夜明けのダイナー(仮題)

ごった煮ブログ(更新停止中)

SS:RAINBOW

2010年10月18日 21時33分19秒 | ハルヒSS:シリーズ物
(『ROCKSHOW』より)


 
   <08:30>   ハルヒの家

文化祭の後、ハルヒの家に泊まる事となった俺。 朝食まで頂いて本当にハルヒの母親には申し訳なく思う。
……え? 他に言う事あるだろうって、皆が期待するような事は無かった、と言っておこう。
何せ健全な高校生だ、しかも4ヶ月に渡るライブ練習と昨日の本番。 肉体的にも精神的にも疲れていたので入浴し布団入った後、すぐに眠ってしまったのだ。
まあ、別に用意してもらった布団に入らずハルヒので一緒に寝たってのは内緒だ。 それ位は許されるだろう……だから何も無かったって? やましい事は何も無いぞ。

 
   ――少し話をしてキスして眠っただけだ、文句あるか!
 


「キョン、ボケッとしてないで行くわよ!」
へいへい、と言う訳で俺は今、ハルヒと光陽園駅に向かって歩いている。 二人、手を繋いで。
今日は月曜日、学校は良いのかって? 土日で文化祭だったから、振替休日って奴だ。 今日のハルヒの衣装は白のワンピース。 正直に言おう

 
      ……たまりません

 
外見は完璧に『清楚なお嬢様』だ、これで振り返らない奴はガチホモ決定だ! まあ、その隣に居る奴の平凡な事と言ったらありゃしない。 一言で言ったら『不釣り合い』って奴だ。 すまん。
昨日の告白冷めやらぬ内のデート、かなり緊張している。 ハルヒはいざ知らず俺は正真正銘の初デート、しかも俺の方から誘ったとなればエスコートせねばななるまい。
今回は古泉にアドバイスを貰う暇すら無かったので、ありったけの知識をかき集めてた結果『水族館』に行く事にした。
天気は曇り、しかも今にも雨が降り出しそうだ。 折角の初デートなのに……
「しょうがないじゃない、秋晴れも何時までも続くもんじゃないんだし、楽しく行きましょ!」 
うん、そうだな。 天気は悪いが俺の隣には可愛い彼女が居る。 気を取り直して行くとしますか。
 

しばらく歩いて駅に着く。 参ノ宮までの切符を2枚買って改札に入る。 電車は既に来ていたが、さすが平日のこの時間、車内は混雑している。 ハルヒの手を離さずドアの前に立つ。 そして電車が動き出し約10分弱で祝川駅に到着、支線から本線に乗り換える。 県庁のある参ノ宮に向かう電車を待つ。 
特急が来たがラッシュ時を過ぎたとは言え、混雑しているな。
「まあ、急ぐ訳じゃないし、次の電車にするか」
「そうね、こんなに混んでいるのは嫌ね」
次の普通を待つ。 来た電車は少し空いていた。
「しゃーない、乗るか」 ハルヒの手を引く。 またドアの前に立ち外を見る。

