枯(卒中による片麻痺)を治し、風邪が滞積するところなので、風池と名づけられた。
【位置】
 風府穴の両側、胸鎖乳突筋と僧帽筋の上端の間の陥凹部。(リンク図)
【主治】
 頭痛、眩暈、項頸部の強ばり・疼痛、眼の充血・疼痛、鼻炎、肩背部痛、発熱・感冒、耳鳴、癲癇。

 「風池」の位置図: http://www.geocities.jp/bio_balance_harmony/gb20.htm


 さらに病状が進むと風邪は「風府」へたどる。「風府」は風邪を根治させるツボで、水洟(みずばな)が青洟(あおばな)に変われば快方に向かうあかしという。同書で「風府」の解説をみると、風邪を根治させるばかりか、他の重要な疾患にも有効なツボであることがわかる。

【穴名の由来】
 「府」は集会するところを指す。「風」は風邪を指す。風は陽の邪でその性(さが)は軽揚で風のみが頭頂の上にまで達することができる。本穴は後髪際の項(うなじ)のところ、両側の僧帽筋の間の陥凹部にある。足の太陽、陽維、督脈の会である。一切の風邪の疾患を主治するので、名づけて風府という。
【位置】
 後髪際正中の直上1寸、両側の僧帽筋の間の陥凹部の中にある。(リンク図)
【主治】
 頭痛、項部の強ばり、眩暈、鼻出血、咽喉部の腫脹・疼痛、脳卒中による言語障害、片麻痺、癲狂

 「風府」の位置図:http://www.geocities.jp/bio_balance_harmony/gv16.htm


 つねづね思うことだが、文献に残されているものでも二千数百年、実際には三千年を越える先人たちが、どうしてこうした病因の解明にいたったか摩訶不思議というしかない。想像するに、日常の注意深い観察力で、事態の推移を経験的に積み重ね、試行錯誤の実験を試みながら獲得した結論なのだろう。風邪の話のついでに子どもの「疳の虫」にふれておこう。

 <虫けある小児に灸をたえずせよ、試みてみるに薬よりきく>
 <小児には、ちりげ(身柱)、天枢、筋かえす(斜差)、毎月据えて無病とぞ聞け>

 「疳の虫」には“ちりげ(散り気)の灸”と言い、背中にある「身柱(しんちゅう)」に灸をすえていた。「身柱」は「大椎(だいつい)」(首を前方に曲げた時にもっとも大きくとび出る第七頚椎骨)から下へ数えて三つ目のくぼみで、小児を座らせて、頭をぐっとうしろへそりかえらせると、このツボのところがぺこんとへこむ。ここに灸をすえると「散り気(ちりげ)」という言葉どおり、たかぶった「気」がふしぎに散ってしまう。この「ちりげの灸」はおねしょの子どもにも効果があるとされている。

 『針灸経穴辞典』で「身柱」は次のように述べている。

【穴名の由来】
 「身」は体幹を指し、「柱」は指示する物、つまり支柱を指す。その意義は身体の支柱である脊柱を指している。この穴位の両側は肺兪である。肺は全身の気を主るので、身柱と名づけられた。


 このほか「三里の灸」も有名で、兼好法師の『徒然草』に「四十以後、身に灸を加えて、三里やかざれば、上気のことあり、必ず灸すべし」とあり、『養生一言草』にも「灸治こそ養生中の一なれ、四十こして三里たやすな」という。松尾芭蕉も、三里の灸をたやさず紀行を続けたそうだ。

 なお、鍼や灸が難しいときは、爪楊枝5,6本を輪ゴムでゆわえ、尖った先でツボを刺激したり、蒸しタオルをツボに当てたり、ドライヤーの熱風で温めても効果があることを申し添えておく。


最新の画像もっと見る