夜明けのダイナー(仮題)

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SS:虹の彼方に 

2010年11月17日 21時11分04秒 | ハルヒSS:シリーズ物
   (『RAINBOW』より)


自分の努力の結果か、はたまたハルヒパワーのおかげか、俺は地元にある有名私立の大学に無事に進学出来た。 もちろんSOS団の全員揃って、だ。 先に入学してた朝比奈さん・鶴屋さん含め、にぎやかなキャンパスライフが想像出来る。
やれやれ……どうなる事やら。
 
近所なだけあって通学は自転車で済むのだが「自動車免許を取るわよ!」との団長様の一言で、入学早々に自動車学校に通う事になった。 勉強は良いのか、俺達?
詳細は省かせて頂くが試験は全て一発合格。 これまた実力なのか、外部の力か。 最近とみに分からなくなって来た。 ここは、まあ実力と言っておこうか。

晴れて免許は取れたのだが、俺には車が無い。 普段必要が無いからな。 必要ならば親のを借りるまでだ。 必要な時に借りて良いか?と親に聞いてみた所、あっさりOKが出た。 そこまでは良かったのだが……『将来、家族が増えても良い様に』と、なんと車を買い替える事になった。 今までセダンタイプだった我が家の車をミニバンって奴にしたのだ。 しかし、家族が増えるって何だろな? ハルヒ。

   「ば、バカ。 察しなさいよ!」

へいへい、と言う訳で、前置きが長くなってしまったが、時は5月下旬、初夏の陽気に包まれたとある日曜日の事。 その親の車を借りてハルヒとデートする事になった。 

朝8時、モーニングコール。
『もしもしキョン、起きてる?』
「おう、おはようハルヒ。 起きてるぞ」 7時に目覚め、朝食も済ませてあるからな。
『9時に迎えに来るのよね』
「ああ、あと1時間だな。 待っててくれ」
『うん、また後でね』
ハルヒは俺がまだ寝てるとでも思っていたのか? まあいい、歯を磨き洗顔し、服を着替える。 

本日は晴天なり、絶好のドライブ日和だ。 8時半に家を出る。 待ち合わせ時間まで30分あるが……え、ハルヒの家までそんなに掛かるのかって? 先にガソリンを入れておくのさ。 大事な事だ、途中でガス欠なんて事態は避けねばなるまい。 何と言っても『初ドライブデート』なんだからな。

 
      「ハイオク満タン、入りま~す!」
 

9時5分前、ハルヒの家の前に着く。 車を降りるのも面倒なので電話で呼び出し。

「おう、着いたぞ」
『あ、うん。 今行く』 言ったと同時に玄関の扉が開きハルヒが出て来た……って
「な、何だそのデカイ籠は!?」 買い物カゴと同じ位の大きさだ。
「何、って見て判らないの? お昼ご飯よ!」
「こんなに作ったのか」
「そうよ」 相変わらず凄いな、味は折り紙つきなんだろうが。
「呼んでくれたら手伝ったのに」
「いいのよ、気にしないで。 今日はアンタに運転してもらうんだから、これ位どうって事無いわ!」
「サンキュ、ハルヒ」
「さあ、行くわよ!」

以前聞いたリクエストは『海が見たい』って事だったので
「舞古海岸で良いか?」 
「良いわよ」 
「了解!」 いざ出発。
 

季節は春から夏に向かう途中、車の窓を開ければ少し暑い風が吹き込んで来る。 エアコンを作動させるには、まだ早い。
「気持ちイイわね!」 
「そうだな」
祝川沿いを少し離れた道を海に向かって車を進める。 カーステレオからは俺とハルヒが持ち寄ったCDの曲が流れる。
ジャンルは多種多様。 洋楽から邦楽、最近流行りのモノから親の世代の曲まで……ハルヒは何時、何処で覚えたのか、って位知っていて、相変わらずの上手い歌を披露してくれる――こいつ、プロにでもなれるんじゃ無いのか? 初めてのドライブで、少し緊張していたのだが、このBGMは気分を良くさせてくれる。 それこそ何処までも運転して行きたい、そんな気にさせてくれる。
 