「そう言えば、左腕の具合はどうだ?」
「うん、大丈夫よ」
「昨日は無理してなかったか」
「無理してないわ。 ドラムやるよりキーボードやギターの方が負担は少ないからね。 特にキーボード、楽出来たのは涼子のおかげ……あ! そう言えば、あんたキーボード弾けたの!?」
「ん? あ、あぁ。 俺は弾けんが朝倉のプログラミングって奴か。 あれのおかげで『適当に鍵盤を押してもメロディが流れる』状態にして貰ったんだ」 そう言う事にしてくれ。
「KX-5(ショルダーキーボード)持ってあんたがあたしの隣に来た時はビックリしたわ。 でも、すごく嬉しかった。 だって、あんたと一緒のステージに立ってる!って実感が更に出て来たからよ。 その前にも一緒に歌ったシーンはあったけど、あれは、あたしが近づいて行って……まさかあんたが、あたしの隣に来てくれるなんて」
「俺も行くなんて思わなかったさ。 あれは朝倉のアドバイスだ」
「り、涼子の?」 ネタ晴らしして良かったのかな。
「最初、言われた時は戸惑ったが、あの後押しがあったから告白に結びついた気がするんだ。 朝倉には感謝してるよ」
「――実はね、キョンと古泉君に先に帰ってって言った日にね」 一昨日の事か
「あの時、あたしの素直な気持ちを3人に相談したの。 このあたしが恋愛相談するなんて自分でも思わなかった……でも、抑えられなかったから相談してみたの。 みくるちゃんは『大丈夫、キョン君は素直に受け取ってくれますよ』って言ってくれて、有希は『……自分のありのままの気持ちを伝える事を推奨する、心配しないで』。 そして涼子が言ったのは『私も応援してるから』って。 その後、涼子が2人きりになった時に『私達3人共キョンくんが好きだったの、形は違うんだけど。 でも、あなたには敵わない……あと、キョン君もきっとあなたの事が好きよ。 だから、後はあなた次第。 私の分、いいえ、3人の分まで幸せになってね♪』って。 あたし、そんな事知らなかった。 あんたが3人に対して優しくしてるのは知ってたけど、その3人があんたの事を好きだったなんて。 それなのに、あたし……」
「別に良いじゃないのか」
「え?」
「最終的に俺はお前を、お前は俺を、それぞれ選んだ。 文句あるか? さあ、参ノ宮に着いたぞ」


マルーン色の電車からシルバーの車体の電車に乗り換える。
「なあ、ハルヒ」
「何?」
「俺もあの日、古泉に同じ事を相談してた。 あいつ、口には出さなかったがハルヒの事を好きだったと思う。 でも、俺の後押しをしてくれた。 俺達が不器用だったから……本当にSOS団の皆には感謝しなくっちゃな」
「そうね。 だから団活の時は今まで通りよ!!」
お、今日初めての100Wの笑顔。 やっぱハルヒはこっちの方が可愛いな――すまん、惚気だ。

さて、水族館のもより駅に約15分で到着。 『かもめの水兵さん』のメロディーが流れ、思わず2人で笑ってしまう……他愛も無い事だったのだが。


 
   <09:30>   水族館

駅から徒歩10分、住宅地を抜けた海岸沿いに水族館はあった。 2人分のチケットを買って入場する。 実はハルヒは、今回『割り勘デート』を提案して来たのだが……初デート位格好つけさせてくれ。
入り口の案内板に『イルカショー・10:30』と書いてあったので、それまで適当に水槽を見て回る。
 
      おいハルヒ、魚を見て「美味しそう」とか言うな。
 
雲は更に厚みを増して、何時雨が降り出してもおかしくない。 まあ、水族館は基本的に屋内だ。 選択は間違って無かったな。
平日のせいか人は疎らだ。 しかし、その方が落ち着いて色々見れるので好都合だ。 はぐれる訳は無いのだが、手は繋いだまま離さない……良いじゃないか、別に。 文句あるか。

ショー開始10分前。 イルカスタジアムに向かい、見やすい席に座る。
10:30 ショー開始。 色々なパフォーマンスを繰り広げるイルカ達を見てはしゃぐハルヒ。 やっぱり普通の女の子だ、素直に可愛いと思える。 しかし、言葉を理解出来ないイルカにどうやって1から芸を仕込むのか? これこそ不思議じゃないのか、なあハルヒ。

30分のショーはあっと言う間に終わる。
「あー、楽しかったわね!」
「よく、あんなに芸が出来るよな」
「すごいわね……あ」

   雨が降り出した。 しかも土砂降りだ。

「雨宿り兼ねて、少し早いが昼ごはんにするか」
「そうね」 水族館内にあるレストランに入り、海の見える席に座る。 雨は窓に叩きつけるかの様に降り、滝のように流れている。
「傘無いわよ」
「心配ないだろ。 いざとなったら買えばいいさ」
「そうね、何食べる?」
「俺はランチセット。 ハルヒは?」
「ん~、同じのにしようかな」
ランチセットは量は多くなかったが、2人で話をしながら食べたので、店をでたのは12時を回って居た。

「まだ止まないわね」
「仕方ないさ。 まだ見てない所もあるからノンビリ見よう」
「そうね、まあ2人で居るなら、何でも良いわ」
午前中に見れなかった水槽や展示物などを見て回る。 繋いだ手は離さぬままに――


