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マリアーノ・リベラの通算400セーブは「モノが違う!」

2006年07月17日 | Baseball/MLB

ヤンキースタジアムの外野席(ブリーチャー)といえば、チケット代が12ドルとメジャー30球団の外野席ではおそらく一番高いうえに、特に左中間のスタンドはブルペンやモニュメントーパーク(ヤンキースの歴代永久欠番や名選手のレリーフなどが飾られている記念公園)のさらに後方にあるので、ここしか席が取れなかったときは、ここでもチケットが買えただけラッキーだと自分を慰めるしかない。しかし、そんなメジャー最悪にして最高値の外野席にいても、何度かここに座っていてラッキーだと思ったことがある。それは、ブルペンからマウンドに向かうマリアーノ・リベラの後姿を何度かこの目で見られたことだ。
特にデーゲームの試合終盤、ブロンクスが黄昏時を迎えようとしているとき(18年前はBGMにバーブラ・ストライサンドの「追憶」が流れてきたっけ)、西に傾いた陽光を背に受けた背番号「42」は勝利を宿命づけられた者の決意と悲壮感に満ち溢れている。

そのリベラが、今日の対ホワイトソックス戦で8回からの2イニングスを無失点に抑え、メジャー史上4人目となる通算400セーブを達成した。そんな記念すべき試合のコメンテーターを務めることができた私にとっても今日は生涯自慢できる一日となった。

さて、リベラの偉業を伝える日本のメディアだが、けっこうメジャー報道に力を入れているスポーツ紙などのサイトをのぞいても、メジャー史上4人目であることや、ポストシーズンで34セーブをマークしていること、1999年のワールドシリーズMVPに輝いていることなど(もちろん、それは彼の業績を紹介する上で絶対に必要なものなのだが)は紹介しているが、リベラが引退後に資格初年度で殿堂入り確実とされる二つの偉大な点については、ほとんど触れていない。

まず、通算300セーブ以上をマークしている投手のなかで、リベラだけが持つ傑出した業績としては、昨年までの通算379セーブすべてがチームのポストシーズン進出につながっていることである。これに次ぐのが通算390セーブをマークして一昨年殿堂入りを果たしたデニス・エカーズリー(元アスレチックスほか)の53%だから、リベラのセーブがいかに「実」を伴うものであるかは一目瞭然だろう。ちなみに、通算セーブ数トップのリー・スミス(元カブス他)はワールドシリーズ出場の経験がなく、2位で現役トップのトレバー・ホフマン(パドレス)、3位で左腕トップのジョン・フランコ(メッツ他)はシリーズ出場は果たしているものの、チームはともにリベラを擁したヤンキースの前に敗れている。
またスミスは8球団、ホフマンは2球団、フランコは3球団に在籍しており、リベラはメジャー史上初めて1チーム在籍だけで400セーブ目に達した初めてのピッチャーでもあり、同一球団での400セーブ達成もホフマンに次いで二人目になる。FA制度などで選手の移籍が日常茶飯事のメジャーでは、特筆すべき業績と言えるだろう。

そもそもクローザーという仕事は、作家にたとえれば無頼派、破滅型のイメージがどうしても付きまとう。ロブ・ネン(マーリンズ、ジャイアンツ他/通算314S)やトロイ・パーシバル(タイガース/324S)などがその典型だろうが、人並みはずれた時速100マイル強の豪速球で、最後の1イニングに全力を傾注し、相手を力でねじ伏せる力技には確かに優れていたものの、そのスピードボールは相手打者のみならず自分の肉体にもダメージを与え、ネンは2002年に43セーブをマークしてジャイアンツをリーグ優勝には導いたものの、その右腕は限界を超え、その年限りで再びメジャーのマウンドに上がることはなかった。そして同じワールドシリーズの舞台でネンと投げ合ったパーシバルも、エンゼルスで豪球派のクローザーとしては長寿の9シーズンを投げたものの、タイガースに移籍した2005年は26試合でリタイアし、今年のキャンプでも故障を再発させ、復帰は困難だといわれている。