住宅街を抜けて国道2号に出る
「あっちゃ~!」 
渋滞だ。 そりゃそうだろう、こんな陽気の日曜日だ、皆出掛けたくなるよな。 俺達もその中の1台な訳だが。 
「結構混んでるわね」
「皆、考えてる事は一緒だな」
通り掛りに見えた案内板は『神辺市内まで約60分』と表示してあった。 ちなみに高速は空いているらしい。
「どうする、高速使うか?」
「別にいいわ。 そんな急ぐ訳じゃ無いし」
「そうだな、ノンビリ行くとしますか」 昔のハルヒなら『さっさと高速使うわよ!』とか言いそうなのにな。

渋滞のせいで窓を開けていると排気ガス臭い。 窓を閉めエアコンを掛ける。 時折、忘れた頃に動き出す車列。
俺の隣からは相変わらずの歌声。 そのせいかイライラする事は無い。 まあ『海へ行く』って以外、ノープランだからな。
兎に角、何かすると言うよりハルヒと居る事の方が重要なのだ。
 
 
渋滞情報の予想通り、巻き込まれて約1時間。 神辺市内に差し掛かる。 本町中華街が近い。
「なあ、ハルヒ。 初デート、覚えてるか?」
「覚えてるわ。 キョンのバカップル・モード、笑えたわ」
「お前もだろ……って、そうじゃ無くって。 中華街が近いな」
「そうね、この右だよね」
「また一緒に行きたいな」
「あんた、中華料理食べたいの?」
「ん、ああ」
「じゃあ、あたしが作ってあげるわ!」
「……ハルヒは何を作っても美味いからな」
「……さり気なく褒めてるんじゃ無いわよ」
「そうだな~。 早速で悪いが、今夜頼むわ」
「ウチで食べる? それともキョンの家?」
「俺のウチで頼む。 良いのか、それで」
「あたしの方こそ」
「ハルヒに作ってもらう方が家族全員喜ぶだろう。 電話頼むわ、『夕飯はハルヒが作る』って。 今の俺は運転中だ、電話出来ない」
「了解っ!」  早めに連絡しておけば、食材は買って置いてくれるだろ。
「中華よね、具体的に何が食べたい?」
「そうだな。 何でも良い……と言うと困るよな。 八宝菜なんてどうだ?」
「良いわね、他には」
「そう言うハルヒは、何か無いのか」
「あたし? そうね……キョンの作るチャーハンが食べたい!」
「俺に出来るのは、それ位しか無いが。 分かった」たまには腕を振るいますかね、ハルヒに作ってもらってばかりでは申し訳ないしな。

ハルヒが俺の家へ電話してくれてる間に少し渋滞が解消されたみたいだ。 車列の動きがスムーズになる。 まだ免許取りたてなので慎重に運転せねば。 
そんな時、車の大きさが気になる。 車の大きさ、と言えば、隣のハルヒとの距離もだな。 小さい車の方が2人の距離が近いのに、と思う。
たまに見るが、信号待ちでイチャついてるバカップル――あ、決して羨ましい訳では無い、勘違いするなよ? そこまで行かないにせよ、何と言うか、車内の無駄な空間が気になる。 ハルヒの方はどう思ってるのか……。
 
「あ、左見て!!」 おいハルヒ、俺は運転中だ。 余所見させるな!  と言う訳で、チラ見する。
「お、水族館か」 初デートで行った水族館だ。
「あの時は雨だったわね」
「でも楽しかったぞ」
「あの時見た虹、綺麗だったね」
「そうだったな」
「キョンったら、あの時あたしに見とれてアイス落としたんだっけ?」
「よく覚えてたな」
「だって、キョンとの初デートだったから、忘れないわ!」
「俺も忘れないぞ。 水族館、また行こうか」
「うん!!」

