ハーバード・ケネディスクールからのメッセージ

2006年9月より、米国のハーバード大学ケネディスクールに留学中の筆者が、日々の思いや経験を綴っていきます。

Korea Japan Trip 2007 (その7:東京)

2007年03月29日 | Korea-Japan Trip

 

 8ヶ月ぶりの東京は、陰鬱なボストンとは比べ物にならないくらい素敵で穏やかな春の陽気。ちょうど満開の桜が他のグループよりも一足先に東京に到着した僕達Dグループのメンバー12名を迎えてくれました。東京でのスケジュールは以下の通りです。

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Korea-Japan Trip 5日目(東京)のスケジュール
☆ 日本橋散策、COREDO日本橋で昼食(11:00~14:00)
☆ Merrill Lynch Japan 訪問(14:00~15:00)
日本銀行訪問 (15:30~16:30)
☆ 浅草散策 (17:30~18:30)
☆ 両国でちゃんこ鍋の夕食

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 美味しいてんぷらと焼き鳥の昼食を食べ終わった後、トイレから戻ってきたドミニカ人のローラとエクアドル人のイェセナが不思議そうな顔をして僕に尋ねてきました。

ローラ:「ねぇ、トイレで水が流れる音が出るボタンがあるでしょう。あれ何??」

僕:「え?別に水を流すやつじゃないの?」

イェセナ:「ちがう、ちがう。音だけ出るボタンがあるでしょ。何か、鳥の鳴き声みたいなのも一緒に流れてきたの。あれって、何かリラックスさせるためのものなの?」

僕:「あー!あれは、あれは、、あー、だから、音を消すためのものだよ。」

二人:「音を消すため?」

僕:「だからなんて言うかなぁ。そのー、“プライバシー”を守るために“音”を消すんだよ。」

二人(ようやく合点が言ったようで):「えー!!でも、何で、何で??」

僕:「イヤだから、プライバシーだよ・・・(汗)」

ローラ:「そういえば、座るところを暖める装置も付いてた。日本ってトイレまでハイテクなのね~!」

イエセナ:「あ!あの女の子達は一体何??」

僕:「別に、ただの高校生だよ。」

二人:「スッゴイ短いスカートはいてる!!」

僕:「それがはやりなんだよ。」

ローラ:「でも、ドレスコード(服装の決まり)とかは学校にないの?」

僕:「あー、あれは制服なんだよ。」

二人:!!

僕:「スカートの長さはもともともっと長いはずなんだけど、皆好んで短くするんだよ。学校の規則が厳しい場合は、学校が終わってからトイレでわざわざ短いのに着替えたりする子達もいるみたいだよ。」

イェセナ:「それは、私の高校時代と同じだったわ。でも、私達はスカートを長くしてたけど・・・」

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 他にも、自動的にドアを空けたり閉めたりしてくれるタクシーに感動したりと、日本が初めての参加者にとっては、目に飛び込んでくる全て物のが新鮮なようです。

 今回、Korea Japan TripをサポートしてくれたMerrill Lynch Japanでは、The Wall Street Journal誌で“世界で注目すべき女性50人”にも選ばれたことのある金融業会を代表する女性経営者、小林いずみ代表取締役社長から、非常に興味深いお話をうかがうことが出来ました。

    

 「Getting Back to Track」というタイトルで行われたプレゼンテーションは、小林社長がちょうどMerrill Lynch社に籍を移した年、1998年から今までにMerrill Lynchが、そして日本の金融界、さらには日本社会そのものが経験した非常に大きな変化について、極めて分かりやすく、またユーモアたっぷりに語るものでした。

 1998年、Whole Sale Business(法人向け業務)から、Retail Business(個人向け業務)へと、一挙にビジネスを拡大する事を目指してMerrill Lynch社は、その前年に自主廃業した山一證券の従業員2000名を雇い入れ、33の営業拠点を引き継ぐという、大きな経営判断を下します。

 しかし、結果は年々拡大する赤字。結局2002年には、33の営業拠点のうち30を閉鎖し、1,500人の従業員を解雇するという極めて厳しいリストラによって個人向け営業ビジネスからの撤退を余儀なくされてしまったそうです。

