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猫研究員の社会観察記

自民党中央政治大学院研究員である"猫研究員。"こと高峰康修とともに、日本国の舵取りについて考えましょう!

「米中が戦争すれば中国が勝つ」と石原都知事が米で講演

2005-11-05 00:11:22 | 日中関係・米中関係
 石原慎太郎都知事が、ワシントンにあるシンクタンク「戦略問題研究所(CSIS)」で講演をして、米中関係を中心とする世界戦略について言及した。中国による6月の新型潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)発射実験の成功の持つ戦略的重大性や、沖ノ鳥島周辺での中国艦船による海洋調査は潜水艦の航路のテストであるとの正確な分析を披露した。さらに、石原氏はこの講演の中で、人命を尊重せざるを得ない米国は独裁で人命軽視の中国と戦争をした場合勝つことが出来ないと述べた。そして、講じるべき手段は経済による封じ込めであるという戦略を示し、とりわけシベリア開発による経済的な「封じ込め」が有効であると強調した。
 石原氏の中国による脅威の現状分析には全く同意する。ただし、人命尊重か否かを根拠として「米国は中国にかならず負ける」という結論を引き出したのは若干の違和感を覚える。戦前の旧日本軍が全く同じ論理で「アメリカは民主国家だからひ弱にちがいない」と誤解して戦争に突入してご承知の結果になったという歴史がある。米国の戦意の程度はかかってくる戦略的価値に強く依存する。対中戦略を考えた場合、中国が覇権を目指すことは米国の世界戦略に真っ向から衝突するものであるから、これはイラクやベトナムとは訳が違うということである。例えば台湾有事のが起これば、米国の戦術は制空権と制海権を確保して中国軍の上陸を阻止するか、上陸したとしても必ずや補給を断つであろう。それでは、中国がかねてから宣言している通り核でもって米本土を攻撃するかといえば、現在の核兵器の能力の差からは自制せざるをえない。もっとも、それゆえにこそ中国の核兵器の技術向上が大きな脅威であることは、100%石原氏の指摘の通りである。もう一点、米国側はどう受け取ったか知らないが、対中国戦略をターゲットに着実に米軍再編を進めたいところを日本の戦略性の不足のせいでスムーズな進行を妨げられているというのに「米国は中国に負ける」と断言されたことは、米国にとって不愉快なことと映ったかそれとも変化球による米国への激励(おそらくこれが真意なのだろうが)と受け止めたか…。多少興味のあるところである。
 さて、シベリア開発によりロシアと提携して経済的に封じ込めるという戦略は、少し楽観的に過ぎるのではないかと思う。まず、経済的封じ込めという言葉により石原氏の言わんとするところが曖昧ではあるが、相互依存の高まっているこの時代の世界大国同士の覇権争いには「経済的封じ込め」は、あまり有効ではなのではないか。それよりも軍事力による「抑止」のほうが有効だと認識する。さらには、何よりも、「民主主義か独裁か」という価値の闘争に持ち込むべきである。自由と民主主義という価値を中国に浸透させることができれば、それこそ勝ったも同然である。ロシアを引き込むというのも余程警戒せねばならないことである。確かに「敵の敵は味方」には違いないが、米国の一極集中ではない多極の世界を作ろうという世界戦略において中露は一致している。また、ロシアにとって中国は最大の魅力的な武器輸出市場である。そういうわけで、ロシアに深入りしすぎることは結局のところロシアに両天秤にかけられるおそれが大きく、不即不離で行くのが望ましいと私は考える。もちろん、中露の離間を図ることは重要であり、そのプロセスでシベリア開発による経済的連携が有効な場面があれば、それを進めるべきことは言うまでもなく「ロシアカード」の有効性は否定されるとまで主張するものではない。しかし、日米は明確に海洋国家である。したがって、明確な大陸国家であるロシアを当てにするのは地政学上少々無理がある。ロシアよりは、インドに注目するほがよいのではないか(追記:石原氏はインドにも言及している)。米国の戦略も少しずつインド接近に動いている。例えばNPTに定められた核物質の管理についてインドを例外扱いすることを模索している。
 少し難をつけすぎたような気もするが、石原氏が呈示した中国の脅威は極めて的確であることは間違いない。中国の脅威を正しく認識しそれを堂々と述べた点は、いくら評価しすぎてもしすぎることはない。さらに、それに対する自らの戦略を開陳した点は、やはり日本の政治家の中でも傑出した一人だと言うべきなんだと思う。 