 
   ハルヒの歌声を最高のBGMに、俺はハンドルを握って、何処までも……。
   あの日、見た虹を超えて、何処までも――俺達は行けると思った。
 

この先、どんな未来が待ってるか知らないが、ハルヒと2人で共に進んで行く。 それが『規定事項』って奴さ。
 
 
渋滞は解消され、時折左手に海が見え出す。 エアコンを止め、窓を開ける。
「やっぱり外の空気が良いわね!」
国道2号は片側1車線になる。 左手にJRの線路を挟んで海がハッキリ見える。そして、日本一長い橋が真近に見える駐車場に車を停める。

「ここで良いか、ハルヒ」
「うん、お疲れ様♪」 ほっぺにキスされる。
「ご褒美か?」 
「まあね、物足りない!?」 
「……ああ」
車内であるのを良い事に、座ったままだがハルヒに近づき口つける。
こら、そこ、見世物じゃ無いぞ。 あと、バカップルとか言うな――これでも抑えてるんだ、悪いか。
「11時か、昼食には少し早いな。 散歩でもするか」
「そうね」 バスケットは車内に置いて、貴重品だけ持って車を降りる。 海沿いの歩道を2人歩く。 天気は相変わらず良く、太陽が眩しい。 少し暑い位だ。
「あそこ、行ってみる?」 ハルヒの指差した先は 
「プロムナード・デッキか」 橋桁を利用した遊歩道で、海を眼下に見る事が出来る。 
「そうだな、行くか」 入場料を払い、エレベーターに乗って上がる。  デッキから見下ろすと――

「結構な高さだな」
「……そ、そうね」 ん、この反応は、ひょっとして
「ハルヒ、怖いのか?」
「う、うっさいわね。 あたしが行くって言ったんだから、つべこべ言わず付いて来なさい!!」
ハルヒは確か高所恐怖症じゃ無かった気がするのだが、自分の予想より高く感じたのにビビったのか。 しばらくしたら多少慣れてきたみたいで平静を装ってるが、繋いだ手は何時もより力強く、汗ばんでる。
「戻るか?」
「べ、別に良いわよ。 折角来たんだから、ゆっくり見ないと損でしょ!」
「その言葉、額面通り受け取るぞ」 少し意地悪だったかな。 気がつくと、ハルヒは繋いだ手を離し、左腕にしがみついている。 これって
「あの~、当たってるんですけど?」
「あ、当ててんのよ!」
これは面白い。 でも、あまり意地悪し過ぎると機嫌を損ねて……最悪、世界の危機だ。 いい加減止めておこう。 古泉のバイトを増やすのも悪いしな。
「なあ、そろそろお昼にしないか」
「そ、そうね。 お腹空いたでしょ」

エレベーターを降り、再び歩道を歩く。  時計を見ると12時少し前、丁度良いな。 車からバスケットを降ろし、堤防に腰掛け海を見ながら食事する。 メニューは、おにぎり・から揚げ・サラダetc……味の方は聞くまでも無いだろ。 俺のボキャブラリー不足だ、勘弁してくれ。
――美味い以外に何があるんだ、逆に聞きたい。 しかも量もあるので、満足この上ない。 満腹感と、この暖かさが加われば
「あたし、少し眠たくなってきた」 お、ハルヒもか。
「車に戻って昼寝するか」 バスケットを片付け、2列目の座席をリクライニングさせて、しばし昼寝。
そりゃハルヒは早起きして弁当作ってくれたんだからな、疲れもあるだろ。 さて、帰りの事も考えて俺も寝ますか。
 

「……ョン、キョン。 そろそろ起きて。 もう2時よ」
「ん、ああ。 ハルヒ、おはよう」 約1時間寝てた訳だ。 
「夕飯の支度もあるし、早いけど帰るか」
「そうね」
「そう言えば、食材の買出しは良いのか?」
「ちょっと聞いてみる」 ウチへの電話はハルヒに任せ、俺は車を出す。
「キョンのお母さんに聞いたら、買い物は済んでるそうよ。 妹ちゃんと2人で買い物行ったみたいね」
「そうか」 

