夜明けのダイナー(仮題)

ごった煮ブログ(更新停止中)

SS:ROCKSHOW <その4>

2010年10月06日 22時05分03秒 | ハルヒSS:シリーズ物
   (その3より)

おっと岡部が来た、HRの始まりだ。
「みんなお早う。 来週はテスト週間だ、気を引き締めて行け。 それが終われば文化祭も近い……」
と言う訳で、文化祭の出し物を決める事になった。 話し合いの結果『カレーハウス』に決定した、ココ○チか? 男子が調理、女子がウエイトレスをやるらしい。 

HRが終了して朝倉がハルヒに話しかける。
「代わってあげようか?」
「何を」
「ドラムとキーボード」
「涼子、ドラム出来るの?」
「出来るわよ♪ だって涼宮さん『どっちがいい?』って聞いて来たからキーボードって答えたけど、別にどっちでも良かったのよ」 まあ万能宇宙人だしな、長門いわく優秀だし。
「……サンキュ、涼子」
「キーボードのプログラミングは済んでるから、後は簡単な操作だけ。 右手一本でもいいから負担は少ないわよ」
「助かるわ! それじゃ学校終わったら早速「ストップだハルヒ」」
「何よキョン」
「病院は」
「行くわよ。 診察だけなら直ぐ終わるでしょ」 やれやれ、無理するなよ。
 
午前中の授業が終わり昼食になる。 右手しか使えないハルヒはどうするんだ、と思ったら母親にサンドイッチを作ってもらったらしい。 でも右手だけでは弁当箱出すにも辛そうだ。
「ハルヒ、手伝うか?」
「……いいわよ、谷口と国木田が待ってるわよ」
「遠慮するな。 ついでだ、一緒に喰うか」
「……うん」
「あ、谷口、国木田。 悪い、俺こっちで「「了解!」」」
皆まで言うな、とばかりの二人の返事。 それに合わせてクラス中の視線が生温かい。  ええい、無視だ無視。
ハルヒがサンドイッチを取り出している間、俺はハルヒの水筒を取ってお茶――サンドイッチに合わせレモンティーだが、注いでやる。 特に会話があった訳では無いが、向かい合って食べるのは新鮮だ。
「何か、こういうのも悪く無いな」
「そうね、たまには良いわね」
「なあ、ハルヒ」
「何?」
「怪我が治るまで一緒に喰うか」
「……うん」
「早く治るといいな」
「1ヶ月、か。 それより早く治したいわね。 ENOZとのジョイントのギターもあるからね。 しかし涼子って何でも出来るのね。 有希もそうだし。 不思議よね」
「そういうお前も色々出来るじゃないか、羨ましいぞ」
「あんたは努力をしなさいよ。 何もしなけりゃ何も出来ないのは当然じゃないの!」
「そうかもな」
 
午後イチで体育の授業。 腹一杯でキツイ、そして睡眠不足で眠い。
「お、涼宮は見学か。 腕、どうしたんだって?」
「谷口か。 ドラムの練習し過ぎの疲労骨折だそうだ」
「あいつらしいな。 なあキョン」
「何だ」
「文化祭だが、お前の分は俺や国木田がフォローしてやるから、アッチの方を頑張れよ」 アッチとはバンドの方か。
「悪いな」
「いいって事よ。 それより涼宮の方を心配してやれよ。 ああ見えて一応、女だしな」
「なんだ谷口、お前まだハル「それとな、これはマジな話だ」」
俺達、授業そっちのけで何を話してるんだ。 あ、ちなみに今日は走り幅跳びで、順番待ちの合間の会話って奴だ――谷口が妙に真剣だ。
「そろそろ決めとけ」
「何をだ」
「相変わらず鈍いな。 お前、涼宮の事どう思ってる?」
「――SOS団団長」
「マジで言ってるのか」
「あぁ」
「……一発殴っていいか? でも今は授業中だ、止めておこう。 兎に角、話半分でいいから聞いてくれ。 来年になったら受験や就職活動で忙しくなる、恋愛するなら今しかねえ。 ましてや、お前と涼宮では学力の差は明らかだ。 このまま行けばお前らはバラバラだ、何もかもハッキリしないまま、な。 それでキョンが構わないって言うなら俺のお節介もここまでだ。好きにしろ。 まあ、ナンパ位はつきあってやるぜ! それでお前の傷口が塞がるなら結構だ……おっと順番だ、じゃあな」