 
   <13:00>   『RAINBOW』

とりあえず水族館を一通り回った俺とハルヒ。 さあ、どうしよう……と思案していた所。

「あ、雨が止んだわ!」 マジか!? ハルヒパワー?
「お、本当だ」
雲の切れ間から日差しが差し込んで来た。 海の水面に光が照り返す。

「……綺麗ね」
「……あぁ」

俺達は海の見える広場に立って居た。  海の向こうには大きな島が見え、右を見回すと日本一長いつり橋も見える。
「いい眺めね、雨止んで良かった」 日差しが出て来たせいか、少し暖かくなってきた。
「ハルヒ、アイスでも食べないか?」
「そうね……食べたい!」
「ちょっと待ってろ、すぐ戻って来る」

海を見つめるハルヒを待たせ、俺はアイスを買いに行く。 
2つ同じ種類のアイスを買うのも味気ないので、チョコとバニラの2種類を買う事にした。
ハルヒを待たせるのも悪いので小走りで戻る。   すると、俺の目の前に
 
 
    
      白い衣を纏った天使が居た
 

 
海の向こうに虹が架かり、水面が輝いて――俺は思わず立ち尽くして見とれて居た。 そして、その天使が虹の橋を渡り空の彼方まで羽ばたいて行ってしまいそうな感覚を覚えた。
 
どれだけの時間が過ぎたのか解らない。 そんな俺にハルヒは気付いたらしい。
「……ちょっと、キョン? 何やってるの、アイス落としてるわよ!」   え、何だって!?
手元を見るとチョコのアイスを落としてしまっていた。 気が付かなかった。
「す、すまん。 お前に見とれてた」
「ば、バカ、何言ってるのよ……」 少し恥ずかしそうに返事するハルヒ。 残ったバニラのアイスを2人で食べる事にする。

「綺麗な虹ね」
「ああ、雨上がりも捨てたモノじゃ無いな」
「そうね」 

しばらく2人で見ていた虹が消えかかる時、俺は口を開いた。
「実はな、さっきお前に見とれてた時、あの虹の向こうにハルヒが行ってしまいそうな感覚がしたんだ。 追いかけたかったが、動けなかった……本当に飛んで行く訳無いのにな」
「そうよ、心配無いわよ。 あたしはここに居る、あんたと一緒にね。 離れるなんて承知しないわよ。 ううん、あたしが離れてあげないから!!」
「サンキュ、ハルヒ」
 

   濡れたベンチが光る広場で、虹が消えるその瞬間――俺達はキスをした。
 


    <14:30>   本町中華街

水族館を出た俺とハルヒは、県庁に近い本町の中華街に来ていた。 特に目的があった訳ではないのだが、一緒に歩いていれば楽しい事も見つかるだろう。
実際、色々な雑貨屋を見て回ったり、屋台で中華まんを買って食べたりしながら歩いていると、時間の経過が早く感じた。

「今からどうするハルヒ。 これから帰れば夕方前には着く。 夕飯は特に決めては無いが、リクエストはあるか?」
「特に無いわ。 でも折角の初デートなんだから、出来るだけ一緒に居たいな」
「俺もそう思うが、明日は学校だぞ」
「解ってるって。 もう、ムード無いわね」
「『今夜は帰さない』とでも言って欲しかったか?」
「バーカ! 本当に言えるものなら言ってみなさい」

挑発に乗ってしまった俺は……うん、挑発に乗ったと思ってくれて結構だ。 そうでないとこんな台詞は言えん! これは俺じゃない、俺じゃないぞ――


 
   「ハルヒ、今夜は帰さない」  後ろからハルヒを抱きしめ、耳元で囁く。


 
後ろから抱きしめた事を悔やんでも遅かった、残念な事にハルヒの顔が見えない。 しかし反応はあった。 耳元が赤くなり身体が震えている。 これは怒って居る? 違うな、何故なら発してる声が明らかに照れている。

