夜明けのダイナー(仮題)

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SS:ROCKSHOW <その3>

2010年10月06日 21時27分33秒 | ハルヒSS:シリーズ物
    (その2より)


さて、次の日より月・水・金とバンド練習、火・木とダンス練習、土曜はSOS団単独、日曜はENOZとの合同練習……とスケジュールが決まり、突っ走る俺達は更に加速度をつけて11月の文化祭へと向かって行った。 そんな多忙の中行われた、10月8日・ハルヒの誕生会――
SOS団でサプライズパーティを開いてハルヒを驚かせたのは、今回、特に詳しく語らない。約1ヶ月立ち入っていない部室を掃除して飾りつけケーキを用意して、
「今日は練習休み、部室で緊急ミーティングだ」とわざと無愛想にハルヒに言うと「何よ勝手に!」とご立腹で部室に向かって行ったが……部屋に入ると否やご満悦だったのは言うまでも無いだろう。 SOS団5人と鶴屋さんからプレゼントを貰ったハルヒの満面の笑みは、それはもう輝いていた。
もちろん次の日からは通常通り練習に明け暮れる日々が続く。 俺と朝比奈さんの歌唱力も練習の成果か、それなりのレベルに達したそんな矢先、事件は起きた。

異変に気づいてあらかじめブレーキを掛けていれば防げていた事なのだろうが……それこそ歴史の『IF』って奴だ。 
 


次の週の月曜日、文化祭まであと残り1ヶ月になろうかと言う頃、小さな異変が起きた。 何とハルヒが自ら練習を休むと言ってきたのだ。
「何か用事でもあるのか」との問いに特に返事も無く、かと言って不機嫌オーラを発生させる訳でも無い。 何かを迷っている、そんな雰囲気だ。
仕方ないので他のメンバーで自主練習をする事になった。 ちなみに他のメンバーに聞いても特に異変を感じていない、らしい。

次の日、通常通り練習に出てきたハルヒだったが、何かおかしい。 そう、ドラミングに力強さが無いのだ。 どちらかと言うと軽く叩いてる、素人目から見ても明らかに解る違いだ。
「どうしたハルヒ」
「何よ」
「何時もの元気さが無いじゃないか」
「うっさいわね、他人の事心配してる暇あんの?」 言っている事は何時もと一緒だが、どことなく声に張りがない。
「まあ無理するなよ」と一言掛けておく。 異変に気づいたらそこで止めれば良かった……とは何度使い古された言葉だろうか、次の瞬間


   「――――ッ」 悲鳴にならない叫びと共にドラムセットが崩れ落ちる。 そして、ハルヒが左腕を押さえうずくまる。

 
「いたい!いたい!!痛い!痛い!!……」
「大丈夫かハルヒ!」
「涼宮さんっ!」
各々がハルヒに駆け寄る。 悶えるハルヒ。 このままでは不味い。
「長門、何が起こった!?」
「……涼宮ハルヒの左腕は疲労骨折を起こした。 原因は過剰なドラムの練習に拠るもの」
そうか、他の原因でなくて良かった。 って安心してる場合じゃねぇ!
「古泉、車の手配! 朝倉、ハルヒの親に連絡! 長門は俺とハルヒの荷物をまとめて、車が手配出来たら持って来てくれ!!」
朝比奈さんは進学補習で休みだが、この場に居てもオロオロしてるだけってのが想像出来る。 申し訳ありません。
「立てるか、ハルヒ?」
「……うん、何とか」
「肩貸してやる」
「悪いわね、あんたに迷惑掛けて」
「何言ってるんだ、お前らしくない。 しかし無茶しやがって、何で黙ってた!」
「だって……だって――」
「まあいい。 あ、古泉が呼んでくれた車が来た。 行くぞ!」

新川さんが運転する車は機関の手配した病院……あの冬、俺が入院してた病院に向かった。 車の中で俺とハルヒは互いに一言も発しなかった。
医師の診断は、やはり左腕の疲労骨折・全治1ヶ月。 完治は文化祭ギリギリか。 悔しそうなハルヒの表情、唇をかみ締め……高校入学して初ではないだろうか、ここまで悔しさを滲み出しているハルヒの姿を見るのは。
しばらくして朝倉と共にハルヒの母親が来た。 ハルヒはそのまま帰って行った。
 