何も言い返せなかった。 たかが谷口相手に説教されて反論出来ない俺って何なんだ? 入替わりに国木田がやって来た。
「やあ、谷口に色々言われたみたいだね」
「ほっとけ」
「僕もハッキリさせた方がいいと思うよ。 何か最近のキョンって朝倉さんと仲良いし、佐々木さんとは週末、自転車で駅まで送ってるんでしょ。 涼宮さん、何となく寂しそうに見えるよ」
「怪我のせいだろ」 寂しく見えるのは。
「相変わらずだねキョン。 でも谷口があそこまで言うのも珍しいと思うし、キョン自身も解ってる事じゃないのかな。 あ、僕の番だ、じゃあ」

   全く、どいつもこいつも。 やれやれだ。
 
しかしながら、俺にとってハルヒって何なんだ? SOS団団長・ずっと後ろの席に座っているクラスメイト・変な女・神様・そして――。

「……ョン、キョン! おい、お前の番だぞ」
「あ、はい」  
幅跳びは大失敗、クラスで最下位。 雑念持ち込むべからず。
 

さて、放課後
「じゃあね」
ハルヒを見ると右手だけで重そうな荷物を持って帰ろうとしてる。
「今から病院だろ」
「そうよ」
「荷物、重そうだな」
「平気よ!」
「……持ってやるよ」
「ハァ?」
「一緒に行くぞ!」
「ちょ、ちょっと。 待ちなさいよ、キョン!」 半ば強引だが、ハルヒから荷物を奪って持ってやる。
「これ位いいだろ、無理するな。 今度は右腕が駄目になったらどうする」
「そ、それじゃ治るまでよ」
「相変わらず素直じゃないな」
「うっさいわね、あんたに言われたくないわよ!」
「……朝も荷物持ってやるよ」
「……いいの?」
「治るまでな」
「ありがと!」
今はこれで良いんだろ。 多分、ハルヒもそう思ってるさ。
 
診察は簡単に済んで(とりあえず週1で通院すれば良いらしい)、スタジオに向かう。 他のメンバーはそれぞれのパートを練習していた。
「遅れてゴメン! 今日から涼子とドラム交代したから!!」
「……承知している」
「その方が宜しいかと」
「任せて涼宮さん。 余り無理しないでね♪」
テストも近いだけあって練習は早々に終了。 週末もテスト勉強にあてると言う事で練習は中止。 まあ、その方がハルヒが無茶しないから良いな。 と言う訳でハルヒを送り家に戻る。
土曜日、北口駅に送って行けないと、佐々木に断りの電話をしなければ。
 
 
さて、テストも終わり(結果は聞くな、言うまでも無いだろ)、バンド練習も再開。 久々の土曜日。
「やあ、キョン」
「先週はすまなかった、佐々木」
「いや、一向に構わないよ。 むしろ毎週こうして乗せてくれている事に改めて感謝するよ。 所で国木田から聞いたが、涼宮さん、左腕を骨折したらしいが、大丈夫なのかい?」
「全治1ヶ月。 まあ無理がたたったって奴だ」
「涼宮さんらしいね。 バンドはどうするんだい? 右腕だけでは楽器は無理だろう」
「ああ、ドラムを辞めてキーボードになった。 何やら簡単に弾ける様にセットしてくれたらしい」
「そうかい、それは一安心だね。 涼宮さんに『お大事に』と伝えておいてくれたまえ」
「解った」
ちなみに、毎週土曜日、佐々木を乗せて北口駅に送っている事をハルヒは知っている。
そして決まって練習前には不機嫌オーラを発生させている……やれやれ。
 

残り1ヶ月を切った、10月半ば。 バンド演奏もダンスも上達していた。 あとはハルヒの骨折の完治を待つのみ。
 
 
――なのだが、俺の心の中で何かが動き始めていた。
そう、忘れかけていた『あの感覚』……いつからか無自覚に避けていた感覚だ。 そろそろ自分自身と向き合う必要が出てきたようだ。 他人、よりによって谷口に背中を押され気付き始めたとは、我ながら情けない。 でも正直に、自分の気持ちを相手に伝えたいと思っていた。