ネンやパーシバルのように燃え尽きてはいないものの、ホセ・メサ(ロッキーズ/320S)やアーマンド・ベニテス(ジャイアンツ/274S)は、長期にわたる安定した成績という点で、とてもリベラの比較対象にはなりえない。メサは過去にインディアンス、マリナーズ、フィリーズ、そしてパイレーツと4度にわたりクローザーとして見切りをつけらた前歴がある。もちろんその都度新天地で復活したことには敬意を表したいが、そもそも4.26という通算防御率が磐石の信頼を寄せるに価しないことを証明している。ベニテスにしても2003年以降の4シーズンで、職責をまっとうしたといえるのは2004年に防御率1.29、47セーブをマークしたフロリダ・マーリンズでの1年間だけに過ぎない。

リベラはクローザーに転向した97年以降、年間平均のセーブ数が41を記録しているだけでなく、通算防御率も2.31で、セーブ数歴代100傑に名を連ねる投手の中では最も優れている。しかも97年から昨年までの9シーズンで、防御率1点台を6回も記録しており、先発10試合を含む19試合で5勝3敗だったデビューの95年(5.51)以降は、防御率が3点台を越えたシーズンが1回もない。三振を取ろうと思えば取れるスピードも、メジャー随一と言われるカットファストボールもあるが、投球回数855回2/3に対する奪三振764が示すように、三振しかアウトの取り方を知らないクローザーではないからこそ、この仕事では異例の長寿と安定感を今日まで維持してきたとも言えるだろう。

メジャーやヤンキースの試合をよくご覧になる方ならご存知だろうが、ジョー・トーリ監督は今日のように2イニングス、6つのアウトが必要となる場面だけでなく、同点、あるいはリードされている展開でも、リベラを投入するケースが年に何回かある。これは絶対的な守護神である彼を起用することによって、どんなに厳しい展開であっても決して最後のアウトまで試合をあきらめないことをリベラの起用によってチームの内外にアピールしているのだ。それぐらい、リベラへの監督やナインの信頼は厚い。そしてリベラはほとんどの場合、その期待に応える働きをしてきた。

2001年のワールドシリーズ最終戦、最終回の土壇場でダイヤモンドバックスに逆転優勝を許して以来、リベラはそれまでの絶対的な守護神ではなくなったとの声もある。確かに昨年の開幕時などはセーブ失敗が続いたこともあったが、それでもメサやベニテスのように無残な姿のままでシーズンを終えることはなかった。

マリアーノ・リベラの「400」は、ただ9回の1イニングを機械的に抑えて積み重ねた数字ではない。それはチームやファンから寄せられた絶大な信頼の蓄積であり、個人記録の領域などとっくに超越しているのだ。おそらくその背番号「42」は、ヤンキースの投手としては、ホワイティー・フォード(「16」)とロン・ギドリー(「49」)に次ぐ3人目の永久欠番に指定されるだろうし、もちろん引退後5年を経て資格初年度で殿堂入りを果たすのも間違いないだろう。そしてわたしたち日本のメジャーリーグファンは、こんな歴史的な大投手の偉大なマイルストンの試合を生中継で見ることができたことを大いに感謝しなければならない。

※リベラの業績については、下記のアドレスをご参照下さい。
http://newyork.yankees.mlb.com/NASApp/mlb/mlb/events/rivera_400/index.jsp



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3 コメント

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無事これ名馬 (ADELANTE)
2006-07-17 22:00:52
リベラの場合、無事これ名馬、のひと言ですね。

#そして、無事であることの努力は、もっと評価されるべきなのでしょう。



ジーターもリベラもそしてバーニー・ウィリアムスの場合も、ヤンキースというチームと相思相愛だったという幸運を、みずから呼び込んだ実力があればこそなのでしょう。



さて、再放送でこれからこの試合をみます。
42番 (さちお)
2006-07-18 11:35:41
はじめてコメントさせていただきます。



永久欠番はどういう扱いになるのでしょうか?

ジャッキー・ロビンソンとリベラの2人の番号として

ヤンキースでは欠番になるのでしょうか。

カウントせず (Ryo Ueda)
2006-07-21 00:45:34
ヤンキースタジアムの「モニュメントパーク」には、現在ロビンソンの欠番としての「42」は飾られていません。97年に「42」がメジャー全体の永久欠番となった際、その当時「42」を使用していた選手は、現役を続けている間は他球団に移籍しても(ドジャースを除いて)「42」を使い続けられるという規定が別途設けられたため、リベラは現在も使い続けています。

ちなみにNYでロビンソンが実際にプレーした球場で現存しているのはヤンキースタジアムだけ。他の都市でもリグレーフィールドが残っているのみです。