ハーバード・ケネディスクールからのメッセージ

2006年9月より、米国のハーバード大学ケネディスクールに留学中の筆者が、日々の思いや経験を綴っていきます。

Korea Japan Trip 2007 (その3:ソウル訪問二日目、前半)

2007年03月26日 | Korea-Japan Trip

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Korea-Japan Trip 2日目のスケジュール
☆ 金九博物館見学(9:30~10:45)
☆ SKテレコム訪問(11:15~13:30)
☆ 景福宮(Gyeongbokgung)観光(14:00~15:30)
☆ 金大中元大統領訪問(16:00~17:30)
☆ 延世(Yonsei)大学訪問、パネルディスカッション(18:00~20:00)
☆ 延世(Yonsei)大学生との夕食会(20:00~)

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  ご覧のように、朝から晩までびっしりと予定がつまったトリップの二日目。午前中は、昨日のパンムンジョン(板門店)同様、韓国の近代史にとって重要な、そして日本との歴史観の相違と言う意味で非常に論争的な場所、金九(Kim Koo)博物館を訪問しました。

 この博物館は、日本の植民地支配からの脱却と、民主的で統一された朝鮮国家の樹立のためにその一生を捧げた金九の生涯と思想を広めるべく2002年に開館されました。

 金九は戦後間もない時期に同胞の韓国人によって暗殺されてしまいますが、右翼・左翼といった政治思想や自らの立身出世に必ずしも拘泥せずに南北朝鮮の統一・独立を目指したことから、また、全国に学校を建て朝鮮の若者育成にも大きく貢献したことから、現在でも韓国・北朝鮮の双方の政治指導者、人々によって「先生」と呼ばれ尊敬されている稀有な政治指導者です。

 博物館では、Sheen Seonghoソウル国立大学教授が、ケネディスクールの学生のために博物館を一緒に回りながら金九の生涯について、展示品を見ながら解説をしてくれました。

   

 博物館では各国の友人から「この博物館の歴史観はどうか?」「韓国側の見方に偏りすぎなのか?」「日本人が見ると違和感、怒りを覚えるようなものか?」と頻繁にたずねられました。 

 確かに、金九は朝鮮の人々にとってはインドの人々にとってのマハトマ・ガンジーのような英雄的存在。一方で、日本から見れば、伊藤博文を暗殺した安重根同様、対日抗戦を指揮し、日本の要人の暗殺にたびたび関わったゲリラの親分のような存在かもしれません。

 しかし、こと「人物の歴史」において、つまりある人の業績をどのように評価するかについて、“客観的な正しい見方”などと言うものは殆ど存在しないといっても良いでしょう。見方によって、見る人によって変わり得るものであり、そこでいちいち目くじらを立てていても仕様がない。

 博物館を回っていて気になったのは、むしろ日本人の近代史に対する無知・無関心です。例えば、今回の旅に日本人幹事は10名ほど参加していますが、私も含めたその殆ど全員が金九について、その実績はおろか、名前すら知りませんでした。

 このブログを読まれている皆さんは如何ですか?金九という人物について、名前を聞いたことがある方、どのくらいいらっしゃるでしょう?おそらく殆どいないと思います。

 金九の実績を云々するどころか、その名前すらしらないのでは、文字通りお話になりません。インドを植民地としたイギリスの中で、マハトマ・ガンジーの名を知らない人がいるでしょうか?

 「ガンジーと金九を比べるのは無理があるのでは?」

と思う人もいるかもしれませんが、金九は日本が植民地とした隣国である韓国の精神的指導者です。日本から地理的にも歴史的にも遠く離れた、例えばアフリカの指導者ではありません。

 昨日パンムンジョン(板門店)を訪れた時にも感じました。

 多くの日本人、特に若い世代にとって、韓国はどんな国でしょう?冬ソナ等の韓流ドラマ、2002年の日韓共催ワールドカップ、キムチ、焼肉などなど、ハッピーなイメージが先行すると思います。

 一方、北朝鮮は?これは世代問わず拉致問題、核兵器の開発、全体主義体制によるマスゲーム、人権蹂躙と飢餓問題などなど、ブッシュ大統領ではないですが、それこそ「悪の枢軸」といったイメージがわいてきます。

 では、南北朝鮮の分断という、諸悪のそもそもの根源についてはどうでしょう?さらに言えば、国家分断を招いたより根本的な要因である35年に亘る日本による植民地支配の歴史についてはどうでしょう?多くの日本人があまりにも鈍感、無関心ではないでしょうか。日韓間には、靖国問題、歴史教科諸問題、従軍慰安婦問題など、幾つかの歴史観に関わる論争がありますが、両国間の真の信頼関係確立を妨げている一因には、歴史観の相違以前に、こうした日本人の近代史に対する無知、無関心があるように思えてなりません。

 博物館を一通り見終わった後は、講堂に場所を移し、ソウル国立大学のShing Yongha教授による講演と質疑応答が行われました。限られた質疑時間の中でマイクを握った三人中二人は日本人。そのやり取りは印象的でした。

   

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日本人Nさん:「日本が植民地支配を通じて韓国に多大なる迷惑をかけたことは無論承知している。ただ、朝鮮半島の南北分断については、ソ連・アメリカの密約が要因であったことも事実である。にも拘らず、何故、韓国はアメリカやソ連については何も言わず、日本ばかりを責めるのか?」