      
      俺にとってのアイツは何なのか
          
          そして
 
      俺はハルヒの事を好きなんだ と
 
 
 
第一印象は『見た目は良いが性格に難有り』って奴だ。 そしてSOS団で振り回され『何て奴』に……それが、まさか『恋心』に変わるなんて、自分でも何考えてるか理解不能だ。
でも『恋愛』って理屈なのか? そうじゃないだろう。 気が付いたら『好きになっていた』って事だろう。 最近では一年生の始めみたくエキセントリックな性格ではなく、少しは常識的な面も出て来たし、元々外見に関しては――。

それでは逆に俺はどうなんだ? 見た目・中身共に平凡。 あいいつと釣り合うとは到底思えない。
中学時代のハルヒは『告白は断らない(その後は別)』って聞いたが、古泉曰く「最近では週1ペースで告白され断っている」ときてる……いかん、言う前から失敗した時の事を考えてどうする。
     
   『結果よりも、まずは伝える事』

「ハルヒに会いたい」と、あの世界から戻りたがっていたのは他でもない、俺だろ?
 

時は流れ、11月の第2週の金曜日。 明日から文化祭、準備は万端。 あとは本番の日曜を待つのみ。
ちなみにハルヒと朝倉も「クラスの出し物には参加しなくていいから、バンドに専念するのね」と女子連中に言われたらしく……それを聞いた谷口が「クラスで1・2を争う美人がウェイトレスをやらないなんて――」と、昼食中うっかり発言してしまい、周囲に白い目で見られたのは先週の事だが~体育館上でのリハーサルを終えた我らがSOS団。

「みんなお疲れ! 今日は解散。 明日は最後の練習、9時に部室に集合よ。 遅刻は罰金!!」と、
ありがたい団長様のお言葉のあと解散。 ハルヒの怪我は3日前に完治、本番は問題なしと医者のお墨付きだ。 治ったとは言え、ハルヒの送り迎えは日課となっていた。 今日も家まで送って行く。
「キョン! 明後日はついに本番ね、気合入れて行くわよ!!」
「へいへい。 しかしクラスの連中には迷惑掛けたな。 気を使ってもらって」
「そうね、だからこそ成功させるわ!」
「そうだな。 なあ、ハルヒ」
「何?」
「……いや、何でも無い」
「何よ。 言いたい事あるなら言いなさいよ!」
「治ったばかりなんだから、無理するなよ」
「……うん、ありがと。」 夕日が沈み、薄暗くなった道を家路に向かって行く。
「明日は8時で良いか?」
「うん、そうね。 待ってるわ、バイバイ!」
「じゃあな、おやすみ」
 
 
文化祭初日・土曜日、快晴。 絶好の文化祭日和って奴だ。
「おはよう!」
「おっす、今日も元気いいな」
「当たり前じゃない。 あたしを誰だと思ってるの?」
「へいへい、さあ行くぞ。」
2人で坂を登って登校。 体力ついたのもあるのだが、ハルヒと話ながら行くと以前に比べ更に苦にならず行ける気がしていた。
だから『怪我が治るまで』と言っていた送迎もなしくずし的に延長している訳だ。 まあ、俺も止めると言っていないし、ハルヒも何も言わないから問題ないだろう。 気が付くと部室の前に居た。
「おっはよ~! 全員居る?」 うん、6人揃ったな……俺はハルヒの後に入る、と言う事は
「遅刻、罰金!」  おいっ!
「あのなハルヒ、お前と一緒に来て『遅刻』は無いだろ?」
「何言ってるの、あんたが一番遅く入ってきたからよ」
「無理してまで俺からカネを取るな!」
――こら、他の4人、生温かい目でこっち見るな、って長門もかよ!
「……バカップル」  なんですと!?
「仲の良いのは解りました」 うるさい古泉、黙ってろ。
「朝から見せつけてくれるわね」 朝倉、ウインクするな。
「あのぅ、練習しないんですかぁ?」 そうですよ朝比奈さん!
「……そう、そうよね、みくるちゃん。 さあ、練習するわよ!」  部室のテーブルを片付けて、練習開始。
今日のスケジュールは、昨日のENOZメンバーとのミーティングで以下の様に決まった
 
