「かけがえのない職業」を大切にできなかった愚か者の末路

　私は「ベースボール・コントリビューター」、あるいは「ベースボール・ライター」の肩書きで、日米野球界を対象に取材・執筆・研究活動を行ない、仕事の一環として2004年からはスカイパーフェクＴＶ！ＭＬＢライブのコメンテーターにも名を連ねている。
　決して大物芸能人、あるいは同年代のエグゼクティブのように莫大な収入があるわけではなく、どちらかといえば財布の中身をいつも確かめながら生活を送っているというほうが正しいが、それでも私は自分の仕事が天職だと思っているし、また私自身、そう簡単に他人に取って代わられる存在ではないと信じている。実際、ベースボールに関わる仕事を手に入れるまでには、相当の苦労をしてきているし、もちろん体力と気力の続く限り、いや這いつくばっても、死ぬまでこの仕事を続ける強固な意志を持っている。
　それだけ苦労して手にして、一生をかける気持ちで取り組んでいる職業だけに、それを台無しにするようなマネだけは絶対にしたくない。
　正直なところ、自動車にしても原付にしても、運転がずいぶん慎重になったと自分自身思う。それだけに、スピード違反や違法駐車を常習的に繰り返したあげく、免許取り消しになる人間というのが、私は信じられない。まして飲酒運転ともなれば、まさに私が過日のエントリーでも書いた「想像力欠如症候群」の最たるものではないだろうか。

　さて、悲しいことに今日（18日）、まさに末期的症状の想像力欠如に陥ったあげく、ひき逃げ、証拠隠滅工作、さらには５年にも及ぶ無免許運転が露見したひとりの愚か者が、「プロ野球選手」「プロスポーツアスリート」という、多くの人が憧れる、しかしながら誰もがなれるわけではない職業を一瞬にして失った。
　28歳というその若さゆえに、刑事被告人とはいえ、選手生活が絶たれることを惜しむ声も一部にはあるようだ。しかし、かけがえのない自分の職業がいかに価値あるものかが理解できない愚かさはもちろんのこと、何よりも交通事故で人を傷つけ（被害者の方が軽傷ですんだのは、まさに不幸中の幸いである）、法で定められている、というよりも人間として当然やらなければならない救護活動を、無免許運転が露見するという身勝手さで放棄して事故現場から立ち去り、さらには帰宅後、傷ついたボディーにスプレー塗料を塗って隠ペイ工作まで図っていたのである（しかしながら、その程度の「隠ぺい」でバレないと思っていたのが、また彼の愚かなところである）。もちろん、報道で彼の名前に続く呼称は「被告」であり、ことの悪質さを考えれば、実刑の可能性も否定はできない。
　
　ドラフト１位でプロ入りし、二ケタ勝利をマークしてチームの優勝にも貢献したことのある選手だから、彼に声援を送り続けてきたファンももちろんいる。なかには個人で応援サイトを開設した熱心なファンもいるようだ。もちろん、期待された成績をあげられないとか、そのために自由契約になり、トライアウトを受ける、テスト生としてキャンプに参加する、あるいは海外に渡って捲土重来を期すというのなら、ファンはいつまでも応援し続けることができただろう。だが、これほどの不祥事を起こした人間を、何とか見守ってほしいと、どうして言うことができるだろうか。

　起訴を受けて、球団が契約解除を通告・発表したのは当然のことである。いま、私がこの愚か者に言いたいことは、自分の失った「野球選手」という職業が、いかに自分にとってかけがえのないものであり、それを失ったことがどれほど大きいことなのか、時間をかけて考えろということだけである。一ヶ月や半年ではない。１年でも２年でも、いや一生をかけて、考えてほしい。間違っても、ベースボールがいつか自分をまた救ってくれるなんて、今は夢にも思わないことだ。ベースボールの名誉を汚した人間に、そんな資格があろうはずがないのだから。