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映画批評etc

映画の感想ではなく批評
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レスラー

2009年08月09日 | 映画(ラ行)
監督
ダーレン・アロノフスキー

キャスト
ミッキー・ローク
マリサ・トメイ
エヴァン・レイチェル・ウッド

脚本
ロバート・シーゲル

作詞
ブルース・スプリングスティーン "The Wrestler"

あらすじ
1980年代に人気レスラーだったランディだが、二十数年経った現在はスーパーでアルバイトをしながら辛うじてプロレスを続けていた。ある日、往年の名勝負と言われたジ・アヤトラー戦の20周年記念試合が決定する。メジャー団体への復帰チャンスと意気揚がるランディだったが、長年のステロイド使用が祟り心臓発作を起こし倒れてしまう。現役続行を断念したランディは、長年疎遠であった一人娘のステファニーとの関係を修復し、新しい人生を始める決意をするが…。


寸評
ブルース・スプリングスティーンを聞きながら書いている。
男の、しかもある程度の年齢に達した、そして過去に挫折を多く体験した人のための作品である。
多くの男には栄光と捉えている過去がある。
その時、一生懸命過ごしていた、ということである。
しかし大抵の男はそこからは距離を置き、リアルな現実に身を置く。
そして昔は良かった、と回顧しながらも現状を肯定して生きていく。
そんな生き方が楽であり、正しい生き方なんだと思う。

本作の主人公はそんな生き方ができない。
それは過去の栄光の華々しさが強烈なのもある。
が、彼自身の資質にも原因がある。
つまり、彼は平凡な平和な生活をするには不器用過ぎるのだ。

この男、本当にどうしようもない男である。
プロレス以外には生きる場所を作れない。

しかし彼の愚かさには、どうしようもない悲しみと滑稽さがつきまとうのだ。

以下列挙する。

・やり直しかけた娘とのディナーをすっぽかしてしまう。原因は、口説いていたストリッパーに振られ、ヤケを起こして、ファンの女を口説きコカインでぶっ飛びながらよろしくやっていたら寝過ごした。
・なんとか娘の気を引こうと、ストリッパー同行で服を選ぶ。が同行者の反対を押し切り、一般的な感性では選ばない、クソダサい服を選ぶ。結果、「少し派手」と娘は一蹴。
・真面目に勤め始めたスーパーをブチ切れの末辞める。
・迷い悩みながらも完全に薬漬け


これらは全くもって情けない話だが、誰も非難できない。
彼は常にリングに上がることでしか自分を保てない。
そして、その他の大事なことをする能力が欠如しているのだ。

プロレスのシーンを数試合描いている。
プロレスマニアの友人曰く、実にリアリティに満ちた好ゲームだったそうである。
華やかさからはほど遠い、場末のどさ周りだ。
が、そこに登場するレスラー達はナイスガイばかりだ。
本作では、プロレスの裏側部分もクリアに描いている。
つまり、八百長と言われる部分だ。
試合前に軽い打ち合わせをし、リストバンドの中には額をカットするための剃刀を仕込む。
そして試合終了後は「ナイスファイト!」と、対戦相手とガッチリ握手する。
この描写に抵抗を覚える人は少ないと思う。
なぜなら、実際の試合は血塗れの白熱した試合だからだ。
そしてラストでは決死の覚悟でリングに上がる。
彼はすなわち命がけでファンに戦う姿を見せ続けてきたのだ。
実際に日本でも三澤光晴が亡くなった。
こんな愚直な生き方を否定するのは残酷に過ぎる。
実際のプロレスにも通じるのだ。

この男、一度はリングを降り、引退の決意をする。
心臓に爆弾を抱え、医師からの意見を一度は受け入れる。
しかし、引退後の生活は惨めそのもので、再度復帰を決意する。
その際「俺にとって辛いのは外の現実」と感じ、死ぬ気でリングに上がる。

そんな生き方を肯定したい。
彼なりの幸福な人生の選択だからだ。
場末の会場での生死を掛けた試合。
そこにこそ、ロマンがあるのだ。

BGMを彩るのは80年代のロックだ。
RATTやQUIET RIOTは死んだメンバーがいる。
元気で且つメンバーがそのままのバンドはいない。
最後のリングに上がる際のテーマはGUNS AND ROSES。
よくぞ、ここまで揃えてくれた。

良い作品だった。
が、日本では売れないだろう。


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