  ~11:00  ダンス練習(部室)
  ~13:00  自由時間
  ~15:00  バンド練習(軽音部部室)
  ~17:00  リハーサル(ステージ)
 
まずはダンス。 朝倉に音楽操作を任せダンスを見てもらい5人が揃っているか見てもらう。 初期の頃はバラバラだったダンスも何とか形になっているみたいだ。
「問題ないわね、大丈夫よ♪」 と、練習の成果は出ているらしい。 お、もう自由時間か。
「2時間しか無いけど、自分達のクラスに顔を出したり好きに行動して頂戴。 では解散!」
「なあ、ハルヒ」
「な、何よキョン」
「……一緒に行くか」
「……え、良いわよ。 涼子も行くでしょ?」
「あら、お邪魔じゃないかしら、私? でも自分のクラスに顔を出すんだから問題ないわよね、行きましょ♪」 一言多いぞ、朝倉。 
 
と言う訳で、この3人で2年5組の教室へ向かう。 昼少し前のせいか、すんなり入れる。
「あ、いらっしゃい」 お、阪中か。
「悪いわね、手伝えなくて」 
「ゴメンね、阪中さん」
「ううん、気にする事無いのね」
「あ、カレー3つ頼む」
「了解なのね!」 
厨房から谷口が「両手に花かよ、キョンの奴!」とか言ってたが、無視だ、無視! 早々に食べ終わり他のクラスの展示も見て回る。

「私、去年はカナダだったから、文化祭回るの初めてなのよね」
「去年はみくるちゃん主演の映画撮ったのよ!」
「あと、ハルヒが長門とENOZ2人の代打でステージに上がったのには驚いたぞ」
「楽しかったみたいね。 長門さんがステージに上がるなんて、後から聞いたけど信じられなかったわ」
「それで今年は『バンドやりたい』って思ったのよね」
「早いな、一年って」
「あ~あ、カナダなんて行くんじゃなかったな」  行って無いだろ、実際。
「何よ涼子、カナダ、面白く無かったの?」
「え? そ、そんな事無いけど。 只、こっちはこっちで面白かったのかなぁ……って思って」
「今は楽しい?」
「楽しいわよ♪ ありがとね、涼宮さん。 そしてキョン君も!」
 
軽音部部室。 時間より気持ち早めに6人揃う。 そしてバンド練習開始。 どちらかと言うとサウンドチェックメインで終わる。 俺も今更ノドを痛めたくないしな。 ハルヒにも無理させたくない。 最後に一通り曲を演奏し終了。 残った30分は久々にSOS団部室でティータイム。 朝比奈さんの淹れてくれたお茶でリラックス。
15:00 通しのリハーサル。 嫌でも緊張してきた。 少しアガってしまった俺は所々ミスしてしまう。 その度にハルヒの怒号が飛ぶ……やれやれ、オーディエンスも居ないのに、これではマズいな。
SOS団~ENOZと来て、最後は『S-ENOZ』の演奏。 今までの合同練習の成果かスムーズに終わる。 朝比奈さんのボーカルも『ミクル伝説』とは格段の違いだ。
 
      ――誰だ、『ポンコツ・ヴォイス』とか言ってる奴は?
 
17:00 S-ENOZ全員で円陣組んで「明日は本番、気合入れて行くわよー!」ENOZ・榎本さんの号令で
      「「「「「「おーっ!!」」」」」」     そして解散。
 
「あ、ゴメン。 キョン、先に帰って!」  どうしたハルヒ?
「何でも無いわ……有希、涼子、みくるちゃん。 ちょっと来て!」
「おやおや、女性陣だけでミーティングですか。 お邪魔するのも野暮ですし、我々は帰りますか」 野郎2人で帰るのは癪だが、たまには付き合ってやるか、古泉。
 