 小林社長によると、その主な外的な要因は、

 ① 1999年から2000年にかけてのITバブルが崩壊したこと、

 ② 郵貯の民営化が予想よりも遅かったこと(1998年当時、郵貯の民営化によって公共部門に塩漬けになっている個人金融資産が一気に民間部門に解き放たれる日が近いと予想されていたそうです。)、

 ③ 日本人にとって、まだまだ証券取引が身近でなかったこと、

とのことでした。特に③について、小林社長は日本人のリスク性向について、以下のように、鋭くそして、ユーモラスに語り、参加者の笑いと驚きを誘っていました。

 「銀行を中心とした間接金融主体の日本では、個人にとって、銀行や 郵便局は身近で頼れる存在であるけれど、証券会社は何だか胡散臭いというイメージが長年定着していて、私達はそのイメージを変えることが出来ませんでした。」 

 「日本人にとって、お金をもうける、お金持ちになる、というのは必ずしもいいことではないんです。お金持ちになる人は、多分何か悪い事をしているんだろう、くらいの雰囲気があるんです。だから、資産運用の相談に来る個人のお客さんも、自分の財産の全てを私達に教えない。お客さんの資産全体を把握することができないので、私達の提供する金融商品の可能性を存分に活用してもらうことが出来ませんでした。」

  最近大分変わりつつありますが、確かに日本ではお金の話はタブーであり、「人はお金に疎いくらいであるほうがよい」という風潮があることは否定できないと思います。 

 さらに小林社長は、こうした外的要因だけでなく、Merrill Lynchの内部に存在した失敗の要因、つまり、旧山一證券から雇用された2,000名の社員と、もともとMerrill Lynchにいた1,000名の社員を統合することが出来なかったというマネジメントの失敗があったことを、外資系企業と日本企業の文化や雇用体系の違い、言語の壁などに触れながら、ユーモアたっぷりに語ります。

 「そもそもMerrill Lynchという名前がいけないんです。日本人が英語を発音するときに一番苦労するのが、"L"と"R"の区別。見てください。このMerrill Lynchという名前。"L"と"R"ばっかり(一同爆笑)。」

 「これは本当に深刻な問題なんです。私が最初にニューヨークオフィスに赴任した際、「めりる・りんち です」といって電話を取ると、「Merrill Lynchではないでか?・・・すみません。間違えました」といって電話をきられてしまうことがよくありました(一同大爆笑)。」

 「新しく山一證券からやってきた2,000名の社員のうち、約8割は英語が全くしゃべれませんでした。でも私達は、こういう違いにあまりにも神経質になりすぎて、旧山一の社員とMerrill Lynchの社員を統合することに躊躇しすぎてしまいました。」

 普段、英語に苦労している身としては、あまり笑えない問題ですが、経営統合後に相乗(シナジー)効果を発揮することの難しさという、普遍的な経営上の課題と、日本特有の問題を非常に印象的に語って下さいました。

    

 現在は、Total Serviceのモットーの下、個人向け、企業向けともに順調に収益をを伸ばしているというMerrill Lynch。背景にある要因として、不良債権問題の終了とペイオフの解禁、バブル期をしのぐ企業収益を挙げる一方で、日本の金融界、さらには日本経済全体が抱える長期的な課題として、中小企業の後継者不足や人口減少と高齢化、そして膨大な財政赤字等の問題について紹介し、約40分のプレゼンが終わりました。

 40分という時間の中で、これ程多岐に亘る、しかしどれも日本経済・社会を理解する上で重要な問題について、一つのストーリの下で分かりやすく語る、しかも、金融のプロから全くの素人まで入り混じった参加者に興味を持たせ続ける小林社長のプレゼンテーションは、実に見事で印象的でした。

 プレゼンテーション後の質問タイムでは、“男社会”である日本で女性が活躍する上での苦労や、それをどうやって克服してきたのか、という点について、話が盛り上がりました。小林社長の新卒時の就職先はコテコテの日本企業。それこそ、お茶くみ、コピー取りばかりの日が続いたそうです。

 「アメリカでは、女性やマイノリティの社会進出を阻む壁という意味で"Glass Ceiling"(ガラスの天井=目に見えない壁)という言葉がありますが、日本の場合は"Concrete Ceiling"(コンクリートの天井=目で見て丸分かり)ですからね。」