      ハルヒは黙ったままだった。
 
病院のロビーに残された4人、言葉が出てこない。 一番初めに口を開いたのは、意外にも長門だった。
「……停滞を涼宮ハルヒは希望していない、彼女は『自分が怪我しても残りのメンバーでライブを実行する事』を希望すると思われる――と考えていた。 しかし、現時点での思考は非常にネガティブ。 今後、最大級の閉鎖空間の発生及び時空改変の可能性が考えられる。 当面はそちらの対応にわたし達は向かうべきと考える」
「そうですね長門さん。 こんな時間ですので我々も帰宅しましょう」 
気が付くと時計の針は9時を回っていた。 ハルヒは新川さんの車で帰ったので、俺達は森さん運転の車でそれぞれの家に送ってもらった。
 

長門の予想は的中した。 心構えがあったせいか、はたまた単に奇天烈現象に耐性がつきすぎたせいか、俺は平然とこの事態を受け入れていた。
    
   ここはハルヒの閉鎖空間の中である。 やっぱりね。
 
これまた北高制服で……今回はSOS団部室か、でもハルヒが居ない。
一先ずPCの電源を入れてみるが、当然反応は無い。 そして古泉も来れないだろう、と直感が働いた。 ここで待って居ても仕方ない。
「やれやれ、自分で解決するしか無いのか」 ハルヒを探す事にした。
中庭を見たが居なかった、他に居そうな場所――教室か? 違うな。 校庭? キスをするにはまだ早……って何を考えた!? 何を思い出した、俺!  またフロイト先生に笑われたいのか。 それは止めてくれ。
いやいや、冗談を言ってる場合では無いな。 閉鎖空間は時間が経つとヤバイらしいからな。 早めに解決せねば、それこそ『アダムとイブ』になってしまう。 古泉にまで笑われたくないからな。
 
あと1ヶ所。 何となく、何となくだが今回の閉鎖空間の発生要素であるものを思い出し、そこに行ってみた。 やはりハルヒはそこに居た。
  
   『軽音部部室』

「何やってんだ、ハルヒ」
「何って、あんた、またあたしの夢に入ってるの?」
「悪いか。 そして悪いが他人の夢に入りたいと考える程、俺は野暮ではないが」
「……あんたなら良いのよ」
「何か言ったか。 声が小さくて聞こえなかったが」
「うっさいわね。 相変わらずデリカシーの無い奴ね!」
「大きなお世話だ、今度は逆に声がでかい」 
ハルヒはドラムセットの椅子から立ち上がると、俺の方に向かって歩いて来た。 左腕の包帯が痛々しい。
「大丈夫なのか?」
「んな訳ないのは判っている顔よね、なら一々聞かないで。 そんな事より今後の事を考えなさい! まさか、こんな事になるなんて思いもよらなかったわ」
強がってた声のトーンが徐々に弱くなってゆく。 そしてハルヒの顔は今まで見たことの無い顔になっていた。
「……折角、全員で一緒になって頑張って来たのに。 みくるちゃんや鶴屋さん・ENOZメンバーの思い出になるって言うのに。 ここで立ち止まる訳には行かないのに、あと1ヶ月なのに、何で、何で――」
俺の胸にハルヒの顔が当たる。 震えるハルヒ。
 
      ハルヒが泣いている
 
「……だってここまで来たのに、皆も頑張っているのに、上手くなって来たのに。 あんたも、キョンも珍しく文句も言わず一緒に――キョン、あんたがここまでやってくれたのが、凄く嬉しかったの」
そうか
「それなのに、ううん、あたしも負けないように練習して。 でも、でも……」
ハルヒも頑張って居たんだよな
「――こんな事なら、何もしなければ良かった!!」 ハルヒっ!
「それは違う!」 俺はハルヒを力強く抱きしめる。
「それが結末だって誰が言った。 これが結末だと思ってお前はSOS団の皆を引っ張って来たのか? 違うだろ。 こんなお前に皆はついて来たんじゃない。 しかも、まだ1ヶ月あるんだ。 こんな所でリタイヤするのか『SOS団団長・涼宮ハルヒ様』は!」
「……バカキョン」
「ああ、俺はバカだ、大バカだろうな。 でもな、そのバカを引っ張って暴走してる奴に言われたくないな」
さあ、来るぞ~来るぞ~。
「う、う、うっさいわね! 誰が暴走してるって言うのよ。 偉そうに。 バカキョンでアホキョンでエロキョンのくせに。
あ……何勝手にあたしを抱きしめてるのよ、さっさと離しなさいよ!」 おーお、戻るのが早い事。 やっぱハルヒはこっちの方が良いな。
「あのなハルヒ、俺に近づいて来たのはお前の方だ。 しかもだ、可愛い子が自分の胸元で泣いて弱気になってたら、抱きしめてやらない男なんざ――」
「だ、だ、誰が可愛いですって!?」
「ん、そんな事言ったか」
「……言ったわよ」