「久し振りだな、 ハルヒ以外とこの坂を下るのは」
「そうでしたね。 涼宮さんが怪我をされてから、あなたがた2人で登下校されていましたからね。 実に羨ましいお似合いの――」
「……なあ古泉」
「なんでしょう」
「笑わずに聞いてくれ。 古泉、お前今、恋愛してるか?」
「――何をまた急に。 そうですね、色々忙しい身ですので残念ながら色恋沙汰は無縁ですね」
「そうだったな。 すまん、失礼な事を聞いたな」
「構いませんよ、お気になさらずに」
「見た目・中身共に問題ないお前なら、さぞかしモテるんだろうから、彼女位はと思ったのだがな」
「正直僕も、健全な男子高校生ですから、恋愛くらいしてみたいものですが……」
「気になる女性は?」
「それは居ますよ。 でも、秘密です。 そもそも僕には不釣合いです」
「何言ってんだ、お前程のスペックがあるなら問題ないだろ。 ひょっとして自分に自信が無いのか?」
「……そう言う事にして下さい。 かく言う貴方はどうなんですか? 涼宮さんと」
「うっ、こ、古泉。 どうしてハルヒと決めつける!?」
「ふふ、何を言ってるんですか、他に誰が居ますかね。 全校生徒の認識では貴方と涼宮さんはベストカップルですよ。 知らないのは本人達だけです」 な、何だって!?
「マジか?」 
「えらくマジです」
「――その事なんだが、どうやって自分の気持ちを伝えて良いのか俺には解らん。 それで不本意ながらお前の意見を聞こうと思ったのだがな」
「簡単な事ですよ。 後ろから抱きしめ耳元でアイラb「却下だ!」」
「……失礼致しました、冗談です。 素直な貴方の気持ちを伝えれば涼宮さんは必ず答えてくれます。 僕が保障します」
「そうか。 でも、それが難しいんだよな」
「解ります。 しかし、こうして貴方と恋愛談義をするとは思いませんでした」
「俺もだ。 まさか自分が恋愛で悩むとは想像すら出来なかったからな」
「成功すると信じています」 
「サンキュ、古泉。 また明日な」 

古泉と別れ家に着き夕食後、携帯に着信が
「おう、ハルヒ。 どうした?」
「今ヒマよね。 今からウチに来なさい、30秒以内!」
おい、切れたぞ。 言うだけ言って返事する暇も与えないとは……何時もの事だがな、慣れたよもう。 どうせ暇だから問題ないが、どうしてこんな奴を好きと思ったのかね、俺?
 
自転車でハルヒの家に向かう。
「来たぞ」 
「待って、今出るから」
11月ともなると夜は肌寒い。 それなのに薄着で出て来るハルヒ。
「寒くないか?」 
「別に」
「風邪ひくぞ、ほれ」 上着を掛けてやる。
「あ、ありがと」 
「んで何の用だ、呼び出して」
「用事が無くちゃ駄目なの?」  あのなぁ。 
「緊張してる? リハーサルの時アガっている様に見えたから」
「まあな。 ステージに上がるなんて昔の俺なら有り得ない事だからな。 緊張しない方が可笑しいって奴だ」
「そうよね……ねえキョン、ここまで来た事後悔してる?」
「それは無いなハルヒ、嫌なら嫌って言ってるさ。 それはお前が一番知ってる筈だ。 俺の方こそ力不足で悪いな」
「ありがとねキョン、あたしの我が儘聞いてくれて」
「別に良いさ、気にするな」
「だから……だから。 あ、キョン、少し目つぶってて」
「何だハルヒ、悪戯するなよ」
「……しないわよバカ。 明日の本番、緊張しない様に団長自ら気合を入れてあげようって言うのよ!」
「解った、解った」 言われた通り目をつぶる。 『気合を入れる』って言うからにはビンタでもされるかと思っていた――次の瞬間
 
             チュッ
 
ビンタにしては優しく、柔らかい感触
「おまじないよ!」 ほっぺだけ?
「バ~カ! おやすみ。 明日も8時に迎えに来なさい!」
立ち尽くす俺を置いてハルヒは玄関に入る。  おい、上着返せよ。 まあ良いか、明日来るんだし……。
 

   (その5へ続く)


コメントを投稿