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パンドラ's ボックス/北森鴻(小説+エッセイ)

2008-04-01 00:32:45 | 読書

今回の記事は『パンドラ's ボックス』(北森鴻、光文社)です。
北森さんの初期の短編とエッセイが収録されています。
エッセイはその当時の秘話が書かれているので、ちょっとお得な気分です。


■内容紹介
仮面の遺書 (※序盤より)
1990年イブの夜のことだった。その川の両側の道を多くの車が走っていたにもかかわらず、事件の直前まで異変に気づいた者はいなかった。
昼間は多くの人影で賑わった川原も、人影ひとつない。少なくともひとつだけは確かにあったのだが、あまりに「彼」は静かで、川原の石と同様にだれの注意をひくこともなかった。
夕方から降り始めた雨が雪に変わり、イブの夜をいっそう盛り上げた頃、川原で一本の火柱が上がった。
川原の異変に初めに気づいたのは五歳になる少年だった。彼はやや渋滞気味に走る父親の車に飽きかけていた。
「パパ! 見て、ほら。クリスマスツリーだよ」
少年の声に父親がちらりと川原を覗くと、たしかに赤い炎と黒煙が見えた。だが、父親にはそれはただの焚き火にしか見えなかった。
まさか父親は、火柱が人の形をしていようとは思わなかった。火柱は数分間燃え続け、やがてどうと倒れて、辺りに再び闇が甦った。
翌朝、川原で無残な焼死体が発見された。死体は画家の城島真一であることが判明した。胃から大量のアルコールが検出されたことから、自殺・他殺の両面で捜査が進められた。
一方で、城島が新進の画家であったこと、マスコミにたびたび登場する文化人であったことから、彼の死は多くの関心を集めた。
結果的に彼の死はノイローゼ状態による発作的な自殺と判断された。自らをクリスマスツリーに見立てた早逝(そうせい)の画家の名前は、数ヶ月で人々の記憶から薄れ、残された数十点の絵だけが、着実に値上がりをして三年が過ぎていった。

「仮面の遺書」は北森先生のデビュー作。ほか、6編の初期短編+エッセイ7編を収録。


■感想
まずはそれぞれの短編について、簡単に感想を書きます。

・仮面の遺書
内容紹介にも書いた北森さんのデビュー作です。実はこの後、ひとりの女性と探偵役の青年が出てきます。で、この二人がメインの登場人物となっていきます。
どこか独特の雰囲気を持つ年若き美少年風のこの探偵はその後の北森さんの描く探偵キャラの原型があるように思いました。『メイン・ディッシュ』のミケさんとかね。
結末の意外性はその後の北森さんの作品に比べると若干弱いんですが、これデビュー作なんですよね。最初の作品でこの完成度。やっぱり北森さん、すごいな!

・踊る警官
刑事一人の会話だけで物語を進行させるという、技ありの作品。
この人が良さそうでありながら、腹に何かを隠しているような刑事は、やはり北森さんが描くその後の刑事像に通じるものがあります。
『狐闇』はここから派生したんだろうな、と思える箇所がちらほら。冬狐堂シリーズ(蓮丈那智シリーズでも可)のファンなら読んで損はなしです。

・無残絵の男
『狂乱廿四孝』のスピンオフだ! と言っても僕は『狂乱~』は読んだことないんですけどね。今じゃ『狂乱~』は新品では入手不可だからな。
時代ものは何とも堅苦しくてイカン。それが僕が持つ時代小説のイメージなんですが、北森さんが描く時代小説は堅苦しさがない。ので、とても読みやすい。
(北森さんの描く時代小説の面白さは『蜻蛉始末』で存分に味わえます)
登場人物が魅力ありすぎです。この「無残絵の男」は。こういうオチ好きだな。

・ちあき電脳探てい社
この作品は「小学三年生」に掲載された子供向けの推理小説です。
北森さん、こういうものも書いていたんですね。
北森作品としては異色中の異色です。
ツッコミ所が多すぎるぞ、この作品。こういうのも嫌いじゃないんですけど。

・鬼子母神の選択肢
僕はまだ読んだことないんですが、この作品は裏京都シリーズの原型らしいです。
これまた独特の作品です。主人公はお寺の僧。欲無き善人と思いきや、実は結構のやり手。
裏京都シリーズも早く読んでみたくなりました。順番からしてもう少しのハズ(僕は北森作品は刊行順に読んでます)。

・ランチタイムの小悪魔
「女性自身」に掲載された北森さんの恋愛小説。恋愛小説! まさか北森さんの恋愛小説が読めるとは思ってもみなかったです。
恋愛小説も北森さんが描くと一筋縄ではいきません。ちょっとしたミステリーが絡まってます。

・幇間二人羽織
これも時代小説です。北森さんが書くと時代小説も堅苦しくは無い。
…いや、この作品は若干堅苦しいです。あれ、変だな。やっぱり言葉回しのせいですかね。

各短編の感想はこんなところです。
それぞれ面白いんですが、『パンドラ's ボックス』の醍醐味はやっぱりエッセイにあると思います。
北森さんのエッセイを読めること自体貴重なんですが、それ以上に面白かったのが、エッセイの内容が北森作品の誕生秘話的内容だったこと。
○○を書いていた時は、こんなでした。みたいな。
これはファンにとっては大変な大サービスです。
短編は本になってる他の作品と比べると薄味ですが、北森ファンなら買って損はなしです!
(読むなら、北森ファンになってから。この本を最初に読んじゃダメです)



『パンドラ's ボックス』 (光文社文庫)
著者:北森鴻
ジャンル:小説+エッセイ(短編集)
メモ:デビュー当時の秘話満載
おすすめ度★★★

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