スンマセン、言ってました。 こっぱずかしい。 あ、これは夢、ハルヒの夢だ。 だからこれは俺じゃない、俺じゃないぞ!
――この空間から出たら誰かニューナンブを俺の枕元に置いてくれ。
 
「言っておくが、これは夢の中だ」
「その割りに感触にリアリティあるのよね」
「こんな灰色空間のどこがリアルなんだ?」
「でも、あの時、あたしに、あんたが……あ、何でもない、何でもない!!」
「大分元気になって来たな」
「まあね。 でも根本的に何も解決してないわ」
「そうだな、でも何もしないよりは、また考えて進む切欠にはなるんじゃないのか。 『やらなくて後悔するよりは、やって後悔する方がマシ』って言うからな」
うっ、自分で傷口広げてどうする。 でも『ハルヒ丸』を前進させる為の燃料の足しにはなるだろ、1グラム程には。
「そうね、あんたにしては良い事言うわね」
「……さて、夢ならそろそろ覚める頃合だな」
今回は神人が出てこなかったな、無駄な体力使わなくって良かった。 ちなみに、ここから出るには――アレだったよな、またアレをやるのか?

「ハルヒ、実は俺「スト~ップ!!」」 な、何だハルヒ。
「『ポニーテール萌え』ってのは前に聞いたわ。 しかも、その後のあんた、あたしにキ……キスしたのよ! このあたしの許可無く。許さないんだから。 あたし……の――ファースト……」
おい、聞こえないぞ。 あ、抱きしめたままで表情も見えてないし、顔は胸元にうずまったままだからな。
「まあ良いわ。 これは夢、あれも夢だったし、忘れてあげるわ」 忘れてないだろ?  俺は忘れないが。
「今度はあたしからさせなさい! あんた、何あたしの夢に出て来るのよ……ううん、あんただから良かったのかも知れない、良かったと思ってる――目覚める前に見た夢は『正夢』って言うしね!」

ありがと。 とつぶやいたハルヒは顔を上げ、100Wの笑顔を浮かべ、涙が輝いていた瞳を閉じて
 

      キスをした
 

あの、フロイト先生? ユング先生でも良いです。 こんな夢見て良いんですか。 え、夢じゃ無いって。 確かに夢ではありませんが。
 

またベッドから落ちた。 時計は真夜中の2時半を回った所か、どうせもう眠れないんだろうなぁ。 折角なら起床時間に覚める様にして下さいよ。 まったく。
 
      やれやれ
 
結局眠れず早めに登校、眠い。 そう言えばテストが近いんだっけ、余り居眠り出来ないな。 なんて考えながら秋の気配がする坂道を登って行くと
「おはよう、キョン君♪」
「おー朝倉か。 いつもこんな時間か、早いな」
「そうね。 キョン君は早いね、どうしたの?」
「……知ってるんだろ」
「まあね。 それで寝不足で早く来たとか? また『アレ』で戻って来たのかしら」 こいつは小悪魔か
「正直に言うと感謝してるのよ。 長門さんですら今回の事態は対応出来なかったんですもの。 私も只、見守るだけ。 ホント、貴方を殺せなくて良かったわ」
「思い出させるなよ。 今は殺そうなんて思ってないだろ、なら良いんじゃないか? あ、あと台詞借りたぞ、『やらなくて後悔~』って奴」
「うふ、役に立てたなら嬉しいわ。 あ、先に行くね! また教室でね♪」 ウインク1つして朝倉は先に行ってしまった。