(参照記事)
[石原都知事「経済的に中国封じ込めを」 米で講演]
 【ワシントン及川正也】訪米中の石原慎太郎東京都知事は3日、ワシントンの戦略国際問題研究所(CSIS)で講演した。中国の軍事的脅威の増大に警戒感を表明した上で「アメリカが中国と戦争して勝てるわけがない。講じるべき手段は経済による封じ込めだ」と強調した。
 石原知事は、中国が6月に新型の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験に成功したとの情報について、「極めて大事な歴史的事実だ」と指摘。「東アジアは米ソ冷戦の時よりも危険度が高い緊張の中に置かれた」とし、沖ノ鳥島周辺での中国艦船による海洋調査も「潜水艦の航路のテストだ」との見方を示した。
 一方、中国指導部について、文化大革命などを引用して「生命に対する価値観がまったくない」との見方を示し、米中開戦の場合には「生命を尊重する価値にこだわらざるを得ないアメリカは勝てない。間違いなく負ける」と言明。軍事的衝突を避けるためには「経済的に中国を封じ込めていく方法しかない」として、シベリア開発による経済的な「封じ込め」が有効と強調した。
(毎日新聞) - 11月4日13時14分更新

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4 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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都知事、かっ飛ばしてますねぇ! (tsubamerailstar)
2005-11-05 16:36:51
何か盟友の李登輝さんとバトンタッチするように訪米して過激なこと言いまくって、台北で李登輝さんが手叩いてそうですが、元々の目的はローレス副次官に横田の件陳情に行ったのでしょうね。



まぁ、今さら、「北朝鮮は脅威だ」と言ったところで目新しくも何もなく、「ふんふん、そうね・・・・」で終わってしまうでしょうから、<人命軽視の中国と戦争をした場合勝つことが出来ない>と刺激的な切り込みをしたのでしょうが、要旨は、<経済による封じ込めを行うべきだ>というところなのでしょう。

ただ、私もレーガン政権時の対ソみたいに事は単純でないと思います。第一あの頃はココム何て規制もありましたし、大国同士の自覚(我々がドンパチやったら世界消滅)もありました。その辺中国はキチガイに刃物といった不気味さと軍部暴走の余地が高いですからね。

先日訪中したラムズフェルド長官のホットライン開設の提案拒否もその辺だろうと思いますが、都知事が言うほど事は単純でないというのは間違いないところでしょうね。

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tsubamerailstarさまへ (猫研究員(高峰康修))
2005-11-05 20:18:44
私も、李登輝氏の米国行脚を連想しました。

日本の政治家で、あれだけはっきりと中国の脅威を指摘できるのはそう滅多にいるものではありません。米軍再編の真の目的が対中国をにらんだものでることも理解しておられるようです。「生命を尊重する価値にこだわらざるを得ないアメリカは勝てない。間違いなく負ける」は慎太郎流のエールなんでしょう。アメリカ人はズバズバものを言う人間が好きだそうですが、「人命は地球より重い」の日本人に言われるのも苦笑ものだったかもしれません。

ラムズフェルド訪中は、米国の覚悟を明らかにしました。要するに「あなたのところの軍拡は脅威である」と言いに乗り込んだわけですから。
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TBありがとうございました (相対的価値ブログ(日本人的視点))
2005-11-05 23:03:36
石原都知事の発言に対しては、その真意を探る作業をしなければならないというのが、常に私が主張している点です。

額面通りに受け取って、表面的な批判を皮膚感覚で行う人が多いのですが、実際はもう少し「読み」を行うゆとりが必要だったりすると若輩者ながら感じ入っている次第です。

そうすると、石原都知事の発言に浮かび上がってくるわが国に対する畏敬と愛情とその他諸々のこだわりが感じ取れ、いかなる主義主張の方であろうと、私は実際はそれほど彼の意見に対して誤りを感じる人は少ないのではないかと感じているのです。



猫様の記事を拝読し、私が考える石原都知事の真意を探る作業をきっちりとこなされておられる姿勢を感じることが出来、大変その意味で共感を覚えました。

これからもどうぞよろしくお願い申し上げます。
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Unknown (猫研究員(高峰康修))
2005-11-06 00:06:40
石原さんは小説家なので、物の言い方とか発想そのものが常人とは違いますよね。情念がすごいというか…。これは石原さんの『国家なる幻影』を読んでみて痛感しました。

所詮は断片的な記事に基づいて論評しているので、氏の真意を汲み損ねているかもしれませんが、色々な記事をつなぎ合わせた上で総合的に勘案すると、こんなところかなと思いました。ロシアカードの使い方について少々長めに批判したのは、石原氏は発言力が大きいので軽々に「中国に対抗するためにロシアと組もう」と言い出す人がいるのではないかと懸念したためです。
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