Shing教授:「朝鮮半島の南北分断については、指摘の通りアメリカ、ソ連の二国にも大きな責任がある。しかし、そもそも何故、戦後当時、わが国がその立場を発信できる立場になかったのか。それは、日本の植民地支配があったからであり、その意味で、日本の責任はより重いと考える。」

日本人Mさん:「南北朝鮮の統一に向けて、例えば六者協議などの場で、日本に期待すること、日本が協力できることはないか?」

Shing教授:「朝鮮半島の統一について、日本の対応には二面性があるように見える。表向きは、統一を望み協力するとのことであるが、実際は、南北朝鮮の統一は日本の国益に適うものなのか?現状維持を望む声があるのもまた事実ではないかと思う。」

   

 皆さんは、教授のこの回答について、どのように思われるでしょうか?

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 金九博物館の前で集合写真を取った後、一行が向かったのは韓国携帯市場のシェアNo.1を握るSK テレコムを訪問しました。

   

 SKテレコムは今回のトリップのスポンサーでもあり、昨晩の三清閣での素晴らしい夕食もSKテレコムからの支援があって実現したものだとのこと。会場ではKim Shin Bae CEO以下、幹部がそろって出迎えてくれ、SKテレコムのビジネスの今後の展望や韓国経済全般について途切れることのない活発な議論が交わされました。

   

 意見交換会はSKテレコムの幹部の方の音頭で声をそろえた「SK, O.K! O.K! O.K!」という掛け声で締めくくり。日本企業的な会社の一体感醸成の方法が新鮮だったのか、特にアメリカ、ラテン・アメリカ出身の学生はなぜか爆笑、大うけ。その後も「S.K,O.K!!」とことあるごとに叫ぶ者も・・・

 次は、やや肩の力を(ネクタイの締め具合も)緩めて、ソウルの一大観光名所である景福宮を散策。

   

 14世紀末、李氏朝鮮王朝の王宮として建設された優雅な景福宮。現在、その建物の一部である景武台は、いわゆる青瓦台(The Blue House)、即ち大統領官邸として使われています。

   

 背景に見えるソウル郊外の山々の風景と重ねて見ると美しさが増す景福宮。実はこの美しい宮殿もその大半が一度は破壊され修復されたものであるそうです。破壊者の名は、またも日本人。豊臣秀吉です。1592年、16万人の規模で実施した秀吉の朝鮮出兵(文禄の役)により、景福宮はその三分の二が破壊されてしまったそうです。

 豊臣秀吉の朝鮮出兵という史実。恥ずかしながら僕はこれまで、受験のために年号と名前を丸呑みしていただけでしたが、侵略された側の土地に立って改めてその事を考えると、またしても、歴史の受け止め方の違い、自分の認識の浅さにはっとさせられます。

 景福宮を後にした我々は、いよいよノーベル平和賞受賞者でもある金大中元大統領と対峙することとなりますが、長くなりましたので、その詳細は次の記事でお伝えします。


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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (Satsuki)
2007-04-03 22:52:58
 初韓国という方もいらっしゃるだろう皆さんが、どのように感じられたのか大変興味深く読んでいます。ソウル大の辛星昊(Sheen Seongho)先生、フレッチャーでPh.Dを取得された方ですね。お会いしたのは一度だけですが、論文を拝見することもあります。同じくフレッチャーからハーバードのKorea Instituteに来られたL先生との繋がりでしょうか。

 Korea Instituteでは金九財団から助成を受けたKim Koo Forumを定期的に開催しています。しかしやはり、日本国内では金九は知られていない存在でしょうね。目にするのは韓国の文献ばかりのせいか、自分でもつい「金九先生」と言ってしまいます(笑)。

 人物史に限らず、およそ歴史に関して「客観的な正しい見方」というのはほぼありえないと思っています。それでも、多様な見方に触れようと意識することは可能でしょう。相手の視点に無知であれば、それを純粋に信じ込んでしまうか、又は感情的に反発するか、いずれにせよ健全なものにはならないかと思います。
Unknown (endeavor)
2007-04-04 16:41:39
最近このブログをしりました。今まで知らなかったのがもったいないくらいです(^^ゞ韓国の旅は楽しそうですね、しかし大人数ですよね。
私も豊臣秀吉の朝鮮出兵は学生の時歴史でやりましたが恥ずかしながらすっかり忘れていたくらいです。
つい偏った見方になり被害者意識のみが心に残りますが、日頃から外国の方々と積極的に交流していくこと、見たり聞いたりすることが大事だと思いました。これからも旅のレポート、又アメリカに帰ってからも授業の様子を書かれるのを楽しみにしています。
>endeavorさん (ikeike)
2007-04-08 23:49:14
はじめまして。コメント有難うございます。すみません、お返事が遅くなってしまって。夢のようなトリップが終わった後、学業のほうに戻るのに悪戦苦闘しています。
endeavorさんがおっしゃるとおり、こちらに来て様々な国出身の友人達と語り合う中で、自分の中での日本観や歴史観がこれまでになく練磨されているように思います。同時に自分が外国の歴史のみならず日本の歴史や文化についてすら無知であったことに気付かされることも多いです。
今後もこの貴重な留学生活で得た経験や気付きを、ブログを通じて発信していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。

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