そして門に入るとニヤケスマイルのイケメンが立って居た。
「おはようございます、お待ちしておりました」
「おう古泉、早いな。 俺を待って居たのは……昨夜の件か」
「はい、話が早くて助かります。 今回、僕は全くお役に立てず大変申し訳ありませんでした。 機関としても、なす術なく静観するのみで、貴方に賭けるしか無かったのです。 改めて感謝致します」
「礼はいい、仕方ないさ。 立ち話も何だ、部室に行くか」
「そうですね」 まだHRまで1時間弱ある。 途中、自販機で古泉に缶コーヒーをおごってもらい部室に向かう。
 
「脱出方法は前回と同じですか」
「そうだが……知ってて聞いてるのか、お前も」
「『お前も』と言いますと?」
「さっき朝倉に同じ事を聞かれた。 全く、どいつもこいつも」
「それは大変失礼しました」
「まあいい。 今回はお前はおろか長門ですらお手上げだったらしいからな。 しかし、骨折1つで世界の危機とは、困った女神様だ」
「でも、その女神様は貴方を選んだ」
「以前言ってた『アダムとイブ』って奴か」
「はい、その立ち位置は貴方でしか……」 古泉が笑顔を隠すように窓の外を向く
「そう、元々僕は涼宮さんの能力を利用する為に送り込まれたんです。 TFEIや未来人に先を越されてしまうと焦った機関によって――その3勢力が共存して行くとは正直予想外でした。 これも全て貴方の力だと、僕は確信していますよ」
「そんな大袈裟な。 それはハルヒの力だろう」
「その力をコントロール出来るのは貴方しか居ないんです。 まさに『鍵』そのものです。 それは佐々木さんにも当てはまる。……いやはや、女神2人に選ばれて羨ましい」
「本音では無いな、最後は」
「……貴方に嘘は通りませんね、重ね重ね失礼致しました」
「でもな古泉、今のこの状況が嫌かと言うと決してそうじゃ無い。 そりゃハルヒの我が儘に振り回され、非日常の連続で休まる暇も無い。 そして俺の周りには宇宙人・未来人・超能力者、そして神様まで居る。 現状に慣れた今となっては、むしろ楽しいとすら思える時もある。 感謝すべきは俺の方だ」
「あっはははははははははは……」こ、古泉が壊れた!? こいつが馬鹿笑いしてる!
「何故笑う!?」
「いや、貴方の本音が聞けて嬉しいんですよ。 思わず仮面が外れてしまいましたよ」 確かに古泉の馬鹿笑いなんて見た事無かったが
「僕も楽しいですよ。 初めて閉鎖空間に入った4年前、それは正直逃げ出したかった状況でした。 自分の人生を捨てて神に生命を捧げる……苦痛以外の何物でもありませんでした。 でも今はこうして学校生活も楽しめている。 涼宮さん、いやSOS団と出会えて良かったと心から思っています」
「そうか、なあ古泉」
「何でしょうか」
「この北高での1年半、国木田や谷口よりお前との付き合いが濃い。 同性の中で一番会話も多い。 親友――いや、それ以上だと思っている。 万が一、ハルヒの力が消えてSOS団が無くなってしまっても、お前は俺を、SOS団を忘れないでくれ。 そして将来、一緒に酒でも酌み交わしたい。 約束出来るか?」
「はい。 嬉しいお言葉です、約束しましょう」
空になった缶コーヒーで乾杯する。 おっと、そろそろ時間だ。 
「行くぞ古泉。 あ、今のはオフレコだ、誰にも言うな。 男の約束だ」
「承知しました。 では失礼します」

教室に着いたのはHR5分前
「おはよう、キョン」
「おう、国木田」
「あれ、キョン君、今来たの?」 
「ああ、朝倉か。 さっきまで古泉と話してた」
俺の席の後ろには……ポニーテールのハルヒが窓の外を見つめていた。
「よう」
「何?」
「また悪夢でも見たのか」
「……何で分かるのよ」 相変わらずの仏頂面
「いや、前、その髪型にした時『悪夢を見た』って言ってたからな。 んで入学当初『宇宙人対策』で髪型変えていたお前の事だから……何かの願掛けなのか、それは」
「そうね、よく覚えていたわね。 『願掛け』か、そう言う事にしておいて」
「――ハルヒ」
「何?」
 
 
   「お前は笑ってる方が可愛いぞ」
 
 
「……っ、バカキョン! な、何言ってるのよ!?」 うんうん、やっぱりハルヒは沈んでるよりこっちの方が良いや。
何? さっきの『可愛い』うんぬんは本音かって? さてね、どうだろうね。


(その4へ続く)
   

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