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ボンズの記念球をもてあそぶ愚か者

2007年09月22日 | Baseball/MLB



 サンフランシスコ・ジャイアンツバリー・ボンズと来季の契約を結ばない旨、本人に通告したとのニュースが飛び込んできた。近年の、特に守備・走塁面における著しい衰えを考えれば、むしろ「アーロン越え」があったからこそ球団側が世代交代を遅らせていたと考えるのが妥当なところ。おそらくDH制のあるア・リーグ球団で現役続行を図るのだろうが、ステロイド問題をめぐる偽証が有罪に問われる可能性もあり、そうなれば野球賭博で永久追放になったピート・ローズのときと同じく、本人もチームも大きなダメージを背負うことになる。


 私としては、「史上最高のファイブ・ツール・プレーヤー」であることをかなぐり捨て、「本塁打量産マシン」に転進したあとのボンズに歴史的価値を認めていないこともあり、このまま新記録を花道にユニフォームを脱ぎ、あとはチャリティー活動などでこれまでの周囲に対する不遜な態度・姿勢を反省し、殿堂入りの道をおとなしく待つことをオススメしたいのだが(ただし、彼が本当に心底悪い人間であるかはわからない。多分に「偽悪家」や「照れ屋」の側面はあると思うし、思いやりのある人物であるとの人物評も存在するのだが)。
 以前にも当Blogで書いたが、私は96年の日米野球でユニフォームが破れるほどの猛スライディングを見せ、レフトから矢のような返球を投じ、野茂英雄とドジャース、ジャイアンツのプライドをかけて真っ向勝負を演じていた当時のボンズならば、即座に殿堂入りの資格があると考えている。シーズン73号以降の彼は「要らないキャリア」を積み重ねてしまったのだ。

 さて、そのボンズの756号本塁打記念ボールが大金で落札されたとのニュースは日本でも大きく報じられたが、落札した人物は記念球の「今後」をウェブサイトでの投票で決定すると表明している。その選択肢とは、

①そのまま野球殿堂に寄贈
②記録への疑義を示すためにボールに注釈のアスタリスク(*)を付けて野球殿堂へ
③ロケットで宇宙へ飛ばし去る


 とのこと。①②はまあ多少は所有者としてのポリシーとうなずける点もあるが、③はたとえそれが疑惑にまみれたボンズの記念球であろうと、あまりにも品のない行為であり、ベースボールという競技、文化自体への冒涜と受け取られても仕方がない。
 
 落札者は「野球殿堂に残る一品か、偽りの文化の象徴か、人々がこのボールに対して持つ考えを議論するために落札した」とコメントしているが、そもそも日本円で1個1000前後の硬式ボールに何千万円だ、1億円だと天文学的な値段をつけることじたいが「偽りの文化」だと断じざるを得ない。「人々がこのボールに対して持つ考えを議論するため」というのであれば、四の五の言わず殿堂に寄託し、来館する野球ファンの判断に委ねればいいだけのことである。

 近年、洋の東西を問わず、「金があれば何をやってもかまわない」という考え方が蔓延している。それは単にカネや権力を持っている側の人間ばかりではなく、いわゆる「抑圧」「搾取」されている側に立っているはずの人間でさえ、「カネの横暴」「数の横暴」を無批判に受け止め、「格差」の存在を受け入れてしまっている。

「人の噂も75日」かもしれないが、改めてあの村上ファンドが阪神電鉄、というよりも阪神タイガースに対して行なおうとしていたことを改めて思い出してほしい。頭目の村上某はタイガースを「阪神電鉄の株式に付加価値をつけるツール」としかみなさず、その本拠地であるあの甲子園球場を「売却・転用すれば莫大な利益を生む金脈の埋まった地べた」としか考えていなかったのである。
「金があれば人生における問題の99%は解決できる」と公共の電波を使ってほざいているバカなタレント女医(何でも母親の教えだそうだが)しかり、「消費税などの庶民増税を行なってでも法人税を引き下げろ」と主張し政権に圧力をかける財界トップしかり、その手の人種があまりにも増えすぎてはいないだろうか。
 
 こうした連中の精神構造は、「夏休みが長くなるから学校が火事になればいいと」考え、本当に校舎に放火してしまった小学生とほとんど同じである。つまり、そうした愚かな考えが頭をよぎっても、あるいは「アイツが気に食わないから殺してやりたい」と思っても、たいていの理性や常識ある人間は実行に移すことはないのだが、最近は本当にやってしまうのである。
 ボンズのホームランボールをロケットでふっ飛ばしたいのなら、アンケートなどで他人の判断に委ねることなく、テメエのカネと責任でやってしまえばいいのである。しょせん、自分自身の考えていることがみっともないことをひそかに自覚しているからこそ、アンケートなどという姑息な手段を取ろうとしているのだろう。
 
 私はバリー・ボンズのためではなく、ベースボールという素晴らしい競技と文化の尊厳のために、この愚か者を厳しく非難してやまない。

 

 






 

Game of Shadows: Barry Bonds, BALCO, and the Steroids Scandal That Rocked Professional Sports

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