帰りは渋滞も無くスムーズに進み、4時にはウチに到着していた。
「こんなんで良かったのか」
「良いわよ、楽しかったもの。 大体、キョンと居れば文句は無いわ!」
「そうか」
「何よ、キョンは楽しく無かったの?」
「そんな事あるか、俺もハルヒが居れば、それで良い」
「思ったより早く着いたから、少し休んでから、夕飯の支度しましょ!」
初めてのドライブ。 距離が近かったせいもあるが、余り疲れなかった。
 

夕食の支度については割愛させて頂く。 相変わらずの手際の良さで料理を進めるハルヒ、その横で俺はチャーハンを作るのだが
……邪魔になって無いだろうか。 ちなみにハルヒは余った時間でスープまで作っていた。
母親はと言うと「助かるわ。 ハルちゃん、毎日でも良いから作りに来て」って、あのなぁ。 妹は妹で
「ハルにゃんとキョン君、台所に2人なんて新婚さんみたい」
「な、何て事言いやがる!」
「そ、そうよ妹ちゃん。 まだ早いわよ!」
「ふ~ん、『ま・だ』ね」 ジト目で見るな、妹よ。 兄はそんな風に育てた覚えは無いぞ。
 
――そりゃあ、ゆくゆくはハルヒと結婚して、子供を生み育て、幸せな家庭を築けたらなぁ……なんて考えたりするのだが、俺もハルヒもまだ18歳。 やらねばならん事が多すぎる。 そもそも、まだ大学1年生だ。 俺としては、この関係を維持するのに精一杯だ。
 

支度も出来た、夕方6時。 休みで家に居た父親含め5人、食卓を囲む。
    「「「「「いただきます」」」」」
ハルヒの作った料理は当然として、俺の作ったチャーハンも自慢じゃないが上出来で、色々喋りながら食べた割りに、30分しないうちに完食。 
後片付けを俺がしている間にハルヒは妹と入浴、入替わりに俺が風呂に行こうとした所
「ねえ、キョン。 妹ちゃんに『今夜、泊まってく?』って言われたんだけど……」
「ハルヒは良いのか?」
「え、あたしは良いわよ。 ウチの親もキョンの家に泊まる事には反対しないし……あ、もちろん連絡はするわよ」
着替えは? と言いたい所だが、パジャマから下着まで一式ウチに用意してあるんだな、これが。 逆にハルヒの家には俺の着替え一式揃ってる。
 
     何故って? 野暮な事聞くな。 下世話だぞ。
 
ハルヒは俺の入浴中にお泊りの許可を得たみたいで~え、ウチの両親? 反対する訳無いだろ。 逆に俺が駄目と言っても、それに反対してハルヒを泊めそうな感じすらあるな。 やれやれ。
 

しばらく居間で寛ぐ。 そして夜9時、妹が眠いと言うのでハルヒは一緒に部屋に向かう。
ハルヒの布団は妹の部屋に敷くのは既定事項だ。 そして俺は自分の部屋で寝る、当然だろ。
「おやすみ、ハルヒ」 
「おやすみ、キョン」 
「おやすみ、キョン君」 
「おう、おやすみ」
 

俺は少しの間、明日の講義の予習をしておく。 他の連中と違って元々の出来が悪いから、これくらいやっておかないとついて行けん。 そして10時を回った所
「キョン」
「おう、ハルヒ。 妹は寝たか?」
「うん」 妹が寝静まってからハルヒが俺の部屋に来るのも……まあ、既定事項って奴だ。
「あら、予習なんて熱心ね」
「これ位しないと、俺の頭じゃついて行け。」
「心配しなくても、キョンは元は頭良いんだし。 努力しないだけで」
「悪かったな、グータラで」
「ゴメン、拗ねた?」
「ふん、子供じゃあるまいに」 勉強の手を止めベッドに向かう
「……待ってたぞ、ハルヒ」
「……お待たせ、キョン」 2人、布団に入ってキスをして――。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「き、禁則事項ですぅ。 え、えっちなのはいけないと思いますぅ」
「おや、朝比奈さん。 この先が見れないのは既定事項では無いのですか」
「……このスレは全年齢対象、これ以上の表現は許可されない」
 
 
       ~つづく?~





   『虹の彼方に』 ~Fin~


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