「……ばか、本気にするわよ」
 
 
――ふと冷静になった、ここは何処だ? 本町中華街だ。 O.K. 平日にも関わらず観光客等で人通り多いな。  んで、俺はハルヒに何してる?  後ろから抱きしめ……

「す、すまん!」
「な、何を急に素に戻ってるのよ……もう、行くわよ!!」 
「お、おう」

俺の手を引っ張り先に進むハルヒ。 いかん、これじゃ完全に『バカップル』だ。
気がつけば参ノ宮駅まで歩いていた。 まあ、歩けない距離では無いし、毎日のハイキングコースに比べれば――


 
   <17:00>   鶴屋北口ガーデンス

「何よ、さっきのあんた。 あれじゃ完全にバカップルじゃないの!」
「挑発したのはお前だ、文句あるのか」
「無いわ、あれはあんたの本音でしょ」
「そうだ、何の問題も無い。 バカップル上等だ」
「一昨日までのあんたに見せたいわね、今の姿を」
「ああ、タイムマシーンでも持って来いってんだ」
 
実にアホらしい会話だ。 こんな会話を帰りの車内で繰り広げてたおかげで、俺達は祝川駅を過ぎた事に気が付かなかった。
そのまま次の北口駅で折り返して戻って来ても良かったのだが
「折角来たんだから、降りるわよ!」 と言う訳で、北口駅前の『鶴屋北口ガーデンス』に寄る事にした。

「久し振りに来たな」
「鶴屋さんに楽器と衣装を調達しに連れて来て貰って以来よね」
改めて言うがこのデパート、いやショッピングモールはでかい。 伊達に『西日本最大級』を名乗っていない。 それこそ一日滞在出来そうな規模だ。
「あの時は楽器屋と洋服屋とレストランしか行かなかったわね」
「それでも時間を大分使ったぞ。 誰かさんのせいでな」
「女の子の衣装選びは時間掛かるのよ。 あんたは選ぶの早かったわね」
「まあな。 所で、あの衣装、似合ってたか?」
「う、うん。 あたしは?」
「お、おう。 似合ってたぞ」
 
夕食は結局、フードコートで済ませる事にした。 互いに高校生だしな、贅沢は出来ない。
「全部の店は回れそうにないわね」
「また来ればいいさ。 デートは今日だけじゃ無いからな」
「サラっと言うわね」
「何か間違った事言ったか」
「違わないわ。 それじゃ次のデートは此処に来るわよ!」
「不思議探索はどうするんだ?」
「それは別。 土曜日は探索・日曜日はデートよ!!」
「毎週か」
「当然じゃない、文句は言わせないわ」
「文句は無いさ。 俺とお前は恋人同士だからな」
ガーデンスの半分も回れないうちに、時計は20時を回っていた。


 
   <21:00>   光陽園駅

「ハルヒ、家まで送るよ」
「当然でしょ。 『家に帰るまで』がデートよ!」
「どこの遠足の標語だ。 でも、正しい表現だな」
「次はあんたを送ってくわ」
「アホか、冗談じゃ無い! 女の子を一人で帰す訳にはいかん」
「何言ってんの、あたしなら大丈夫よ」
「お前は良くても、俺が心配するから駄目だ」
「それじゃあんたの家に行けないじゃない」
「それなら泊まればいいだろ!」
「……さり気なく大胆な事言うんじゃ無いわよ」
「……す、すまん」
 
気がつくとハルヒの家の前に来ていた。
「なあ、ハルヒ」
「何よ、キョン」
「さっきの話だが、ウチの両親も妹もハルヒの事を気に入っている。 多分、泊まると言っても文句を言わないだろう。 まあ残念ながら布団は別の部屋なんだろうが」
「でも、どうせ一緒に寝るんでしょ?」
「俺の部屋に来いよ。 来なくても呼びに行ってやる」
「上等じゃない! じゃあ帰るわ。 今日は楽しかったわ!!」
「俺もだハルヒ。 じゃあ、また明日な」
「バイバイ、キョン!」

 
      繋いだ手は離れ、互いの体を抱き寄せ――
 
             今日、最後のキスをする
 
 
家の中に入って行ったハルヒを、少し寂しげに見送った俺は、一人家路についた。
空を見上げると雲一つ無い満天の星空が広がっていた。

 
 
   『RAINBOW』   <Fin>


   (『Over The RAINBOW』へ続く)


   (『虹の彼方に』へ続く……『Over The RAINBOW』の拡大版です)

   

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