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田口をクビにしてなぜ「前川」?

2008年01月18日 | Baseball/MLB

(前川の「カムバック」は、野球ファンにとっての「悪夢」にほかならない!)

 

 

「逮捕から1年、前川マイナー契約最終段階」

 

 これは、今朝の日刊スポーツ(WEB)版・MLB関連記事の見出しである。

http://www.nikkansports.com/baseball/mlb/p-bb-tp2-20080118-308592.html

 

「前川」というのは、当blogでも何度か紹介したが、昨年1月に無免許のうえ、人身事故を起こし、被害者を放置して現場から逃走する刑事事件を起こして逮捕・起訴され、懲役2年執行猶予4年の判決を受けた前川勝彦元投手(当時オリックス)のことだ。

 昨年秋からドミニカ共和国のウィンターリーグに参加し、メジャー数球団が関心を示したことは以前当blogでも紹介した。


 

(「誰でもメジャーに行っていいというものではない!!!)
http://blog.goo.ne.jp/holycow1998/e/cc5a95c3b453bcb58303b71c5d99ce8c

 

 しかし、有罪判決を受けて、刑の執行が猶予されている前川元投手の現在の社会的身分は「服役囚」と同様である。本来、執行猶予中の身であれば、届けている居住地以外の都道府県への移動も申告が必要であり、海外渡航となれば逃亡の危険性も伴うのでそう簡単に許可される性格のものではない。ドミニカ共和国への渡航は「就職活動」として許可されたのだろうが、犯した罪の重さを考えれば釈然としない気持ちを抱くのは私だけではないだろう。


 

(「『かけがえのない職業』を大切にできなかった愚か者の末路」)
http://blog.goo.ne.jp/holycow1998/e/e7c784b8fef5963a9d2b459fb094bbb2

 

 

 前川がもし、カージナルスに採用され、メジャー枠に登録されて最低保証年俸を手にするようなことがあれば、単なる交渉決裂でオリックスを退団し、育成選手扱いで中日に入団した中村紀洋よりも好待遇となり、事実上の「焼け太り」になりかねないことは、以前当blogでも指摘した。日米球界の財務体質の差といえばそれまでだが、そもそも5年間にわたる無免許状態、事故直後被害者を救護するどころか罵倒し、現場から逃走し、挙句の果てには隠蔽工作まで図ったことの悪質さを考えれば、私は執行猶予の判決じたい、納得していない。「法律に反した人間」が「球界の権威に反抗した人間」よりも好待遇を受けるようなことがあれば、いったいわれわれは何を信じたらいいのか?

 

 しかし、今回は前川本人よりも、獲得の意向を示しているというカージナルスさらにそのニュースを無批判に伝えている報道への怒りをむしろ禁じえない。一昨年の世界一から一転、故障者の続出などで昨年はプレーオフにも進めず、今季も主力選手の流出で厳しい戦いになりそうなチーム状態はわかる。誰を獲得しようと球団の自由だといいたいところだが、前川に関してはひとこと言わずにはいられない。

 なぜ、田口壮を放出して浮いた資金で、よりによって前川なのか? 田口のコストパフォーマンスの高さ、すなわち、不当に安く抑えられていたサラリーに対し、非常にクォリティーの高いプレーを、特に2005年以降は見せていたことは、別に日本のファンならずとも、ほかならぬ地元セントルイスのファンが認めていたところだ。そういうかけがえのない選手をバッサリ切り捨てて、身分上は「収監中」の選手に触手を伸ばすというのは、果たして世論の納得を得られるものなのだろうか? 監督自身がキャンプ中に飲酒運転で逮捕された前歴があるんで、同情したわけではないと思うが。

 

 新聞報道に対してもまた疑問を抱かざるを得ない。「日刊」の記事の、次の一節を一読してもらいたい。

 

「日本球界を追われた男に、アメリカンドリームのチャンスが出てきた」

 

 おいおい、別に前川は日本球界を「追われた」ワケじゃないんだよ。自分の犯した反社会的行為で、プロ野球選手という職業を自ら失ったわけ。要するに「自業自得」だよな。この記事を書いた記者が前川にどんな感情を抱き、どんな個人的付き合いがあるのかは知らないが、こういう文章の書き方は、新聞記者が追求すべき普遍のテーマである「社会正義・公正」さを大いに欠いているんじゃないのか? 少なくとも執行猶予中の人間が海外で「就職活動」をすることの是非について法律専門家の意見を求めたり、被害者の感情を調べてみるのも彼らの役割ではないのか?

 

 前川には少なくとも、再起を図るならまず国内でと、「服役囚」に等しい現在の社会的立場を踏まえた身の処し方を求めたい。そしてもし、前川のカージナルス春季キャンプへの参加が実現してしまったとしても、同じように「招待選手」として参加する野茂英雄や桑田真澄と「同レベル」で報道が扱うのは絶対にやめてほしいものだ。

 

 

 

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