 「でも、縦社会の日本企業で、男性が年上の上司、お客様に対して持論を述べるのは、実は女性が年上の男性(おじ様)に物を申すよりもよっぽど難しいと思います。逆に、言いたい放題言っても『女性だから』という心理が働くのか、年上の男性は耳を傾けてくれる傾向があるように思います。これは一例ですが、女性であることの強みを発見し、活かして行く事もできると思います。」

  Merrill Lynchの建物を後にしながら参加者は、「小林さんは結婚しているのかな?」「イヤ、指輪をしていなかった。」「日本では、家庭を持った女性が出世するのはムリなんじゃない?」という話題で盛り上がっていました。

 国連開発計画(UNDP)が男女共同参画の度合いを測るために活用している指標の一つにGEM(Gender Empowerment Measurement)があります。これは、女性が政治及び経済活動に参加し、意思決定に参加できるかどうかを測るものであり、具体的には、国会議員や企業、官庁の管理職に占める女性割合、男女の推定所得を用いて算出されます。そして、UNDPの2005年の「人間開発報告書」によると、日本のGEMは0.534と世界43位。他の先進国と比較して極めて低水準に留まっています。

 労働力人口の減少が進む中、小林社長のような優秀な女性が家庭を持ちつつ社会で活躍することのできるよう、"Concrete Ceiling"を取り除いていく不断の努力が、政府、企業、社会、そして一人ひとりの個人に求められていることは間違いありません。

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 続いて向かった先は、荘厳な雰囲気の漂う古風な建物、日本銀行です。日銀では、主に国際金融を担当されている堀井昭成知事とフリーディスカッションをする機会を得ることが出来ました。

    

 フリーディスカッションの中で、膨大な財政赤字と貿易赤字の累積によりドル暴落の日も近いのではないか、という意見に対する堀井理事の回答は印象的でした。

 「アメリカは未だにEmerging Nation(新興国家)なんだよ。膨大な資本流入が続く事を考えると、ドル暴落なんて殆どありえない。」

 確かにそうです。英語で先進国の事をDeveloped Country(発展した(し終わっちゃった)国)と言いますが、確かにこの単語でアメリカを表現するのは拡大・拡張を続けるアメリカ経済・社会の実情とかけ離れているかもしれません。

 例えばアメリカの人口。1950年に約2億5,000万人であった人口が、昨年には3億人を突破しました。主な増要因はメキシコ系移民の流入といわれていますが、いずれにせよ、他の先進国が出生率の低下に悩む中、アメリカのみ、過去50年で5,000万人の増という驚異的な人口増大を続けているのです。世界最大の経済・軍事大国であるアメリカは同時に、中国・インドと並ぶ世界最大のEmerging Nationと言え、そこにアメリカの特殊性、魅力があるといってもよいと思います。

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 日銀を後にした僕達はホテルでスーツを脱いでカジュアルな服装に着替え、浅草、そして両国へと繰り出しました。

 ベネズエラ人のキャリーンは、彼氏にぴったりという浴衣のプレゼントを見つけて大満足。アメリカ人のケリーは、お母さんが大好きということで、緑茶を大量に買い込んでいました。

 早朝に広島を発ってから、あちこちを歩き回っていよいよ空腹感が募った僕らを待つのは、両国の有名なちゃんこ鍋の老舗「巴潟」。

    

  僕もちゃんこ鍋はこれが初めて。しかし“ちゃんこ”ってどういう意味なんだろう・・・

    

 座敷ゆったりと座り、温かいちゃんこ鍋を囲みながら、これまでの旅の思い出やケネディスクールでの出来事について語り合えるのは本当に最高。

 Korea-Japan Tripもいよいよ終盤です。

    


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2 コメント

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ウィキペディア (WHY)
2007-04-15 02:01:44
お久しぶりです。
唐突ですが、ちゃんこ鍋の由来。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%A1%E3%82%83%E3%82%93%E3%81%93%E9%8D%8B
この辺を見ると諸説あるようですね。
>whyさん (ikeike)
2007-04-17 08:59:01
こちらこそ久しぶり。いつもブログ読んでいるよ。毎日忙しいだろうに、本当に毎日更新するそのパワーには脱帽です。
ちゃんこの由来、色々あるんだね。実は参加者から突っ込まれて答えられず恥をかいてしまいました。まだまだ日本についてすら無知な自分です・・・もっと勉強しないと。

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